JRRCマガジンNo.186 金魚電話ボックス事件

山本隆司

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JRRCマガジン No.186   2019/11/28
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ここ最近急に寒くなりました。冬支度はお済みでしょうか。
本日はコラムをお届けする前に、事務局からお知らせがあります。

隣の国の著作権を知ろう。

12月17日(火)に文化庁と韓国文化体育観光部が主催する「第 11 回日韓著作権フォーラム」が開催されます。
現在アジア地域では各国間で著作権に係る情報共有や問題解決のための連携を積極的に取り組んでいます。
その一環として、日韓間の著作権に係る情報共有、問題意識の共有及び関係強化を目的に開催されるセミナーです。
11回目を迎える今年のテーマは「デジタル・ネットワーク社会における著作物の適切な保護」
韓国の著作権動向の最新情報も盛り込まれています。詳しくはこちらをご確認のうえ、是非ご参加ください。

開催概要・お申込みについては
https://www.cric.or.jp/index_doc/20191108nikkanforum.pdf

著作権情報センター(CRIC)
http://www.cric.or.jp/

さて、今回の山本隆司弁護士の著作権談義は「金魚電話ボックス事件」。
みなさんも記憶に新しいのではないでしょうか。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(82) ━

  -金魚電話ボックス事件-

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先日、著作権法学会の判例研究会において、金魚電話ボックス事件の奈良地裁令和元年7月11日判決が紹介されました。
報告者は、創作的なアイデアに対しては著作権の保護を与えるべきだと主張しました。
あらためて、なぜ著作権は表現のみを保護し、アイデアを保護しないのかを、考えてみたいと思います。

まず、この事件の内容をご紹介します。原告作品は、公衆電話ボックスを模した造作物内部に水を満たして金魚を泳がせ、公衆電話機の受話器から気泡を発生させているものでした。
被告作品は、同じアイデアを、実際に使われていた公衆電話ボックスを使っている点に違いがありました。被告は、原告作品の著作物性、作品間の同一性、依拠性などを争いました。

判決は、原告作品は公衆電話ボックス自体ではなくそれを模したものであることから、色・形状などの違いに創作性を認めて著作物性を肯定しました。
しかし、「思想、感情若しくはアイディアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものは、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならないと解される」と判示したうえで、
原被告作品に共通するのはアイデアだけであると認定し、被告作品の原告作品との同一性を否定して、原告の請求を棄却しました。
著作権は表現のみを保護し、アイデアを保護しないというのが判例(江差追分事件最高裁平成13年6月28日判決)・通説です。
したがって、創作的なアイデアに対しては著作権の保護を与えるべきだとの報告者の主張は、ほとんど立法論です。
この観点から、報告者の主張を批判することは容易ですが、立法論としては、あり得る話です。

ドイツでもEUコンピュータ・プログラム指令などによってアイデアと表現の二分法がドイツに持ち込まれるまでは、表現を超えた創作的なアイデアも著作権によって保護されていました。
ただ、ドイツ法の伝統的理論にも、それに似たような観念はありました。
ドイツ法の伝統的な理論では、思想とか学説とか理論というのは、公有財産、いわゆるパブリックドメインであって、著作権によって独占させてはいけないという観念があります。
他方、アイデアと表現とを切り分けて、アイデアには著作権は及ばないのだというような、アイデアと表現の二分法はそもそもありませんでした。
代わって、伝統的な理論には形式と内容の二分法というものがありました。しかし、「形式」は「表現」に、「内容」は「アイデア」に対応する関係にはありません。
たとえば、小説でいうと、文字づらが外部的形式で、その文字を別の言葉に置き換えたものが内部的形式に当たるようです。
「アイデアと表現」という場合の「表現」の中には、そういう文字づらや言葉の入れ替えだけではなく、その背景にある小説のストーリーや、情景設定や、登場人物の関係なども含まれます。
しかし、このような要素は、形式と内容の二分法では、内容だと考えられています。
「Jung-Heidelberg判決」(GRUR 1926, 441 Jung-Heidelberg)が、この内容に属するものに著作権の保護が及ぶと判示して以来、形式と内容の二分法は放棄されていました。

さて、では、アイデアと表現を二分し、アイデアには著作権は及ばないという原則は、なぜ必要なのでしょうか。

この原則は、アメリカで生まれました。アメリカ法では、模倣の自由が大前提として存在しながらも、
「科学および有用な技術・芸術の振興を促進する」ために(連邦憲法1条8項8号)、アイデアは特許庁による厳格な要件審査を経て初めて特許権という排他的権利が与えられ、
表現は要件審査を経有することなく創作自体によって著作権という排他的権利が与えられるという思想に立っています。
さらに、アイデアには著作権は及ばないというアイデア自由の原則を貫徹するために、
アイデアに不可避の表現やアイデアに平凡な表現は、たとえ表現であっても保護されないという原則が誕生しました。
 
ドイツのようなアプローチとアメリカのようなアプローチの違いが、コンピュータ・プログラムの登場によって、はっきりしました。
前者では著作権は芸術を保護し特許権は技術を保護するものと観念されましたが、後者では著作権は表現を保護し特許権はアイデアを保護するものと観念されました。
その結果、後者では中山信弘先生が主張されたようにコンピュータ・プログラムは特許権類似の制度によって保護されるべきものになりますが、後者では著作権法で保護されるべきものになります。
EUコンピュータ・プログラム指令の登場が象徴するように、国際的に、後者のアプローチでハーモナイズされることになりました。

したがって、国際法・国内法の枠組みにおいては、創作的なアイデアを保護するのは著作権ではなく特許権の目的ですので、
報告者の見解は著作権制度と特許権制度の基本的棲み分けを破壊することになります。
報告者がそこまで考えたうえでの新たな見解でないことに問題があります。
 
なお、私は、原告作品が受話器から気泡を発生させるだけでなく、当該受話器を水中に固定しているのは、もはや単なるアイデアではなく表現だと思います。
そこまで被告作品が模倣している点には、著作権侵害が成立する余地はあったのでは、と考えています。

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