JRRCマガジンNo.184 著作物等の保護期間について(その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.184 2019/11/14
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

やっと秋らしい気候になって来ました。文化の秋というだけに周りのメンバーは各種イベントも多く、あちこちの芸術祭や展覧会などのイベントや、国際会議に駆け回っています。
現在、文化庁の「オーファンワークスの活用」いわゆる、著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化に向けた実証事業にJRRCも協力しています。
使いたい著作物の権利者がみつからない、亡くなられた作者の作品を使用したいが、現在権利がどうなっているのか分からないなど、特に古い文献や写真などは著作物利用の許諾を得る際に困ることも多いのではないでしょうか。
そのような場合、文化庁では裁定制度を設けており、一定の手続きを踏めば利用が可能となる場合があります。
この裁定制度を活用した権利処理を円滑に行うため、権利者団体と著作権に係る業務を行う団体が集まり「オーファンワークス実証事業委員会」を立ち上げて活動しています。
⇒https://jrrc.or.jp/orphanworks/

今回の川瀬先生のお話は、オーファンワークスなどを利用する場合に、そもそも現在権利が発生しているのかを知る上で重要なのが保護期間についてです。
著作権を学ぶ上で知っておくべき基礎知識を解説いただいており、著作権をこれから学ぶ方にとっては保存版ともいえる内容です。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

著作物等の保護期間について(その1)

【お詫びと訂正】
11月14日配信のJRRCマガジンNo.184 本文、および、本バックナンバー記事掲載当初、以下箇所に誤りがありました。
読者の皆さまおよび関係者の皆さまに謹んでお詫び申し上げますとともに、ここに訂正させていただきます。
正)放送後50年又は有線放送後50年までとなっています。
誤)放送後70年又は有線放送後70年までとなっています。

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1 はじめに

今回から著作物、実演、レコード、放送及び有線放送(以下「著作物等」といいます)の保護期間の解説をします。
著作物等の原則的な保護期間ですが、著作物の場合、著作者の死後70年までです。
実演、レコード、放送又は有線放送の場合、実演後70年、レコードの発行後70年、放送後50年又は有線放送後50年までとなっています。
この70年という期間は、昨年(2018年)の著作権法改正により、TPP11協定がわが国において発効する2018(平成30)年12月30日から延長されたので、まだ一般の方にはなじみのない数字かもしれません。
保護期間は、徐々に延長されてきており、例えば、わが国の場合、著作物の保護期間は、死後30年まで(1899(明治32)年 旧著作権法の制定時)、死後50年まで(1970(昭和45)年 現行著作権 法制定時)
という大きな改正を経て現在の死後70年までに至っています。

また、その過程で、例えば写真の著作物については旧著作権法の下では原則発行後13年という短い保護期間でしたが、現在では他の著作物と同様の取扱いがされています。
更に、この保護期間の延長ごとに、経過措置が設けられ、改正された長い保護期間に乗り移れるかどうかの調整規定が設けられています。
このほか、条約に根拠のある保護期間の相互主義、翻訳権の十年留保、戦時加算など保護期間の計算に当たっては特別なルールがいくつかあります。
なお、著作隣接権の保護対象である実演等についても、著作物の場合と同様又は固有の特別なルールがあります。
こうしたことから、私たちが著作物等を利用するに当たって、利用しようとする著作物等が現在保護期間内かどうか、
保護期間内であるとすればいつまで保護されるのかについて、現行著作権法の条項(著作物 2章4節、実演等 4章6節)だけの知識では正確な答えが出せないことがあります。

本稿では、保護期間が設けられた趣旨、保護期間の変遷及び保護期間の基本原則を説明するとともに、経過措置等の特別なルールについても説明をします。

2 著作物に関する保護期間

(1)保護期間が設けられた趣旨
著作権法は、文化の発展への寄与を目的としています(1条)。著作物を含めた文化的所産というものは、先人の文化的所産を活用し生み出されるものであるので、決して無から有が生み出されるものではありません。
著作物の保護期間もこのような考え方に基づき、著作権は永遠に保護されるものではなく、
一定期間を過ぎれば当該著作物は国民の共有財産として誰でも自由に利用できることになっています。

(2)保護期間の変遷
著作権が有限の権利であることは、現在では異論を唱える人はほとんどいませんが、どの程度の期間が適切かについては様々な意見があります。
著作権の基本条約であるベルヌ条約では、現在著作者の死後50年までという原則的保護期間が定められています。
この死後50年までという期間は、1948年に作成されたベルヌ条約ブラッセル改正条約において条約に加盟するための最低限の条件として義務化されたものです。
保護期間については、1886年の創設条約の際は各国の判断に任されておりました。
したがって、条約が先行し、各国がそれに合わせて国内法を改正したということではなく、各国がそれぞれの事情により保護期間を定め死後50年までを採用する国が徐々に多くなったことから条約で加盟の条件とされたということです。

わが国では、先進国において死後70年までの保護期間が多くなってきたことから、文化審議会著作権分科会においても保護期間の延長の議論が行われましたが、賛成・反対の意見が分かれ継続審議となっていました。

転機になったのはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉です。交渉が開始された際、いわゆる先進国においては死後70年までの保護期間が一般的でした。
ちなみに先進国グループであるOECD加盟国34か国のうち、死後50年までの保護期間を採用していたのは、日本、カナダ及びニュージーランドの三か国だけでした。
この三か国はTPP交渉の当事国でしたので、当時交渉の主導権を持っていた米国は、他の加盟国に対し著作権の原則的保護期間を死後70年までにするよう強く求めたところです。
権利の内容や保護期間の平準化は1つの経済圏を形成するためには非常に重要な要素となります。
例えば、特にビジネスの世界では、1つの著作物が国境を越えて利用されるのは当たり前です。その際各国で保護期間が異なれば、ある国では著作物が保護され、別の国では自由に利用できるということになり、著作物の適切な流通が阻害されることになります。
例えばEUでも、1つの経済圏を形成するために、EU指令によりEU圏内の各国の著作権法制の平準化を目指す努力が続けられています。
TPPについては、その後米国が離脱しましたが死後70年までのルールは変更されず、TPPの後継の協定であるTPP11の作成・発効に伴い、保護期間の延長を決めた改正著作権法も同時に施行されました。

(3)わが国の保護期間
①原則的保護期間
上記のとおりわが国の原則的保護期間は、著作物の創作の時から始まり、著作者の生存間及び死後70年までです(51条)。
なお、複数の著作者により創作した著作物で各著作者の寄与分が分離できないもの(共同著作物)については、最後に亡くなった著作者の死亡時を起算点とします(同条)。
ただし、例えば書籍の表示は共著となっていても、各章ごとに著作者が分かれていてそのことが表示されているもの、
すなわち執筆分担表示のあるものの保護期間は原則に戻り各著作者の死後70年までとなります。
このように保護期間の起算点は、著作者の死亡時になりますが、死後起算が困難又は適切でない②~⑤の著作物については、公表後起算となっています。

②無名又は変名の著作物
無名又は変名で公表された著作物については、公表後70年までです(51条)。無名というのは著作者名を表示しないで公表された著作物のことをいいます。変名というのは、雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもののことをいいます(14条)。
これらの著作物は、著作者の特定が困難な著作物で、著作者が何時亡くなったことを判断できないので公表後起算となっています。
ただし、無名・変名の著作物であっても、著作物と著作者の特定が可能なものは、死後起算となっています(52条2項)。
まず、周知の変名の場合です。周知の変名とは簡単に言うと名前と顔が一致する変名のことをいいます。
例えば、三島由紀夫は戦後を代表する作家の一人ですが、本名(実名)は平岡公威(ひらおか きみたけ)といいます。
このような場合は、公表名義がペンネーム(変名)であっても保護期間は死後起算になるということです。
この他、実名登録(75条1項)をした場合や保護期間内に実名又は周知の変名で著作物を公表した場合については、原則的な保護期間に戻ります。
なお、公表後起算の場合、長期間にわたり未公表の状態が続けば、相当長期間にわたり著作物が保護されることがありうることから、公表されたかどうかにかかわらず、著作者の死後70年を経過していると認められるときは、その時点でその著作権が消滅したと取り扱われます(52条1項但書)。
例えば、作者不詳の未公表の江戸時代の浮世絵が発見された場合、作者がどんなに長生きしていたとしても、死後70年を超えていると考えられるので、現時点ではこの作品の著作権は消滅していると考えることができます。

④団体名義の著作物(53条)
団体名義の著作物については、公表後70年までです(53条)。団体名義の著作物というのは、法人著作の規定(15条)により法人等が著作者か自然人が著作者かに関係なく、著作者名義が団体かどうかによって適用されます。
なお、保護期間内に実名等で公表したときに原則的な保護期間に戻るのは、無名又は変名の著作物の場合と同様です(53条2項)。

⑤映画の著作物(54条)
映画の著作物については、著作者が個人か法人等かにかかわらず、公表後70年までです。

この映画の保護期間については、2018(平成30)年の著作権法改正で70年に変更されたわけではなく、
公表後50年を超えてもなお経済的価値のある作品が多くある等の理由で、2003(平成15)年の著作権法改正により期間が延長されたところです。
TPP11協定では、死後か公表後かにかかわらず、70年という保護期間が原則とされましたが、
映画の保護期間については、それまでの公表後70年に20年を加えて、公表後90年とする等の措置は行われませんでした。

⑥継続的刊行物等に関する公表時期の特例(56条)
例えば、新聞・雑誌の連載記事のように一つのテーマで何回かに分けて連載する著作物がありますが、このような場合は通常各回が公表時になります。
ただし、新聞の連載小説のように著作物の内容が少しずつ公表され最終回をもって全体の公表が完結される著作物については、原則最終回が公表時になります。
なお、この取扱いは、実名で公表された著作物については死後起算ですので関係ありません。
無名・変名の著作物、団体名義の著作物等の公表後起算の著作物に適用される仕組みです。

⑦保護期間の計算方法(57条)
保護期間の計算方法は、計算の簡便化のため暦年計算となっています。
保護期間の計算をする際、著作者がなくなった年を調べることができれば計算はできます。月と日までは調べる必要はありません。
例えば、2019年(令和元)年に亡くなったとすれば、2019年に70を加え、2089年の後ろに12月31日を付ければ簡単に計算できます。
すなわち、2019(令和元)年に亡くなった実名の著作物の保護期間は、2089年12月31日までということです。

以上が現行著作権法における著作物に関する保護期間の内容です。
次回は著作物の保護期間の計算方法に関する特例を説明します。
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