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JRRCマガジン No.175 2019/9/5
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今年の夏は雨が多く、一時の猛暑が過ぎたと思
えば、あっという間に蜩の音さえも勢いがなく
なってきました。2020年東京オリンピックまで
1年を切り、事務局のある東京・青山通りも交通
規制を行ってのシュミレーションが行われる
など、選手や観客を迎える準備に慌ただしく
なってきています。
この青山通りですが、実は、最先端のブランド
ショップに並び、たくさんの美容関連クリニッ
クがあります。
美容クリニックの広告といえば、術前・術後
の写真掲載が定番ですが、
今回の山本先生のコラムはその術前・術後写真
を巡るお話です。
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義 第78回━
-創造的ひらめき-
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最近(2019年5月1日)、美容歯科の術前・
術後写真の創作性の認定を巡って、アメリカで、
地裁と控裁の判断が異なる事件
(Pohl v. MH Sub I LLC, ___ F.3d ___ (11th Cir. 2019))
があったので、ご紹介します。
原告はフロリダで開業する美容歯科医です。
原告は有名らしく、アラスカからわざわざ原告
の治療を受けにきた患者がいました。
原告は、その患者の同意を得て、その術前・
術後写真(本件写真)をHPに載せていました。
7件の歯科医が本件写真をそれぞれのHPに無
断転用していましたが、それらのHPをデザイン
したのが被告でした。
原告は、弁護士を介して、被告に、本件写真の
削除と損害賠償を書面で求めました。被告は、
本件写真を削除しましたが、返信も損害賠償
もしませんでした。そこで、原告は被告を著作
権侵害でフロリダ北部地区連邦地方裁判所
(地裁)に訴えました。
被告は、本件写真には創作性がないなどを主張
しました。地裁は、本件写真は銀板写真の時代
からのありふれた写真手法以上ものではないか
ら「創造的ひらめき(creative spark)」
を欠き創作性がないと認定しました。
原告からの控訴を受けた第11巡回区連邦控訴裁
判所(控裁)は、まず、創作性の要件を確認し
ます。「明らかに、必要な創造性の程度は、
きわめて低い。微かな程度で十分である。
ほとんどの著作物は、どんなに幼稚で、粗末
で、明白なものであっても何らかの創造的ひら
めきを含んでいるので、たやすくその程度の
創造性を満たしている。」と、ファイスト判決
(Feist Publications,Inc. v. Rural Telephone Co., Inc., 499 U.S. 340 (1991))
を引用しました。
そのうえで、「著作者が写真に含まれる演出、
タイミングまたは主題の創作に個性的選択を行
使したことを証明すれば」創作性が認められ、
「演出」については、「被写体のポーズ、
証明、角度、カメラとフィルムの選択、求める
表現の実現、その他の関連事項が含まれる」
と判示しました。また、写真に創作性が否定
された例外的事例では、著作者の何らの
個性的決定が反映されていない場合である
と述べました。
本件写真においては、原告は、カメラを選択
し、患者の位置を決め、カメラに対する向きを
指示し、顔全体ではなく歯と唇と口の周りの
一部だけを選択し、笑顔を指示して笑顔の写
真を撮影した、などと認定しました。
その撮影方法がいかにありふれたものであっ
ても、写真の表現自体は、他人の著作物の
デッドコピーではない限り、最低限度の創作
性を欠くものではない、として、本件写真に
創作性を認めて、地裁の判決を破棄し、
地裁に事件を差し戻しました。
地裁の事実認定と同じように、撮影の方法、
表現の手法に個性がある場合に初めて創作
性が認められるような判示をする判決が、
日本の裁判でもときどき見られるので、この
地裁と控裁の判断の違いを参考に、注意して
みていきたいと思います。
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