JRRCマガジン No.176 出版者の権利について(その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.176 2019/9/12
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

はじめに今週早々関東を直撃した台風15号。
読者の方にも被害に遭われた多くおられるかと存じます。心よりお見舞い申し上げます。
未だに停電が続く地域では我慢や不便を強いられているかと思いますが、
どうかお身体を壊さぬよう、一日も早く日常が戻りますことを願って止みません。

さて、その台風で出勤もままならぬ月曜日、10月に東京で開催する著作権中級講座の
募集を始めたのですが、応募開始早々にものすごい勢いでお申込が殺到し、
即日満席にて締め切りとなりました。
著作権は、法律で保障される権利の中でも単純には理解ができない部分が多く、
川瀬先生の講座はその複雑な部分をわかりやすく解説されるため、
リピート受講も多い人気講座となっています。

今回のお話は著作権制度における出版者の位置づけに関するお話です。
出版物における出版者の権利とは何か。
今までの経緯から現在までを数回に分けて詳しく解説いたします。

◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━

  出版者の権利について(その1)

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1 はじめに

私が著作権制度の概要について説明する際、著作権法では、著作物の創作者である著作者
の保護に加え、著作物の伝達者である実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事
業者も併せて保護をしており、これらの権利を著作権に隣接する権利という意味で
著作隣接権と呼んでいます。
と話します。

出版者は、15世紀中葉にグーテンベルクが印刷術を発明して以来、著作物の伝達者として
重要な役割を果たしていますが、実演、レコード及び放送事業者については、
国際的な保護のルールとネットワークがあるにもかかわらず
(例えば、「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約」(1961年作成)、
「実演及びレコード製作者に関する世界知的所有権機関条約」(1996年作成))、
出版者については、国際的な保護のルールがなく、
各国とも著作権法や出版に関連する特別法等において独自の保護を与えているか、
著作者との契約により出版者の利益を確保しているなど、その態様は様々です。

わが国の著作権法では、1889(明治32)年制定の旧著作権法において、
著作者(複製権者)と出版者との設定契約により出版者が著作物の出版について
独占的権利を持つという設定出版権の制度が創設され、この制度が1970(昭和45)年
制定の現行著作権法に引き継がれ、また、2014(平成26)年のデジタル出版
(出版物の内容をネットで配信する形式の出版)に対応するための改正を経て、
今日に至っています(第3章 79条~88条)。

前回まで解説してきた「知の資産の保存と活用」の問題は、
500年以上にわたり蓄積された膨大な出版物の保存と活用の問題とほぼ同義ですので、
デジタルアーカイブの問題とは別に、著作物の伝達者でもあり出版物の製作者でも
ある出版者をわが国でどのように保護すべきであるかの議論も並行して行われました。
その検討結果を踏まえ、2014(平成26)年に従来の設定出版権の制度にいわゆる
デジタル出版を加えるための著作権法の改正が行われたところです。

本稿では改正までの議論の経緯や改正の内容を中心に解説をすることにします。

2 アナログ時代における出版権の内容(2014(平成26)年の改正前までの制度)

1970(昭和45)年の現行著作権法制定時の同制度では、紙媒体による出版の時代を
前提にしているため、設定出版権の内容を「頒布の目的をもって、
その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法
により文書又は図画として複製する権利」(改正前の80条)とし、
著作者(複製権者)と出版者が出版権の設定契約を結ぶことにより、
出版者に著作物の出版に係る独占的な権利を付与することになっていました。
この構成は、土地の所有権と地上権の関係と同様であり、
複製権に対する一種の用益権として位置付けられています。
 
この契約により、出版者は著作物の出版を独占できることになります。
出版の独占については、著作者(複製権者)から著作物の出版について独占を
認めてもらう契約(出版独占許諾契約)を締結することでも対応可能ですが、
この契約はあくまで当事者間の合意に基づく債権的な契約ですので、
無断で出版をした者に対し、例えば出版者が単独で差止請求をすることは
一般的にできないことになります。
その意味で、出版権設定契約を結んでおけば、出版者は差止請求権を含めた
強力な権利を持つことになります。

しかしながら、強力な権利を与えられる一方で、著作者(複製権者)との関係では、
いくつかの義務等を負うことになります。
例えば、原稿等の引き渡しを受けた日から6か月以内に出版をする義務(改正前81条1号)や
継続出版の義務(改正前81条2号)があり、これらの義務に違反した場合は、
著作者(複製権者)から設定出版権の消滅を求められることがあります(改正前84条1項、同条2項)。
また、著作者(複製権者)は、著作物の内容が自己の確信に適合しなくなったときは、
出版者に対する損害賠償を条件として、設定出版権を消滅させることができます(改正前84条3項)。
さらに、著作者(複製権者)と出版者との契約は両者の信頼関係に基づくものであるとの趣旨から、
契約をした出版者は他者に出版をさせることができません(改正前の80条3項)。
なお、出版権設定契約の有効期間は、設定行為に特別の定めがない場合を除き3年間です(改正前83条2項)。

3 出版者の権利と複写問題

このように設定出版権は、「頒布を目的とした複製」に及ぶ権利です。
頒布とは、複製物を公衆に対し、譲渡したり貸与したりする行為をいいますので(2条1項19号)、
個人的に使用するための複製には権利が及びません。
また、著作権法上、著作物の伝達者を保護する著作隣接権は、著作者の権利とは別個独立した権利であり、
著作権と同様、実演や音の固定等の行為があれば権利が自然発生することになっていますが、
設定出版権の場合は、著作者(複製権者)と出版者の間で設定契約が必要となります。

わが国の出版界では、著作者と出版者との間で、人的な信頼関係があるからか
長い間文書による出版契約が締結されていませんでした。
最近では文書契約が増えており、書籍(単行本)については文書による出版権設定契約も
多く交わされるようになりましたが、雑誌、新聞等の定期刊行物については、
ほとんど文書による出版契約は締結されておらず、また設定出版権契約も行われていません。
このような状況の中で、企業、団体、官庁等を中心に複写機器が広範囲に普及し、
執務参考資料として、書籍、雑誌、新聞等から大量の複写が行われるようになり、
そのことが著作権者の利益を不当に害しているのではないかという指摘が
昭和50年代から行われるようなりました。
企業等における著作物の複写利用については、例え従業員個人が利用する場合であっても、
権利制限規定である「私的使用のための複製」(30条)には該当しないという解釈が一般的であり、
著作権者の立場からいうと、著作権法の改正は必要でありませんでした。

したがって、著作権者の利益を守るためには個々の権利者の複製権を特定の権利管理団体が
集中的に管理し、企業等との複製許諾契約により使用料を徴収することで、
権利保護と利用の円滑化のバランスをとる方法が一番良いということになり、
関係者の努力により、1991(平成3)年にこのメルマガの発行元である益社団法人日本複製権センター(JRRC)の
前身である社団法人日本複写権センターが設立されたところです。

ところで、この日本複写権センターの設立の過程で浮上してきたのが出版者の権利の問題です。
複写問題は著作権者にとって大きな問題であったことは間違いないのですが、
現実には複写によって出版者も大きな被害を被っていました。
しかしながら、設定出版権は頒布目的の複製に権利の内容が限定されていますので、
少なくとも執務参考資料としての個人の複製には対応できません。
また頒布目的の複製であっても、全ての出版物について出版権設定契約が交わされているわけではないので、
結局設定出版権では、複写問題には事実上対応できないということになります。

したがって、出版者がこの集中管理方式に参加するためには、著作者から著作権を譲り受けている場合、
出版者の従業員等が創作した著作物で法人著作が成立している場合(15条)
又は著作者から著作権の管理を任されている場合に限られるということになります。

このようなことから、複写問題に適切に対応するためには出版者独自の権利の創設が必要ではないかと
指摘する声がでてきました。
文化庁では、著作物の利用実態に変化があること、旧著作権法の全面改正の際に著作権制度のあり方について
審議した著作権制度審議会でも出版者保護の問題が検討されていたこと、
例えば英国では、著作権法の中で発行された版の組版面を著作物とし、
その発行者を著作者として保護している例があること(英国著作権法8条、9条)等から、
著作権審議会に第8小委員会(主査 北川善太郎京都大学教授(当時))を設け検討されたところです。

同小委員会は、1990(平成2年)年に検討結果をまとめ公表しました。
そこでは、出版行為を「著作物の伝達上重要な文化的役割を果たしている」とし、設定出版権制度に加え、
「その出版物の複写を中心とした複製についても一定の権利を認めることが必要である」としました。
その上で、権利の性質については、「著作権者の許諾を得ることを前提としたうえで、出版者の利益を確保しながら、
出版物の複製を認める形、すなわち出版者の権利の性質は、報酬請求権とすることが適当である」とし、
権利の性質は許諾権ではなく、利用の可否は決めることができないが、利用された場合は報酬を求めることができる
報酬請求権の創設を求めました。

ただし、報告書の最後の「おわりに」においては、権利付与の意見が大勢を占めたとしつつも、
一部の委員から出版者が被る影響に関する調査が不十分であること、
現状においても欧米のように著作者と出版社の契約により出版者が自己の利益を確保できる可能性はあること、
出版者に対する権利付与については国際的又は国内的にもコンセンサスが得られてないことから
反対意見があった旨の記述がみられたところです。

この検討結果は、日本複写権センターの設立直前に発表されましたが、
産業界等からの慎重論もあったようで、結局著作権法の改正は行われず、今日に至っています。 

以上のとおり、出版者に固有の権利を与えるという問題は
複写に係る集中管理方式の導入の過程で検討されたものですが、
情報通信技術の発展により出版物を用いたネット送信が行われるようになり、
その中で出版者の権利をどう守るのかという課題とともに、再検討されることになりました。

次回は、この検討の経緯やその結果、又その結果を踏まえた著作権法の改正内容について解説します。
 
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