JRRCマガジンNo.172 顕著な類似性

山本隆司

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JRRCマガジン No.172    2019/8/8
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8月もいつの間にか一週間以上過ぎ、当センターの近くの表参道
は、日中日陰も少なく毎日暑い日が続いています。キラキラ光
る表参道のショップを眺めていると、花柄の服や小物を沢山見
かけます。昨シーズンに続きレースと花柄は今年もトレンドの
ようですね。さて、今回の山本隆司弁護士のコラムは、花柄デ
ザインに関する「顕著な類似性」についてです。

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━━

第77回「顕著な類似性」

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最近(2019年4月24日)、レースの花柄デザインに対する複製
の認定を巡って、アメリカで、控裁が地裁の判断を覆す事件
(Maribu Textiles, Inc. v. Label Lane International, Inc.,
___ F.3d ___ (9th Cir. 2019))があったので、ご紹介します。
 原告は、ベンガルヤハズズカズラ(Bengal Clockvine)を
柄にしたレースをデザインし、販売していました。被告らは、
ほとんど同一の柄のレースを販売していました。そこで、原
告は被告らを著作権侵害でカリフォルニア中部地区連邦地方
裁判所(地裁)に訴えました。
 日本では、「複製」を認定するには、原告の著作物と被告
の作品との間の「同一性」と「依拠性」が必要です。アメリ
カでは、複製を認定するには、原告の著作物と被告の作品と
の間の「実質的類似性(substantial similarity)」と「接触
の機会(access)」が必要です。原告は、接触の機会(access)
を訴状で主張しなかったので、被告らが請求自体失当として
訴えを棄却するよう申し立てました。ただし、アメリカでは、
接触の機会(access)の主張は、依拠せずには起こりえない
ような「顕著な類似性(striking similarity)」がある場合
には、不必要とされています。そこで、顕著な類似性の有無が
争点となりました。
なお、同一性と実質的類似性はほぼ同じ意味ですが、依拠性と
接触の機会(access)とは意味が異なります。依拠性は、まさ
に被告が被告作品を作成するに当たって原告の著作物に依拠
(参照)したことを意味します。他方、接触の機会(access)
の要件は、依拠したこと自体を要件とするものではなく、依
拠できる機会の存在を要件とするものです。しかし、日本で
も依拠した事実の証明が厳密に求められるのではなく、状況
から依拠の事実が推認されれば足りるとされるので、必要な
証拠レベルでは日本とアメリカで違いはないと思います。
 さて、地裁は、原告の著作物と被告の作品との間の類似点
を詳細に検討し、類似点はベンガルヤハズズカズラ自体の外
観における類似点にとどまるから、保護される要素における
類似点はなく、顕著な類似性を欠くと認定し、原告の請求を
棄却しました。
 原告から控訴を受けた第9巡回区連邦控訴裁判所(控裁)
は、まず、原告の著作物を構成する表現要素がベンガルヤハ
ズズカズラ自体の外観に含まれているとしても、当該保護さ
れない外観上の要素の「創作的な選択、組み合わせおよび配
列(original selection, coordination, and arrangement)」
は保護される表現であると判示しました。
 つぎに、控裁は、類似点を検討し、レース模様としての両
者は、花、葉、ボテおよび斑点の要素においてほとんど同一
であり、ベンガルヤハズズカズラ自体の外観に含まれている
ものをはるかに超えていると認定しました。地裁が認定した
相違点について、両者の切り取り方ないしは角度の違いによ
って生じたものであってデザイン自体の相違点ではないと指
摘しました。
 そして、控裁は、顕著な類似性を認め、地裁での陪審判断
に付すために、地裁の判決を破棄し、事件を地裁に差し戻し
ました。
 地裁の事実認定と同じようなことが、日本の裁判でもとき
どき見られるので、この地裁と控裁の判断の違いを参考に、
注意してみていきたいと思います。

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