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JRRCマガジン No.179 2019/10/3
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曇り空の日が多かった9月が終わり、東京は抜けるような青空で10月が始まりました。
日本でも読書の秋といわれるように、出版関連の国際見本市は秋に多く、世界各地で開催されます。
なかでも出版業界最大の見本市と言われるフランクフルトブックフェアには日本の出版者も数多く出展します。
また、フランクフルトの近郊の街、マインツは活版印刷発祥の地です。
駅からすぐのライン川の近くには活版印刷機を発明したヨハネス・グーテンベルクの博物館があります。
以前フランクフルトを訪れた際に、当時の勤務先の印刷部門が「グーテンベルクセンター」
と呼ばれており、同僚と二人でこれは是非行かねばと向かったのですが、惜しくも休館日でした。
仕方なくライン川の土手に座り、近くの屋台で買ったプリュッツエルを食べると、
日本で食べられる固い噛みごたえのあるものとは全く違い、柔らかい食感と美味しさに
びっくりしたフランクフルトの思い出です。
最後は食欲の秋の話に変わってしまいましたが、川瀬先生のお話は著作権制度における
出版者の位置づけに関するお話のつづき(その2)です。
出版物における出版者の権利とは何か、今回はその完結となります。
前回までの川瀬先生のコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━
出版者の権利について(その2)
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4 「知の資産の保存と活用」問題と出版者の保護との関係
(1)「電子出版の流通と利用の円滑化に関する検討会議」での検討
前回のテーマの「知の資産の保存と活用」でも説明したように、Google Books 訴訟の影響により、
わが国においてはその役割を主として国立国会図書館が担うことになり、
そのための著作権法の改正が2009(平成21)年、2012(平成24)年及び2018(平成30)年に行われました。
また、「出版者への権利付与」の問題については、「デジタル・ネットワーク社会における
出版物の利活用の推進に関する懇談会」(総務省、文部科学省、経済産業省の三省合同開催、
2010(平成22)年検討結果公表)において、文部科学省で検討すべき課題の1つとされ、
それを踏まえて文化庁に設けられた「電子出版の流通と利用の円滑化に関する検討会議」で検討されたところです。
この検討会議では、電子書籍の流通と利用の円滑化を図ることを目的として、
「電子書籍の流通と利用の促進」及び「出版物に係る権利侵害への対抗」
の2つの視点から検討が行われ、2011(平成23)年12月に報告書を公表しました。
電子書籍については2010(平成22)年が「電子書籍元年」といわれたように、
電子書籍市場の今後の発展状況がまだよくわからないという事情等もあったようで
権利付与の必要性や仮に権利付与するとした場合の方向性については結論を出さず、
権利付与が電子書籍市場に与える影響の検証や法制面における課題の整理等を指摘した上で、
制度的な対応を含め検討を継続することが適当であるとしました。
(2)「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」等での検討
上記の検討会議の報告書が公表された後の2012(平成24)年2月に、
超党派の国会議員、著作者、出版者等の関係者からなる
「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長 中川正春衆議院議員)が発足し、
グローバル時代の印刷文化・電子文化のあり方を検討することになりました。
検討項目はいくつかありましたが、
上記の検討会議で結論が出なかった出版者への権利付与について優先的に検討されました。
同勉強会が2012(平成24)年6月に公表した中間まとめ(案)を見ると、
紙か電子かにかかわらず出版者に出版物に対する固有の権利、
すなわち著作隣接権を付与すべきであるとされています。
しかしながら、その後2013(平成25)年4月に中山信弘東京大学名誉教授ほか5名の有識者による
「出版者の権利のあり方に関する提言」が公表され、出版者への権利付与については、
著作隣接権ではなく、著作者と出版者の契約により創設される当時の設定出版権制度の拡張・再編成により、
電子出版の世界にも対応できる権利を付与することが適当だとしました。
なお、設定出版権制度の再編に当たっては、当事者間の契約により、
権利の対象を特定の版(紙だけでなく、電子フォーマットも含む)に限定した上で、
出版された版を用いた企業内複製やイントラネットでの利用等に利用の許諾を与えることができる
権利の創設も含まれていました。
この権利については、「著作物ではない出版物の版面について権利を拡張するものではない。
非著作物や保護期間の満了した著作物について、本提言により拡張された出版権が設定されることはない。
(この権利)は、著作権者の意思により、特定の版での利用に限定して物権的な権利を設定するものである」
(「出版者の権利のあり方に関する提言に関する補足説明」(2013(平成25)年5月公表)、
括弧書(「この権利」)は筆者が補足)と説明されています。
これは、従来から出版物の版の利用に関する権利の創設を求めていた出版界の要望に応えて出された提言と思われますが、
設定出版権制度の中でこのような権利を認める手法に驚いた方も多かったと思います。
以上のような経緯を経て、最終的に同勉強会は、この提言を同勉強会の提言として採択したところです。
5 「文化審議会著作権分科会出版関連小委員会」での検討
このような経緯を経て、文化庁は、2013(平成25)年5月から文化審議会著作権分科会出版関連小委員会
(主査 土肥一史日本大学大学院教授(当時))を設け、出版者への権利付与に関する検討を行い、
2013(平成25)年12月に報告書を公表しました。
小委員会では、
①著作隣接権の創設、
②電子書籍に対応した出版権の整備、
③訴権の付与(独占的ライセンスシーへの差止請求権の付与の制度化)
及び
④契約による対応
の4つの方法について、関係団体のヒアリング等も行ったうえで検討した結果、
②の方法を前提に検討を進めることとしました。
その上で、電子書籍と紙媒体の出版物の特性を踏まえ、設定出版権制度の見直しを提言しました。
なお、この過程の中で、「特定の版面」の保護の問題についても検討されましたが、
著作者や事業者の立場から反対する意見が多く示されていることなどから、法制化に向けの合意形成には至らなかったとしています。
「特定の版面」に対象を限定した権利の創設については、上記の「出版者の権利のあり方に関する提言」では、
企業内複製やイントラネットでの利用に対応する権利と説明され、出版者が被っている被害に配慮したものと考えられます。
しかしながら、同小委員会の報告書を見ると、出版者の団体である日本書籍出版協会から、
特別な権利の創設は、複製等に係る著作権の集中管理団体の許諾実務に大きな影響を与える可能性もあるので、
「出版界としては、企業内複製を含む出版物の複製利用について現在のシステムに影響を及ぼす制度設計は望まない」
(報告書26頁)との意見が出されたとしています。
出版界としては、最優先の課題であるインターネット上の海賊版被害に対抗できる権利の創設を優先された結果だと推測します。
なお、報告書でも整理されている電子的なフォーマットを特定するのは困難であること、
版面が特定できたとしても少しでも版面が変わったら権利行使できないこと等の指摘を考えると、
仮に権利の創設をするとしてもその制度設計はかなり難しいものとなったのではないかと思われます。
6 著作権法改正による設定出版権の内容の変更
文化審議会著作権分科会での検討結果を踏まえ、
2014(平成26)年に著作権法が改正され設定出版権制度の変更が行われました。
改正前の設定出版権制度の内容は、前回説明したとおりですので、主な変更点だけ説明します。
まず、設定出版権の内容に電子出版に関する権利を加えました。
具体的には「原作のまま前条第1項に規定する方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利」
(80条1項2号 1号は従来の紙媒体による出版の権利)という条文を追加し、
著作者(著作権者)と設定出版権契約をした場合に限定されますが、
インターネット上の海賊版提供者等に対し、出版者が単独で差止請求を含む法的措置ができるようになりました。
なお、設定出版権契約については、著作者(著作権者)の意向により、
紙媒体による出版だけ、電子出版だけ、及び両方を対象とする契約を選択できるような制度設計となっています。
次に、改正前の制度では、紙媒体の出版については、著作者(著作権者)と出版者の信頼関係に基づく契約であるところから、
特許法の専用実施権制度と異なり、出版権者は他人に設定出版権に係る著作物の複製の許諾ができないことになっていました。
すなわち、設定出版権の場合、設定契約をした出版者自らが責任をもって出版する義務が課されていました。
しかしながら、電子出版の場合は、出版者自らが電子出版できる手段を有している場合は少なく、
一般的には第3者である配信業者に出版をゆだねる場合が多い等の理由から、
著作権者の承諾を得るという条件を付した上で、紙媒体の出版も電子出版も他人に許諾できることとされました(80条3項)。
出版者の権利付与については、以上のとおりです。
次回は、保護期間を延長する際の経過措置や特例等が多くて分かりにくいといわれる保護期間について解説します。
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