JRRCマガジンNo.409 技術的手段,技術的保護手段,技術的利用制限手段及び技術的制限手段について

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JRRCマガジン  No.409 2025/3/6
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。

本日3月6日は「スポーツ新聞の日」
1946(昭和21)年3月6日、日刊スポーツ新聞社が日本初のスポーツ新聞となる『日刊スポーツ』を東京で創刊したことにちなんで記念日が設けられたそうです。

さて、今回は今村先生の連載がお休みのため、川瀬先生の著作権よもやま話をお届けいたします。

川瀬先生の過去の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆【1】川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 技術的手段、技術的保護手段、技術的利用制限手段及び技術的制限手段について
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                          日本複製権センター代表理事 川瀬真

1 はじめに
 1990年代になってデジタル技術が進展しデジタル複製が主流になってきました。また、同時に放送技術やネットワーク技術もデジタル化が進みました。デジタルの特徴は、コンテンツが複製されたとしても元のコンテンツに近い品質が維持されること、また、複製の複製が繰り返し行われたとしても同様であることです。さらにネットワークの進展により、高品質の海賊版コンテンツが多くの人に拡散される危険性も高まることになりました。
 このような状況の中で、権利者側は自らのコンテンツを保護するためにコンテンツに複製や視聴等を制限する技術的手段を施して市場に提供する方法を考えました。例えば、複製利用であれば、複製禁止(複製できるが視聴できないほどに画質が落ちる方法も含む)、一回だけ複製可能、第一世代の複製可能(孫コピーはできない)等の制限です。また、ネット送信の禁止もあります。さらに契約により暗号電波を解除しない限り視聴禁止の方法もあります。
 こうした権利者側の自己防衛にもかかわらず、多くの国ではすぐに技術的手段の回避装置や回避プログラムが開発・提供され、これらの手段を使い著作物を自由に複製したり、視聴したりする者が横行するようになりました。
 このような状況の中でデジタル化・ネットワーク化に対応した著作権等の新しい保護の仕組について検討をしていた世界知的所有権機関(WIPO)は1996年に2つの条約を作成しました。それが、「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(WCT)と「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約」(WPPT)です(以下、両条約を総称して「WIPO新条約」という場合があります)。
 その中で両条約とも「技術的手段」(Technological Measures)に関する義務(WCT11条、WPPT18条)を定め、上記の回避行為から権利者を保護する措置の導入を締約国に義務付けました。
 これらの条約の作成を契機にして、平成11年の著作権法では「技術的保護手段」の回避規制が、同年の不正競争防止法の改正では「技術的制限手段」の回避規制が導入されました。
 また、2016(平成28)年に作成された「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP12協定)では「技術的保護手段」(Technological Protection Measures)(第18. 68条)に技術的保護手段の回避規制が定められました(米国の離脱により協定は未発効)。その後、2018(平成30)年に作成された「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的協定」(TPP11協定)を経て、わが国は同年著作権法を改正し、「技術的利用制限手段」の回避規制を定めました。
 このように、著作権の世界では上記の4つの用語が並行して使われていますが、その内容を理解している方は少ないと思います。
 本稿では、この4つの用語における回避規制の意味とその違いについて、できるだけわかりやすく解説します。

2 コピーコントロールとアクセスコントロール
 WIPO新条約における「技術的手段」に関する義務ですが、WCTの場合、次のように定めています
第11条 技術的手段に関する義務
 締約国は、著作者によつて許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物について実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であつて、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関連して当該著作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。

 ここでは詳細な条文の説明はしませんが、簡単にいうと、WCT上の「技術的手段」というのは、著作物の複製、ネット送信等を制御する方法(いわゆる「コピーコントロール」)と著作物の視聴等を制御する方法(いわゆる「アクセスコントロール」)の2つの機能を指すものと解されています。
 また、技術的手段の回避を防ぐ方法については、一般に技術的手段を回避して著作物の複製等を行う者と回避装置や回避プログラムを提供する者の法的責任を問う方法の2つがあるといわれていますが、WCTでは「適当な法的保護及び効果的な法的救済」としていますので、方法の選択やその内容は各国に法令に委ねられていると解されます。

3 1999(平成11)年の著作権法と不正競争防止法の改正
 政府は、WIPO新条約の加入を目指し国内法の改正作業を進めました。WIPO新条約の主な内容は、①インターラクティヴ送信(双方向送信)に関する権利の創設、②技術的手段の回避規制に関する制度の導入、③権利管理情報の改ざん等からの保護制度の導入の3点でした。このうち①と③については著作権法の改正だけで対応できる事項でしたが、②については難しい問題がありました。
 すなわち、WIPO新条約では、コピーコントロールとアクセスコントロールの両方に関する回避規制の導入を義務付けていますが、著作権制度では、例えば著作物を知覚(読む、聞く、見る等)する行為は、伝統的に権利の対象から除外されています。例えば、本を読む、音楽を聴く、放送番組・映画を見るためには著作権者の許諾が必要だとすれば、社会に大きな混乱をもたらすことになります。したがって、著作権制度では知覚するための前段階の行為、例えば複製をする、演奏をする、公衆送信をする等の行為に限定して権利を認めています。
 したがって、著作権法上権利が認められている著作物等の利用行為を保護するため、コピーコントロールの回避規制は著作権法の改正で対応できるのですが、著作権法で保護されてない視聴等の行為を保護するために、アクセスコントロールの回避規制を著作権法で規定することは困難ではないかという結論になりました。
 しかしながら、WIPO新条約に加入するためにはアクセスコントロールの回避規制も必要ですので、政府部内での調整の結果、アクセスコントロールの回避規制は不正競争防止法の改正により対応することとなりました。
 両法の改正により、技術的手段の回避規制については、国内法において次のような構成になりました。

 上記の表を見てもらうとわかるように、技術的手段は、著作権法上は「技術的保護手段」(コピーコントロールのみ)として、また不正競争法上は「技術的制限手段」(コピーコントロールとアクセスコントロールの両方)として定義されました。 
 なお、法改正当時、技術的保護手段はいわゆるフラッグ型といわれるものが主流でした。この方式は、複製される著作物の複製物に複製の制御情報を入力しておき、その情報を複製機器が読み取り複製を制御するものです。例えば、音楽CDであれば一般にCDに入力された記号を読み取り複製機器(その後パソコンが普及したがメーカの理解が得られず現在は複製制御の対象外)は第一世代の複製(複製の複製は認めない)に限定して複製を行います。もちろん記号によっては複製禁止や無制限の複製を認めることも可能です。
 しかし、その後、技術的保護手段は暗号型といわれる方式が主流になり、2012(平成24)年の著作権法改正により、暗号型も技術的保護手段に含まれることになりました。暗号型というのは、簡単に言いますと、著作物を暗号化した上で、暗号化を解除する復号鍵を入手しないと視聴等ができないという方法(アクセスコントロール)の中の機能の一つとして、コピーコントロールを行うものです。例えば、商業的に利用される映画のDVDやBDですが、映画は暗号化され複製されていますが、正規の規格に合った機器を購入すると、そこには複号鍵があらかじめ入力されていますので、消費者は普通に視聴できますが、複製については一般に複製禁止の措置が施されています。
 また、著作権法の改正では、行為規制と回避装置等規制の両方が定められました。
 利用者の行為規制については、コピーコントロールを回避して複製が行われている実態を見ると、それは主として私的領域で行われる行為ですので、私的使用目的と複製物の使用者が複製という2つの要件があれば原則権利制限の対象になっていた「私的使用のための複製」(著30条)を改正し、技術的保護手段を回避して行う複製についてその事実を知りながら行う場合は、例え私的使用目的であっても権利制限の対象外の行為としました(著30条1項2号)。
 なお、この場合、利用者に対する罰則の適用はありませんが(著119条1項括弧書)、業として公衆の求めに応じ技術的保護手段の回避を行った者は、罰則の対象になります(著120条の2第2号)。
 回避装置等規制については、技術的保護手段の回避装置又は回避プログラムの公衆への提供行為(譲渡・貸与、回避プログラムにあっては公衆送信等)や譲渡・貸与目的の製造等の行為を行った者は罰則が適用されます(著120条の2第1号)。
 ところで、同年に改正された不正競争防止法では、コピーコントロールとアクセスコントロールの区別をせずに、コンテンツの無断複製、無断視聴等を防止するための技術的手段を「技術的制限手段」と定義し(不競法2条8項)、当該手段を無効化する装置やプログラム等の提供行為を「不正競争」としたうえで(不競法17条、18条)、その提供行為について罰則を適用することになりました(不競法21条3項4号)。なお、回避行為を行った者に対する規定はありません。

4 TPP12協定の内容とTPP11協定の発効に伴う著作権法の改正経緯
 TPP12協定は、アジア太平洋地域の12か国の交渉により作成された包括的な地域連携協定です。関税、サービス及び投資の自由化を進め、電子商取引、環境、著作権を含む知的財産など幅広い分野で新たな国際ルールを構築するための野心的な試みといえます。
 そのTPP12協定の知的財産の章では技術的保護手段の回避規制について定められておりますが、その内容は次のとおりです。

○技術的保護手段(第18.68条)
 各締約国は、次のいずれかの行為を行う者が本章に規定する救済措置について責任を負い、及び当該救済措置に従うことを定める旨を規定。

(a)保護の対象となる著作物、実演又はレコードの利用を管理する効果的な技術的手段を権限なく回避する行為であって、そのような行為であることを知りながら、又は知ることができる合理的な理由を有しながら行われるもの
(b)次の要件を満たす装置、製品若しくは部品について製造し、輸入し、若しくは頒布し、若しくは公衆にこれらの販売若しくは貸与を申し出、若しくは他の方法によりこれらを提供する行為又は次の要件を満たすサービスの提供を公衆に申し出、若しくは当該サービスを提供する行為
(ⅰ)効果的な技術的手段を回避することを目的として、この(b)に規定する行為を行う者が販売を促進し、宣伝し、又は販売すること。
(ⅱ)効果的な技術的手段を回避すること以外の商業上意味のある目的又は用途が限られていること。
(ⅲ)効果的な技術的手段を回避するために主として設計され、生産され、 又は提供されていること。

 各締約国は、いずれかの者が、(a)及び(b)に掲げるいずれかの行為において、故意に及び商業上の利益又は金銭上の利得のために従事したことが判明した場合について適用する刑事上の手続及び刑罰を定める旨等を規定。

(出典)内閣官房TPP政府対策本部「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の全章概要より 
 https://www.cas.go.jp/jp/tpp/tppinfo/2015/pdf/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf

 先に記載したWIPO新条約のWCTの条文と上記の解説を比較してわかるのは、WIPO新条約においては、回避規制の内容について「適当な法的保護及び効果的な法的救済」としていたのに対し、TPP12協定においては、各締約国は利用者の行為規制と回避装置等の提供規制の両方を定める必要があることです。また、罰則の適用についても具体的な要件を定めています。
 外国の法制を見ますと、コピーコントロールかアクセスコントロールかにかかわらず著作権法で対処している国が多いのですが、我が国では先述したとおりWIPO 新条約加入の際に著作権法は著作物等の利用行為を保護するための法制であり、著作物を視聴等する行為を保護するアクセスコントロールに関する規制はなじまないという理由で、アクセスコントロールについては不正競争防止法の改正で対処することにしました。
 したがって、TPP12協定加入のための法改正において、先の図表を見ればすぐ分かるとおり、不正競争防止法を改正し、利用者(消費者)の行為規制を導入すれば問題は解決できたのですが、そもそも不正競争防止法は、事業者間の競争秩序を維持するための法律ですので消費者の行為規制はなじみにくいという問題がありました。
 このことから、政府部内の調整の結果、アクセスコントロールに関する規制については著作権法の改正で対処することとされ、TPP12協定への署名と並行して、著作権法の改正も含む「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」(TPP12整備法)が2016(平成28)年12月に成立しました。ただし、TPP12整備法の多くの改正事項はTPP12協定の発効の日に施行されることになっていたのですが、2017(平成29)年1月になって米国がTPP12協定からの離脱を表明しました。TPP12協定では、署名後2年以内に全署名国が国内手続きを終えその旨を通告しなかった場合は、2013年のGDPの合計額が85%以上、通告した国が6か国以上で発効することになっていました(TPP協定30章)。したがって、米国が離脱するとGDPの要件を満たすことができず、TPP12協定は永遠に発効しないことになりました。
 そこで安倍元総理の働きかけにより米国以外の11か国で再交渉が行われた結果、2018(平成30)年3月にTPP11協定が作成され、同時に「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律」(TPP 11協定整備法)が成立し、TPP11協定の発効の日である同年12月30日にTPP11協定整備法は施行され、著作権法も改正されることになりました。

5 2018(平成30)年の著作権法改正の内容
 著作物等の視聴(プログラムの実行を含む)を制御する機能のみを有する技術的方法を「技術的利用制限手段」と定義した上で、当該手段の回避を行う行為を原則として著作権等の侵害とみなす行為としました(著113条6項)。侵害とみなす行為というのは、著作権等を直接侵害する行為ではないが、それと同視しうる行為という意味です。
 なお、技術的保護手段の場合は、回避して複製する行為を違法としていますが(著30条1項2号)、この場合は、回避して視聴等する行為を違法としておらず、その直前の回避行為を違法としているところに著作権法の保護対象との関係に配慮した制度設計がみられるところです。
 なお、回避機器又は回避プログラムの提供行為等については、技術的保護手段と同様に罰則で対処しています。

6 おわりに
 このように表題に明記した4つの用語には異なる意味があることがお分かりいただけたと思います。また、これに加えて詳しい条文解説を行うとその違いがもっと鮮明になると思いますが、すごくマニアックな解説になりますので、機会がありましたら解説するとはいわないでおこうと思いました。

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