JRRCマガジンNo.408 中国著作権法及び判例の解説6 初AI生成音声の侵害事件について

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JRRCマガジン  No.408 2025/2/27
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日2月27日は「国際ホッキョクグマの日」
地球温暖化の影響で北極の氷が少なくなり、狩りの場所を失いつつあることによって絶滅の危険にあると言われているホッキョクグマの状況を知ってもらうために2005年に制定されたそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。

方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説━━━
6 初AI生成音声の侵害事件について 
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲

1.はじめに
 近年、ChatGPTやDeepSeek などの大規模AIモデルの台頭により、人工知能技術はかつてない注目を集め、さまざまな分野で広く活用されています。そしてAIプラットフォームの急速な発展に伴い、一般ユーザーでも手軽にAIツールを用いて画像、テキスト、音楽を生成できるようになり、AI生成コンテンツ(AIGC)の普及が加速しています。
 しかし、AI生成コンテンツの急速な普及により、法的責任に関する問題が浮上し、特に著作権の分野では、AI生成作品の法的帰属、侵害の認定、責任の所在についての議論が活発化しています。ここで、AIの革新を推進する一方で、オリジナル作品の権利をいかに保護し、侵害を防ぐかは、産業界および法律界にとって重要な課題となっています。
 本稿では、AIによる絵画作品の著作権侵害事件を通じて、中国の裁判所におけるAI生成コンテンツの法的適用と認定の枠組みを分析し、AI技術の発展と著作権保護のバランスについて考察します。

2.事件の概要
(1)原告・被告およびそれぞれの主張
原告:上海新創華文化発展有限公司
原告の主張:
⇒ 被告は許可なくウルトラマンのキャラクターを使用し、AIモデルを訓練して原告の作品と類似する画像を生成した。これにより、原告の複製権、翻案権、情報ネットワーク伝達権が侵害された。
⇒ 被告が運営するウェブサイトTabでは、ユーザーがキーワードを入力することでウルトラマンの画像を生成できる。この機能は有料会員登録または「計算力」の消費を伴うため、商業的利用に該当し、著作権侵害を構成する。

被告:広州年光ネットワーク科技有限公司
被告の抗弁:
⇒ 訴状を受け取った時点ですでに侵害行為を停止しており、責任を負うべきではない。
⇒ AIモデルは第三者が提供したものであり、被告は独自にモデルを訓練していない。また、原告の著作権を侵害する意図もなく、客観的にも侵害行為は行っていない。

(2)争点
⇒ 被告の行為は、原告が有するウルトラマン作品の「複製権」「翻案権」「情報ネットワーク伝達権」を侵害するのか?
⇒ 仮に侵害が認められた場合、被告はどのような民事責任を負うべきか?

(3)裁判所の見解
① 複製権の侵害について
 裁判所は、原告が提出した証拠(Tabサイトで生成されたウルトラマン画像)をもとに、被告がAIを用いて原告の著作物を部分的または完全に複製したと認定し、これにより、原告の複製権を侵害していると判断しました。
② 翻案権の侵害について
 裁判所は、AIが生成した一部の画像は、原告の「ウルトラマン」のオリジナル要素を保持しつつ、独自の改変が加えられていた(例:ウルトラマンのキャラクターと他のアニメキャラクターとの融合)と認定し、許可なくウルトラマン作品に対し変更を加えたため、翻案権の侵害に該当すると判断しました。
③ 情報ネットワーク伝達権の侵害について
 裁判所は、AIによる画像生成サービスは、ユーザーが任意の時間と場所で画像を入手できるため、情報ネットワーク伝達権の侵害につながる可能性があると認定しつつ、本事件ではすでに「複製権」「翻案権」の侵害が認定されているため、同一行為についての重複評価は行わないと述べました。
④ AIプラットフォームの責任について
 裁判所は、被告がサービス提供者として原告が有するウルトラマン作品の著作権を侵害したと認定し、侵害行為の停止、すなわちAIによる画像生成を停止すべきであると判断しました。被告の、「AIによる画像生成サービスは第三者の事業者が提供しているものであり、自らは責任を負わない」という抗弁に関しましては、裁判所は認めませんでした。
 さらに、裁判所は被告がサービス提供者として合理的注意義務を果たしておらず、以下の点で重大な過失があると指摘しました。
● 効果的な苦情・通報メカニズムを設置しておらず、権利者が迅速に権利を行使できない状況を招いた。
● ユーザーに著作権遵守のガイドラインを提供せず、利用規約にも他者の著作権を侵害してはならない旨を明記していなかった。
● AIが生成した画像に明確な識別マークを付与せず、一般ユーザーに誤認を生じさせる可能性があった。
 これらの点を踏まえ、裁判所は、被告がAIによる生成サービスを提供する際に十分な防止措置を講じなかったことを認定し、相応の著作権侵害責任を負うべきであると判断しました。
                                    ―(2024)粤0192民初113号民事判決書より抜粋

3. 分析とまとめ
(1)AIプラットフォームの著作権コンプライアンス義務の強化
 本判決は、中国の裁判所が生成AI技術に対する厳格な規制を進めていることを示しております。中国の《生成式人工知能サービス管理暫行規定》では、AIサービス提供者はキーワードのフィルタリング、苦情処理システムの構築、著作権コンプライアンスの明確化等の「合理的注意義務」を果たす必要があると規定しており、本判決は、この規定を厳格に適用した内容となります。
(2)AI生成コンテンツの侵害認定基準の確立
 裁判所は本判決において、AIが生成した画像が直接的に権利作品を複製していなくても、その独創的な表現を保持し、実質的に類似している場合、著作権侵害が成立するという重要な基準を確立しました。この判断は、今後のAIによる絵画、文章、音楽などのコンテンツ生成分野における法的基準として、極めて重要な参考となるものです。
 また、この判決はAI業界に対して以下の点を示唆していると考えられます。
① AI生成コンテンツの「参照」行為も、原作品を完全にコピーしていなくても、著作権侵害に該当する可能性がある。
② AIの訓練データの出所は、より厳格なコンプライアンスを求められ、無許可の作品を用いてモデルを学習させた場合、法的責任を問われるリスクがある。
③ AI企業は、より厳格なコンテンツ審査メカニズムを構築する必要があり、AIが生成する出力結果が、第三者の権利を侵害しないよう管理することが必要である。
(3)著作権保護とAI技術の発展のバランス
 裁判所は本判決において、人工知能は未来の重要な発展分野であるものの、技術革新を理由に著作権保護を回避することは許されないと強調しました。即ち著作権の保護と産業の発展のバランスを適切に取るべきであるとしています。なお、本判決では、最終的に原告の請求額30万元ではなく、1万元の損害賠償が酌定されました。この判断は、権利保護とAI産業の発展の両立を考慮した結果であり、今後のAI技術の発展と法的規制の方向性を示す重要な判決となると考えられます。

4. おわりに
 本判決は、中国でAI生成コンテンツの著作権侵害を初めて正式に認定した判例であり、AIサービス提供者に対する法的基準を明確に示しています。今後、AIプラットフォームはより厳格なコンプライアンス対策を求められる一方で、権利者側もAI生成コンテンツの監視を強化する必要があると考えられます。そして、AIの進化と著作権保護の調和をどう図るかーーーこれは、既に法律と産業界における重要な課題となっており、今後の動向が期待されます。

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