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JRRCマガジン No.151 2018/11/29
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先日「万博が大阪に決まった!」とのニュースが飛び込んできました。
万博(国際博覧会)は国が国際博覧会条約に基づき誘致していて
オリンピックは都市が誘致しています。条約については、
外務省の外交政策HPにも記載があるようですので、そのあたりも興味深いですね。
さて、
本日のメルマガは、「川瀬先生の著作権よもやま話」です。公衆送信に
関する話題その3です。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話 ━━━━━━━━━━━━━
第27回 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(2)
「通信と放送の融合<アナログ放送の終了に関連して>(その3)」
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5 国際条約との関係
1996(平成8)年に作成された「著作権に関する知的所有権機関
条約」(WIPO著作権条約)と「実演及びレコードに関する知的
所有権機関条約」(WIPO実演・レコード条約)は、通称インタ
ーネット条約といわれるとおり、著作物等をネット送信することに
関する権利等を定めています。
その中で、著作物について、WIPO著作権条約では「公衆へ
の伝達権」(8条)が定められています。この公衆への伝達権は、
「有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが
選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような
状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利」
としています。
また、実演及びレコードについて、WIPO実演・レコード条
約では「利用可能化権」(10条、14条)が定められています。
具体的には、レコードに固定された実演及びレコードについて、
「有線又は無線の方法により公衆のそれぞれが選択する場所及び
時期において利用が可能となるような状態に置くことを許諾する
排他的権利」としています。
先述したとおりIPマルチキャスト放送は、わが国では入力型
自動公衆送信(蓄積を伴わない送信なので蓄積型のように番組の
初めからは見られない)と解されています。この入力型自動公衆
送信が、条約上の公衆への伝達権や、送信前のアップロード行為
が利用可能化権の対象となるかどうかにより、権利制限等の方法
については条約との整合性が求められることになるため、著作権
法の改正に当たり政府部内で整理されました。
その検討を行った文化審議会著作権分科会報告(2006(平成18)
年8月)では、特に実演及びレコードの利用可能化権に関し
「この文言(筆者注 『公衆のそれぞれが選択する場所及び時期
に利用が可能となるような状態に置くこと』)について、WIPO内
にはこの解釈を明らかにした文書はないようであるが、公表され
ている解説書を調査するとともに、各国の著作権担当者及び専門
家に見解を質したところ、いずれの調査等においても、インター
ネット・ストリーミングのように決まった時間にあらかじめ確定
したプログラムに基づいて送信されているような場合は、視聴者
が特定の実演やレコードに自らの選択する時間にアクセスするこ
とができないので、「利用可能化」には該当しないと解されてい
るという見解が得られた。
したがって、IPマルチキャスト放送による放送の同時再送信は、
「同時」再送信であることから当然に特定の実演やレコードに視
聴者が自らの選択する時間にアクセスすることができないため、
実演・レコード条約の利用可能化には該当せず、許諾権で保護す
ることは求められていないと考えられる。」
と整理されました。
以上のとおり、2006(平成18)年の著作権法改正は、この解釈
を前提に行われたことになります。
6 今後の課題
2006(平成18)年の著作権法改正は、放送を受信して同時に
有線放送する行為と同様の行為をネットで行うこと(IPマルチ
キャスト放送等)に関する関係権利者の権利の働き方を平準化
し、同様の条件で事業を行うことを可能にするため行われたも
のでした。
この際、IPマルチキャスト放送事業者が行う放送の同時再送
信以外の送信、すなわち自主制作番組の送信にかかる権利関係
等についても整備するかどうかについて検討が行われました。
例えば、有線放送事業者は、番組制作にあたって、権利者から
有線放送の許諾を得さえすれば、録音録画の許諾を得なくても
いいという一時的固定制度の特権(権利制限)を与えられてい
ます(44条2項)。また、有線放送事業者には、有線放送行為に
ついて著作権法上、有線放送を受信して行う番組の複製、送信
可能化等に関し一定の範囲で著作隣接権が認められています
(98条~100条)。
このように有線放送事業者は、放送事業者と同様、著作物等
の利用に当たって放送事業者と同じような特権(権利制限)を
与えられていますし、放送事業者と同様の行為を行っているた
め、著作隣接権者としても保護されています。
この点については、著作権法改正当時、IPマルチキャスト放
送はこれからという黎明期であり、自主放送の実態はありませ
んでした。したがって、検討に当たっては、課題の指摘にとど
め、具体的な対応については今後の課題とされました。
ところで、最近、NHKが放送とネット配信を同時に行うことを
検討していること、それを可能にするために放送法の改正が検討
されていることが報道されています。このように通信と放送の
融合が進む中で、放送事業者又は有線放送事業者の権利や権利
制限のあり方についての課題が拡大してくると思われます。
また、最近ではネット専門の事業者が、自主番組を制作しそれを
ネットに流すことにより多くの視聴者を得ていることも話題に
なっており、このような事業者の著作権法上の取扱いも気にな
るところです。もともと有線放送事業者は放送事業者と異なり
国際条約(実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関す
る国際条約)において保護対象になっているわけではありませ
ん。しかし、わが国では有線放送事業者も放送事業者と同様の
事業を展開しているとのことで、1986(昭和61)年の著作権法
改正で有線放送事業者を著作隣接権の保護対象に加え、関係規
定が整備されたところです。放送法では、放送事業者、有線放
送事業者、IPマルチキャスト放送事業者は一定の規制があり
ますが、ネット事業者には原則規制がありません。著作権法で
は、放送法による規制対象事業者以外の事業者(例えば、ミニ
FM放送局)も放送事業者として取扱っていますが、法改正が
行われた理由の1つとしては、それでも主たる事業者は法令によ
って規制されており、法令で規制されている事業者であれば著
作権の保護等が適切に行われ、権利者の利益を不当に害するよ
うな弊害はないと考えられたからだと思います。
これらの点から、ネット事業者に著作権法上特別の配慮をする
必要はないと思いますが、放送事業者が、放送とネット配信を
同時に行う目的で番組を制作すれば、先に説明をした一時的固
定制度等の特権(権利制限)は事実上活用できなくなることか
ら、仮に同制度を拡大するとなると、今度はネット専業事業者
とのバランス論が出てくるような気がします。
2006(平成18)年の著作権法改正の際は、IPマルチキャスト
放送が有線放送と並んで、アナログ放送終了の際の地上波デジ
タル放送の有力な補完路になるとの総務省の強い要請を受け、
法改正が行われた経緯があります。
今回の放送事業者の放送とネットの同時送信に当たっても総務
省から著作権法の見直しの要請があるのかどうかわかりません
が、2006(平成18)年の著作権法改正とは異なり、もっと大き
な課題が内包されていることは間違いなさそうです。
7 おわりに
デジタル・ネットワーク時代において、複製権(21条)と
公衆送信権(23条1項)はその中核をなす権利です。わが国は、
WIPO著作権条約と同実演・レコード条約に加盟しており、
権利の保護水準は世界のトップクラスです。
ただ、社会の多くの分野でネットを活用して情報を提供する
ということが盛んになると、それと並行して教育、社会福祉等
の公益性のある分野で、情報のアーカイブ化やネットによる
情報の提供の促進が課題となってきます。情報に占める著作物
等の割合は相当あると思いますので、これからは権利制限の
拡大が求められる機会が多くなると思われます。
次回ですが、デジタル・ネットワーク化の進展に伴い、いくつ
かの分野で既に公衆送信に関する権利制限が行われていますの
で、その内容について解説をします。
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