JRRCマガジン No.152 公衆伝達権の効用

山本隆司

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JRRCマガジン No.152  2018/12/12
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今回の山本隆司弁護士のコラムは「公衆伝達権の効用」です。

ところで、平成31年1月17日の公益社団法人著作権情報センター
月例研究会において、「創作性」概念に関する比較検討についてを
山本先生がお話なさるそうですので、ご興味のある方は
CRICのhttp://www.cric.or.jp/
の「セミナーのご案内」サイトから詳細をご確認ください。

なお、次回の山本先生のコラムは、「写真の創作性」を予定しています。

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━

第70回 「公衆伝達権の効用」

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 私は、欧米の写真家の依頼を受けて、日本における彼らの写真の
無断使用に対して著作権の行使を代理することがあります。その中
に、先日、現行法の無力さを感じる事案がありました。
 自社のウェブページに写真を掲載する場合、通常の事案(A)で
は、Yがインターネット上のフォルダーに写真を蓄積し、ウェブペ
ージのソースコード(ウェブページの表示を指示するプログラム)
に当該写真のURLを記載する形態をとります。この場合には、Yに
よる当該写真の蓄積に複製権の侵害が成立し、ウェブページでの
配信に公衆送信権の侵害が成立します。したがって、Yに対しては
著作権侵害に基づく差止請求も、(他人の写真を複製したこと自体
に過失が認められるので)不法行為に基づく損害賠償請求も認めら
れます。
 ところが、上記の事案(B)では、Yは、Zがインターネット上で
無断掲載している写真を見つけて、Yが自己のウェブページのソー
スコードに、その写真のURLを記載していました。つまり、Yのウェ
ブページ上では、Zがインターネット上に無断掲載している写真に
リンクを貼っただけになります。Yには、複製権の侵害も公衆送信
権の侵害も成立しません。Yには、せいぜいZによる複製権の侵害
および公衆送信権の侵害に対する幇助が成立するだけです。現在
の裁判例は、著作権侵害の幇助(間接侵害)には差止請求権を認
めていません。著作権侵害の幇助には不法行為が成立しますが、
Yが警告書を受領後直ちに削除すれば過失が認められないので、Y
には不法行為が成立せず、損害賠償請求も認められません。
 Aの事案とBの事案では、結論が180度異なりますが、著作権
者に与える損害において違いはありません。Bの事案においても、
Aの事案と同様に、Yが著作権者に無断でその写真を市場に拡散し
ているからです。この点に着目すると、現行法によるBの事案に
対する法的処理は、合理的とは思えません。
 しかし、EU各国は、情報社会指令に従って、「公衆伝達権」を
定めています。公衆伝達権は、無断で著作物を「公衆に送信する
行為」を規制するのではなく、無断で著作物を「公衆に受信させ
る行為」を規制するものです。以前紹介しました欧州司法裁判所
(Court of Justice of the European Union)のGS v Sonoma事件
に対する2016年9月8日の判決は、違法サイトへのリンクに公衆伝
達権の侵害を認めるので、Bの事案にもYに公衆伝達権の侵害が成
立し、著作権侵害に基づく差止請求も、不法行為に基づく損害賠
償請求も認められることになります。したがって、日本において
も、「公衆伝達権」を導入するのが、Bの事案に対する法的処理
を合理的に行うために必要なように思います。
 日本に「公衆伝達権」を導入する法的根拠がないわけではあり
ません。そもそも、日本が加盟するWIPO著作権条約は、加盟国に
「公衆伝達権」の保護を義務づけています。日本が、「公衆伝達
権」に相当する権利として「公衆送信権」を保護し、これで「公
衆伝達権」の保護義務を果たしたという立場を取っているにすぎ
ません。しかし、日本法の「公衆送信権」は、WIPO著作権条約の
「公衆伝達権」よりも保護範囲が狭く、多くの問題を含んでいま
す。その問題は、上記のBの事案の処理にも現れますが、いま話題
となっているサイトブロッキングの問題への対処にも問題が現れ
てきています。
 サイトブロッキングの問題としてあまり認識されていないもの
に、準拠法の問題があります。海外のサイトから日本向けに違法
複製物が配信される場合、当該配信は日本法の公衆送信権の侵害
とはなりません。公衆送信権の侵害を生ずる行為は、送信行為で
すが、海外で行われているので属地主義に基づいて日本法の適用
がなく、公衆送信権の侵害が成立しません。当該配信がダウンロ
ード可能であれば複製権侵害の成立する余地がありますが、スト
リーミングであれば日本法上まったく規制することができません。
しかし、日本法が公衆送信権ではなく公衆伝達権を採用していれ
ば、以上の問題は解消します。すなわち、公衆伝達権の侵害を生
ずる行為は、受信させる行為ですので、海外のサイトから日本向
けに違法複製物が配信される場合でも、公衆伝達権の侵害となり、
日本法で規制することが可能になります。
 また、サイトブロッキングへの対処として、海外のサイトから
日本向けにアクセスサービスを提供するプロバイダに対して、当
該サイトへの日本からのアクセスを禁止する措置を命ずることが
必要です。しかし、現行法上、公衆送信権の侵害が成立しないの
でプロバイダにはその幇助責任も認められませんので、プロバイ
ダに上記措置を命ずる根拠がありません。もし、日本法が公衆送
信権ではなく公衆伝達権を採用していれば、以上の問題は解消し
ます。公衆伝達権の侵害を生ずる行為は、自ら配信する行為では
なく受信させる行為があれば足りるので、プロバイダに公衆伝達
権の侵害またはそのおそれに基づいて、プロバイダに対して当該
サイトへの日本からのアクセスを禁止する措置を命ずることが可
能になります。

  以上

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