JRRCマガジンNo.364 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)24 権利の例外(7) 一時的複製物の作成など

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JRRCマガジン  No.364 2024/4/4
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
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皆さま、こんにちは。

新入生のランドセルが春光に踊る季節となりました。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
Chapter24. 権利の例外(7):一時的複製物の作成など
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに

イギリス著作権法の第1部「著作権」の第3章は「著作物に関して許された行為」を規定しています。権利の制限・例外に関する規定です。

この第3章には、第28条から第76A条まで規定があります。それらの規定の中には、「フェアディーリング」という要件がある場合と、それがないため「フェア」という要件を裁判所が判断しない場合との2種類が存在します。

前回までは、フェアディーリング規定と私的使用のための個人的複製に関する規定について見てきました。今回はそれ以外の例外規定を幾つかを紹介します。

2.一時的複製物の作成

 著作権の例外規定の中に、インターネットなどの利用にともなって付随的に生じる一時的な複製に関する規定があります。一時的な複製を作成した者が著作権侵害の責任を免れるためには、 (i) 複製が過渡的または付随的なものであること、(ii) 複製の作成が「技術的プロセスの必要不可欠な部分」であること、(iii)媒介者によって第三者間のネットワークにおける著作物の送信を可能にするため、または著作物の適法な使用を可能にするために複製が行われること、(iv)一時的複製が「独立した経済的意義を有しない」こと、という要件を満たす必要があります(イギリス著作権法第28A条)。

この規定の構成要素は、イギリスがEUに加盟していたときに成立した情報社会指令5条1項に基づくものです。指令の同規定は、導入するかどうかが任意の例外規定ではなく、国内法化しなければならない義務的な例外規定であったため、イギリスでも2003年に導入されました。

この規定の適用場面はいろいろとありますが、個人がインターネットのブラウジングをしてウェブサイトを閲覧する過程でRAMに生じるコピーは、その典型であるように思われます。そして、そのような複製は許されて当然で、誰も文句を付けないのではないかと思われるかもしれません。しかし、オンライン上で提供されている第三者のコンテンツの閲覧を容易にするような仲介サービスを提供する場合、それに対してライセンスを与えようとする団体にとっては経済的な意味を持つ複製となります。

この点についてイギリスでは、次のような事件がありました。Meltwaterという会社は、クライアントのためにニュース報道をモニタリングし、記事の冒頭の言葉やユーザーがアクセスできるハイパーリンクを提供するサービスを行なっていました。これに対して、新聞の著作権を管理する団体であるNewspaper Licensing Agency(NLA)は、ウェブ・データベース・ライセンス (WDL) の付与により、Meltwater などの 商業メディアのモニタリング組織に対して、NLAのメンバーの Web サイトの使用をライセンス供与するための制度を用意しました。これに対して、Meltwaterは、適法に事業を継続するためにWDLを取得する必要はないと主張し、訴訟を起こしました。

高等法院はMeltwaterらが提供する上記のサービスを適用に行うには、NLAらのライセンスが必要であるとしたので(The Newspaper Licensing Agency Ltd & Ors v Meltwater Holding BV & Ors [2010] EWHC 3099 (Ch) (26 November 2010))、それに対してMeltwater側が控訴しましたが、控訴院もその判断を維持しました(The Newspaper Licensing Agency Ltd & Ors v Meltwater Holding BV & Ors [2011] EWCA Civ 890 (27 July 2011))。そして最高裁まで争われたという事案です。

この裁判の争点は多岐に渡りますが、一時的複製に関して、最高裁判所は、インターネットの閲覧に際して個人のハードドライブや画面上に作成されたウェブページのコピーについて、このような使用は著作権侵害には当たらないと判断しました(Public Relations Consultants Association Ltd v The Newspaper Licensing Agency Ltd & Ors [2013] UKSC 18)。

高等法院および控訴院は、4要素をすべて満たさないと判断したのに対して、最高裁判所は情報社会指令の構成要素は、一つ一つ別の項目として確認するのではなく、趣旨に沿った形で一緒に読む必要があるとし、一時的なコピーが技術的・論理的プロセスの不可欠な部分として作成され、合法的な視聴行為以上の経済的意義がないことは議論の余地はなく、重要な問題は一時的で「過渡的なものか付随的なものか」という点であるが、キャッシュのコピーは最終的には通常の業務の過程で自動的に破棄されるため、人為的な介入なしにコピーが削除されるという意味においては、過渡的なものであると判断しました。

当時、イギリスはまだEUの加盟国であり、最高裁判所はこの問題について欧州司法裁判所に付託しましたが、同裁判所もイギリス最高裁判所の結論を支持しました(PRCA v. Newspaper Licensing Agency Ltd Case C-360/13)。

3.付随的な利用

美術の著作物、録音物、映画又は放送が、付随的に挿入された場合、著作権の例外となる場合があります(第31条)。公共の場所に展示された彫刻などの著作物が、たとえば映画のワンシーンなど別の作品の背景に付随的に含まれるようなケースを想定した規定です。

問題は、どういう場合が「付随的」であるかということです。これについて、Panini UK Limitedという会社が、有名なサッカー選手の収集用のステッカーやそれを貼り付けるアルバムを配布していたことについて、プレミアリーグ(FAPL)などが訴えたという事案があります(Football Association Premier League Ltd. & Ors v Panini UK Ltd. [2003] EWCA Civ 995 (11 July 2003))。Panini社のステッカーやアルバムの写真画像には、FAPLのエンブレムと個々のクラブのバッジや紋章が含まれていたため、これが第31条第1項の規定における「付随的」に該当するかが争われました。

裁判所(控訴院)は、付随性のテストは、ある著作物が別の著作物に含まれることになった理由が何かを問題とするものであり、それは美術的な理由のみならず、商業的な理由も考慮しうることを指摘した上で、ステッカーアルバムに描かれた選手のイメージを作る目的は、「コレクターにとって魅力的なもの」を作ることであって、また、個々のバッジとFAPLのエンブレムが含まれていることは、ステッカーやアルバムに描かれた選手の「画像が作られた目的にとって不可欠」であるとして、付随的なものとは言えないと判断しました([2003] EWCA Civ 995, at [27])。

4.その他

Chapter18から今回ここまで挙げてきたもののほか、イギリスの著作権法にも、日本の権利制限規定と同じように、障害者の関係の例外規定(第31A条から第31F条)、図書館やアーカイブに関する例外規定(第40A条から第44B条)、行政目的の利用に関する例外規定(第45条から第50条)があります。またコンピュータプログラム(第50A条から第50C条)やデータベース(第50D条)などに関する特別な例外規定もあります。

興味深いのは、第57条以下にある「雑則」とある部分にある細かな例外規定の存在です。分類しづらいものを「雑則」ということでざっくりとまとめてしまうのも、権利の例外の規定以外にも見られる、イギリス著作権法らしい条文のまとめ方の特徴です。

雑則のなかには、日本法でも同様のことを定めている例外規定もいくつかありますが、いくつか興味深いものがあるので挙げておきましょう。

第59条は、公表された文芸的または演劇の著作物の合理的な抜粋を一人の者が公に読み上げたり朗誦することは、十分な出所明示を伴うときは、著作権侵害にならないとしています。イギリス著作権法にも引用の規定はありますが、引用に該当しない場合でも許されるということです。日本では、引用に該当するか、非営利口述等の規定に該当すれば、公表された文芸作品の公の口述も許されます。イギリスでは、引用に該当しない場合でも、条件さえ満たせば営利での口述を許容しているあたりは、イギリス法の方が若干広めの例外を認めているのかもしれません。

第60条は、学術や技術をテーマにした論文の摘要が定期刊行物に掲載された場合、その摘要を複製等することは、著作権の侵害ではないとする規定です。もっとも、摘要の利用について権利者側がライセンスのスキームを提供している場合、この例外規定は適用されません(第60条2項)。いわゆるライセンス優先型の権利制限規定です。

また、Chapter23で解説した通り、イギリス法には、日本の著作権法第30条のような私的使用の複製を一般的に適法とする規定はありません。そのために、私的学習の制限規定を置いたり(イギリス著作権法第29条第1項)、また、放送番組を後で見ることを目的に録音・録画すること(タイムシフト)については、私的および家庭内の使用のために家庭内で複製するのであれば、著作権侵害にならないという規定をわざわざ置いています(第70条)。

5.おわりに

今回は権利の例外について見ていきました。権利制限については、国際的にも調和していない部分が多く、日本とイギリスの法制度にも数多くの相違点があります。日本の著作権法の歴史をみても、権利を与える規定よりも、権利を制限する規定の方が、1970年の現行著作権法の制定以来、条文が著しく複雑化してきた部分でもあります。条文の枝番号の数をみても、それはイギリスでも同様であったといえるでしょう。

イギリスにはフェアディーリングの規定があり、権利の例外の判断において、裁判所が果たす役割が日本の場合よりも大きいといえる部分があるかもしれません。しかし、フェアディーリングの要件は、目的によって分類された4つの例外規定の場面に存在するにすぎません。そして、イギリスの例外規定も、日本と同様に全体としてかなり複雑なものでした。

ハリーポッターの国にも、権利の例外をめぐる複雑さを解決する魔法の杖は存在しなかった模様です。

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