JRRCマガジンNo.365 フランス著作権法解説9 著作隣接権

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JRRCマガジン  No.365 2024/4/11
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
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皆さま、こんにちは。

花筏が水面を美しく彩る時期になりました。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の第9回目です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第9回 著作隣接権
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(注)フランス語の表記については、アクセントを省略しております。
1 日本にもある著作隣接権と日本にはない著作隣接権
 今回は、著作隣接権について説明します。わが国における著作隣接権者は、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者ですが、これに対し、フランスには、わが国にない著作隣接権者が存在します。今回は、著作隣接権導入当時から存在する著作隣接権者について概観した後、我が国にない著作隣接権であるデータベース製作者の権利、報道出版者と報道通信社の権利、スポーツ興行主催者の権利について紹介します。

2 1985年法により導入された著作隣接権
 フランスは、1985年に、著作隣接権を規定しました。それまでは一般不法行為により保護されることがありましたが、そのような場当たり的な保護では不十分であるため、1985年法により立法対応がされました。1985年法は、実演家、レコード製作者・ビデオグラム製作者、視聴覚伝達企業の著作隣接権を導入しました。
 このうち、ビデオグラム製作者は、「音を伴うまたは伴わない映像の連続の最初の固定の発意と責任をとる自然人または法人」と定義されています(215-1条1項)。わが国と異なり、フランスではビデオグラム製作者も著作隣接権者となりますが、ビデオグラム製作者の権利は実益に乏しいようです。
 視聴覚伝達企業とは、「伝達の自由に関する1986年9月30日の法律第86-1067号にいう視聴覚伝達サービスを経営する機関」(216-1条2項)であり、放送事業者を意味します。インターネットで視聴覚の伝達を行う企業は、視聴覚伝達企業には該当しません。

3 データベース製作者の権利
 データベース製作者の権利は、欧州のデータベース指令(データベースの法的保護に関する1996年3月11日の欧州議会及び理事会指令96/9/EC)を受けて導入された権利です。
 データベース製作者の権利は、特別な権利という位置づけで「スイ・ジェネリス(sui generis)権」といわれています(指令前文18項、19項)。フランスでは、データベース製作者の権利は、著作隣接権を定める第2編ではなく、第3編において規定されています(341-1条以下)。条文の位置づけからわかるように、データベース製作者の権利は、スイ・ジェネリス権として扱われていましたが、現在では、投資保護を目的とする点において著作隣接権と同様であり、データベース製作者の権利を著作隣接権と理解する見解が有力です。
 データベース製作者とは、データベースの内容の構築、検証または提示に実質的な投資を発意しかつ投資のリスクを負う法人または自然人をいいます(341-1条)。データベース製作者は、データベースのコンテンツの全体または実質的部分の抽出または再使用を禁止することができます(342-1条)。
 ところで、現在では、データベース製作者の権利を保護することについて疑問視されています。デジタル単一市場指令法案に向けた2016年1月19日欧州議会決議においては、欧州のデータ駆動型経済の発展に対する障害になると評価され、廃止すら示唆されています。

4 報道出版者・報道通信社の権利
 報道出版者・報道通信社(以下「プレス」といいます)隣接権は、デジタル単一市場指令(デジタル単一市場における著作権および隣接権に関するならびに指令96/9 / ECおよび2001/29 / ECを修正する2019年4月17日の欧州議会および欧州理事会指令)15条に規定され、欧州連合加盟国はこれを国内法に導入することが義務付けられています。
 フランスでは、2019年に、プレス隣接権をいち早く導入しました(218-1条以下)。国内法化を急いだ背景には、プレス各社と大手プラットフォーマーであるオンライン公衆伝達サービスプロバイダとのコンテンツ利用を巡る対立がありました。
 プレス隣接権の主体は、新聞社などの報道出版者とAFP通信などの報道通信社です。法は、オンライン公衆伝達サービスが、デジタル形式で、報道出版物の全部または一部を複製し、公衆送信する前に、プレスの許諾を得ることを定めています(218-2条)。デジタル形式の利用のみが対象であり、紙媒体での利用は対象外です。この権利の存続期間は、報道出版物の最初の発行の日に続く暦年の1月1日から2年間です(211-4条Ⅴ)。
 フランスでは、2024年に入り、プレス隣接権の実効性を強化することを目的とする法案が下院に提出されています。プレス各社と大手プラットフォーマーとの交渉はこれからも続きそうです。

5 スポーツ興行主催者の権利
 スポーツ興行主催者の権利は、知的財産法典ではなく、スポーツ法典(code du sport)に規定されていますが、著作隣接権であると理解する見解が有力です。
 スポーツ競技が著作物でないことは、欧州司法裁判所の判例(欧州司法裁判所2011年10月4日c-403/08Football Association Premier League and Others)により確認されています。しかし、同判例は、欧州連合加盟国が、スポーツ競技に対し知的財産権による特別の保護を与える可能性を認めています。したがって、スポーツ興行主催者に著作隣接権を与えることは、EU法に反するものではありません。
 スポーツ法典は、「スポーツ連盟および第331-5 条に定めるスポーツ興行主催者は、その主催するスポーツ興行またはスポーツ競技会を利用する権利の所有者である」と定めています(スポーツ法典333-1条1項)。したがって、権利の主体は、スポーツ連盟およびスポーツ興行主催者ですが、スポーツ連盟については、スポーツ会社に対し、視聴覚利用権を譲渡できることが定められています(同条2項)。このような排他的利用権に対しては、スポーツに関する情報伝達を妨げないようにするため、情報番組中に短い抜粋を放送できることが例外として規定されています(333-7条)。
 サッカー(football)を例に挙げると、フランスサッカー連盟(FFF)は、スポーツ法典にいうスポーツ連盟として、スポーツ競技会や興行に対する視聴覚利用権を有しています。フランスのリーグ・アン(Ligue 1)はプロサッカーリーグ(LFP)により主催されますが、そのリーグに属するパリ・サンジェルマンなどのクラブは、スポーツ法典に規定されるスポーツ会社に該当します。サッカーの場合、FFFが、クラブに視聴覚利用権を譲渡しています。ただし、各種のスポーツ連盟のうち、クラブに視聴覚利用権を譲渡しているのはサッカー連盟のみのようであり、そのほかのスポーツはそれぞれのスポーツ連盟が権利を管理するのが一般的なようです。
 視聴覚利用権を排他的権利とすると、スポーツ競技会やスポーツ興行を許諾なくライブ中継する映像は海賊版となります。フランスでは、このようなスポーツ興行等のライブストリーミングによる海賊版問題が深刻化しています。そこで、2021年、スポーツ法典に侵害対策に関する規定が新設されました(333-10条以下)。これはパリ・オリンピックに向けた、法的側面における準備ともいえます。
 スポーツ法典333-10条は、オンライン公衆伝達サービスにおいて重大かつ反復的な侵害が認められた場合に、視聴覚利用権の権利者(権利を有する連盟、スポーツ興行主催者、プロリーグ、放送事業者)に対して、本案迅速手続または急速審理手続により、違法配信のブロッキング、削除、検索非表示など、適切なあらゆる措置をとることを司法裁判所に求める権利を認めています。そして、その実効性を高めるため、司法裁判所による決定の際には識別されていなかったサイトに対しても、その効力を拡張する形で措置の対象とすることができます(333-10条Ⅲ)。裁判所の決定を得た場合、視聴覚・デジタル伝達規制局(Autorite de regulation de la communication audiovisuelle et numerique、略称ARCOM)は、問題のサービスを確認し、プロバイダにブロッキング等の措置をとるように通知します。このような制度により、海賊版ライブストリーミング対策は着実に成果を上げています。
 なお、スポーツ興行主催者の排他的権利は著作隣接権の一種と考えられてはいるものの、その存続期間に関する定めがないという謎があります。このように釈然としないところが残るのですが、迅速な海賊版対策がとられていることは注目に値します。
 ところで、ARCOMは、著作権法に定めがある機関です(331-12条以下)。次回はこの連載の最終回になりますが、ARCOMに関する説明も含め、インターネット上の著作権侵害対策について説明する予定です。

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