JRRCマガジン第74号(犯罪人引渡し条約)

山本隆司

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   JRRCマガジン No.74 

山本隆司弁護士の著作権談義
第47回「犯罪人引渡し条約」

                                   2016/9/27配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

秋の長雨もようやく小休止といったところでしょうか。
シルバーウィーク最終日の日曜日は、行楽やスポーツには良い日でした。
リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックにインスパイアされ、
久しぶりにジョギングをして筋肉痛に悩まされる今日この頃ですが、
皆さまは、いかが過ごされましたでしょうか?

それでは、
山本隆司弁護士の著作権談義
第47回「犯罪人引渡し条約」
をお送りいたします。

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山本隆司弁護士の著作権談義 
第47回 「犯罪人引渡し条約」
                               
 違法複製された著作物がインターネット上で拡散しているという問題があります。なか
でも、ビットトレントによるファイル交換に対して、その対策に苦慮しています。キックアス
・トレントは、違法ファイルの交換に使われていることで悪名の高かったものです。キック
アス・トレントのオーナーが、今年の7月20日に、ポーランドで逮捕されました。彼は米国
の裁判所で刑事訴追されており、ポーランドが米国との犯罪人引渡し条約に基づいて、
逮捕したものです。日本国外のサイトから日本国内向けに違法配信される場合にも、こ
れを応用する余地について検討してみます。
 まず、キックアス・トレントの事案ですが、違法ファイルの交換に積極的に利用させてい
るとして、民事訴訟を提起され、ドメインを差し押さえられると、次々とドメインを変え(米
国→フィリピン→…→コスタリカ)、事業を継続していました。そして、ついに米国司法省
がイリノイ北部地区連邦地方裁判所(シカゴ所在)に、そのオーナーを営利目的の著作
権侵害で刑事訴追しました。米国は、112カ国と犯罪人引渡し条約(extradition treaty)
を結んでいます。そのオーナーはウクライナ人でしたが、ポーランドに居るところを逮捕
されました。
 さて、日本でも同じことができるでしょうか。日本国外のサイトから日本国内向けに違法
配信される場合、その配信行為者またはその共犯者は、米国か韓国に居れば、同じ手
を使って、日本で刑事処罰できそうです。
 日本は、米国と韓国の2カ国とのみ犯罪人引渡し条約を締結しています。したがって、
欧州や東南アジアや中国に居る場合には、対処できません。
米国との条約を見ると、日本で処罰できる犯罪人を訴追しまたは刑を執行するためであ
れば、米国にその身柄を拘束し、日本に引き渡すことを求めることができます(1条)。条
約の対象となる犯罪には制限があります。政治犯は含まれません(4条1項1号)。しかし
、著作権法違反事犯は、同条約の対象となることが明記されています(付表第20号)。日
本国外のサイトから日本国内向けに著作物を違法配信する行為が、日本の著作権法上
、公衆送信権の侵害に該当するとすれば、米国にいる行為者の引渡しを犯罪人引渡し
条約に基づいて請求できます。
 しかし、日本国外のサイトから日本国内向けに著作物を違法配信する行為が、日本の
著作権法上、公衆送信権の侵害に該当するかどうかについては、なかなか微妙です。日
本の著作権法における公衆送信権は、異論はありますが、日本国内に「送信行為」があ
る場合にのみ適用があると考えられるからです。そうだとすると、送信行為者が日本に
居ながら海外サイトを通じて日本国内に違法複製物を配信し、日本での逮捕前に米国
に逃した場合や、当該海外サイトの運営者が上記違法配信を幇助し、その運営者が米
国にいる場合には、犯罪人引渡し条約を利用できそうです。
 刑罰による侵害抑止の効果は抜群です。海外でのネット犯罪に対する有効な手段とし
て、犯罪人引渡し条約の活用をもっと考えてみることも必要に思います。その際、著作権
法を、国際事犯を想定して(属地主義の許す範囲内で)広く権利を及ぼすよう改正するこ
とや、犯罪人引渡し条約の締結相手国を広げることも検討して欲しいところです。
 以上

 
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