JRRCマガジン第75号(引用?)

半田正夫

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   JRRCマガジン No.75 半田正夫の著作権の泉
                          第40回「引用?」
                                2016/10/17配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

36年振りの噴火となった阿蘇山。
周辺地域である熊本では、4月の地震と先日の台風による被害からまだ間もないとき。
火山灰が四国の香川や愛媛まで及んだとか。被害に遭われた方へ心よりお見舞い申し
上げます。

それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第40回」をお送りいたします。
今回は、「引用?」です。

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半田正夫の著作権の泉 第40回 「引用?」
                       
 嘘かホントか知らないが、かつてこんな話を聞いたことがある。
 某大学の教授が大学当局に対して、自分が書いたと称する膨大な原稿を提出して博
士号の取得を申請したと考えていただきたい。受理して審査にあたった審査委員会の
教授連中はその内容をみて驚いた。冒頭は次のような書き出しで始まっている。
 「最近、甲野太郎著の『○○○の研究』という書籍が刊行された。その内容は以下の
とおりである。」
 それから延々とその本の内容が数百ページにわたって一字一句正確に複製されてお
り、最後に、
 「・・・という内容であるが、私はそれには反対である。」(終わり)
としてあったそうである。なんのことはない。はじめの数行と最後の数行だけが本人の
文章であと数百ページは他人の文章であり、それを引用したものだとうそぶいたとのこ
とである。この論文?をみた審査委員の先生方がこれにどのような評価を下したかは、
残念ながら聞き逃しているが、ただ唖然としたとしかいいようがないように思われる。
 
 たしかに研究者が論文を書く場合には、他人の学説を批判しながら自分の学説の優
位さを主張する必要があり、そのために他人の文章を使用することが不可欠である。こ
のような使用の仕方を引用というが、引用は著作物の複製に当たるから、本来ならば
著作権者から複製の許諾を得なければならないが、それでは自由な批判ができないこ
とになるため、著作権法は「公表された著作物は、引用して利用することができる。この
場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研
究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」(著作32
条1項)と規定し、このような厳しい条件を満たした引用のみが許諾不要であるとしてい
る。ただ、ここにいう「公正な慣行」とか、「引用の目的上正当な範囲内」は、具体的にど
ういうことを指すのか文言からは明らかではないが、判例は、①引用して利用する側の
著作物と引用されて利用される側の著作物とが明瞭に区別して認識できること、②両
著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること、③その引用は引用
される側の著作者人格権を侵害するような態様でなされるものではないこと、の3つの
要件がすべて充たされるものでなければならないとしている。①については、自分の文
章と引用しようとしている他人の文章とをはっきり区別することを要求しているので、前
後を1行空けるとか、引用部分をカッコで囲む、引用する文章を一段下げるとか、などの
操作が必要である。②の主従の関係については、量的な点はもとより、質的な点も考慮
して判断すべきであろう。これを冒頭のケースにあてはめてみると、一応他人の文章を
カッコで囲んでいるので、①の要件は充たしているとはいえるものの、分量的にみて他
人の文章が圧倒的大多数を占めており、とうてい②の要件をみたしたとは考えられない
ので、これは「引用」の範囲を大きく逸脱した、いわば剽窃の部類に属するものと言わざ
るをえない。

 かなり昔の話になるが、筆者が現役の教授時代のある日、研究室に地方の某大学の
教授が相談に訪ねてきた。彼はかねて念願であった都内の某大学から誘いをかけられ、
これに応じることになったが、その際、履歴書と業績目録を提出しなければならないこと
を知り、真っ青になった。というのは、彼の業績の筆頭に掲げられた著書である教科書
が都内の某大学の著名教授の本のほぼ丸写しであったからである。地方にいればその
事実が明るみにでることはないとタカをくくって自著という形で出版したが、今度都内の
大学に就職すれば、この事実があからさまになると恐れたからである。なんとか救済の
方法を教えてほしいというのが、訪ねてきた理由であった。冒頭に掲げた例と似たよう
なケースであり、あきれ果てたが、大きな体を縮こませ大汗をかきながら話すその態度
に憐れみを感じ、「著者に会って事情を話し、はしがきに<某教授の説に依るところが
大きい>旨を記載するということで了解を求めたらどうか。学者であれば案外こころよ
く許してもらえるのではないか。」と述べたことがある。後日、彼から了解が得られた旨
の電話をもらった。心の広い学者であってよかったなあと思ったしだいである。
 

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