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JRRCマガジン No.52 半田正夫の著作権の泉
第34回「『早春賦』の知名度」
2016/4/8配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。
今年は「リオデジャネイロオリンピック」の年です。
テレビや新聞等マスコミによる報道で徐々に盛り上がってきているようですね。
一方「五輪エンブレム白紙撤回」から数か月、まもなくエンブレム発表も行われるとのこと。
どんなエンブレムが選ばれるのでしょうか、楽しみですね。
それでは、
「半田正夫の著作権の泉 第34回」をお送りいたします。
今回は、「『早春賦』の知名度」です。
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半田正夫の著作権の泉 第34回 『早春賦』の知名度
立春も過ぎ、あたりは春の気配が漂いはじめている。このころになると私は決まって
「春は名のみの風の寒さや」で始まる早春賦の歌を口ずさむ。北海道生まれの私にと
っては雪のなかから土が顔を出すときのうれしさといったら筆舌には尽くしがたいほど
万感胸に迫るものがあり、その頃の季節感をはっきり表しているのがこの歌であるから
である。
ところで、この歌の盗作とはいわないまでも、これを下敷きにしたのではないかと考え
られている有名な歌があるのをご存じだろうか。それは、森繁久弥が作ったとされる
「知床旅情」である。両者を聴きくらべてみると、初めの2小節がほとんど同じであるこ
とに気付くはずである。素人である森繁の作った歌がベストヒットしたことにやっかむプ
ロの作曲家のなかには盗作であることを声高に主張する者もいるほどである。だが、私
は森繁ほどの大スターが盗作をしたとは到底信じられない。というよりも、彼が曲を考え
る際にかねて子供のころより聴きなじんだ「早春賦」のメロディが心に浮かび、自分が考
え付いたメロディと勘違いして書き記したか、あるいは「早春賦」の歌を全く知らずに創
ったところ偶然に類似してしまったかのどちらかであろうと思われる(森繁ともあろう才人
が「早春賦」を知らなかったとは考えられないから、多分前者と思われる)。また、この
歌が多くの人に親しまれベストヒットしたのは、かねて聴きなじんだ「早春賦」のメロディ
が下地としてあって歌いやすかったせいなのかもしれない。
いずれにせよ、著作権は創作と同時に発生し、登録などの手続きは一切不要なのであ
るから、たとえば、Aの創作した作品とほぼ同様の作品が後にBによって作られたとしても
、BはA作品の存在を知らず、したがって盗んだのではない場合にはBにも著作権が成立し、
Aの著作権を侵害したことにはならないのである。ただこの場合に、A がBは自分の作
品を盗作したに違いないと思って訴えたとしたとき、AはBが盗作したことを積極的に立証
しなければならず、この立証が不成功に終わったときはAの敗訴となるというのが法の定
めである。この立証はなかなかに難しい問題である。とくにBがAの曲を聴いたことがあり、
本人はそのことを全く忘れていたが、自分が作曲をする際に脳ヒダにこびりついていた
そのメロディが出てしまい、B自身そのメロディを自分が考えたものであると錯覚してい
る場合などとくに困難であろうと思われる。
考えてみれば、音楽というものは、即物的なものの言い方をすると、ドレミファ・・・とい
う僅かな音階の順列組合せで成り立っているものであり、このうち日本人の耳に心地よ
いという組み合わせは大体において決まってくるのであるから、メロディの似通ったもの
が生まれるのは当然といえるのではないか。歌謡曲で似ているのもが多いのはそのため
だと思われる。
いまから30年ほど前になるが、大学での講義の際に、「知床旅情」はある曲の盗作では
ないかといわれているが、その曲名がわかる者はいないかと学生に訊ねたことがある。
「みんなが知っている歌だ」とヒントを与えてもなかなか手が上がらない。やっと一人
の学生が手を挙げて「早春賦ではないでしょうか」と答えた。数百人いる学生のうちで正
解を出したのはこの学生のみであった。ちなみにこの学生は社会人学生で一般学生よ
りかなり年長者であったのであり、他の一般学生は「早春賦」という曲の存在をすら知
らなかった者が大多数であったのである。
それから10年ほどして同じ質問を学生にぶつけたことがある。今度は皆無であった。
彼らは「早春賦」を知らないばかりか、「知床旅情」ですら知らなかったのである。
時の経つ早さと自分が過去の人間になっているということにイヤというほど気付かされ
た瞬間であった。
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