JRRCマガジン第53号(著作権等の集中管理制度とは何か(歴史、法制度、実務))

川瀬真

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   JRRCマガジン No.53 

川瀬先生の著作権よもやま話
第1回「著作権等の集中管理制度とは何か(歴史、法制度、実務)」
 
                               2016/4/11配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

以前にもお知らせしましたが、今回から、川瀬理事による連載が始まります。
川瀬理事は、長らく文化庁にて著作権法整備等に携わり、その後は、横浜国立大学等
において著作権法について教鞭を執っておられ、また、JRRCでは2015年度より「企業・
団体のための著作権講座」の講師等も務めていただいています。
JRRCマガジンでの連載では、著作権にまつわるはなしを豊富な知識で分かり易くお話し
いただきます。
タイトルもズバリ、「川瀬先生の著作権よもやま話」です。どうぞお楽しみに。

それでは、
川瀬先生の著作権よもやま話
第1回「著作権等の集中管理制度とは何か(歴史、法制度、実務)」
をお送りいたします。

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川瀬先生の著作権よもやま話 
第1回 「著作権等の集中管理制度とは何か(歴史、法制度、実務)」
                               
日本複製権センターの理事の川瀬と申します。2015年4月から理事に就任し、昨年度は
専ら著作権に関する基礎講座の講師やセミナーの企画立案等に従事しておりました。
今年度からメールマガジンの充実の一環で何か連載をしてほしいと事務局から頼まれ
ました。いろいろと構想を練ったのですが、現在連載をされている当センターの理事長
の半田正夫先生や顧問弁護士である山本隆司先生の連載と重ならないように、「著作
権の集中管理とは何か」というテーマで、その歴史、法制度及び実務について、分かり
やすく解説していくことにしました。

私は、前職は横浜国立大学大学院で知的財産法(特に著作権)を教えていましたが、そ
の前は文化庁著作権課に在籍し、著作権等管理事業法の制定、コンテンツの流通促進、
私的録音録画問題などの政策課題に取り組んでいました。
その課題の一つに著作権や著作隣接権の集中管理の促進がありました。著作権等の
集中管理というのは、著作権等の管理団体が多数の権利者から権利を預かり、権利者
に代わって利用者に許諾を与え使用料を徴収し、徴収した使用料を権利者に分配する
という仕組みのことをいいます。

例えば放送局のように日々大量の音楽を利用する事業者の場合、いちいち個々の権利
者から許諾を受けるのは事実上不可能です。また、音楽に限らず、小説、脚本、論文、
美術作品等の著作物や著作隣接権の対象となる実演・レコード等についても同じことが
いえます。私が理事をしています当センターも、論文等の著作物の複製利用について
集中管理を行っている団体です。
この集中管理は、権利者の権利は権利者自身で守るという考えの下に、19世紀からヨ
ーロッパを中心に発達し、全世界に広がっていきました。今日では、権利者の権利を保
護すると同時に利用者の便を図り利用の円滑化に貢献する最適な方法として関係者か
らは高い評価を受けております。

ところで、ネット社会が発達してくると、そこで利用される作品(コンテンツ)の充実が求め
られるのはいうまでもありません。新しいビジネスにふさわしいコンテンツ制作への要求
が高まるのは当然のことですが、過去に制作されたコンテンツの再利用(二次利用)に
関する要求も同じように高まってきます。

わが国の場合、コンテンツの制作時に制作者と権利者が文書による契約を結び、権利
の所在も含め二次利用に関する取決めについて、きちんと定めておくという習慣がなか
ったものですから、二次利用に当たって権利者から改めて利用の許諾を得るためのル
ール作りや費用の問題が生じ、それによってネットを活用したビジネスに対するコンテ
ンツの供給が遅れました。

このようなことからデジタルコンテンツの流通促進の問題が提起され、その中で、例え
ば著作権法を改正し関係権利者の許諾権を報酬請求権に変更し、多数の権利者がい
る中で、ある権利者が利用の許諾を拒否することによりコンテンツの二次利用ができな
くなることを避けるようにすべきだという意見が一部有識者から強く主張されるようにな
りました。

確かに、この意見も一理あるわけです。コンテンツの制作には多額の費用がかかって
いるにもかかわらず、関係権利者の誰かが許諾を拒否すればコンテンツの二次利用が
できないことになります。例えば米国のように契約の中で、権利の所在も含めてコンテ
ンツの二次利用の取り決めをしておけば、こんな問題は起こらないわけですが、残念な
がらわが国はこのような状況ではありませんでした。

これに対抗して、権利者側が主張したのは、集中管理方式による二次利用に関する契
約の円滑化です。確かに現在でも様々な分野でこの方式による契約が行われていま
すが、ネット社会の進展に対応して、管理の範囲を拡大したり、使用料の見直しを図っ
たり、受託者の拡大を進めたりすることにより、ネット社会にふさわしい集中管理方式
の実施を推進すると主張したわけです。権利者の許諾権を守るためには、利用者側の
要求を待って検討をしたのでは、防戦一方になってしまうことに気がついたということか
もしれません。

それでは、現在著作権の世界では、この意見の対立はどのような状況になっているの
でしょうか。ここからは私の個人的意見ですが、法改正の主張は沈静化していると思い
ます。これはどちらの意見が勝ったとか負けたとかいうことではありません。
法改正の主張に対し権利者側が集中管理方式の充実により対応すると反論した結果、
関係者は集中管理方式により利用の円滑化がどこまで図れるのかをじっと見守ってい
るというのが正直な感想です。

すなわち、権利者側として社会の期待にどう答えるのかが大きなポイントで、この期待に
答えられないとき、すなわち「市場の失敗」と社会が認めたときには、改めて法改正の議
論が再発すると考えております。
そういう意味で、集中管理の問題は古くからある問題ですが、最新の問題でもあるわけ
です。しかも、そのカードは権利者側が持っているということです。

当センターにおいても、2016年4月から、正会員団体を通じての権利受託に限定してい
た方法に加え、個々の権利者からの個別受託を開始しました。これにより正会員団体
に権利を委託していない出版者や公益法人等で出版部門を持っている団体等も権利
を委託しやすくなります。当センターではこのような方策を通じて、少しでも多くの著作物
を管理対象とし、利用者の便を図ることとしています。

次回は、わが国における集中管理制度の歴史を紹介しながら、欧米諸国との違い等に
ついて解説していきたいと思っています。

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   JRRC副理事長 瀬尾 太一   
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