JRRCマガジン第41号 連載記事

半田正夫の著作権の泉

~第29回 書籍の貸し出し~

 私の子どものころには近所に貸本屋があった。電車通りに面したその店は半ば傾いた木造の建物で、薄暗い店内にはびっしりと並べられた書物の隅にぽつねんと小母さんが小さな机をまえにして座っており、客が訪れると、眼鏡越しにジロリと見上げるのが常だった。実家があまり豊かではなかった私は新刊の本はほとんど買ってもらえず、たまにもらったお小遣いを握りしめてその貸本屋に本を借りに行くのを楽しみにしていたものである。当時、子供たちに人気のあったのは、「敵中横断三百里」、「亜細亜の曙」、「あゝ玉杯に花受けて」、「神州天馬侠」、「少年探偵団」などであった。私は書棚の前でどの本を借りようかしばらく迷ったすえ、1冊を選び出し小母さんの前に持って行くと、小母さんは和綴じの台帳を取りだし、ペンをインク壺に入れてから、おもむろにガキガキと音を立てながら書名などを書き込んでいたのをいま懐かしく思い出す。
 昨今はこのような零細な貸本屋の姿はほとんど見られなくなったが、まったくなくなったわけではない。それでは、このような貸本行為について著作権法はどのように対処しているであろうか。
 昭和45年に制定された当時の著作権法には著作権から派生する権利として貸与権は承認されていなかった。貸本など著作物のレンタル業は零細な商売であり、これに法の網を被せるには及ばないというのが立法者の趣旨であったようだ。ところがその後、貸レコード店が登場し、状況は一変する。貸レコード店が登場したのは昭和50年代の始めである。当時はまだLP時代であるが、貸レコード店は1枚2,500~3,000円もするLPをわずか200円程度で貸与することにより、みずから複製することなく(したがって貸レコード店は複製権侵害行為をしていない)、利用者に録音のチャンスを与える(利用者の録音は私的複製の範囲内の行為として著作権法30条により許容される)のであって、絶えず最新の流行曲を追い求めるヤング層の需要を十分に満たす合法的商売として、にわかに隆盛をみるにいたったのも当然といえばいえるかもしれない。だがその反面、レコードの小売店は大幅な売り上げ減となり、これがためレコード製作者をはじめ、作詞家、作曲者などの著作権者や歌手などの実演家に経済的打撃を与えるおそれが生じ、大きな問題となった。その結果、昭和60年に著作権法の改正を行い、著作権から派生する権利の一つとして貸与権が認められ、権利者の保護が図られたのである。
 ところが、貸与権がすべての著作物のレンタルに及ぶということになると、貸本屋や図書館における本の貸し出し行為はすべて権利者の許諾が必要になるという不都合さが出てくる。そこで法は、書籍や雑誌の貸与については当分の間、貸与権の適用を排除したのである。そうこうするうちに時代は変わり、コミック専門の大規模レンタル店が登場するようになると、これにも貸与権を及ぼすべきだとの意見が強まり、平成16年の改正により、書籍や雑誌の貸与についても貸与権が及ぶことにして現在に至っている。仄聞するところによると、権利者側の団体として出版物貸与権管理センターが誕生し、これが漫画の単行本のレンタルを業とする業者に対する使用料の徴収を行っているとのことだ。ただ零細な業者については使用料の免除を認めているとのことである。

 ところで、注意を要するのは、公共図書館や視聴覚ライブラリーのような非営利かつ無償の貸与については法によって貸与権が及ばないとされていることである(著作38条4項)。これは営利を目的としない著作物の上演等との規定(著作38条1項)とのバランスを考慮したためであるといわれている。公共図書館の公共性と国民の知る権利を尊重するという観点からすれば妥当な措置といえるかもしれない。ところが、図書館の貸し出し行為によって、本来売れるはずの書籍が売れなくなるという悲鳴が出版業者から出るようになった。たしかに電車の中においても乗客の大部分がスマホに夢中で本を読んでいる人は極端に少なくなったことでわかるように、書籍の販売実績は急落し、出版業は危機にさらされているといえるようだ。出版者側は発売後一定期間の貸し出し禁止を公共図書館側に求めているようだがその帰趨はまだ不明である。あれを思いこれを思えば、他の国で導入している公貸権の考え方をわが国でも検討する必要があるのかもしれない。

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山本隆司弁護士の著作権談義

~第37回 TPPとアクセス・コントロール~

 10月に商事法務から「コンテンツ・セキュリティと法」を出版しました。著作物に掛けられる技術的手段の仕組みとこれに対する各国著作権法による保護のあり方を論じています。私は、著作物に対するアクセス・コントロールを我が国でも保護せよ、と主張しています。しかし、日本での問題認識は薄いので、自らそうする前に、「外圧」を受けて初めてそうすることになるだろう、との予測を記載しています。
 ところで、先日の文化審議会著作権分科会法制基本問題小委員会で、TPPで求められる著作権法の改正が必要な5点が公表されました。その5点のなかに、著作物に対するアクセス・コントロールの保護が入っています。つまり、私の予測していた時期よりも早いのですが、予測どおり「外圧」によってそうすることが決まりました。
 そこで、自著の前半で技術論に基づき議論した「なぜアクセス・コントロールの保護が必要か」という議論を飛ばして、後半で欧米の経験に基づき議論した「どのようにアクセス・コントロールを保護するか」が今後、日本での議論の中心になると思われます。具体的には、今後の議論は、①アクセス・コントロールの理論的位置づけ、②保護する技術の種類、③禁止される行為の態様、④例外規定の定め方、に集中するでしょう。なお、日本では「技術的保護手段」と言っていますが、世界的な一般的用語としては「技術的手段」なので、以下では後者を使います。
 第1に、アクセス・コントロールの理論的位置づけに関して、日本では、技術的手段の保護を、著作権の行使を保護する措置として、認めてきました。コピー・コントロールは複製権等の著作権の行使に関係しますが、アクセス・コントロールは、現行著作権法では支分権として認められていないアクセス権に関係します。したがって、従前、日本ではコピー・コントロールしか保護してこなかったのです。今後、アクセス・コントロールの保護を認めるとすれば、アクセス・コントロールが保護する権利・利益は何なのか、が問われます。a.支分権としてアクセス権を創設するというアプローチ、b.著作権の行使を制限する措置としてではなく、著作物の利用を制限する措置として保護するアプローチ(みなし侵害的アプローチ)が考えられます。日本では、本質的な議論を避けて、安直に後者の方法に走りそうですが、それでは④例外規定の定め方について誤った方向に進んでしまうことを懸念します。
 第2に、日本では、技術の種類を信号と暗号に特定して、技術的手段として保護してきました。しかし、WIPO条約では「効果的な技術的手段」の保護が義務づけられておりましたが、TPPでもそれが明記されています。したがって、「効果的な技術的手段」として技術の種類を限定せずに、いかなる技術であっても効果的であれば技術の種類を問うことなく、保護することが必要になると思われます。また、暗号や認証やプログラムは「効果的な技術的手段」には当たりますが、信号(SCMSの信号)それ自体では「効果的な技術的手段」には当たりません。したがって、今後は信号も技術的手段として保護するのか否か、フランスのように別規定でこれを保護するのか、が議論になると思います。
 第3に、アクセス・コントロールの保護で禁止される行為に、その回避行為自体まで入れるのか、回避装置の製造等の行為に限定するのかという論点があります。現行法は回避装置の製造等の行為に限定していますが、TPPでは、米国やEUと同様に、回避行為自体も禁止することを求めています。
 第4に、アクセス・コントロールを保護するとなれば、その例外規定をどのように定めるのかが、重要な論点になります。とくに、著作権の権利制限がある行為を行うために必要となるアクセス・コントロールの回避については、アクセス・コントロール保護の例外とするのかが議論になると思います。

以上

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JRRCなうでしょ 第28回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
北海道では大雪が降りましたね。
東京もいつのまにか寒くなってきてコートを着る季節になってきました。
読者の皆さんも風邪を引かないようご注意ください。
それでは11月号JRRCなうでしょの最初のお知らせです。
11月9日から13日までの間、メキシコシティで著作権管理事業者の国際団体である
IFRRO(International Federation of Reproduction Rights Organization)の年次総会が
開催され,参加してきました。
総会では各国の著作権管理団体が自国の著作権動向についてプレゼンを行いますが、その中で注目すべき報告がカナダの管理団体よりなされました。
カナダの管理団体からの報告によると、カナダ政府は2012年の著作権法改正で公共学校で
の資料のコピーに対しフェアユースを適用し、権利制限対象としました。
この結果、それまで教材のコピーによる著作権使用料を得ていた出版社の収入が大きく減少し、経営難に陥り教材出版分野からの撤退を余儀なくされている状況にあるということです。これにはIFRRO会長も、著作権者と著作権の集中管理制度の重要性を顧みないカナダ政府を非難する声明を出し、著作権法の見直しを要請しています。
日本でも米国版のフェアユース導入を検討すべしという意見も出ているようですが、もともと日本の著作権法では第30条から第47条まで教育機関での複製以外にも非常に多くの
権利制限が規定されており、著作権者の権利が大きく制限されているのが現状です。
このため、著作権者の間では、必要に応じて権利制限はやむを得ないとしても、そのための最低限の補償を著作権者にすべきであるという意見が強まっています。
また、日本も参加しているTPPの交渉で合意がなされたことから、著作権法の改正に向けた検討が文化庁の著作権分科会で開始されます。
今後の著作権法改正の動きについても折に触れて読者の皆さんに情報提供していきたいと思っていますのでご期待ください。
次に今後のJRRCのイベントについてのご案内です。
12月16日に開催予定のJRRC著作権基礎講座は、おかげさまで80名の定員を上回るご応募をいただき、好評のうちに締め切りました。
また、第5回著作権基礎講座は1月29日(木)に開催の予定でいます。
本来であれば2月の開催予定でしたが、2月26日(金)に第8回JRRC著作権セミナーを
開催することが決定したため、急遽1月に繰り上げ実施をすることにいたしました。
また、第6回JRRC著作権基礎講座関西編を3月7日(月)に前回と同じく大阪産業創造館で開催いたします。
1月以降のイベントに関しましては、約1か月前に本メルマガ及びJRRCホームページでご案内いたしますのでお待ちください。
JRRCといたしましては、著作権啓発活動の一環として今後も多くのセミナー、講習会等を開催していく予定でおりますので、読者の皆さんもJRRC各種啓発活動にどうぞご協力のほどよろしくお願いいたします。

以上11月号JRRCなうでしょでした。

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