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JRRCマガジン No.423 2025/6/19
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◆今回の内容
【1】 JRRC事務局だより 海外での仕事の思い出(2000年代のブータン)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
今日6月19日は「元号の日」
大化元年6月19日、蘇我氏を倒した中大兄皇子が日本初の元号となる大化を制定したことにちなんで記念日が設けられたそうです。
さて今月の濱口先生の連載は休載のため、当センター事務局長 林の「海外での仕事の思い出(2000年代のブータン)」をお届けいたします。
◆◇◆━【1】JRRC事務局だより━━━━━━━━━━━
海外での仕事の思い出(2000年代のブータン)
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JRRC事務局 林宏之
皆さんこんにちは。事務局長の林です。今回も谷間の登板となりましたが、著作権関係の海外ネタは早くも尽きてしまいましたので、海外のよもやま話をお伝えします。
皆さんはブータンと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?ヒマラヤ、インドと中国挟まれている内陸国、若き国王の来日、敬虔な仏教国、GNH(Gross National Happiness:国民総幸福度)を推進、個性的な民族衣装など様々なイメージをお持ちかと思います。もうかなり古くなっている情報もあるかと思いますが、2000年代に何度か出張した時の話を中心に、当時思ったことをお話しします。
ブータンは水力発電による電力をインドに売電することで大きな収入を得ていますが、乾季には水量が減少してしまうため発電量が大幅に落ち込んでしまうこともあり、日本も水力発電所の建設を支援(円借款)することが最近報道されていました。
一方で、ブータンは国民の約6割が農業に従事する農業国です。基幹産業はと聞かれれば誰もが農業と答えると思います。山間地の農業は儲けることが難しく、それゆえ国民は非常に貧しい生活を強いられていました。
そんな生活を向上させることに一生をささげた日本人がいることをご存じでしょうか?
その方は故西岡京治さんで農業の専門家として現 JICAから派遣され、なんと 1964年から 30年近くブータン国内で技術指導をされました。ブータンではその名を知らない人はいないくらい有名で「ダショー・ニシオカ」として今も人々の心に刻まれています(「ダショー」はブータンにおける位の高い称号)。
出張した際にも、もれなくダショー・ニシオカの話になり、「ニシオカはロバに 乗ってやってくる」と。ブータンは国の西側に空港のあるパロや首都ティンプーがあり、国の真ん中を東西に走る主要幹線道路がありますが、山岳地帯ゆえに南北の道路は限定されていて、南側に向かう道路は何本かあるものの、北側はヒマラヤ山脈があるため地図に出てくるような幹線道路はほとんどない状況は今も変わっていないようです。
ニシオカさんがブータン各地を訪れて農業の技術指導をされていた1960年代は2000年代と比べても想像もできないくらい劣悪な道路であったことは想像に難くなく、一体どれくらい苦労されたのだろうと往時が偲ばれます。
出張中に食べたり、マーケットで見たりした野菜の多くがニシオカさんの尽力のおかげで現地に根付いたもので、今も農民の生活を支えているという事実に胸が熱くなったことを覚えています。ちなみに30年近く専門家として派遣されたというのは他に例がなく、どれほどニシオカさんがブータンにとって必要とされていたかが分かります。
道路の話に戻ります。山岳道路は地形により崩れやすかったり、滝から流れ落ちる水が道路を常時水没させていたりと建設もたいへん、メンテナンスもさらにたいへんというありさまで、当時は道路建設機材(道路建機)を調達するプロジェクトの調査のために現地入りし、そうした現場を回り、道路建機センターではメンテナンスの様子も伺いました。
実はブータンの幹線道路等の一部は 1960年代からDANTAK(ダンタック)というプロジェクト名でインド国防省が長らく支援しています。インドと中国に挟まれ、インドの影響が極めて大きい国であるがゆえなのですが、それでもインドがすべての道路をメンテナンスできる訳もない(戦略的にもそこまではやらない)ので、ブータン政府が自前で道路建機センターを設立してメンテナンスを行っており、日本の道路建機の専門家も指導に当たっていました。
その専門家曰く、ブータン人はとても真面目に働き、道路建機を大切に扱っていて、部品がすぐに調達できない時は動かなくなった道路建機の部品を使って修理しながらなんとか動かしているとのことでした 。
ブータンでは道路交通の遮断は経済にも人の移動にも大きな影響を与えるので、道路建機が出動できないという事態は絶対に避けなければならないという使命感で動いていたのでした。
実際に道路を走ってみると標高4,000m越えの峠を越えたり、ガードレールも何もないつづら折りの道路が果てしなく続いたりしていて、夜中はとてもとても怖くて車で移動はできない状況でした。崖から落ちたら数百メートル先の谷に真っ逆さまですので。
実際に道路を修復している現場にも行きましたが、作業員がドラム缶で火を燃やして温めたビチューメン(≒アスファルト)と砂利を混ぜて道路を簡易舗装しており、たいへんな苦労をされていました。
また、ブータンでは道路脇の小さな広場のような場所に小さな祠を建立し、周りに細長いカラフルな旗を立てて旅の安全を祈ります。ドライバーは祠を見つけると車を止め、そこでお祈りをして次の場所に向かうのです。
チベット仏教の風習だと思うのですが、このように道路脇に祠を立てたり、石を積んで、周りに旗を立てたりするという風習はモンゴルなどでも見られます。
恐らく2025年現在でもこうした風習は受け継がれていることでしょう。最近では欧米の文化に憧れる若者たちが伝統的な生活に否定的であったり、首都ティンプーでは貧しい現実から目を背けるために麻薬に手を染める者がいたりと、 GNHを標ぼうしつつも、政治と経済、そして人々の生活の現実を見ながら変わるところは変わっていかないとならないと国王を筆頭に考えられていることかと思われますので、人々の生活を向上させつつも、民族衣装の「ゴ」(男性用)と「キラ」(女性用)を纏った人々が行きかう街並みはこれからも残ってほしいと遠い日本から祈っています。
取り留めもありませんが、谷間の登板のためお許しください。写真は今となっては結構貴重な2000年代前半の道路の様子です。
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