JRRCマガジンNo.424 中国著作権法及び判例の解説10 著作権侵害罪に関する典型的判例の解説(刑事付帯民事訴訟)

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JRRCマガジン  No.424 2025/6/26
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※マガジンは読者登録の方と契約者、 関係者の方にお送りしています。

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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」のご紹介
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日6月26日は「国連憲章調印記念日」です。
日本国際連合協会が制定し、 1945年のこの日、「国連憲章」に50か国以上が調印し、国際連合の設立が決定されたそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。

方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━
10 著作権侵害罪に関する典型的判例の解説(刑事付帯民事訴訟)    
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲
一、はじめに
近年、映像コンテンツのオンライン配信が急速に普及する一方で、著作権侵害行為はより巧妙かつ組織化の様相を呈しております。特に春節シーズンなど商業価値が集中するタイミングにおいて、無断で話題作のストリーミングサービスを提供する行為が頻繁に見られ、著作権者の正当な利益を深刻に侵害しております。
本稿で取り上げる事件は、映像作品における情報ネットワーク伝達権をめぐる典型的な刑事付帯民事の著作権侵害事案であり、すでに2024年に最高人民法院が公表した知的財産権典型判例にも選出されております。
なお、本事件は、複数の春節映画を対象とする集中的な侵害に加え、サイト構築者とシステム提供者が連携し、ポルノ・賭博系の違法広告を通じて収益を得るという新たなネット侵害の構図を示しております。裁判所は、主犯・従犯の認定、違法所得の範囲の確定、附帯民事上の賠償判断などにおいて、情報ネットワーク環境下における刑事的著作権侵害対策、技術提供者の法的責任の明確化、賠償基準の整理に対して重要な司法的示唆を提供しております。
以下、詳細を説明しながら解説します。

二、事件の概要
(1)刑事部分
浙江省東陽市人民検察院は、被告3人に対して著作権侵害罪の構成要件が成立するとして起訴を行いました。

(2)附帯民事部分
刑事訴訟に付随して、以下の原告五社が附帯民事訴訟を提起いたしました。

原告(権利者):
 上海 XX 映画有限公司
 北京 XX 映画有限公司
 XX メディアグループ有限公司
 XX アニメーション有限公司
 湖南 XX メディア有限公司

被告人:
 被告人1(主犯)
 被告人2(従犯)
 被告人3(従犯)

審理法院:
第一審:東陽市人民法院(2024年)(浙0783刑初585号)
第二審:なし(一審判決は終局判決)

原告の請求内容:
① 被告人1に対して著作権侵害罪の刑事責任を追及すること。
② 被告人1に対し、各原告に対する経済損失をそれぞれ賠償すること(上海 XX 映画有限公司 100 万元、北京 XX 映画有限公司 100 万元、XX メディアグループ有限公司 100 万元、XX アニメーション有限公司 100 万元、湖南 XX メディア有限公司 30 万元)。

被告の答弁:
 被告人1は事実関係・罪名を認めたものの、賠償額が高額であるとして支払不能を主張。
 被告人2・被告人3は事実および量刑に異議を唱えず、情状酌量および執行猶予の適用を求めた。

主な争点:
① 被告人1の行為是否は著作権侵害罪を構成するか。特に、ネットワークを通じて 12 万本余りの映画・テレビ作品を伝播した行為是否は「著作権者の許可を得ず」「営利目的をもって」という構成要件に該当するか。
② 被告人2、被告人3が被告人1に CMS システムプログラム及びウェブサイトテンプレートを販売し、技術保守サービスを提供した行為は、著作権侵害罪の共同犯罪を構成するか。
③ 各原告が主張する賠償金額は合理的であるか、その根拠は十分であるか。

三、判決内容
(1)刑事判決
 被告人1:懲役4年、罰金150万元
 被告人2:懲役1年(執行猶予1年6ヶ月)、罰金1.6万元
 被告人3:懲役10ヶ月(執行猶予1年4ヶ月)、罰金1万元
 違法所得の追徴および犯行に用いた機材の没収

(2)民事判決
被告人1は以下の損害賠償を支払う:
 上海XX影業:22万元
 北京XX影業:20万元
 XXメディア:23万元
 XXアニメーション:20万元
 湖南XXメディア:3万元
 差押財産を賠償に充当、不足分は引き続き追徴。

四、裁判判断の要点解説
(一)著作権侵害罪の構成要件の認定
「著作権者の許可を得ず」の認定: 裁判所は、国家版権局重点作品版権保護予警名簿、映画公開許可証、権利声明、鑑定意見などの証拠に基づき、原告が『飛馳人生 2』『熱辣滾燙』などの作品に対して独占的な情報ネットワーク伝播権を有すること、及び被告人1が許可を得ていない事実を確認しました。
「営利目的をもって」の認定: 被告人1は、性的広告や賭博広告を掲載し、仮想通貨で決済することで広告収入 148 万余元を得たため、「営利目的」の要件に該当すると認定されました。
「情報ネットワークによる伝播行為」の認定: 5 つの違法映画ウェブサイトを構築し、12 万本余りの映画・テレビ作品をオンライン再生可能に提供した行為は、「情報ネットワークを通じて公衆に作品を伝播する」行為に該当すると認定されました。
(二)共同犯罪の認定
被告人2、被告人3は、被告人1が違法映画ウェブサイトを運営していることを知りながら、CMS システムプログラム、ウェブサイトテンプレートを販売し、技術保守サービスを提供し、6990 元の報酬を受け取ったため、共同犯罪を構成すると認定されました。また、刑法第 27 条に基づき、2 人は従犯であり、法に基づき減刑処分を受けました。

(三)量刑情状の適用
被告人1は自白をし、家族が一部の権利者の損失を賠償して宥恕を得たため、酌情的に軽減処分を受けました。被告人2、被告人3は自白をし、違法所得を返納し、罪を認めて懲罰を受け入れたため、緩刑の適用が認められました。
罰金の計算は、侵害規模(12 万本余りの作品)、違法所得(148 万元)及び社会的危害性を総合的に考慮し、被告人1に科せられた 150 万元の罰金は、『最高人民法院・最高人民検察院关于办理侵犯知識産権刑事案件具体应用法律若干問題的解釈』第 5 条に規定する「違法所得数額巨大」の基準に適合するものでした。

(四)民事賠償の裁判ロジック
1.賠償範囲
著作権法第 54 条に基づき、賠償額は侵害行為の性質、期間、作品の商業的価値(例:『飛馳人生 2』の興行収入 33 亿元)、被告の獲利などの要素を総合的に考慮して決定されました。
2.具体的金額の差異の理由
『熱辣滾燙』『飛馳人生 2』などの春節のヒット作に関する侵害は重く評価され(20〜23万元)、他の一般作品(微短劇等)は軽度(3万元)とされました。
なお、原告請求額100万元は立証不十分であるとして減額判決が出されました。

五、強制執行の状況
 執行の開始:2024年8月14日に執行事件として立件。
 調査および財産差押:裁判所は被執行者(被告人1)の財産を全方位的に調査。
 現在の状況:被告人1は服役中であり、差押以外に実行可能な資産は見当たらず。
 執行結果:2024年11月8日時点で、39万328元を回収済み。残額は未回収。追加の財産手掛かりがないため、執行終結((2024)浙 0783 執 3549 号)。

六、まとめ
本事件は、映像著作物のオンライン侵害に対して刑事および民事司法がどのように対処し得るかを示した重要判例であり、著作権保護の基本原則を再確認できるものであります。ネットプラットフォームや技術提供者にとっては、法的責任の境界線を明確にする契機となり、権利者にとっては作品配信初期段階における監視体制と権利行使の重要性を再認識させるものです。

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【2】「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」のご紹介
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事務局長の林です。今回は中国新聞社様からご紹介いただいた写真展のご紹介です。恵比寿の東京都写真美術館で8/17までの予定で開催中です。
過去に報道で見たことのある写真をはじめ、原爆投下当日の写真や被災した人々や街の様子が克明に記録されており、記者がどのような思いでシャッターを押し続けていたのかと考えると胸が苦しくなりました。
中東での緊張が高まっているなか、80年前にカメラが捉えた事実を直視することは重要だと思いました。
大学生以下は無料ですので、夏休みに行かれてはいかがでしょうか?

東京都写真美術館
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5175.html

(山田精三氏撮影、中国新聞社所有)

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