JRRCマガジンNo.368 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)25 著作権の保護期間

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JRRCマガジン  No.368 2024/5/9
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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皆さま、こんにちは。

今日5月9日は「黒板の日」
五(こ)九(く)で「こくばん」(黒板)の語呂合せと、明治初頭にアメリカから黒板が初めて輸入されたのがこの時期と言われていることから制定されたそうです。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter25. 著作権の保護期間
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに

日本の著作権法における著作権の保護期間の原則は、著作者の生存中と死後70年で、これを暦年で計算するというものです。この原則にはいくつかの例外があり、著作物の種類や性質に応じてその計算を行う必要があります。著作権の保護期間が満了すると、作品はパブリックドメインとなり、著作権の制限なく利用することができます。なお、著作者人格権は相続の対象にもなりませんので消滅しますが、死後であっても一定の配慮は必要です(60条)。

イギリスにおける著作権の保護期間も、日本と同様に、著作物の種類によって異なります。しかし、ベルヌ条約などの条約上の要請に沿って規定されてきた日本と異なり、イギリスではその独自の歴史的な変遷を経て現在の規定に至っています。現代に至っては、両国の保護期間に関する制度の違いは、そう大きく異なるものでもありませんが、それでもいくつかの違いは見て取れます。また、保護期間が短縮ではなく、延長されてきたという傾向も世界共通の傾向といえます。

今回は、イギリスにおける著作権保護期間の概要について説明をすることにいたしましょう。

2.文芸、演劇、音楽、美術の著作物の著作権

文芸、演劇、音楽、美術の著作物の著作権の保護期間は、原則として著作者の死後70年で消滅します(イギリス著作権法12条)。1988年の著作権法(CDPA)では死後50年でしたが、その後のEUの著作権存続期間指令に基づく法改正により延長されました。ただし、共同著作の場合は、最後に死亡した著作者の死後70年で計算されます(12条8項)。

また、歌詞と楽曲の場合は特別なルールが適用され、歌詞と楽曲が一緒に使用されるために作成された場合、合同著作物(works of co-authorship)として扱われ(10A条)、最後に死亡した合同著作者の死後70年で著作権が消滅します(12条8項)。このルールは、既存の楽曲や詞に、後から詞や楽曲を加えた場合には適用されません。そのようなことをすると、楽曲や詞のいずれかが、不当に長く保護されることになりかねないからです。

上記の計算の例外として、コンピュータにより生成される文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の場合、創作年の終わりから50年間のみ保護されます(12条7項)。また、国王著作権は、著作物が創作された年から125年間存続し、75年以内に商業的に発行された場合は、その発行された年から50年間存続します(163条3項、164条、165条3項、166条5項)。議会の著作権と国際機関の著作権は、著作物が創作された年から50年間存続します(165条3項)。

著作者不明の著作物の場合、創作年から70年、または発行された場合は発行年から70年で著作権が消滅します(12条3項)。ただし、著作者の身元が70年以内に明らかになった場合は、著作者の死後70年までに延長されます(12条4項)。

未公表作品の著作権について、1911年著作権法では、未公表の文芸、美術、音楽、版画に対して、公表の日から50年間保護され、未公表の場合は無期限に保護されていました(1911年著作権法17条)。これに対して1988年著作権法では、著作者の死亡時に未公表で1989年8月1日まで未公表のままだった作品の著作権は、1990年1月1日から50年間、つまり2039年12月31日まで存続すると規定されました(1988年著作権法附則l 12条4項)。

現在の法律では、大臣はこうした未公表作品の著作権の保護期間を短縮する権限を持っていますが(2013年企業規制改革法76条)、2015年の政府の回答によれば、その権限は行使しない方向となっています(IPO, Government response to the consultation on reducing the duration of copyright in certain unpublished works, 2015)。

3.映画の著作権

次に、映画の著作権の保護期間について説明します。

「映画」(5B条の著作権)の著作権に関しては、主任監督、映画台本の著作者、対話のセリフの著作者、特別に創作され使用された音楽の作曲者の4つのカテゴリーの者について、最後に死亡した者の死後70年としています(13B条2項)。

これらの4人の身元が不明な場合、保護期間は映画が制作された年から70年となり、その期間中に映画が公開された場合、最初に公開された年の終わりから70年で著作権が消滅することになります(13B条3項・4項)

なお、イギリスでは、オリジナリティのある映画について、演劇の著作物としても保護されることには注意が必要です。

4.録音物の著作権

イギリスでは、日本では著作隣接権の保護対象となる録音物(レコード)、放送なども、著作物として整理されますが、事業投資的著作物(entrepreneurial works)という独特の言い方で分類をします。この類型の著作物は、必ずしも人間の著作者を必要とせず、法人が著作者になることも多いため、保護期間の計算には異なる計算方法が用いられます。

録音物の著作権は、録音が作成された年の終わりから50年で消滅します(13A条2項(a))。その期間中に録音物が公表された場合、著作権は公表の年から70年で消滅します(13A条2項(b))。作成から70年の間に公表されなかったが、公に演奏されたり公衆に伝達されたりした場合、著作権は公に伝達または演奏された年から70年で消滅します(13A条2項(c))。

興味深いのは、(レコード製作者にとって)「使うか、失うか」規定と呼ばれるものがあることです。録音物の公表(または公衆への伝達)から50年経過後、録音物が利用されていない場合、録音物に含まれる実演の実演家によって録音物の著作権が決定される可能性が生じるというものです(191HA条(4))。

これは、実演家が契約により、録音物に関して複製権、頒布権または利用可能化権、あるいは実演家の財産権と呼ばれる権利を譲渡していた場合に適用されるもので、実演家は契約を終了させ、録音物の著作権を消滅させることができるというものです。

実演家にとっては大変有意義な権利のように思われますが、実演家が譲渡契約を解除できる条件が厳密に定義されていることと、とりわけ録音物がインターネットでアクセスできる場合には解除権は生じないことから、興味深い仕組みではあるものの、その実際的な効果はごくわずかであることが指摘されています(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.205)。

5.放送の著作権

放送の存続期間は、最初の放送から50年間とされています(14条2項)。放送の著作者がイギリス国民でない場合、著作権の存続期間は、著作者が国民である国で放送が権利を有する期間となりますが、その期間は50年を超えません(14条3項)。

6.発行された版の印刷配列の著作権

イギリス著作権法では、発行された版の発行者に対して、著作者の著作権とは別個に著作権が与えられています。いわゆる版面権と呼ばれるものであり、端的にいえば、出版社に与えられる著作隣接権のようなものです。この発行された版の印刷配列の著作権は、最初の出版から25年で消滅します。

7.モラルライツ

イギリスの著作権法においてモラルライツと分類される権利には、①氏名表示権(77条)、②同一性保持権(80条)、③著作物の著作者の地位の虚偽の付与をさせない権利(84条)、④ある種の写真及び映画に関するプライバシー権(85条)、があります。日本で言えば著作者人格権に相当しますが、その内容は少しずつ異なりますし、日本にはない権利も含まれています。

モラルライツの存続期間については、イギリスでは、①氏名表示権、②同一性保持権、④ある種の写真及び映画のプライバシー権は、当該著作物の著作権が存続する間、保護されます(86条)。これに対して、③著作物の著作者の地位の虚偽の付与をさせない権利は、氏名を表示された者の死後20年間しか存続しません(86条2項)。

8.パブリケーションライツ(発行に係る権利)

EUの保護期間指令(1993年)が、著作権が消滅した著作物のパブリケーションライツを導入したため、イギリスでもこれを実装するために1996年著作権及び関連権規則に基づいて「パブリケーションライツ」と呼ばれる新しい財産権が導入されました。この権利は、著作権保護の期限が切れた後に、未公表の文芸、演劇、音楽、美術、映画の著作物を最初に発行する者に与えられるものです(1996年著作権及び関連権規則16条)。

パブリケーションライツは、著作物が最初に公表された年の終わりから25年間存続します(1996年著作権及び関連権規則16条6項)。

9.おわりに

以上、イギリスにおける著作権保護期間について、著作物の種類ごとに説明しました。著作権法は、著作者の権利保護と公共の利益も含めた利用のバランスを取ることを目的としており、その保護期間についても、さまざまな観点から検討が行われています。

今後も、技術の発展や社会情勢の変化に応じて、著作権保護期間のあり方が議論されていくのではないでしょうか。

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【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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今年度最初の著作権講座(初級)を5月22日(水)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。

★開催日時:2024年5月22日(水) 13:30~16:35★

プログラム予定
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15:05~15:15 休憩
15:15~15:25 JRRCの管理事業について
15:25~16:35 第2部 表現とデータ・アイデアの利用の境界について
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