JRRCマガジンNo.353 フランス著作権法解説6 著作財産権

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JRRCマガジン  No.353 2023/1/18
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
【2】無料オンライン著作権セミナー開催予告(2/21開催)
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皆さま、こんにちは。

お正月気分も抜け、ますます寒さが厳しくなってきました。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の第6回目です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第6回 著作財産権
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(注)フランス語の表記については、アクセントを省略しております。
1 はじめに-著作財産権の概要
 前回は、著作権の特質として財産的特質と精神的特質があるという二元論(知的財産法典111-1条2項)を前提に精神的特質である著作者人格権について説明しました。今回は、財産的特質である著作財産権について説明します。
 日本における権利の束という考え方とは異なり、フランス著作権法は、著作財産権においても、二元論を採用していることが特徴です。つまり、著作財産権のうちの利用権を、上演・演奏権(droit de representation)と複製権(droit de reproduction)の二つに分け、利用行為をそのいずれかに分類する体制をとっています。
 もともと、フランス著作権は、上演・演奏権が最初に定められ(1791年法)、それから複製権が定められました(1793年法)。フランスでは、この体制が維持されたまま現在に至っていますが、この体制により技術の進展に柔軟に対応し、法の欠缺を避けてきました。しかし、我が国でいう展示権、貸与権、譲渡権に相当する権利は、その位置づけが不透明な状況となっています。
 そのほか、著作財産権には、利用権でなく債権として、追及権(droit de suite)があります。追及権は、フランス著作権法の大きな特徴ですので、別の回で説明し、ここでは、利用権について説明します。

2 複製権
 複製とは、著作物を間接的に公衆に伝達することができるあらゆる方法によって著作物を有形的に固定することをいう(122-3条1項)と定義されます。したがって、複製権は、間接的な方法により公衆に著作物を伝達することを可能とするすべての方法によって、著作物を媒体に有形的に固定する権利です。著作物の創作的な特徴が伝達され得るならば、複製の方法は問いません。
 一時的複製が著作権法にいう複製に該当するか否かについて、複製権について定める122-3条は態度を明確にしていません。しかし、一時的複製を例外として認めていることから(122-5条6号)、一時的複製も原則として複製行為に該当すると解釈されます。
 また、複製権に基づき、著作物の複製だけでなく、翻案権侵害にも対応することができます。つまり、翻案は、複製行為の一種という扱いです。 

3 上演・演奏権
 フランス知的財産法典は、「上演・演奏とは、特に、次の方法(①公の朗読、音楽演奏、演劇的上演、公の上演、公の上映および放送された著作物の公の場所における伝送 ②放送)により、伝達方法の如何を問わず、著作物を公衆に伝達することをいう。」(122-2条1項)と定義しています。この上演・演奏は、フランス語では、「representation」といい、翻訳上は、上演・演奏と訳されていますが、もともとは演劇のように直接的に公衆に伝達する行為を意味し、時代の流れとともに直接・間接を問わず公衆への伝達行為全体をカバーするようになりました。つまり、上演・演奏権とは、著作物を公衆へ伝達する権利です。なお、EU法における公衆への伝達権は、有線または無線による公衆に対する伝達行為、つまり送信伝達元である場所に存在しない公衆への間接的な伝達行為のみを対象としているので(情報社会指令3条)、フランス法の公衆に対する伝達権(つまり上演・演奏権)よりも狭い概念になります。
 では、①公衆への②伝達行為とはどのような行為でしょうか。まず①「公衆」の概念は、明確に定義されていませんが、家族の輪の中における上演・演奏が例外と定められているので(122-5条1号)、それ以外の上演・演奏が「公衆」に対する著作物の伝達と理解されます。つまり、不特定数の者と同義と考えられています。
 ②伝達行為については、古典的な直接的伝達では、生の伝達が前提であり、同じ場所にいる公衆に向けて同時に伝達されることになります(同所・同時性)。このような直接的な伝達だけでなく、間接的な伝達も上演・演奏行為に含まれます。公衆が同じ場所にいる必要はなく、ホテルの客室など私的な場所にいる者も公衆に該当し、同時に伝達される必要もなく、それぞれの場所にいる公衆がその選択に従って著作物にアクセスする方法によって伝達される場合でも、公衆への伝達行為に該当します。そこで、インターネット送信も、上演・演奏権によりカバーされます。これに対し、特定の誰か一人にメールに添付した著作物を送信するような場合は、公衆への伝達には該当しません。伝達行為は、新たな公衆に対してなされるたびに新たな伝達行為と解され、許諾が必要になります。
 なお、判例(破毀院第一民事部2002年11月6日 00-21.867)によれば、写真の展示が問題になった事件で、展示行為は上演・演奏行為に含まれるとされています。

4 複写複製権
 複写複製権は、1995年に導入されました(122-10条~122-12条)。複写複製とは、「写真の技術または直接的な読みとりを可能とする同等の効果を有する技術によって、紙または類似の媒体の上に複写の形式で複製することをいう」(122-10条3項)と定義されています。したがって、デジタル形式による複製は対象ではありません。
 欧州では、複写複製を複製権の例外と構成しています(情報社会指令5条2項(a))。これに対し、フランスでは、複製権の一態様である複写複製権を集中管理団体に強制的に譲渡させ、集中管理団体が利用者に対して利用を許諾するという体制により、制度を運用しているところに特徴があります。つまり、法は、「著作物の発行は、第3編第2章の規制を受け、かつ、そのために文化担当大臣の認可を受けた集中管理団体への複写複製権の譲渡を伴う」(122-10条1項)と規定し、複写複製権は、著作物の発行と同時に、法律によって著作者から集中管理団体に強制的に譲渡されることが定められています(したがって、法定許諾ではありません)。譲渡の規定は強行規定であり、契約により無力化することはできません。施行前に発行された著作物も、譲渡の対象となります(122-10条5項)。欧州との間に、このような運用の違いはありますが、集中管理団体によって報酬の徴収・分配が行われるので、同じ結果がもたらされるといえます。

5 譲渡権
 フランスでは、著作財産権のうちの利用権を上演・演奏権と複製権の二つに分けているので、新たに認識されるようになった譲渡権の位置づけは明確とはいえません。しかも、フランス著作権法には、譲渡権を定めた規定がありません。ただし、消尽に関する規定はあります(122-3-1条)。情報社会指令を国内法化する際、譲渡権を正面から規定せず、消尽のみを規定したのです。なお、プログラムの著作物については譲渡権とその消尽についての規定があります(122-6条3号)。
 このようないびつな規定になった理由は、学説により提唱され、伝統的に認められてきた用途権(le droit de destination)の影響と考えられます。この権利は、複製権の一態様であり、著作物の複製物がいったん市場に流通した後であっても、著作者が著作物の使用を禁止するなど用途を指定できる排他的権利です。しかし、用途権を否定する結果となる消尽を規定したことにより、暗に譲渡権が導入され、同時に、用途権は放棄されたように考えられますが、法律上は明確ではありません。

6 貸与権
 フランス著作権法は、プログラムの著作物に関するものを除いて(122-6条3号)、貸与権に関する定めがありません。フランスが貸与権指令を国内法化したのは、公貸権部分(133-1条以下)だけです。公貸権(le droit de pret public)は、2003年に導入された我が国に存在しない権利であり、公衆に開かれた図書館において貸し出される書籍について、出版者と出版契約を締結した著作者は、貸し出しに反対することができない(133-1条1項)と定められています。
 このように法律上は貸与権の存否が不明確なのですが、判例は、複製権を構成する権利の一つとして貸与権を認めています(破毀院第1民事部2004年4月27日99-18.464任天堂事件)。複製権の一態様として上述の用途権が存在するという考え方によれば、貸与権は当然に認められることになり、その前提で貸与権は規定されなかったといわれています。なお、任天堂事件の原審では、許諾のないビデオゲームの貸与行為を上演・演奏権侵害と判断していました。このように、複製権と上演・演奏権の境界はあいまいです。また、貸与権が認められることに問題はないものの、法的な位置づけも明確ではありません。

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【2】無料オンライン著作権セミナー開催予告(2/21開催)
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この度、日本複製権センターは主に官公庁の方を対象とした【第4回】無料オンライン著作権セミナーを開催いたします。
開催のテーマは『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』です。著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
なお、本セミナーは官公庁の方に限らずどなた様でもご参加いただけますので、多くの皆様のご応募をお待ちしております。
※第1回の「東北地方向けセミナー」、第2回の「四国地方向けセミナー」、第3回の「東海地方向けセミナー」の内容と一部重複いたしますので、予めご了承ください。

★日 時:2024年2月21日(水) 14:00~16:00★
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