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JRRCマガジン No.342 2023/10/26
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その7
【2】オンライン著作権講座(中級)開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。
今年もハロウィンが近づいて来ました。
いかがお過ごしでしょうか。
さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。
福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/
◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その7━━
著作権相談への対応は知財実務の中心 下
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福井 明
今回も毎日新聞知財管理センターにいたころに受けた著作権関係の相談への対応について記したいと思います。相談には、訴訟を起こすかどうかという重いものももちろんありました。しかし、そうしたものも含め、今日はどのような相談があるだろうかと、少々ときめきも覚えつつ過ごしていました。
印象に残っているのは「替え歌」でした。ある本社のデスクから電話とFAXで「本社の記者OBに地域面コラムを書いてもらっている。その中で、かつてのヒット曲の替え歌を作り、そこそこの行数で載せているのだが、このコラムはこのまま紙面化して大丈夫だろうか?」という相談を受けました。筆者は魚のイサキ釣りが趣味でした。コラムでは、イサキは骨やひれが硬く、一日釣りをすると、指先に多くの刺し傷ができ、その傷の多さが大漁の証しだと記しました。そのうえで、「イサキに刺された指が痛い」ということを有名なヒット曲歌詞の替え歌として書いていました。
ご承知の通り、日本の著作権法にはパロディーを著作権侵害としない規定はありません。この替え歌が侵害にはならないと判断するためには、「著作者は、その意に反する変更、切除、改変を受けない」という同一性保持権(著作権法第20条)と、「著作者は翻案する権利を専有する」との翻案権(同27条)を侵害しないと整理できることが必要です。現行著作権法の草稿を書いた加戸守行さんは著書「著作権法逐条講義」で、「原作をもじったことが明白で、原作者の意を害しないと認められる場合、同一性保持権の問題は生じない」「原作品によって着想を感じ取ったというにとどまる場合、翻案権の対象とはならない」と解説しています。確かに、今回の替え歌は、元の歌詞を著作物として鑑賞させている訳ではありません。このため、私や同センター室員は、著作権侵害にはならず、掲載して問題ないのではと考えました。
しかし、同一性保持権の「意に反する変更を受けない」の部分がどうしても引っかかりました。意に反するかどうかは、最終的には著作者本人の判断だからと思ったからです。また、20条には「やむをえないと認められる改変」には同一性保持権を適用しないとありますが、今回の替え歌が「やむをえない」に該当するとは思えません。となると、やはり基の歌詞の作詞家の許諾を得なければならないのでは、と悩みました。
そこで、顧問弁護士事務所に相談しました。回答は「今回は著作権侵害にはならず、許容範囲といえる。『意に反して』は、著作者の主観的な意向ではなく、一般人が客観的に見てどうかという意味。また、今回の替え歌は歌詞の語調を利用しただけで、恋愛感情という原作歌詞の本質部分とは別の世界(釣り)を描いている」でした。なるほどと思い、ホッとしました。ただ、「一つ一つの替え歌がどうかはケースバイケース。難しい」とも言われました。
著作権法にパロディーを認める権利制限規定を設けるかどうかは、文化審議会の専門家チームでも議論されました。結論(2013年)は、規定導入の見送りでした。理由は、一言でいうと「許されるパロディーと許されないパロディーの線引きはできないし、また、それをするとマイナスの影響が危惧される」からでした。私は、批判、風刺、ユーモアなどのパロディーは、社会に不可欠だと考えます。見たり、読んだりしたら、クスっと笑えるようなパロディーが現行法の柔軟な解釈や運用で許容されればいいなと思います。
また、読者が新聞社に投稿・応募する作品の著作権をどう扱うかの相談も受けました。新聞には、「読者の声」をはじめ、短歌、俳句、川柳のコーナー、読書感想文コンクールなど、意見や作品を投稿してもらう欄、行事が多くあります。ただ、これらでの著作権の扱いはかつて、「紙面掲載作、入選作の著作権は毎日新聞社に帰属する」と、掲載作・入選作については投稿者ではなく新聞社が持つというパターンが圧倒的でした。掲載作・入選作については、デジタル版に使ったり、後日出版したりするといった新聞社の事情があったからです。
しかし、掲載された投稿者は、自分の作品をコピーして同人らに配布する場合にも、法的には毎日新聞社の許諾を得ることを求められてしまうことになります(他媒体へのダブル投稿は「やめてください」と、募集の際に告げています)。私はかねて「新聞に載ったからといって、新聞社が著作権を一方的にもらうというのは、いいのだろうか」と、考えていました。
さらに、各欄では著作権の扱いについて定期的に「お知らせ」を欄末に載せるべきなのに、長い間、載せていないというケースが散見されました。著作権の帰属をお知らせする案内が長く紙面に載らなければ、投稿者は「掲載作、入選作の著作権者は当然、自分だ」と思います。なのに、掲載後何カ月もたって、「著作権は新聞社がいただいている」といきなり告知されたら、「そんなの聞いてないよ」と、トラブルになる恐れがあります。
数年前、一般の方からの体験投稿を基にする大がかりな年間企画を毎日新聞社が決めました。担当者から、この投稿作の著作権をどう扱うべきか相談を受けました。顧問弁護士事務所に見解を求めたところ、「今回の企画では投稿作の使い方は限定的。だから、著作権譲渡は求めず、『一方、本社がデジタルや出版などで自由に利用することを認めてください』とする方がいい」でした。とても納得がいく回答でした。以来、社内各部局には、掲載作・投稿作の著作権の扱いは「譲渡は求めず、本社の自由な利用権を認めてもらう」とするのが望ましいこと、会社がどうしても著作権を持ちたい場合は「投稿者の利用は自由」と伝える方がいいこと、そして、著作権扱いのお知らせは可能な限り頻繁に掲載すること――を要請しました。
私は2011年、知財管理センター室長(兼法務室長)に就いたのですが、当初は著作権相談についてすごく緊張していました。著作権知識が乏しい中、回答を間違えれば、社員に著作権侵害をさせてしまうかもしれませんし、できるはずの無許諾利用を止めてしまうかもしれないからです。
室長になったころ、私は社内の一斉連絡メールなどで職場の電話番号だけでなく、私用の携帯電話番号まで公開していました。東京本社の各部局に加え、大阪、西部、中部、北海道と全国の記者らは土・日曜や深夜も原稿を書きます。このため、著作権関係で分からないことが起きたり、疑問が生じたりした場合、いつでも相談の電話ができるようにするためです。さらに、毎年、講師として出席する社内の新任副部長(デスク)研修や10年記者研修などでも「分からなかったり、迷ったりした時はいつでも電話して」と話していました。
「県内では有名な女性タレントが覚せい剤所持で逮捕された。彼女のブログに彼女の顔写真がある。この写真を勝手に複写して、地域面の逮捕記事に付けることはできるか?」。こうした相談の電話を土曜や日曜にもけっこう受けました。ご承知の通り、著作権法は解釈が多様で、難しい法律です。なので、自信を持って回答できないことが何度もあり、そういう時は「こんな時間にごめんね」と、センター室員の携帯に電話していました。いいかげんな回答は絶対にできませんし、室長は「窓口」なので、これは当然でした。回答にいくぶん自信を持てるようになったのは就任から1年後くらいだったような気がします(完全な自信を持って、ということは退社時までありませんでした)。
新聞社は、人の著作物を頻繁に、多く利用します。さまざまな相談に対応できるよう勉強を重ねる。そして、分からないことや迷うことがあれば、慢心はせず、専門家(顧問弁護士事務所)に尋ねる。会社の著作権コンプライアンスのためには、その繰り返しでした。
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【2】オンライン著作権講座(中級)開催のお知らせ
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今年度2回目となるオンライン著作権講座”中級”の開催が決定いたしました。
★日 時:2023年11月28日(火) 10:30~16:50★
*進行状況により時間が変更になる場合がございます。ご了承ください。
詳細や申込方法につきましては、次号のメルマガでご案内予定です。
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