JRRCマガジンNo.341 最新著作権裁判例解説12

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JRRCマガジン No.341    2023/10/19
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
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皆さま、こんにちは。

秋たけなわ、なにもかもが美味しい季節となりました。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その12)
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               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 早いもので、この裁判例解説を連載し始めてから今回で2年目に突入です。引き続き宜しくお願い申し上げます。
 さて、今回は東京地判令和5年8月24日(令和4年(ワ)第70126号)〔投稿動画に係る写真の著作権者事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、(原告が令和4年12月13日にYouTube(以下「本件サイト」という。)において二つの各動画(以下「各原告動画」という。)を公表したのに対し、被告社団が同月19日頃に本件サイトに対して「各原告動画の公表は、被告社団が本件サイトで公表した動画(以下「被告動画」という。)の著作権を侵害する」と主張して各原告動画の公開停止の申立て(以下「本件申立て」という。)を行い、その結果本件サイトにおいて同日までに各原告動画の公開を停止した、という状況の下で、)原告が、各原告動画の公表は被告動画の著作権を侵害していないものであるから、本件申立ては、虚偽の申立てとして不法行為を構成すると主張して、被告社団(本件サイトに自己の構成員等の作成した動画を公表)及び被告B(被告社団の代表者の一人)に対し、不法行為に基づき、連帯して、各原告動画の公開停止により精神的苦痛を被った慰謝料150万円及び弁護士費用15万円の合計165万円並びにこれに対する不法行為以降の日である令和4年12月19日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。
 なお、争点整理の結果、本件の侵害論に係る争点は、被告社団が被告動画に係る写真(以下「本件写真」という。)の著作権者であるか否かのみであるとされています(前提事実として、被告動画には本件写真が含まれており、各原告動画において本件写真は有形的に再製されているとされています)。

<判旨>
 原告の請求を棄却。
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、Cは、被告社団の共同代表者であるEからの依頼を受けて、令和2年2月11日、同人の庭において、本件写真を撮影し、被告社団に対して、同月20日、7万円の請求書を作成した上、他の被写体に係る写真と合わせて、本件写真を7万円で譲渡したことが認められる。
 これに対し、原告は、本件写真に写っているDが毎日新聞社に本件写真を提供した経緯からすれば、本件写真の著作権者はDである趣旨を主張する。しかしながら、証拠・・・によれば、確かに、Dは、本件写真を毎日新聞社に提供し、本件写真が令和3年10月28日に毎日新聞に掲載されたことが認められるものの、Dは、本件写真の著作権が被告社団に帰属することを前提として、被告社団の許諾を得た上、毎日新聞社に本件写真を提供したことが認められる。そうすると、原告主張に係る毎日新聞社に関する事情は、上記判断を左右するものとはいえない。・・・
 以上によれば、本件写真が含まれる各原告動画の公表は、本件写真が含まれる被告動画の著作権を侵害するものであるから、各原告動画の公開停止に係る本件申立ては虚偽であるということはでき・・・ない。」

<解説>
 本件の事案及び判旨はそれほど複雑なものではありませんが、著作権制度に関する基本的な部分や過去を振り返るのに適した事案であると思い、今回取り上げることといたしました。
 本件写真に係る登場人物や著作財産権の関係を判旨に沿って再構成すると、①E(被告社団の共同代表者)がCに対してEの庭やD等を被写体とする写真撮影を依頼→②これを受け、Cはその写真を撮影(R2.2.11 C=写真の著作者)→③Cが被告社団に対し本件写真やその他の写真を7万円で譲渡(R2.2.10 著作財産権=Cから被告社団に移転)→④本件写真の被写体Dが被告社団の許諾を得た上で毎日新聞社に対して本件写真を提供→⑤毎日新聞社が本件写真を同紙に掲載(R3.10.28)、という流れになります。
 著作財産権は著作者の一身専属・譲渡不可性(著作権法§59。以下特に断らない限り、著作権法の条文を指す)が規定されている著作者人格権と異なりその全部・一部の譲渡が可能ですので(§61Ⅰ)、著作財産権の譲渡が行われた場合、著作者の法的地位は変動しませんが、著作者と著作権者(=著作財産権を有する者)とは別人になることになります。このような著作財産権の移転は通常の場合、契約によって行われますので、著作財産権のどの範囲をいつ誰に移転させるのかについては当事者間の合意によって決まることになります。そしてそのことは契約において明示することになる訳ですが、現実の場面では取引内容が全て明確に記載されるとは限りませんので、その点は紛争に至れば最終的には様々な事情を踏まえて当事者間の意思について合理的に解釈して決めていくこととなります。この点、今回の事案では、当事者の契約内容の詳細は不明ですが、上記③の通り、Cと被告社団との間で本件写真を含めて複数の写真について7万円で取引がされているところ、この7万円は物理的な写真と写真(少なくとも本件写真)の著作財産権とを合わせた金額と捉えられているものです。
 このように、著作権の目的となる創作物に関する現実の取引では物理的な作品とその著作財産権とが契約の対象になることはよくあることですが、ここで留意しておくべきは有体物である作品・物品に関する権利と、無体財産権の一つである著作権との関係についてです。このことについては、著名な判例として、「著作権判例百選[第6版]」の最初に掲載されている顔真卿自書告身帖事件に関する最高裁判決(注1)があります。唐代の著名な書家であった顔真卿(がんしんけい)の「顔真卿自書建中告身帖」をX(博物館)が所有しているところ、Yら(書道関係の出版社等)が出版した出版物においてこの自書告身帖が複製されていたという事実関係の下で、XがYらに対し自書告身帖の所有権に基づき前出の出版物の販売の差止等を求めた、という事案です。最高裁は以下のように判示して、Xの請求を棄却しました。
「美術の著作物の原作品は、それ自体有体物であるが、同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ、所有権は有体物をその客体とする権利であるから、美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。そして、美術の著作物に対する排他的支配権能は、著作物の保護期間内に限り、ひとり著作権者がこれを専有するのである。
そこで、著作物の保護期間内においては、所有権と著作権とは同時的に併存するのであるが、所論のように、保護期間内においては所有権の権能の一部が離脱して著作権の権能と化し、保護期間の満了により著作権が消滅すると同時にその権能が所有権の権能に復帰すると解するがごときは、両権利が前記のように客体を異にすることを理解しないことによるものといわざるをえない。著作権の消滅後は、所論のように著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく、著作物は公有(パブリツク・ドメイン)に帰し、何人も、著作者の人格的利益を害しない限り、自由にこれを利用しうることになるのである。
したがつて、著作権が消滅しても、そのことにより、所有権が、無体物としての面に対する排他的支配権能までも手中に収め、所有権の一内容として著作権と同様の保護を与えられることになると解することはできないのであつて、著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。・・・右事実によれば、自書告身帖は、書という美術の著作物の原作品として、有体物としての面と無体物である美術の著作物としての面とを有するものというべきところ、自書告身帖について著作権が現存しないことは明らかであつて、上告人も、自書告身帖に対する所有権を主張するにとどまり、他方、被上告人らは、自書告身帖の前所有者の許諾を受けてこれを写真撮影した者の承継人から写真乾板を譲り受け、これを用いて本件出版物を製作したものであることは、上告人においてこれを認めるところである。
そこで、前記説示に照らして考察すれば、被上告人らの右行為は、被上告人らが適法に所有権を取得した写真乾板を用いるにすぎず、上告人の所有する自書告身帖を使用するなどして上告人の自書告身帖に対する排他的支配をおかすものではなく、上告人の自書告身帖に対して有する所有権をなんら侵害するものではないといわざるをえない。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」
 このようにある作品をみた場合に、有体物の面に対する権利と無体物の面に関する権利とを明確に分けて検討・論じている理由は抑々の所有権と著作権との各々の性質に対する理解の点に存するものですが、判旨において別の実質的な理由として指摘されているのは「若しも、所論のように原作品の所有権者はその所有権に基づいて著作物の複製等を許諾する権利をも慣行として有するとするならば、著作権法が著作物の保護期間を定めた意義は全く没却されてしまうことになるのであつて、仮に右のような慣行があるとしても、これを所論のように法的規範として是認することはできないものというべき」という点であり、この点からもこの最判の指摘は妥当性を有するものと考えられます(注2)。
 そして、同最判では、これらの説示に関連して「・・・博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収し、あるいは写真撮影をするのに許可を要するとしているのは、原作品の有体物の面に対する所有権に縁由するものと解すべきであるから、右の料金の徴収等の事実は、所有権が無体物の面を支配する権能までも含むものとする根拠とはなりえない。料金の徴収等の事実は、一見所有権者が無体物である著作物の複製等を許諾する権利を専有することを示しているかのようにみえるとしても、それは、所有権者が無体物である著作物を体現している有体物としての原作品を所有していることから生じる反射的効果にすぎない・・・」と述べています。世上見られる博物館・美術館での撮影禁止の根拠をどこに求めるかは議論のあるところ(注3)ですが、ここでも有体物・無体物の各側面において所有権と著作権とが明確に分けて観念されていることには重ねて留意しておく必要があります。
 さて、今回の判決に関してもう一点言及しておきたいのは、本件写真の被写体(の一部を構成する)Dが毎日新聞社に本件写真を提供している部分です。Dは上述の通り、被告社団の許諾を得て本件写真を提供していますので、Dは本件写真の著作権者ではありません。実際、本件写真を撮影しているのはCですから著作権法の関係規定の定義やさらには制度趣旨に照らして考えても、本件写真の著作者はCであり、その著作財産権はCから被告社団に譲渡されていますので、Dが著作権者になるものでないことは確かです。
 この点、旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、写真の著作物に関していくつかの特殊な規定を設けており、保護期間については発行後10年後(その間に発行されない場合は種板製作後10年後まで)とされ(旧著作権法§23Ⅰ・Ⅱ)、文芸学術の著作物への挿入写真で当該文芸学術の著作物のために著作した(させた)写真の場合はその著作権は当該文芸学術の著作物の著作者に帰属し、かつ、その保護期間も当該文芸学術の著作物のそれと同一(=原則論としては、著作者の死後30年後まで)(注4)とされていた(旧著作権法§24)ところです。そして、嘱託による肖像写真については「他人ノ嘱託ニ依リ著作シタル写真肖像の著作権ハ其ノ嘱託者ニ属ス」と規定され(旧著作権法§25)、この点については現行法における創作者主義が妥当しておりませんでした。
この§25の規定趣旨は「抑モ著作權ハ著作者ニ蜀スルヲ本則トスルカ故ニ寫眞ノ著作權モ之ヲ著作シタル者即チ寫眞師に蜀スルヲ普通ノ状態トス、故ニ特別ノ規定ナキ以上ハ吾々カ寫眞師ヲシテ撮寫セシメタル人物ノ寫眞モ其ノ著作權ハ寫眞師ニ蜀ス從テ寫眞師ハ吾々ノ許諾ナク随意ニ之ヲ複寫シ發賣頒布スルコトヲ得、然レトモ人物ノ寫眞ヲ其ノ人ノ許諾ナク店頭ニ羅列シ公衆ニ發賣スルハ實ニ吾人ノ人身權ヲ侵スモノナリ之ヲ放任スルハ法律上决シテ正當ニアラス、故ニ本條ハ著作權ハ著作者ニ蜀ストノ原則ニ例外ヲ設ケ他人ノ嘱託ニ係ル肖像ノ寫眞ニ限リ其ノ著作權ハ寫眞師ニ蜀セスシテ嘱託者ニ蜀ストセリ、從テ寫眞師ニ撮寫セシメタル人物ノ眞眞(原文ママ)ハ之ヲ撮寫セシメタル人カ之ヲ複寫シ又ハ發賣スルノ權利ヲ有シ寫眞師ハ此ノ權利ヲ有セサルナリ、此ノ規定ハ寫眞版權條例第二條第一項ニモアル所ニシテ實ニ至當ナル規定ナリ、彼ノ王侯將相等ノ寫眞ヲ其ノ本人ノ許諾ヲモ受ケス公然之ヲ店頭ニ掲ケ之ヲ販賣スルハ著作權ヲ侵害スルモノナリ、」とされており(注5)、
過去の版権条例を踏まえて被写体の人物の人格権保護に配慮した規定であると説明されています。この点については上野達弘先生が「現在であれば、一連の判例を通じて「人の氏名、肖像等をみだりに利用されない権利」・・・が認められているため、嘱託肖像写真について、たとえ写真家に著作権が帰属したとしても、当該写真家が他人の肖像を被写体とする写真を無制約に利用できるわけでないと考えられ、むしろ嘱託肖像写真の著作権を一律に嘱託者に帰属させる規定は、著作者である写真家の著作権保護を著しく弱めるものと考えられよう。」と述べつつ、それに続けて「もっとも、我々の日常生活においても、例えば観光地などで他人にシャッターを押してもらう場合、当該他人がその写真著作物の著作者であり、
同人に著作者の権利がすべて帰属していると理解することが現実的と言えるのかどうか問題となりうるところであり、そうした議論にとっては旧著作権法二五条のような規定も示唆的と言えよう」とも述べており(注6)、人物を被写体とする写真の著作物の利用を巡る現実的な場面のことを考えると、当該人物の人格権保護を図る趣旨とは多少異なりますが、確かに旧著作権法§25の規定内容自体は現代においても一定の有用性があるものと考えます。
 さて、今回の解説では、取り上げた裁判例そのものにも触れつつ、これに関連する事柄についても言及するという少し変形的なスタイルでお届けいたしました。冒頭申し上げたところと重なりますが、最新著作権裁判例解説の二週目も色々な事案を取り上げてまいりたいと存じますので、引き続きご愛顧の程お願い申し上げます。

(注1)最判昭和59年1月20日(民集38巻1号1頁)
(注2)清永利亮「美術の著作物の原作品につきその無体物の面を利用する行為と所有権侵害の成否」(財)法曹会『最高裁判所判例解説民事篇(昭和59年度)』1頁以下を参照。
(注3)この点に関し、本文記載の最判で「所有権者が無体物である著作物を体現している有体物としての原作品を所有していることから生じる反射的効果」だとされている部分に対しては痛烈な批判も展開されている。「WEB講義録 知的財産法(2007)」における田村善之講義録「第1回 知的財産法の特徴、概要」1頁以下では、ディズニーランドのシンデレラ城や華厳の滝などを例に挙げ、こうした場所を見るのに物理的な障壁が存している状況でそのアクセスの可否に関して問題となるのはディズニーランドの敷地に対する所有権賃借権等の権利や華厳の滝を見る位置の所有権であり、博物館・美術館内の所蔵物に対する撮影可否の点で問題となるのは所蔵品の所有権ではなく、博物館等の土地に対する所有権・賃借権に基づく入館料をとる際の入館者に対する提示条件の点である旨を指摘しており、これ自体は基本的に説得力の強い見解であると思われる。
その上で付言すれば、この最判においてはその事案に即して「第三者の複製物の出版が有体物としての原作品に対する排他的支配をおかすことなく行われたものであるときには、右複製物の出版は単に公有に帰した著作物の面を利用するにすぎない」という前提付きの説示が展開されており、この部分における条件留保の点には留意が必要であると思われる。例えば、ストロボ撮影等が、湿度・照明等に十分な配慮をしている美術館等内に展示された美術作品の着色状況等という有体物の側面に影響を与え、これを毀損しうる点を考慮すると、美術館等における写真撮影禁止のルールの根拠が凡そ美術作品等の所有権と関係ないものとして整理される場合だけであるとは限らないであろう。
(注4)旧著作権法上の著作権の存続期間については、本文記載のように原則的に著作者の死後30年後までと規定されていたが(旧著作権法§3Ⅰ)、この「30」という数値については、現行著作権法の制定・施行までの間に暫定的な増大(=保護期間の延長)の改正が複数回なされており、最終的には「38」となった(旧著作権法§4等も同様)。
(注5)水野錬太郞『著作權法要義』101~102頁
(注6)上野達弘「解題 水野錬太郎著『著作權法要義』」20~21頁
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