JRRCマガジンNo.337 最新著作権裁判例解説11

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JRRCマガジン No.337    2023/9/21
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】初級著作権講座&著作権セミナー開催のお知らせ(お申し込み受付中!)
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皆さま、こんにちは。

9月も半ばを過ぎましたが、まだまだ暑い日が続きます。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

10月4日に初級著作権講座、10月13日に著作権セミナーを開催いたします。
初級講座では著作権制度の概要に加え、以前よりご要望の多かった「引用とその周辺の権利制限」について、セミナーでは「新聞等の著作権保護と著作物の適法利用」についてご説明いたします。
無料でどなたでもご参加いただけますので、是非奮ってご参加ください。
詳細はページ下部をご覧ください。

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その11)
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               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 今回は東京地判令和5年6月9日(令和2年(ワ)第12774号)〔神社線量計スナップ写真等投稿事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、原告(スクールカウンセラー)が、①被告ら(心理療法家、一般私人、精神科医)が、共同して、平成26年3月24日から令和2年6月20日までの期間に、複数のブログ、ツイッター等において、原告の名誉を毀損し、又は名誉感情を侵害する内容の記事等を投稿したとして、民法709条、710条及び719条1項に基づく損害賠償金の一部請求等を被告らに行い、また、②そのうちの被告B(心理療法家)が、ブログ・ツイッター等において、原告が著作権を有する画像を複製した画像(以下「本件複製画像」という。)を、原告の名誉声望を侵害する形で掲載し、原告の名誉声望保持権を侵害したとして、民法709条に基づく損害賠償金の一部請求等を行うとともに、さらに被告Bが、本件複製画像をブログ・ツイッター等においてアップロードし、原告の本件原画像に係る公衆送信権を侵害するおそれがあるとして、自動公衆送信(送信可能化を含む。以下同じ。)の差止めを求めた事案です。
(なお、本件原告と被告Bとの間では別件訴訟があり、被告B(の主張として)は、平成26年11月27日頃、原告が、被告Bの運営するブログ1に、被告Bがあたかも犯罪者であるかのようなコメント等を投稿するとともに、原告ブログ2でも被告Bを誹謗中傷する内容の記事を投稿した上、被告Bの勤務先等にも手紙を送付したり架電したりして被告Bが犯罪行為を行っていると告げたことは、被告Bに対する名誉毀損、プライバシー権侵害及び業務妨害の不法行為に該当し、これにより被告Bは多大な精神的苦痛を受けたと主張して、原告を被告とする損害賠償請求訴訟を提起しましたが、第一審から最高裁に至るまで、いずれも請求棄却(又は上告不受理)となっています。)

<判旨(上記請求のうち②の前半部分に係るもののみを記載)>
 原告の請求を一部認容。
「証拠・・・によれば、原告は、南相馬市の伊勢大御神上大神宮を訪れた際に、同所に設置された線量計において、原告が持参したポケット線量計の値より低い値が表示されていることを端的に映像にするため、設置されている線量計が画面上部に、ポケット線量計が画面下部に映るように、知人にポケット線量計をカメラの前に差し出してもらい、スマートフォンで動画を撮影したこと、原告は、後に上記動画を再生し、同動画の80秒付近で静止させ、その表示画面のスクリーンショットを撮影して、本件原画像を作成したことが認められる。
そして、上記認定事実によれば、本件原画像は、被写体の選択、構図の決定、カメラのアングルの決定等により、原告の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、」「美術の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)といえ、写真の著作物に該当し、原告は、本件原画像の著作者であると認められる。」
「著作権法113条11項は、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」について、著作者人格権を侵害する行為とみなすと規定しているところ、同項の「名誉又は声望」は,社会的な名誉又は声望であると解される。そこで、著作物を掲載した記事の投稿が「名誉又は声望を害する方法」に該当するか否かについては、著作者の社会的評価の低下をもたらすような利用であるか否かを基準として判断するのが相当である。
前提事実・・・によれば、被告Bは、「PTSD解離人格」、「PTSD解離カオナシサイバーストーカー」、「カオナシ多重人格ストーカー」、「PTSD特有の認知の歪みで勘違いから暴走する犯罪級に醜い奴」、「ネットストーカー」、「PTSD解離ネットストーカー」などの文言とともに、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿している・・・と認められる。
これらの投稿における本件原画像の利用の態様は、本件原画像の撮影者がPTSD解離にり患している又はストーカー行為をしていることをほのめかすものであるといえ、本件原画像の著作者である原告の社会的な評価の低下をもたらすものであると認められる。
したがって、被告Bは、上記の各投稿によって、著作者である原告の名誉又は声望を害する方法によりその著作物である本件原画像を利用したものであって、これは、本件原画像に係る原告の著作者人格権を侵害する行為であるとみなされる。
他方で、・・・の各記事等については、上記のような文言を記載しておらず、単に、本件複製画像に創作性がなく著作物に当たらないとの趣旨のコメントとともに本件複製画像を掲載した記事を投稿したにすぎないから、本件原画像の著作者である原告の社会的な評価の低下をもたらすような利用であるとはいえない。よって、これらの各記事等の投稿に係る原告の主張は理由がない。」

<解説>
 今回の判決では上記「事件の概要」の通り、全体として名誉棄損の成否が中心的争点になっていますが、本解説では判旨で抜粋した著作権法第113条第11項の著作者人格権みなし侵害の点について取り扱います。
 第113条はその見出しの通り、侵害とみなす行為が列挙されており、「第2章に規定する著作者人格権若しくは著作権・・・の侵害行為には該当しないが、著作者・・・の人格的利益又は著作権者・・・の経済的利益を害することとなる行為を、これらの権利の侵害行為とみなして、これらの権利者の保護の十全を期することとしたもの」(注1)と説明されています。同条は現行著作権法制定時点(昭和45年)では二つの項(現在の第1項・第11項)のみでしたが、徐々に整備が図られ、多項化・複雑化しており、特に令和2年一部改正においてはリーチサイト対策として第2項~第4項の長大な条文が規定されました。今回の争点となっている第11項は「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」と規定されており、著作者人格権のみなし侵害行為の一つとなっているものです。
 著作権法全体との関係では、著作者人格権自体は第18条~第20条に規定されている公表権、氏名表示権、同一性保持権のみですが、この第113条の一定の条項も含めて著作者の人格的な権利利益として保護されますので、これらへの侵害に対する救済措置としては差止請求権(第112条各項)や罰則(第119条以下)等の規定が適用されることとなります。また、著作者人格権は著作者の一身専属であり(第59条)、著作者の存しなくなった後の人格的利益の保護については一定の場面に原則的に「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない」(第60条)とされているところ、第60条の禁止規範には第113条において著作者人格権に係るみなし侵害行為も含まれることとなっているところです(注2)。このように、第113条各項に掲げる行為は「これらの権利と実質的内容と概念されることにな」(注3)るのですが、支分権との関係では第113条の場合は権利制限規定の適用がない点、また、著作権者の許諾の有無とは別になっている点には注意が必要です。
 さて、第113条第11項につき、まずは「著作者の名誉又は声望」についてです。旧著作権法(明治32年法律第39号)第36条ノ2第1項における著作者の「名誉声望」(注4)について、判例上(注5)「法三六条ノ二は、著作者人格権の侵害をなした者に対して、著作者の声望名誉を回復するに適当なる処分を請求することができる旨規定するが、右規定にいう著作者の声望名誉とは、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的声望名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まれないものと解すべきである(最高裁昭和四三年(オ)第一三五七号同四五年一二月一八日第二小法廷判決・民集二四巻一三号二一五一頁参照)。」とされており、現行法第113条第11項の名誉又は声望についても同様に、著作者の主観的な名誉感情ではなく、社会から受ける客観的な評価としての名誉声望を意味するものと解されています(注6)。
そして、著作者の名誉又は声望を害する方法による著作物の利用についてです。著作権法上「利用」の用語は法定利用行為を意味するものと解されるところ(注7)、第113条第11項の「利用」がこれと同様なのかどうかは議論のある点ですが(注8)、議論が細部に入り込んでしまうためここではオミットすることとし、第113条第11項に該当する具体的な行為としてどのようなものがあるのかという点に着目したいと思います。
抑々、第113条第11項は条文が簡素であり、そこでの禁止行為についてはイメージが掴みにくいのですが、立案担当者の説明によれば「まず、著作者が希望しなかったと思われる場所に著作物を設置する場合がございます。例えば、芸術作品である裸体画を複製してヌード劇場の立て看板に使うというように、著作者が本来意図しなかったであろう著作物の利用をした場合であります。
次に、文学作品を多くの広告と一緒に出版する場合のように、香り高い文芸作品を商業ベースの広告・宣伝文書の中に収録して出版する場合が考えられます。
さらには、芸術的な価値の高い美術作品を名もない物品の包装紙に複製するといった場合のように、およそ芸術性を感じさせることのない物品包装紙のデザインとして創作されたかのごとき印象を与える利用の仕方の場合がありましょう。
それから、極めて荘厳な宗教音楽を喜劇用の楽曲と合体して演奏するといったように、創作時における著作者の宗教的霊感を感じさせなくする利用の場合がございましょう。これは、著作者が自己の著作物に与えた生命を殺すような利用行為と考えられます。
また、特殊な例としては、言語の著作物を悪文の例として利用する場合が考えられます。いわゆる著作者の創作能力についての評価を傷つけるような使い方をする場合でありまして、批評・論評の目的をもって引用する場合のようにそれが許されるケースもございますが、意図的に著作者の名誉・声望を害するように利用していると評価される場合は本項に該当するわけであります。」(注9)とされています。これら5つの例示ケースの当否については個々の場合で賛否が分かれ得ると思いますが、既存の裁判例でも第113条第11項の該否に係る判断が示された事例が種々存在しているところです。
同条項の侵害が肯定された裁判例も複数あるところ、このうち一つの裁判例(注10)では、「Rは,平成5年5月18日に執り行われた開眼法要(開眼落慶法要)の際に,本件原観音像の制作者として紹介され,出席者の前で挨拶していること・・・,平成7年6月15日発行の宗教工芸新聞・・・の記事において,「仏師 R師」との見出しの下に,Rが本件原観音像の制作者として紹介され,「東京駒込光源寺大観音(R)」と付された,本件原観音像の写真が掲載されていること・・・からすれば,Rが死亡した平成11年9月28日から10年以上が経過した本件口頭弁論終結日(平成21年12月21日)の時点においてもなお,光源寺の檀家,信者や仏師等仏像彫刻に携わる者の間において,Rは「駒込大観音」を制作した仏師として知られているものと推認することができること等の事実を総合すれば,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,Rが社会から受ける客観的な評価に影響を来す行為である。
したがって,被告らによる本件原観音像の仏頭部のすげ替え行為は,法113条6項所定の,「(著作者であるRが生存しているとしたならば,)著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するといえる。」と判示されています。
また、このほかにも別の侵害肯定例では「・・・前記前提事実・・・によれば,被告は,自作自演の投稿であったにもかかわらず,被告が本件似顔絵を入手した経緯については触れることなく,あたかも,被告が本件サイト上に「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。」「陛下プロジェクト」なる企画を立ち上げ,プロのクリエーターに天皇の似顔絵を描いて投稿するよう募ったところ,原告がその趣旨に賛同して本件似顔絵を2回にわたり投稿してきたかのような外形を整えて,本件似顔絵の写真を画像投稿サイトにアップロードしたものである・・・。本件似顔絵には,「C様へ」及び「A」という原告の自筆のサインがされていたところ,「C様」は,被告が本件サイトにおいて使用していたハンドルネームであった・・・。
上記の企画は,一般人からみた場合,被告の意図にかかわりなく,一定の政治的傾向ないし思想的立場に基づくものとの評価を受ける可能性が大きいものであり,このような企画に,プロの漫画家が,自己の筆名を明らかにして2回にわたり天皇の似顔絵を投稿することは,一般人からみて,当該漫画家が上記の政治的傾向ないし思想的立場に強く共鳴,賛同しているとの評価を受け得る行為である。しかも,被告は,本件サイトに,原告の筆名のみならず,第二次世界大戦時の日本を舞台とする『特攻の島』という作品名も摘示して,上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示したものである。
そうすると,本件行為・・・は,原告やその作品がこのような政治的傾向ないし思想的立場からの一面的な評価を受けるおそれを生じさせるものであって,原告の名誉又は声望を害する方法により本件似顔絵を利用したものとして,原告の著作者人格権を侵害するものとみなされるということができる。」とされた裁判例(注11)があります。
また、さらには「・・・本件テレビドラマが原告著作物の翻案であることは・・・認定判断したとおりであるけれども、他方、原告著作物と本件テレビドラマは、主人公の夫が帰国して後の後半の基本的ストーリーは、原告著作物が、章子が就職したことが直接的なきっかけとなって、章子夫婦は離婚し、章子は、章子の新しい生き方を尊重する男性と再婚するのに対し、本件テレビドラマでは、章子と夫との間に溝ができかけるが、章子はよい妻になろうと決意し、夫の単身赴任先に同行しようと大騒ぎしたことを夫に謝って夫婦は和解し、夫は再度単身赴任するというもので、大きく異なっている。また、本件テレビドラマには、原告著作物には登場しない、主人公の社宅の隣人の美貴夫婦、主人公の学生時代の先輩玲子等が登場する点でもストーリーが異なっていることも前記・・・に認定判断したとおりである。
更に、原告著作物には、会社の命ずる海外単身赴任が一組の夫婦に与えた波乱、夫の任地への同行を望む妻の積極的な行動とその過程で明かになる海外単身赴任の実情、企業が社員のみでなくその妻をも支配している状況、支配されている自分に屈辱を感じ、働く女として自立しようとする妻と、夫は仕事妻は家庭という伝統的役割分業観の夫との葛藤と離婚、妻を対等のパートナーと理解し家事も分担する夫との再婚が描かれ、表題も、現在の結婚の在り方に疑問を持ち、社会的に目覚めて自分の道を模索する妻の姿を端的に示す「目覚め」とつけられている。
これに対し、本件テレビドラマは、海外単身赴任が夫婦、家族の生活に与える影響も描きつつ、やりがいのある仕事をするために必要な場合もあると肯定的にとらえ、夫婦の愛情のみを大切に考えて同伴を強く望んでいた妻が、夫の海外単身赴任先での仕事にかける情熱を理解し、よい妻であろうと決心して単身赴任を受け入れると、厳しく対応していた夫の上司も、意外とものわかりよく夫に再赴任の機会を与えるいう(原文ママ)形で問題が解決するなど、企業批判の思想は汲み取れず、また、女性が社会へ出て働くことの肯定的態度はうかがわれるが、男性の伝統的分業観への批判や、離婚をもいとわない女性の自立の主張は読み取ることはできず、社会的な視野の狭いあさはかな妻が夫との同伴を求めて大騒ぎしたが、結局は反省して夫の単身赴任を受け入れるというもので、表題も「悪妻物語?夫はどこにも行かせない!」とつけられている。
・・・右に認定したような原告著作物の基本的ストーリー、表現内容又は表題の変更は、原告著作物についての原告の創作意図に反する利用であり、後記・・・認定のとおり、女性の自立、女性の権利擁護のための著述活動、社会的活動を行って来た原告の名誉又は声望を害する方法による原告著作物の利用であることも明らかであるから、著作権法一一三条三項(筆者注:当時)により、原告の著作者人格権を侵害したものとみなされるものである。」として侵害を肯定した裁判例(注12)もあります。
 さて、このような立案担当者説明や侵害肯定裁判例がある中で、今回の判決についてはどう捉えるべきなのでしょうか。第113条第11項の名誉・声望については立案担当者の説明では必ずしも明快な説明がなされている印象は受けないのですが(注13)、今回の判決においても「社会的な名誉又は声望であると解される」と判示されていますので、この点は前述の判例や裁判例と同様の判断に立っているものと解されます。ただ、そうであるとすると、立案担当者の摘示する具体例についてはこの点での整合性が問われ得ることになります。特に4番目の例である「極めて荘厳な宗教音楽を喜劇用の楽曲と合体して演奏するといったように、創作時における著作者の宗教的霊感を感じさせなくする利用の場合」については疑義が残るところであり、このような場合に著作者の主観的な感情自体が害されることは儘発生するでしょうけれども、果たして著作者の社会的な評価が低下することになるのかと言われるとこの点については疑問なしとしないところです。
 このような観点からすれば、上述の3つの侵害肯定裁判例においてはいずれも著作者の社会的評価の低下の招来が見込まれる利用行為であると考えられますので、第113条第11項の解釈上の整合性は保たれているものと思われますし、この点が今回の判決でも踏襲されていることは上述の通りです。ただし、上記3つの裁判例と今回の判決とでは質的に異なる面が存在しているように思われます。
上記の既存裁判例では、いずれも著作者の名誉・声望の変化はその事件において問題となった著作物を起点としてそれに接した場合に一般人が「その著作物の著作者についてどのような評価を下すことになるのか」という脈絡で生じるケースですが、今回の事件においては判決文を見る限りでは抑々被告Bが「PTSD解離人格」等々の文言とともに、本件複製画像を掲載した記事を繰り返し投稿しているというケースとなっており、対比的に撮影された線量計の画像との関係性が希薄であって、有体に言えば投稿画像(や、当該画像に対する説明文があれば(もちろん、今回の事件では画像そのものに対する文言は投稿されていませんが)その説明文)を見て一般人が画像撮影者に対する社会的評価をどう考えるか(「こんな画像を撮影する人なのか」というように思う・誤解する)というのではなく、専ら投稿文言が問題となっていて掲載画像はその文言とは関連性の薄い添え物であるような投稿形態であるという印象です。
 第113条第11項の条文は繰り返しになりますが、「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」と規定されていますので、形式的にみれば今回の事件の場合でも同条項に適合するようには見えますが、ポイントは著作者の名誉・声望を害する方法と著作物の利用行為との距離感についてどう考えるべきかということになります。
 本条項についてはベルヌ条約パリ改正条約第6条の2(1)において「著作者は、その財産的権利とは別個に、この権利が移転された後においても、著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する。」と規定されていることを国内法上、同一性保持権等の著作者人格権とともに担保する役割を担っているものと考えられますが、同条項の解説(注14)では「1948年ブラッセル改正会議では、名誉または声望の保護は著作者としての著作者の名誉または声望ばかりでなく(著作者自体の質との緊密な関係において)、人間としての名誉または声望にも拡張すべきであることが明確にされた(著作物が用いられる文脈のような側面も関連する-たとえば、政治的に非難された文脈の場合-)。」とされているところ、(やや読みにくいのですが、)著作物が利用される場面がどうかというような要素も含めて著作者の人格的な権利利益が保護される趣旨であることが看取されます。
そのようなニュアンスをより積極的に汲み取るのであれば今回の事件のような場合でも第113条第11項により著作者人格権の侵害行為とみなすべきとする見解もあり得るかもしれません。しかしながら、同条項により与えられる効果が著作者人格権を侵害したものとするという点にあることからすれば、本来的に本条項が規律しているのは著作物の利用行為があり、そこから生じる著作物への評価を介して著作者の社会的な名誉・声望が害されるという場合に限定されると考えるべきであり、著作物への評価との関係が希薄な利用行為がなされている場合にまで本条項を適用することについては消極に解すべきではないでしょうか。そのような意味で今回の判決において本条項の適用を認めた点については、判決文に接する限り疑問が残るとの私見を申し述べて本解説の結びといたします。

(注1)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』835~836頁
(注2)第60条違反行為に対する救済措置については、著作者の一定の遺族等による名誉回復等の措置(第116条→第115条)や罰則(第120条)の適用がある。
(注3)前掲注1・836頁
(注4)第36条ノ2第1項は「第十八条ノ規定ニ違反シタル行為ヲ為シタル者ニ対シテハ著作者ハ著作者タルコトヲ確保シ又ハ訂正其ノ他其ノ名誉声望ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ請求スルコトヲ得」と規定されていた。
(注5)最判昭和61年5月30日民集40巻4号725頁〔パロディモンタージュ写真事件〕
(注6)茶園成樹編『著作権法第3版』98頁[青木大也]
(注7)例えば、第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を参照
(注8)小倉秀夫=金井重彦編『著作権法コンメンタール<改訂版>Ⅲ』465・484頁[小倉秀夫]
(注9)前掲注1・873~874頁。なお、このうち最初の裸体画のケースについては複製物による展示であるので、「利用」との関係ではこれは法定利用行為(第25条の展示権で規律される原作品による展示行為)には該当しないケースであり、その点で本条項の「利用」に係る立案担当者の見解は法定利用行為に限定されてはないものと解される。
(注10)知財高判平成22年3月25日判時2086号114頁〔駒込大観音仏頭すげ替え事件〕
(注11)東京地判平成25年7月16日(平成24年(ワ)第24571号)〔天皇似顔絵プロジェクト事件(第1審)〕、知財高判平成25年12月11日(平成25年(ネ)第10064号)〔同事件(第2審)〕
(注12)東京地判平成5年8月30日判時1571号107頁〔悪妻物語事件(第1審)〕、東京高判平成8年4月16日判時1571号98頁〔同事件(第2審)〕
(注13)前掲注1・873頁では「著作者人格権は、著作物に化体された著作者の人格、つまり著作者人格の発露を保護するという観点に立っておりますけれども、本項は、一般的な個人としての名誉・声望を保護するという観点から規定した意味合いがございまして・・・」と述べていることからすると、第113条第11項の著作者人格権みなし侵害が「著作物に対する創作者としての拘り・思い入れ」といった著作者人格権を保護する趣旨・意図とは異なるものとして規定整備されていることは看取されるが、ここでいう名誉・声望が社会的なそれを指しているのかどうかについては必ずしも判然としない。
(注14)WIPO『WIPOが管理する著作権及び隣接権諸条約の解説並びに著作権及び隣接権用語解説』51頁[三浦正広訳]

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【2】初級著作権講座&著作権セミナー開催のお知らせ(お申し込み受付中!)
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・日  時 :2023年10月4日(水) 13:30~16:30
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・参加費 :無料
・主  催 :公益社団法人日本複製権センター
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※第1回の「東北地方向けセミナー」の内容と一部重複いたしますので、予めご了承ください。
~~開催要項~~
・日  時 :2023年10月13日(金) 14:00~16:00
・会  場 :オンライン (Zoom)
・参加費 :無料
・主  催 :公益社団法人日本複製権センター
・参加協力:徳島新聞・四国新聞・愛媛新聞・高知新聞
詳しくはこちらから

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