JRRCマガジンNo.338 新聞と著作権6 著作権相談への対応は知財実務の中心 上

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JRRCマガジン  No.338 2023/9/28
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その6
【2】10/13開催 著作権セミナー『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』のお知らせ
【3】10/4開催 初級著作権講座のお知らせ(明日申込締切り!)
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皆さま、こんにちは。

今年も金木犀が香る時期になりました。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。

福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/

◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その6━━
著作権相談への対応は知財実務の中心 上
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  福井 明

 毎日新聞の知財管理センターにいたころ、連日、著作権や商標に関する相談、著作権が絡む契約書案やデジタル事業の規約案の点検要請などを受けていました。こうした相談などへの対応が知財管理センターの一番の仕事です。その中心だった著作権相談への対応について、2回に分けて記したいと思います。
 「こういう使い方は著作権法的に大丈夫か?」。新聞記者は原稿を書く際、歌詞の一部や識者の意見を中に取り入れたり、他人が撮影した写真を記事とセットで使ったりすることがよくあります。このため、著作権者の許諾を得ずに使えるかどうかの相談が、著作権相談では圧倒的に多いのです。東京本社の各部局をはじめ、大阪、西部、中部、北海道の各本支社からも頻繁に寄せられていました。これに対し、知財管理センターは、その使い方が無許諾利用を可能にする「引用」(著作権法32条)、あるいは「時事の事件の報道のための利用」(同41条)に該当するかを検討し、回答します。私は、この32条、41条に関する相談への対応が新聞社知財部署の「存在意義」だと考えています(もちろん、顧問弁護士事務所に相談し、見解を得て回答することを含みます)。ただ、この対応はけして簡単ではありません。難しく、悩ましいことが多いのです。
 論説委員は、社説や、一面のコラム「余録」などを書くベテラン記者です。ある日、知り合いの論説委員から「余録で、この歌詞の使い方はいいだろうか?」と、相談を受けました。余録は約40行。原稿で歌詞は、そのうち5行を占めていました。引用の場合、「何行までならOK、何行以上ならアウト」という分量の線引きはありません。ただ、5行は印象としては長く、「条文の『引用の目的上正当な範囲内』と言えるだろうか」と考えました。
 私たちは、「この歌詞利用は引用に該当しない」と判断した場合、JASRACへの連絡と使用料支払いが必要になると伝えています。しかし、この時は、この歌詞を使う必要性があると判断でき、地の文との間で「明瞭区別性」や「主従関係」もありました。私は「行数はやや長いが、『正当な範囲内』にあたる。なので引用と言える」と結論付け、回答しました。
 ただ、新聞社の知財や顧問弁護士事務所が歌詞利用について「引用だ」「時事の事件の報道利用にあたる」と判断しても、それで絶対大丈夫とはなりません。JASRACが異なる判断をするかもしれないからです。相談対応には、この懸念とスリルがつねにあります。
 2016年秋、音楽家のボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した際、毎日新聞は、「風に吹かれて」など代表的な5曲の歌詞をそれぞれごく短く紙面に掲載しました。私たちは「これは時事の事件の報道利用にあたる」と考えていました。しかし、JASRACからは毎日新聞社に「著作権処理(使用料支払い)が必要では」という電話がありました。私たちが主張を伝えると、その後、JASRACから連絡はありませんでした。
 専門家の弁護士間で意見が分かれることもあります。以前、毎日新聞朝刊の連載小説で歌詞が使われ、引用が成り立つかどうか顧問弁護士事務所に相談しました。意見は「小説で歌詞を使うことは、批評、研究のためという引用目的にあたらず、そもそも引用とは言えない」「『その他』の引用目的にあたり、『目的上正当な範囲内』と言えると思う」でした。何とも悩ましいのです。
 また、新聞社の日常的な報道実務なのに、さまざまな法的見解があるのが「事件・事故の被害者の顔写真掲載」です。例えば、若い人が事件・事故で亡くなった場合、記者はその人の学校の卒業アルバムを探し、クラスの集合写真からその人の顔写真を複写して掲載します。私も支局や大阪社会部にいたころ、何回もしました。昔は、そこそこ以上の事件・事故だと、この顔写真は「絶対必要」となり、深夜まで泣きそうになりながら関係者宅を訪ね歩いたことがあります。(以前、社会部の泊まり勤務をしていて、事故の現場取材をしていた記者が午前1時ごろ、「顔写真が撮れません」と部にギブアップの連絡してきた際、泊まりキャップが「穴掘ってでも探せ」と言い放つのを横から見ていました。今では通用しない発言です)
 さて、この顔写真の掲載は、「引用」あるいは「時事の事件の報道のための利用」にあたるでしょうか。
 まず「時事の事件の報道利用」についてです。条文上、ここで使える著作物は「当該事件を構成する著作物」です。これを広く解釈して「顔写真掲載に適用可能」とする意見もあります。ただ、多くの識者の文章などを読むと、「卒業アルバムの被害者の写真自体が事件を構成しているとは言えない。したがって、41条(時事の事件の報道利用)の適用はできない」との意見が多いと考えます。
 次に「引用」です。これは分かれます。被害者や被疑者の顔写真掲載は、「通常の態様であれば『報道の目的上正当な範囲内』と言える。だから、引用にあたる」という意見があります。一方、クラス生徒の集合写真から被害者の顔だけを複写するのはそもそも改変であることを指摘し、「掲載は都合のいい著作物利用に過ぎない。引用には該当しない」という意見もあります。ただ、この場合でも被害者の顔写真掲載によって新たな情報が警察に寄せられたりするといった公益性に注目し、「公益性があるなら、32条、41条に該当しなくても掲載できる」との見解が続きます。新聞社には「掲載する理屈と覚悟」が求められる訳ですが、心強い見解です。
 私は、この顔写真複写と掲載が昔から広く行われ、容認されてきたことから、条文の「公正な慣行」に合致し、「引用」とする解釈はありうるとは思います。ただ、記事で顔写真自体への批評が行われることはまずないことから「引用」というには難しく、そして「時事の事件の報道利用」でもないが公益性を支えに使えるという見解に賛同します。新聞、テレビは最近、フェースブックなどから顔写真を入手して掲載していますが、これも同様だと考えます。
 不適切な言い方かもしれませんが、私はずっと、「著作権法は親切とは言えない法律だなあ」と思ってきました。刑法なら例えば「他人の財物を窃取した者は窃盗の罪とし、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」(第235条)などと、何をすればどういう罪になり、どのような刑罰を受けるかが明確に記されています。しかし、著作権法では32条、41条以外にも「編集著作物とはどこまで主張できるものなのか」「権利制限条項にある『ただし著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りではない』はどこまでのケースに適用できるのか」など、解釈がさまざまに分かれるような条文が少なくありません。また、おおもとの「著作物かどうか」でも見方が異なったりします。スパっとはいかないのです。それでいて、厳しい罰則があります。
 ただ、世の中のあらゆる利用行為をいちいち列挙したり、条文の解釈を一つに限定したりするのは、およそ現実的ではありません。となると、さまざまな解釈、意見があることが前提となります。その中で、このケースではどれを適用するのが最も合理的か、何が抗弁材料になりうるかなどと判断することが求められます。悩ましいのですが、それが著作権法の現場実務の「だいご味」であり、だから「著作権法は面白い」のだと思います。

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【2】10/13開催 著作権セミナー『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』のお知らせ
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●著作権セミナー『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』
著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
※第1回の「東北地方向けセミナー」の内容と一部重複いたしますので、予めご了承ください。
~~開催要項~~
・日  時 :2023年10月13日(金) 14:00~16:00
・会  場 :オンライン (Zoom)
・参加費 :無料
・主  催 :公益社団法人日本複製権センター
・参加協力:徳島新聞・四国新聞・愛媛新聞・高知新聞
詳しくはこちらから

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【3】10/4開催 初級著作権講座のお知らせ(明日申込締切り!)
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●初級著作権講座 トピックス『引用とその周辺の権利制限について』
著作権制度の概要に加え、以前よりご要望の多かった「引用」について詳しくご説明いたします。
初めて著作権を学ぶ方はもちろん、知識の確認・復習の場としてどなたでもご参加いただけます。
~~開催要項~~
・日  時 :2023年10月4日(水) 13:30~16:30
・会  場 :オンライン (Zoom)
・参加費 :無料
・主  催 :公益社団法人日本複製権センター
詳しくはこちらから

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