JRRCマガジンNo.328 許諾権と集中管理制度(日本複製権センターが果たす役割)

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JRRCマガジン  No.328 2023/7/13
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。

空の青さが真夏の到来を告げています。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「許諾権と集中管理制度(日本複製権センターが果たす役割)」です。

川瀬先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━【1】川瀬先生の著作権よもやま話━━━
許諾権と集中管理制度(日本複製権センターが果たす役割)
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1 はじめに
 デジタル化・ネットワーク化の時代になって、映像作品、音楽作品等のコンテンツといわれるもののネットワークを通じた提供の促進が重要なテーマだと説明されている。このコンテンツの流通促進の問題は、知的財産立国を目指した小泉政権下の2002(平成14)年に知的財産基本法が成立し、同法に基づき知的財産推進本部が設置され、そこを中心にわが国の知的財産政策の立案調整が行われるようになると同時に、著作権に関する施策の重要な柱となりました。
 一説によると、知的財産推進本部が設置された際に関係業界等に何か課題があるかと意見募集を行ったところ、当時光ファイバー網の整備を進め、記憶容量の大きな映像作品も無理なく送れるようになった通信業界から、映像作品の提供を映像業界に求めたが、どこからも著作権の問題があるので提供できないと断られたのがこの問題の発端といわれています。通信業界は著作権の問題が解消されれば映像作品は提供されると勘違いし、同事務局に著作権法の改正を要望しました。
 それから20年以上この問題が議論されています。当初は契約システムの改善の視点から関係者間でルール作りの協議が行われてきましたが、最近は公益性のある分野においては許諾権の報酬請求権化と集中管理による報酬の徴収・分配の問題に集約されつつあります。また、ビジネス等の分野では、許諾権の集中管理の推進と集中管理されていないアウトサイダー対策に焦点が絞られています。
 本稿では、集中管理制度のあり方に関する考え方の変化とそれを踏まえて権利者としてどう対応すべきかについて考えていきます。

2 コンテンツのネットワーク利用で判明したわが国の契約システムの不備
 通信業界が映像作品の提供を求めた際、その提供が進まなかった最も大きな原因は、著作権問題ではなく、ビジネス上の問題です。この頃、映像業界は、放送、上映(興行)等の一次利用に加えて、パッケージソフトの販売・貸与、放送・再放送等の二次利用に関するビジネスモデルが構築されていました。今では当たり前になったネット利用ですが、当時は、ネット利用は将来的には有力な利用手段に成長することは理解しつつも、本当にビジネスとして成立するのか、通信業界等新規参入してきた異業種に映像作品の利用を委ねていいのかなど、コンテンツ業界は大いに悩んだことだと思います。
 しかし、実務の世界では、既存のビジネスモデルの変更は現時点で考えていない、提示された対価ではビジネスにならない等ビジネス上の理由を前面に出し提供を断ったわけではなく、多くの場合、著作権の問題があるので提供できないと断られたようです。このことは、当時文化庁著作権課に在籍していた私の所にある通信会社の幹部の方がお見えになって、映像業界から作品の提供を断られたが、具体的にどんな著作権問題があるのか意見を求められたことからも分かります。
ただし、この問題は放送番組と劇映画では少し性質が異なります。これは映画館での上映(興行)だけでなく二次利用も含めたマルチ利用を前提として製作されている劇映画(アニメを含む)と、放送目的のためだけに製作された放送番組の性質の違いによるものです。
放送番組については、当時は関係権利者から放送の許諾しか受けておらず、しかも放送事業者等にだけ認められた放送のための一時的固定制度(44条、102条)等の権利制限規定により、権利者から放送の許諾を得れば、条件付きながら複製(録音・録画)も可能となっていました。したがって、放送番組を二次利用する場合は原則改めて権利者から複製等の許諾を得る必要が生じることになります。特に俳優等の実演家については、本来ワンチャンス主義で一旦実演家の許諾を得てその演技を映画の著作物に録音・録画すると以後の利用については原則許諾権が働かないことになっていますが(91条2項)、放送番組の場合、実演家から原則放送の許諾しか得ていないので、二次利用については俳優の許諾権が働くことになります。俳優の場合、主演級から脇役まで全て権利者ですので、全員の許諾を得るのはかなり困難でこれが二次利用を妨げる大きな問題とされていました。
 一方、劇映画の場合は、マルチ利用が前提のコンテンツですので、マルチ利用を前提とした契約システムが整備されており、集中管理されている分野の著作物については、集中管理団体とネット利用に関する使用料額が妥結さえすれば、利用が拒否されることはなく、それ以降は集中管理されていないいわゆるアウトサイダーも含めそのルールにのっとって許諾が事実上自動的に受けられることになりました。
 このように、通信業者は、放送局が抱えている膨大な過去の放送番組に目を付けて、その提供を求めたのですが、結局放送番組の提供は進みませんでした。先述したように一番の理由はビジネス上の問題ですが、少なくとも放送業界においては二次利用を想定していない契約システムに問題があったことは間違いありません。ただ、このことは放送番組のパッケージソフト化についても同様のことがいえるのですが、現にパッケージ化が行われているということは、時間と費用をかけて地道に再契約を行えば、コンテンツの二次利用はできるということです。
 なお、ビジネス上の問題と関連しますが、放送業界に詳しい方の話によりますと、当時放送番組の製作はビデオ素材を用いており、ビデオが発売された直後はあまりにも高価であったため、ビデオの使いまわしが行われており、必ずしもすべての作品が保存されているわけでないということでした。また、ビデオ素材は劇映画で使われているフイルム素材に比べて劣化が早く、ビジネスに耐えるような十分な品質を維持している作品は少なく、それを修復するためには多額の費用が必要とされたとの指摘があるところです。 

3 契約システムの整備とその限界
映像作品のネット利用は、ある意味想定外の利用であったため、映像製作者は当初は慌てましたが、劇映画の場合は、もともとマルチ利用を前提とした契約システムを採用していたこともあり、短期間で著作権問題は解決されました。
問題は、放送番組でした。特に過去の放送番組については番組をネット事業者に供給するためには番組に関わる全ての権利者と改めて契約を締結し直す必要あったためです。この点については時間をかけて関係団体との協議が行われ一定のルール作りが行われましたが、権利者の中には集中管理団体に権利行使を委託していないいわゆるアウトサイダーの権利者も多く、許諾の拒否、使用料額が折り合わない、権利者が不明で連絡できない等のことから、許諾が得られないこともあったと聞いております。著作権の場合、原則として権利者全員の許諾がないと、利用ができないことになっていますので、理論的には、例えば主演の俳優が許諾していても、端役の一人が許諾しなければ番組は使えないということになります。また、俳優や歌手等の実演家については、露出管理の名目でネットへの提供を制限していた芸能プロダクション等もあり、権利者から許諾を得ることは難しい面もありました。

4 権利を弱めてコンテンツの流通促進を図る方策
 その後、契約システムが整うことと並行して、ネットによる著作物の利用が一つのビジネスとして認知されるに従い、著作権問題は解消されて行きましたが、過去の放送番組の利用については、番組製作者の努力だけでは対処できない課題も残りました。また、映像関係の著作権の契約問題は解消されつつありましたが、言語の著作物、美術・写真の著作物等の分野では、そもそも権利の集中化が進んでおらず、契約システムの整備も遅れていました。
 こうしたことから、集中管理の促進や契約システムの改善による対応に限界があるとみた政府は、著作物のネット利用を推進する立場から、公益性等の理由がある利用については、許諾権の行使を制限する代償として補償金請求権を付与し、利用の推進を進めました。
 2018(平成30)年に創設された授業目的公衆送信補償金制度や2020(令和2)年に創設された図書館等公衆送信補償金制度については、公衆送信により多数の人に著作物が提供されるので、著作物の通常の利用にも影響を与えるという特殊性を踏まえ、公衆送信により被る権利者の利益を補填するため補償金制度が導入されました。この補償金制度は、1992(平成4)年に導入された私的録音録画補償金制度(30条3項等)の仕組みを踏襲しており、法改正により全権利者の許諾権を補償金請求権化し、その権利を権利者側で創設された指定管理団体が強制管理することにより、補償金の徴収と分配が円滑に行われることを予定しています。
教育機関や図書館等における著作物の利用は、言語等の著作物が最も多く使われているにも関わらず、この分野は集中管理が遅れている分野です。マルチの利用を指向しているが1つのコンテンツに係る権利者が多い映像分野と、長い間出版というビジネススタイルにこだわっていた言語等の分野との違いがあるのかもしれません。
 2020(令和2)年の著作権法改正で導入された放送番組の同時送信等に係る円滑化方策は、先述したように既存の集中管理団体の仕組みを活用した新しい試みです。放送番組は、従来は放送で利用された後、パッケージ化されたり、別の放送局で再放送されたりと二次利用される場合が多いわけですが、放送目的で製作された放送番組は、その性質上、可能な限り又は可能であれば二次利用をするという性格のものです。しかしながら、放送とネットが融合する中で、特に情報番組やドラマについては、放送に加えて、同時配信、追っかけ配信(放送の終了時までにネットにより配信が開始されるもの)、見逃し配信(放送後1週間程度ネットで配信されるもの)が一体的に行われることが多くなりました。
一般に、このような利用実態の変化に対応するためには、契約システムを変更し、放送番組の製作時に権利者から放送の許諾だけでなく同時配信等も含めて許諾を得れば問題は生じないのですが、情報番組における視聴者提供の映像作品やインタービューにおける会話などについては契約を締結できないことも多く、また過去の放送番組のように、放送だけの契約しか行っていない作品もあるので、改めて契約を締結できないこともあります。権利者側は、例えば、一般社団法人映像コンテンツ権利処理機構(aRma)を設立するなどして映像実演に係る契約処理の円滑化を図るなど努力を重ねました。また、一般社団法人日本レコード協会においても、放送番組におけるレコードの利用について同様の対策を講じました。しかし、関係者の協力にもかかわらず、いわゆるアウトサイダー問題は民間の努力では解決できませんでした。
 このような課題を解決するために2020(令和2)年の著作権法改正が行われたわけですが、特に注目すべき事項としては、現行の集中管理制度による契約処理や契約システムの内容を尊重しつつ、いわゆるアウトサイダーについては、許諾権を補償金請求権に転換し、文化庁の指定がある場合は、当該補償金の受領と分配を指定管理事業者に委ねることとしました。
 放送番組の同時送信等に係る円滑化方策が、授業目的公衆送信補償金制度等と同様に、全ての権利者の権利を一律に補償金請求権化する制度にしなかったのは、いくつかの理由が考えられます。その中の1つの要因としては、集中管理制度と契約システムの普及により契約のルールが整備されていたことから、権利者の許諾権を補償金請求権に変更する分野をいわゆるアウトサイダーに限定するだけで、コンテンツの円滑な利用は確保できたので、全ての権利者の許諾権を制限する必要がなかったからだと考えます。

5 権利者不明等の場合における裁定制度の係る円滑化方策の導入
 2023(令和5)年の通常国会において著作権法の一部改正法が成立し、権利者不明等の場合における裁定制度の円滑化方策が実施されることになりました。この制度は、公益性があるかどうか、営利目的かどうか等利用目的にかかわらず、権利者不明等で権利者と利用許諾に関する交渉ができない場合、一定の要件を満たしたうえで文化庁に裁定の申請をすると、文化庁長官が権利者に代わって利用の許諾を出してくれるという一種の強制許諾制度です(67条 103条)。ただし、この制度は権利者の財産権の行使を制限するものですので、その手続きは厳格に定められています。しかしながら、手続きの厳格さがあるゆえに、あまり活用されていないという欠点もあったことから、それまで文化庁が担っていた行政手続きの一部分を文化庁が指定した専門機関に委ね、利用者がその機関を使って事務的負担を軽減し、より簡単に裁定制度を使えるようにしようとする試みです。
 なお、権利者の探索の過程で、集中管理団体に管理の有無について問い合わせをすることになりますが、そこで管理されていれば、裁定手続きを行う必要はなく、当該団体又は権利者から許諾を得ることができるのはいうまでもありません。

6 権利者の許諾権を守るため権利者はどうするべきか。
 このように2018(平成30)年以降、政府がコンテンツの流通促進を法律改正によってより確かなものにしようという傾向が強まっています。こういう時代にあって、権利者側が一番大事にすべきことは、許諾権をできるだけ維持することです。それを確保するために集中  管理制度の普及を促進することが重要と考えます。
 許諾権の集中管理は、利用者の申出と使用料の支払いによって自動的に許諾が出されるのに対し、無断利用者に対しては、損害賠償請求(民法709条)はもちろんのこと、利用の停止等を求めることができる差止請求権(112条)の行使ができますし、場合によっては罰則(119条等)の適用を求めることもできます。許諾権を維持するということは、このような強力な権利を残しておくということです。
 もちろん全ての利用について集中管理で対応する必要がないのはいうまでもありません。ただ、利用者側の要望も考慮しつつ、集中管理の対象範囲を拡大し、委託権利者の数を増やしていくことは、著作物の利用の円滑化に寄与するものであり、先述したような現在の社会状況においては、権利者の許諾権を守る唯一の手段と考えます。
 日本複製権センターが担当している言語、写真、美術等の著作物の分野は、わが国の音楽、実演、レコード等の他の分野に比べて集中管理が遅れています。外国の言語等の分野の集中管理団体と比べても同様です。
 こうした中、新しい時代において本センターの果たす役割はますます重要性を増していると認識しています。権利者及び利用者の皆様のご協力をお願いします。

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