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JRRCマガジン No.323 2023/6/8
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法9
【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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皆さま、こんにちは。
大輪の紫陽花が満開を迎えています。
いかがお過ごしでしょうか。
さて、本日は三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法の続きです。
三浦先生の連載は今回が最終回です。
三浦先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/miura/
8月からは、弁護士の井奈波先生にフランスの著作権法について執筆していただく予定です。
◆◇◆━三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法9━━
【1】著作者契約法 -著作権法の現代化
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国士舘大学法学部 三浦 正広
著作者契約法(Urhebervertragsrecht)とは、著作権契約において、契約相手方との関係で、情報量や交渉力の格差のために不利益な立場にある創作者(著作者)を、契約的弱者と位置づけて保護しようとする法規範を意味する。著作者契約法の対象となる著作権契約のモデル契約は、出版契約である。出版契約は、欧州各国において、民法上の典型契約とは異なる特殊の契約として位置づけられ、著作権法のなかに具体的な法規定が置かれ、契約自由の原則を修正して著作者を保護している。この著作者契約法は、日本法にはみられないドイツ著作権法の基本思想である。
出版契約は、実務上は契約書のひな型にもとづいて締結される場合が一般的である。出版契約以外の著作権契約については、それぞれの著作物の利用実態を踏まえて、出版契約に準じた形で作成される契約書のひな型を用いて運用されてきた。
このような著作者契約法の考え方は、欧州各国の著作権法のなかに見出すことができるが、ドイツにおいては、著作権法(旧著作権法(LUG))とは別の法律として、同じく1901年に制定された出版権法(Verlagsgesetz)に出版契約に関する規定が置かれていたため、出版権法に関する議論のなかで著作者契約法に関する議論が積み重ねられてきた。第2次世界大戦前の文献のなかに契約的弱者を保護する著作者契約法の理論に関する記述を見つけることができる。現行著作権法の制定(1965)に際し、著作者契約法の導入が議論の対象とされたが、立法の段階では部分的な規定が採用されるにとどまり、体系的な導入は見送られた。しかしその後も、著作権法学者を中心に、著作者契約法の制定を求める声が高まり、2002年に「著作者および実演家の契約上の地位を強化する法律」として、体系的な著作者契約法が制定されることとなった。
1990年代半ば以降、世界中にインターネットが普及し、民法上の契約において電子商取引が活発化したことから、EU指令に基づく消費者保護の観点を中心として、ドイツでは2002年に契約法(債務法)の大改正が行なわれた。このような動きは日本の民法改正にも波及し、「契約法の現代化」として認識されている。他方、著作権法の領域においては、音楽や映像などのいわゆるデジタル・コンテンツがネットワークを通じて瞬く間にサイバー・スペースを駆け巡る時代に突入したことにより、従来から著作権法で定められている著作者の権利の内容では十分な対応ができない状況が出現するに至った。情報通信技術の発達にともなう、そのような時代の移り変わりに対応するために、欧州諸国のなかでも、とりわけドイツでは著作者の権利の内容が大きく改められることとなる
。かつて著作者の権利は、著作物の利用に関する利益、および著作者とその著作物の人格的結びつきを保護する権利であると考えられていたが、著作物の利用に関する相当の報酬を保障する権利であると定められることとなった(著作権法11条2文)。この著作者の権利の内容の変更は、著作者契約法における相当報酬理論の法律上の根拠として位置づけられることとなる。この相当報酬理論は、著作者契約法の基本原理であり、著作権契約における報酬の相当性(32条)、フェアネス条項(32a条)、および共通報酬規定(36条)などにおいて定められている。
そのほかにも未知の利用方法に関する契約、著作権契約における著作者の同意、将来の著作物に関する契約、および撤回権などについて、著作者契約法に関する規定が定められている。
情報技術や複製技術の発達にともない、著作物の存在形態や利用形態が多様化するだけではなく、これまで知られていなかった新たな利用方法が出現する可能性がある。たとえば出版契約において、従来の印刷による出版に加えて、電子出版が行われるようになった場合や、ラジオやテレビ放送(放送)に加えて、インターネット配信(自動公衆送信)が現われたような場合である。この未知の利用方法に関する契約については、著作者契約法の観点からも、契約上のトラブルを回避することで著作者を保護するのか、あるいは利用の円滑化を図ることで著作者を保護するのかという見解の相違により、欧州諸国においても立法にばらつきがみられる。
ドイツ法は、現行法制定当初は、未知の利用方法に関する契約は無効であると規定していたが(31条旧4項)、EU情報社会指令による域内ハーモナイゼーションの要請を受けて著作権法が改正された(2007)。すなわち、未知の利用方法に関する契約は、契約書面の作成を要件として容認されることとなった(31a条)。元来このような契約を無効としていたのは、あくまで著作者保護を目的とするものであったが、まさに日進月歩といえる情報通信技術の発展とともに著作物の利用形態が多様化するなかで、契約時に未知であった利用方法でも、近い将来に未知ではなくなる可能性があり、その場合、将来において実現可能性が高い利用方法が契約条項のなかに含まれないとすると、それは著作者に経済的な不利益をもたらしかねないということが考慮されている。
また、著作者契約法においては、相当報酬理論によって著作物の利用により得られる著作者(創作者)の財産的利益を確保するにとどまらず、利用による不利益を受けやすい著作者の人格的利益の保護に配慮されている。
著作権契約において同一性保持権をどうのように保護するかは、著作者契約法における最重要課題である。日本の著作権法には明文の規定はなく、著作者人格権の保護のあり方は契約実務に委ねられているといってよいが、ドイツ著作権法には明文の規定が置かれている。著作権契約において権利の設定的移転を受けた者は、その利用権を第三者に譲渡することも再移転することも可能となるが、そのいずれの場合においても著作者の同意が必要とされる(34条、35条)。利用権の移転、譲渡および再移転の際に著作者の同意が必要とされ、著作物の利用において著作者の意思が反映されることで、著作者の財産的利益だけではなく、人格的利益が保護されることになっている。
さらに、著作者の権利は、基本的には著作物の創作と同時に発生するものであるが、未だ完成していない、将来において作成される著作物の利用契約においても、著作権の譲渡または移転が行なわれる場合がある。しかし、このような契約は、出版者側に有利な場合に利用されることが多く、欧州各国のなかには著作者保護の観点からこのような契約を認めていない立法もみられるが、ドイツ法は、著作者保護の観点から例外的に書面の作成を要件として将来の著作物に関する契約を容認している(40条)。
そして最後に、著作者契約法上の権利として重要なのは、撤回権である(41条、42条)。撤回権とは、著作物の利用契約締結後に、利用権の譲受人が契約上の義務を履行しない場合(不行使による撤回権)や、著作者の信条が変わった場合において、著作者は、利用権の譲受人に対し、利用権の撤回を求めることができるという権利である。設定された権利を撤回することにより、契約を覆すことになるが、その効果があまりに絶大であるため、これらの権利が実際に行使される例は稀のようである。
ところが、EU域内市場(DSM)指令(2019)において、不行使による撤回権が導入された。たとえば出版契約の特性として、出版者は出版義務(行使義務)を負うこととなるが、一般的な著作権契約においては利用権の行使義務はない。著作者契約法上の撤回権は、著作権契約において行使義務に関する取り決めがなくても、著作物が利用されない場合に、著作者はその利用権を撤回することができる。これにより、著作物の利用が促進され、著作者の財産的利益が保護されることになる。
相当報酬の原則およびこの不行使による撤回権に関する規定がDSM指令に採用されたことにより、ドイツ著作権法にける著作者契約法の思想は、EU加盟国へと拡大することとなった。
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【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)受付中!
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今年度最初の著作権講座(初級)を6月22日(木)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。
★日 時:2023年6月22日(木) 13:30~16:30★
プログラム予定
13:30~15:00 著作権制度の概要
15:00~15:10 休憩
15:10~15:20 JRRCの紹介
15:20~16:30 最近の著作権制度の課題等
★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/230523-2/ ★
締 切:2023年6月16日(金) 12:00
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