JRRCマガジンNo.324 最新著作権裁判例解説8

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジン No.324    2023/6/15
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料) 明日受付締切り!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さま、こんにちは。

梅雨に入り、うっとうしい毎日が続いています。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その8)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

前2回の(その7-1)・(その7-2)では、東京地決平成4年11月25日(令和3年(ヨ)第22075号)〔版画美術館事件〕を取り上げました。その際、版画美術館における建築の著作物性について解説するに当たり、応用美術に関する著作権保護の点については「今後別の裁判例で取り上げる際に解説をする予定」と申したところであり、そのため、第8回の今回は大阪高判令和5年4月27日(令和4年(ネ)第745号)〔布団テキスタイル事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、テキスタイルデザイナーから原判決別紙絵柄目録記載1のデザイン(以下「本件絵柄」という。)の著作権を譲り受けたと主張する控訴人が、被控訴人らが別紙被告絵柄目録記載1、2の絵柄を付した布団を製造、販売する行為が、本件絵柄について控訴人の有する著作権を侵害する行為であると主張して、被控訴人らに対し、著作権法112条1項及び同2項に基づき、原告絵柄の複製、頒布の差止め及び同絵柄の複製ないし翻案された寝具等の廃棄を求めるとともに、共同不法行為に基づき、2684万9370円の損害賠償金及びこれに対する上記不法行為後の平成30年8月22日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案です。

<判旨>
 控訴人の請求を棄却。
「・・・著作権法2条1項1号は、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定し、同法10条1項4号は、同法にいう著作物の例示として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を規定し、同法2条2項は、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」と規定している。ここにいう「美術工芸品」は例示と解され、美術工芸品以外のいわゆる応用美術が、著作物として保護されるか否かは著作権法の文言上明らかでないが、同法が、「文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作権につき審査も登録も要することなく長期間の保護を与えているのに対し(同法51条)、
産業上利用することができる意匠については、「産業の発達に寄与すること」を目的とする意匠法(同法1条)において、出願、審査を経て登録を受けることで、意匠権として著作権に比して短期間の保護が与えられるにとどまること(同法6条、16条、20条1項、21条)からすると、産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。そして、ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。」
「以上の観点から、本件絵柄についてみると、本件絵柄それ自体は、テキスタイルデザイナーであるP1によってパソコン上で制作された絵柄データであり、また、実用品である布団の生地など、量産衣料品の生地にプリントされて用いられることを目的として制作された絵柄であるが、その絵柄自体は二次的平面物であり、生地にプリントされた状態になったとしても、プリントされた物品である生地から分離して観念することも容易である。そして、本件絵柄の細部の表現を区々に見ていくと、控訴人が縷々主張するようにテキスタイルデザイナーであるP1が細部に及んで美的表現を追求して技術、技能を盛り込んだ美的創作物であるということができ、その限りで作者であるP1の個性が表れていることも否定できない。
 しかし、本件絵柄は、その上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に模様が連続するように構成要素が配置され描かれており、これは、本件絵柄を基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品(工業製品)に用いる大きな絵柄模様とするための工夫であると認められる(本件絵柄は、原告商品であるシングルサイズの敷布団では上下左右に連続して約6枚分、掛布団では同様に約9枚分プリントされて全体に一体となった大きな絵柄模様を作り出すよう用いられている(弁論の全趣旨)。)から、この点において、その創作的表現が、実用目的によって制約されているといわなければならない。
 また、本件絵柄に描かれている構成は、平面上に一方向に連続している花の絵柄とアラベスク模様を交互につなぎ、背景にダマスク模様を淡く描いたものであるが(本件絵柄に用いられている模様が、このように称される絵柄であることは訴訟当初から当事者間に争いがない。)、証拠(乙2、丙3ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、アラベスク模様はイスラムに由来する幾何学的な連続模様であり、またダマスク模様は中東のダマスク織に使用される植物等の有機的モチーフの連続模様であって、いずれも衣料製品等の絵柄として古来から親しまれている典型的な絵柄であり、これら典型的な絵柄を平面上に一方向に連続している花の絵柄と組み合わせ、布団生地や布団カバーを含む、カーテン、絨毯等の工業製品としての衣料製品の絵柄模様として用いるという構成は、日本国内のみならず海外の同様の衣料製品についても周知慣用されていることが認められる。
そして、本件絵柄における創作的表現は、このような衣料製品(工業製品)に付すための一般的な絵柄模様の方式に従ったものであって、その域を超えるものではないということができ、また、販売用に本件絵柄を制作したP1においても、そのことを意図して、創作に当たって上記構成を採用したものと考えられるから、この点においても、その創作的表現は、実用目的 によって制約されていることが、むしろ明らかであるといえる。
 そうすると、本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない。
 したがって、本件絵柄は、「美術の著作物」に当たるとはいえず、著作物性を認めることはできないというべきである。」

<解説>
 応用美術に対して著作権法による保護がどのように及ぶのかという点は著作権法学の世界において長年・積年の課題の一つになっています。現行法の条文では、例示著作物の一つに「美術の著作物」が掲名されるとともに(第10条第1項第4号)、第2条の定義規定でも、拡張的規定の一つとして「この法律にいう「美術の著作物」には美術工芸品を含むものとする。」(第2項)(注1)が整備されているにとどまっています。
 一見すると、これらの条文では「美術」の用語のみ表れていることから、応用美術も美術の著作物に包含されるのが自明のことであるかのように感じられるかもしれませんが、まず「応用美術」と「美術工芸品」とが指し示すものについては、第2条第2項に関する解説として次のように述べられています。「本項では、美術工芸品、すなわち壺・壁掛けなどの一品製作の手工業的な美術作品に限って、応用美術作品ではあるが純粋美術あるいは鑑賞美術の作品と同視するという考え方を採りまして、著作権法上の美術の著作物に含めております。逆に申しますと、産業用に大量に生産される工芸品あるいはその他の実用品については、美術の著作物という概念には入れないということで、意図するところは、著作権法にいう美術の著作物というのは鑑賞美術の著作物であって、応用美術の領域に属する産業用の美的な作品は、美術工芸品を除いて著作物とはみなさないという趣旨であります。結局のところ、美術工芸品以外の染色図案その他の応用美術に対する保護は、今後の課題として残されたということでございます。」(注2)
 現行法立案担当者による上記の説明を見る限り、現行法制定時に念頭に置かれていた美術の著作物は、純粋美術(鑑賞美術)+一品製作の手工業的なものである美術工芸品に限られており、それら以外の応用美術は著作権法の対象外とするとの考え方が採用されていて、後者は専ら意匠法によって保護するという意図であったように読めるところです。その真意はさておき、応用美術とは純粋美術と対置される概念として用いられており、厳密な意味での定義付けがなされている訳ではないのですが、「おおむね次のような、実用に供され、あるいは、産業上利用される美的な創作物をいうものと解される。(一)美術工芸品、装身具等実用品自体であるもの (二)家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの (三)文鎮のひな型等量産される実用品のひな型として用いられることを目的とするもの (四)染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするもの」と説明・分類されています(注3)。
 他方で、産業の発達をその法目的とする意匠法上保護される意匠のうち、伝統的な物品の意匠とは「物品・・・の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合・・・であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」とされ、応用美術に関して著作権法と意匠法との保護関係がどのようなものであると考えるべきなのかが、現行法制定時よりも前から課題となっていました。
 裁判例においては現行法制定以降、初期の時点からいくつかの例が存在しており、例えば、博多人形に関する事例(注4)、仏壇彫刻に関する事例(注5)では著作権保護が肯定される一方、佐賀錦袋帯に関する事例(注6)、木目化粧紙に関する事例(注7)、育成型電子ペットに関する事例(注8)では著作権保護が否定されています。これらの裁判例の時代においては、必ずしも判断基準が一致している訳ではないものの、問題となった応用美術につき、純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞性がある場合には著作権の保護が認められるとするものが多いという状況でした(ただし、実際には、そのような基準の下で判断した結果、純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞性が認められないとして、著作権保護が否定された例が多いのが実情)。
 このような純粋美術と同視し得る「程度」の美的鑑賞性という基準については、意匠法との関係についての調整規定を欠く中で同法による保護領域との関係を考慮して採用された考え方ではあるものの、学説上も、抑々論として著作物要件における創作性につき一般的には何らかの個性が出ていれば足りるとしつつ、他方で応用美術に関してのみ一定以上のレベルを要求するかのような基準を用いることへの疑問が提起されるようになっていたところ(注9)、近時、応用美術に対する著作権保護の判断基準について相互に異なる基準を用いて判断した二つの裁判例が短期間で相次いで出されるに至りました。
 まず、ファッションショーにおけるモデルの化粧や髪型のスタイリング等の著作物性について判断した事例(注10)においては、「実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては・・・2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるであるから,当該部分を・・・美術の著作物として保護すべき」、「他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては・・・同号における著作物として保護されないと解すべき」とし、分離鑑賞可能性説に沿った判断が示されています。
 他方で、実用目的を有する幼児用椅子の著作物性について判断した事例(注11)においては、「応用美術については.著作権法上,明文の規定が存在しない」が、著作権法第1条の法目的に鑑みると、「表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは相当ではな」く、「例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条第1項第1号所定の著作物性の要件を充たすものいついては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべき」とした上で、「応用美術は・・・表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,
個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき」と述べ、従前の純粋美術同視性の判断基準を明確に否定しています。さらに、被疑侵害者が主張していた分離鑑賞可能性説についても、「実用品自体が応用美術である場合,当該表現物につき,実用的な機能に係る部分とそれ以外の部分とを分けることは,相当に困難を伴うことが多いものと解されるところ・・・両部分を区別できないものについては,常に著作物性を認めないと考えることは,実用品自体が応用美術であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり,相当とはいえ」ず、「加えて「美的」という概念は,多分に主観的な評価に係るものであり,何をもって「美」ととらえるかについては個人差も大きく,客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することが困難な場合が多いことから,判断基準になじみにくいといえる」として、美の一体性説に基づく説示が行われています。
 これらの両判決が出された以降、応用美術に係る著作物性の判断について、暫くの間は併存的な状況が推移しました。例えば、ピクトグラムの事例(注12)では分離鑑賞可能性説が、加湿器の事例(注13)では第一審は分離鑑賞可能性説が、他方で控訴審は美の一体性説(に与するかのような判断基準)(注14)が採用されており、また、ゴルフクラブのシャフトのデザインの事例(注15)でも第一審と控訴審とで上記加湿器の事例と全く同様の判断基準の分かれ方になっています。
 応用美術そのものの著作物性について判断された最高裁判例がない現状において(注16)、この点に関する判断基準の統一化がなされるようになってはいませんが、美の一体性説による判断基準を採用するのは特定の裁判体であるように思われる旨の指摘(注17)もなされているところ、ここ数年の裁判例(注18)を見る限りでは美の一体性説ではなく(分離)鑑賞可能性説による判断基準が採用されている状況です(注19)。
 今回取り上げた裁判例も分離鑑賞可能性説を採用しており、応用美術の著作物性に関する最近の裁判例の傾向に沿った判断をした事例の一つに位置づけられるものです(注20)。ただし、今回の判決については、注目をしたい点がいくつか存在します。応用美術の著作物性に係る分離鑑賞可能性説に基づく判断基準を用いた代表的な裁判例としては、前掲知財高判〔ファッションショー事件〕(以下「ファッションショー控訴審判決」という。)や、近時のものとして知財高判令和3年12月8日(令和3年(ネ)第10044号)〔タコの滑り台事件〕(以下「タコ滑り台控訴審判決」という。)(注21)などがあります。
これらの判決における分離鑑賞可能性の判断基準は「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるもの」であるかどうかをメルクマールにしていますが、今回の判決では<判旨>に掲げたように「・・・実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。」(さらに「そして、ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。」と続けられています)とされています。この両判決の文言の関係性についてはどう考えるべきなのでしょうか。
この点は従来の判決で適示されてきた「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成」の指示対象をどう捉えるかに関わってくる問題です。文章表現の語感として「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成」と言われれば、製品の物理的な形状を思い浮かべるのが通常でしょう。実際、タコ滑り台控訴審判決で検討されていたのはタコの足型になっているスライダー部分等であったので、まさにそうした形状から生ずる物理的な制約がある中で、それと分離して美的鑑賞の対象となる美的特性を把握できるかどうかが個々の箇所について検討されていました。他方で、ファッションショー控訴審判決で検討対象となったのは個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング、着用する衣服の選択や相互のコーディネート、装着されるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート等であり、その点からすると「実用目的を達成するために必要な機能に係る構成」については本山雅弘先生が指摘されるところと重なりますが(注22)、物の形態以外のソフト的なものも含まれることとなります。
そして、今回の判決では花柄等の図案に係る布団デザインを検討対象としており、布団を並べた場合の絵柄・模様の配置に係る工夫の在り方をというハード・ソフトの制約について云々されていることからすると、今回の判決は従来のファッションショー控訴審判決やタコの滑り台控訴審判決で全体的にカバーされる範囲と基本的に同様のことを言っているように思われます(注23)。寧ろ、相違点があるとすれば「実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべき」の部分だと思われますが、実用目的との関係での制約以外のものとして応用美術に係る美術の著作物性を否定する要素にどのようなものがあり得ると裁判所が考えているのかはよく分からない部分です。
実用目的も含めて複合的な要因により制約されているというような場合があり得るのかもしれませんが、抑々実用目的というのは上述の通り、ハード・ソフトのいずれの要因も含まれるとするならばその範囲は相当程度に及ぶものと考えられるところであり、まさに実際の用途・態様と言い換えることができるような概念だと考えられます。そしてこのことが今回の判決における別の注目点である「本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない」と判示していることへの評価に繋がっていると考えられるところです。
今回の判決を裁判例検索サイト上で見てみると、実際の絵柄の目録が視覚的に確認できるのですが、花を描いた部分については花を一つだけ切り出して眺めると、これは花を描いた絵と何ら遜色無いものです。そうすると、この部分を切り出すと、まさに美的鑑賞の対象となる美的特性を有する部分と捉えることができそうに思えてきます。しかしながら、裁判所が考えているポイントは恐らく別のところにあり、「布団のデザインに描かれているのは花ではあるが、その連鎖的に描いている状態やダマスク模様等も一緒に描かれていたり、シングルサイズの敷布団・掛け布団で各々数枚分を合わせて一体的に絵柄模様を作り出すように意図してつくられていることからすると、これは花の「絵」ではなく、敢えて言えば布団全体のデザインの一部を構成するに過ぎない花の「柄・模様」の類であって、布団を販売するための意匠的工夫でしかなく、本件においては美的鑑賞性の対象となる美的特性を分離して独立に把握することはできない」というようなことでしょう(注24)。
だからこそ今回の判決では、デザインの個々の部分に捕らわれるのではなくて全体としてそれがどのようなものとしてつくられているのかという点から判断しなければならないのだ、という趣旨の説示になったものと考えられます。そのように裁判所が一種の割り切りをする理由は、結局のところ、今回の判決でも取り上げられている意匠権と著作権との棲み分け・関係性を考慮するが故のことであり、その心根はファッションショー控訴審判決の裁判長であった設樂隆一先生の言(注25)に集約されているものと推察されます。即ち、やや粗く総括すると、保護期間が比較的短期の登録主義による意匠法で規律される領域において、長期間の保護が認められる無方式主義の著作権を広く認めるようなことは実務上の混乱が大きく、両制度間での調整規定等を欠く現行法制上の解釈論としては採用すべきでない、ということになるものです。
 今回の判決にいう「実用品である衣料製品としての産業上の利用」とはそうした意図・広さを持った概念として捉えられるものと解されますが、そうすると今度は逆に、実用品に用いられているが「・・・独立して美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている」場合は一体どれほど存在するのか、実は殆ど存在しないのではないかという疑問が湧くことにもなります(注26)。例えば、今回の判決のケースにおいて、最初に花の絵が元々別に存在していて、それを布団のデザインに採用した場合はどうなるのでしょうか。この場合は元の花の絵における表現上の創作性が布団上に再製されている以上、その花のデザインが連続的に描かれていようと、或いは、ダマスク模様と一緒に描かれていようと、美術の著作物性を否定することは困難であると思われます。
そう考えると、同じ美的鑑賞性が存在し得るような花を描いたものでもその制作目的や配置表現上の工夫の有り様によって美術の著作物性の有無を分けるという考え方には不安定さが生じることとなるものであり、私見では本件においても花の部分について美術の著作物性を否定した点には疑問が残るところと言わざるを得ません(注27)。分離鑑賞可能性説は今後の裁判実務においても引き続き採用されることになると思われるところ、その実用目的・実用的機能とそこからの分離とに関する捉え方についてはさらに精査していく必要があるのではないかと考えます(注28)。今回は少し長くなりましたが、以上といたします。

(注1)本論とは無関係であるが、第2条第2項は「この法律にいう美術の無体物には美術工芸品という有体物を含むものとする」という文章になっており、概念的には不整合な条文になっている。
(注2)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』72~73頁。
(注3)昭和41年4月20日付『著作権制度審議会答申説明書』50頁。
(注4)長崎地佐世保支決昭和48年2月7日無体裁集5巻1巻18頁〔博多人形事件〕
(注5)神戸地姫路支判昭和54年7月9日無体裁集11巻2巻371頁〔仏壇彫刻事件〕
(注6)京都地判平成元年6月15日判時1327号123頁〔佐賀錦袋帯事件〕
(注7)東京高判平成3年12月17日知的裁集23巻808頁〔木目化粧紙事件〕
(注8)仙台高判平成14年7月9日判時1813号145頁〔ファービー人形事件〕
(注9)例えば、高林龍『標準著作権法第5版』48~49頁では「・・・従前の下級審判決の傾向としては、応用美術について著作物性を認める要件を,通常の美術の著作物とは異なって,「専ら美を追求して制作された」,「純粋美術としての高度の美的鑑賞性を有する」といった高度の美的な鑑賞性・創作性を要求する立場・・・が主流であり,学説としてもこのようないわゆる「段階理論」が通説といわれていた。しかし,応用美術についてのみ何故通常の美術の著作物以上の高度の美的な鑑賞性・創作性が要求されなければならないのか,条文上に根拠のないわが国の著作権法下においては,そのような説明が理論的にできるのかには疑問も呈されていた」と述べている。
(注10)知財高判平成26年8月28日判時2238号91頁〔ファッションショー事件〕。
(注11)知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁〔TRIPP TRAPP事件〕
(注12)大阪地判平成27年9月24日判時2348号62頁〔ピクトグラム事件〕
(注13)東京地判平成28年1月14日判時2307号111頁〔スティック型加湿器事件(第1審)〕、知財高判平成28年11月30日判時2338号96頁〔同控訴審〕
(注14)前掲注13の控訴審判決では「・・・著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても」として一旦分離鑑賞可能性説の志向する考え方への言及を行いつつも、しかしながらそれに続けて「高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に認定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべき」と述べており、美の一体性説に引き寄せたような説示が行われている。
(注15)東京地判平成28年4月21日判時2340号104頁〔シャフトデザイン事件(第1審)〕、知財高判平成28年12月21日判時2340号88頁〔同控訴審〕
(注16)ただし、応用美術に関する分離鑑賞可能性説は、前掲注10の知財高裁判決において印刷用書体の著作物性を否定した最判平成12年9月7日民集54巻7号2481頁〔ゴナ書体事件〕が引用されており、同最判において、印刷用書体が著作物として保護されるためには「従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり,かつ,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない」とされた点に影響を受けて定立された基準である。設樂隆一「応用美術についての一考察 ―知財高裁ファッションショー事件を契機として―」中山信弘編『知的財産・コンピュータと法 野村豊弘先生古稀記念論文集』275頁以下。
(注17)小倉秀夫=金井重彦『著作権法コンメンタール改訂版Ⅰ』215頁[金井重彦]
(注18)例えば、大阪地判平成30年10月18日(平成28年(ワ)第6539号)〔傘立て事件〕、東京地判令和元年6月18日(平成29年(ワ)第31572号)〔BAOBAO事件〕、知財高判令和3年12月8日(令和3年(ネ)第10044号)〔タコの滑り台事件〕など。
(注19)前掲注9の高林・50頁では、美の一体性説について「非限定説」と表現しているところ、「・・・非限定説を採用する判決は姿を消したといってよい状況にある。」とされている。
(注20)ただし、分離鑑賞可能性説に基づく判断基準の微妙な変移を指摘するものとして、本山雅弘講演録「応用美術の美的機能と著作権法による保護 ―分離可能性基準と「2つの応用美術問題」をめぐって―」『コピライトNo.740 Vol.62』2頁以下。
(注21)本裁判例解説(その7-1、2)ではあまり触れなかったが、建築の著作物性を判断するに当たり、このタコの滑り台事件における第一審判決及び控訴審判決では、著作物の定義規定における「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」の要件との関係で、建築の著作物は応用美術に類するものと捉え、建築の著作物性に関しても応用美術に係る基準と同様の基準で判断することが相当であるとされており、この点は上記本裁判例解説(その7-1、2)で取り上げた版画美術館に係る建築の著作物性の判断に連なる点であると考えられる。
(注22)前掲注20・本山6~7頁。
(注23)ただし、分離対象としてどのような点をその要素に入れるか・入れないかの点は構造的に差異が見られるとの指摘がある。前掲注20を参照。
(注24)なお、個別部分の図柄に着目する裁判例ではあるが、女性用衣類における胸部の花のデザインにおける美術の著作物性等が争点となった大阪地判平成29年1月19日(平成27年(ワ)第9648号、平成27年(ワ)第10930号)〔Chamois事件〕でも、原告商品・・・の花柄詩集部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認めれない。」と判示している。
(注25)前掲注16・設樂286頁では「応用美術について、広い範囲で著作権法により保護するとなると、現行法では、個人では死後50年間、法人著作等でも公表後50年間保護されることとなり(筆者注:現在は各々70年後までに延長)・・・、存続期間を登録から20年(筆者注:現在は創作後25年後までに改正)・・・とする意匠法による存続期間とのアンバランスが問題となるだけでなく、保護期間が短いことからすると意匠登録手続をする意味もないことになる。また、著作権法による保護には、著作者人格権が伴うため、応用美術の著作物の利用許諾を巡る困難さが増加するであろう。
さらに、応用美術は、様々な業界において著作物として保護されるものが無数に発生するため、著作権法による無方式で登録する必要もない長期間の保護を認めることになると、他人から権利侵害を主張される可能性が実質的に増えることになり、登録意匠に触れない限り自由にデザイン活動ができる現在の環境が実質的に変容してしまうおそれがある(他人の著作物へのアクセスがない限り、著作権侵害が認められることはないものの、他人の著作物に類似しているとして侵害訴訟で訴えられること自体が、ビジネスにおいて大きな負担になるであろう。)。これらを総合すると、応用美術については、現行の著作権法のまま、法解釈によりこれを広く認めるべきではなく、応用美術の保護を広く認めるとしても、少なくとも明確な立法が必要であり、また、立法の前には、慎重に各業界の意見を聴取し、応用美術を認めるとしてどの範囲で応用美術を認めるべきか、及びその保護期間をどうすべきか等について広く慎重な検討がされるべきであろう。」と述べている。
(注26)前掲注11の判決における裁判長による懸念につき、清水節・講演録「応用美術に対する著作権による保護について ―知財高裁平成27年4月14日判決「TRIPP TRAPP事件」を中心として―」『コピライトNo.663 Vol.56』2頁以下。
(注27)応用美術そのものではないが、衣服に写真織が施されている場合、これ自体は写真の著作物に該当するところ(第2条第4項)、写真織の表現が一つのみでなく、小さくまた連続的に施されていて模様のようにも見える場合はどうなるのかという点も疑問の湧き得るところではある。尤も、写真織であるならば(単なる解釈論ではなく、)第2条第4項の明文規定があるので、写真織で表現される模様らしきものがやはり写真の著作物に該当することには変わりないと思われるが(その意味では、応用美術の場合と同一に論じられないのかもしれないが)、他方でこうしたデザインの著作物性に対する認識の有無とは別次元でそのデザインの衣服が意匠出願されることもあり得るのではないかと考えられるところであり、そうすると、後行意匠創作者による意匠創作の自由を念頭に置いた意匠法の現状の規律領域に対して著作権法による長期の保護が徒に及ぶべきではないという点では、実際の影響を考えると、応用美術の場合と同様の問題を抱えることになるのではないかと思われる。
(注28)この点に関し、前掲注20・本山・15頁以下では、応用美術における物的機能と美的機能とについて、その実用便の形態の本質的な取引価値にける相対的評価・衡量評価を行うことによって、当該実用品の表現に対する著作権保護を認めるか否かの判断基準が提示されており、大変興味深い見解である。

◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料) 明日受付締切り!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
今年度最初の著作権講座(初級)を6月22日(木)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。

★日 時:2023年6月22日(木) 13:30~16:30★

プログラム予定
13:30~15:00 著作権制度の概要
15:00~15:10 休憩
15:10~15:20 JRRCの紹介
15:20~16:30 最近の著作権制度の課題等

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/230523-2/ ★
締 切:2023年6月16日(金) 12:00

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      インフォメーション
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジンはどなたでも読者登録できます。お知り合いの方などに是非ご紹介下さい。

□読者登録、配信停止等の各種お手続きはご自身で対応いただけます。
ご感想などは下記よりご連絡ください。
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

■各種お手続きについて
JRRCとの利用契約をご希望の方は、下記よりお申込みください。
(見積書の作成も可能です)
⇒https://jrrc.or.jp/

利用許諾契約書のサンプルについては、下記よりご確認いただけます。
⇒https://system.jrrc.or.jp/keiyaku/

ご契約窓口担当者の変更 
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

バックナンバー
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      お問い合わせ窓口
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━        
公益社団法人日本複製権センター(JRRC)
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

編集責任者 
JRRC代表理事 川瀬真
※このメルマガはプロポーショナルフォント等で表示すると改行の位置が不揃いになりますのでご了承ください。
※このメルマガにお心当たりがない場合は、お手数ですが、上記各種お手続きのご意見・ご要望よりご連絡ください。

アーカイブ

PAGE TOP