JRRCマガジンNo.321 新聞と著作権2 侵害は際限なく

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JRRCマガジン  No.321 2023/5/25
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その2
【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)本日受付開始!
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皆さま、こんにちは。

6月22日(木)開催の著作権講座(初級)の受付を本日開始いたしました!
本講座は著作権法を学んだことの無い初心者の方にはもちろん、
組織内で著作権のイロハのイを学びたい方、管理職の方で組織内の著作権教育の為の基礎知識を学びたい方にも体系的に学んでいただけます。
*詳細はページ下部をご覧ください。

さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。

福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/

◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その2━━
 侵害は際限なく
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  福井 明

 新聞の記事や写真を無許諾で違法に使うことは、新聞社の著作権侵害になります。新聞社は今、記事・写真などのコンテンツを利用許諾して使用料を得るビジネスに力を入れています。このため、企業や個人のそうした侵害に削除要請などをすることは、知的財産管理部門の大きな仕事です。今回は新聞社の侵害対応について書きたいと思います。
 30数年前、私は毎日新聞で関西のある大きな官庁を担当していました。そこは毎朝、広報部門の人たちが各紙の関係記事を切り抜き、冊子にして大量にコピーし、役所の幹部や記者クラブの各社に配っていました。私は朝、記者クラブに出勤すると、その記事の冊子に丹念に目を通していました。各紙の細かい記事までカバーされていて、「仕事の役に立つなあ」と思っていました。
 12年前、法務室・知財管理センターに配属され、そうした記事の使い方は「クリッピング」にあたり、利用する記事の新聞社との契約が必要なことを知りました。クリッピングとは、官庁や企業といった組織が連日、継続して、繰り返し記事(おおむね1カ月5記事以上)をコピーしたり、社内ネット送信したりして共有する行為です。契約方法は新聞社によって異なりますが、1カ月間に何本の記事を使い、何人が読むのか、といったことを基準に利用料を決めるのが基本です。
 かつて担当した関西のその官庁が毎日新聞社とクリッピング契約を結んだのは、私の知財管理センター着任後でした。会社の許諾担当者らは以前から、国や地方の官庁にクリッピング契約締結を積極的に働きかけており、その官庁と「ようやく契約できた」と話していました。30数年前の記録はありませんが、おそらく私が担当していたころ、記事利用の契約はなかった可能性が大きいとみられます。現場で連日の利用をOKする申し合わせがあったかもしれませんが、社内的にそれが有効かというと、はなはだ疑問です。また、私も、便利さを享受するだけで、「各新聞社と契約はしているの?」と官庁側にただす発想はありませんでした。
 30数年たって、組織や個人の著作権を守る意識が飛躍的に高まったかというと、残念ながら、まったくそうではありません。新聞社の知財部門は日々、ネットサーフィンをしたりして、自社の記事、写真の無許諾利用がないかを点検していますが、無許諾利用は際限がない状態です。
 毎日新聞では、こうした利用を見つけた場合、侵害している組織のホームページや個人ブログの窓口、あるいはプロバイダーに著作権侵害に基づく削除要請をします。さらに、悪質な侵害に関しては、先方に侵害を認めさせ、それまでの無許諾利用件数を報告させたうえで、使用料を請求したりします。新聞社と侵害組織の間の協議が決着せず、訴訟に及ぶケースもあります。
 昨秋、新聞業界が注目する裁判の判決が東京地裁でありました。「つくばエクスプレス」を運行する首都圏新都市鉄道株式会社(TX社)が2005年の開業時から約14年間、きわめて多くの記事を無許諾で社内イントラネットに掲示し、社員約700人が閲覧できるようにしていたのは悪質な著作権侵害だとして、東京新聞(中日新聞社)と日経新聞社がそれぞれ、TX社に多額の損害賠償金支払いを求めた訴訟の判決です(東京新聞は10月6日、日経新聞は11月30日)。
 この訴訟では記事の著作物性が大きな争点になりました。TX社側が口頭弁論で「新聞報道記事は事実を伝達するものであり、創作性があってはならない。このため、記事には創作性がなく、著作物とはいえない」「記者による記事化が高度な知的作業だとしても、そのことと創作性は関連しない」(日経新聞訴訟の判決文から)と、記事の著作物性を否定していたからです。
これは、新聞社で知財管理にかかわっている者として、とうてい受け入れられる主張ではありません。
 確かに著作権法は「事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道は著作物に該当しない」(第10条2)と定めています。著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもの」なので、だれが書いても同じになる「事実の伝達」記事に、思想、感情、創作性はないという訳です。しかし、これは亡くなった人の名前、年齢、葬儀の日時、会場、喪主名だけを記した訃報や、異動者名と役職をつづった人事記事などに限られます。
一般記事の場合、記者はまず、多くの情報の中から「これがニュースだ」と判断して、書くものを選び、そして取材し、どのような記事にまとめ上げるか頭を絞ります。記事全般について「著作物性がない」と言うのは、あまりに乱暴です。
 結局、いずれの判決も「記事は、読者に分かりやすく伝わるよう表現上の工夫がされている。創作的な表現であり、著作物と認められる」(東京新聞訴訟判決文)と記事の著作物性を認め、TX側が「原告の複製権および公衆送信権を侵害した」と認定しました。
 なお、中日、日経両社とも賠償額をさらに争い、ともに控訴しています。近く、いずれも二審判決を迎える見通しです。
 また、ネット空間にある新聞社・通信社の写真やイラストなどが大量に、勝手に使われたケースとしては、国内最大級の読者投稿型ニュースまとめサイトだった「NAVERまとめ」の問題がありました。このサイトは、利用者が特定のテーマを設け、ネット空間などから関連情報を集めて一つのまとめページを作り、投稿する仕組みで、閲覧数は月間約20億ページビューもありました。
毎日新聞や他の各全国紙、通信社の計7社が2017年、「NAVERまとめ」上に7社とそれぞれの関係会社の写真が少なくても計約3000件無断転載されていることを見つけました。7社は新聞協会新聞著作権小委員会などの運営を担い、日ごろから著作権保護の取り組みで連携していたので、そろって「これは深刻な著作権問題だ」と、運営会社のLINE(当時)に無断転載コンテンツの削除と協議を求めました。無断転載された写真やイラストなどは、LINEのその後の調査で計約34万件に上ることが確認されました。
 協議の結果、LINE側は、無断転載写真などをすべて削除するとともに、再発防止策として7社が指定するニュースサイトからの転載を防止する「ドメインブロック(投稿制限措置)」などを講じることになりました。
 LINE側は当初、7社との協議で「写真などを無断転載したのはユーザー」との姿勢でした。しかし、7社側が「NAVERまとめ上で大量の無断転載が起きたことは、運営者に一定の責任がある」などと主張し、歩み寄りが実現しました。
 さらに、法律の専門家に抗議したこともあります。2015年、著作権法に詳しい著名な弁護士が大学で講演した際、その資料内に毎日新聞の長文の記事1本を無許諾で使っていたことが分かりました。講演を聴いた人からの情報提供でした。同大学ウエブサイトに載っていた講演資料一式を見て、使用を確認しました。
 一目で著作権侵害だと思いましたが、相手は著名な法律家です。念のため、会社の顧問弁護士に見解を尋ね、「引用にはあたらない。侵害で間違いない」との回答を得たうえで、「今回の講演資料での利用は著作権侵害にあたる。加えて、当社の許諾を得ずに、大学のサイトにそれを掲載したことはきわめて遺憾。当該記事の削除と貴殿の見解を求める」との内容の通知書を、その弁護士に送りました。
 弁護士からは「引用の範囲だと考える」との回答が届いたため、「引用と判断する理由は何か?」と尋ねるなど、その後もやりとりを重ねました。結局、交渉は平行線で終わりましたが、「新聞社は、きちんと見ていますよ」という姿勢を示せたと思います。
著作権者は、無許諾利用に対して抗議や削除要請をしたり、あるいは自らのホームページなどで著作権のルールを繰り返しアピールしたりしています。これらによって「人が苦労して作ったものは勝手には使えない」という基本の理解が、さらに広がればと思っています。

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【2】2023年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)本日受付開始!
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***本日受付を開始いたしました!***

今年度最初の著作権講座(初級)を6月22日(木)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。

★日 時:2023年6月22日(木) 13:30~16:30★

プログラム予定
13:30~15:00 著作権制度の概要
15:00~15:10 休憩
15:10~15:20 JRRCの紹介
15:20~16:30 最近の著作権制度の課題等

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/230523-2/
締 切:2023年6月16日(金) 12:00

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