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JRRCマガジン No.311 2023/3/9
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
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皆さま、こんにちは。
吹く風に少しずつ春の気配を感じる頃となりました。
いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回の川瀬先生の著作権よもやま話は、
「放送番組のインターネットによる同時配信等に係る円滑化方策)」です。
川瀬先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
【1】放送番組のインターネットによる同時配信等に係る円滑化方策
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1 はじめに
前回まで実演家等の権利について説明してまいりました。その中で、放送番組に関する実演及びレコードのネット利用については、放送番組で利用される著作物、実演及びレコードに係る権利関係を一括して説明した方が読者の方々には分かりやすいと思われるので、最後にまとめて説明することにしました。
放送番組のインターネットによる同時配信、追っかけ配信(放送が終了されるまでの間に配信が開始されるもの)及び見逃し配信(1週間等の期間を定めて配信されるもの)(以下総称して「同時配信等」といいます)については、2021(令和3)年の著作権法改正により、権利制限の導入や拡大も含めた利用の円滑化方策が導入されました。
ネットワーク社会が到来し、映像作品も無理なく配信できるような時代になって、放送局が所有している膨大な放送番組の二次的な活用にコンテンツ業界の番組供給に関する期待は高まりました。しかし、様々な要因から番組供給は進まず、その中でも権利関係に関する大きな課題がありました。
すなわち、本来は、番組制作者と権利者との間で番組制作時に二次利用も含めた利用契約を結べばよいのですが、放送番組は広告主が提供する資金で放送番組を制作していることから、利用契約は当初は放送利用に限定されたものであり、二次利用の必要性が生じた場合はその都度改めて契約をするということになっていました。
このような特殊な事情もあり、放送番組のネット利用が注目された当初は、番組の提供に係るコストの問題等に加えて、利用契約の問題が重なり、番組供給が進まなかったわけです。
この利用契約に関する課題については、著作権等管理事業者等との間で協議が行われ、一定の契約ルールが設けられたことにより、契約処理による円滑化方策が進められましたが、例えば、管理事業者に権利を預けていない権利者や連絡がとれない権利者との契約をどうするか等の課題が残ることになりました。
2021(令和3)年の著作権法改正については、放送番組のあらゆるネット利用について制度改正により利用の円滑化を図ろうとするものではありません。最近の放送番組の実態を踏まえ、放送番組の同時配信等については1つのパッケージで行われている場合が多いことにかんがみ、ネット利用に関する契約の有無により放送番組の修正や配信の中断をする必要ができるだけないように、同時配信等に限定して利用の円滑化方策を導入したということです。
2 同時配信等に係る許諾推定規定の創設
著作権法では著作物の利用ごとに権利が働くことになっています。例えば、同じ公衆送信でも放送の許諾とネット送信(又は送信可能化)の許諾は異なりますので、放送番組の制作時に著作物の放送に加えてネット送信も行おうとすれば、権利者から両方の利用に関する許諾を得る必要があることになります。商業的に利用される著作物等については、番組制作時にあらかじめネット送信を含めて契約を結ぶか、管理事業者に権利を預けているものについては当該管理事業者から許諾を受けることによって、異なる利用方法であっても円滑に許諾を受けられますが、全ての権利者と円滑に契約を結べるとは限りません。例えば、報道番組で取材をし、有識者や一般の方からコメント(著作物)を得たり、写真や動画を提供してもらった際に放送の許諾を得たことは間違いありませんが、同時配信等まで許諾を得たかどうかは明確でないことはあり得ます。この場合、権利者から同時配信等の許諾を得たかどうかが不明確なため、放送事業者等にあっては著作権侵害を回避するため当該コメントや写真・動画の部分がネット送信できないなどの問題が生じることが考えられます。
したがって、このような問題が起らないように、放送事業者等と権利者が番組の利用に関する契約を締結する際は、放送番組等の同時配信等についても許諾されているとする推定規定が2021(令和3)年の著作権法改正により新設されました(63条5項)。また、この規定は、実演等の利用についても準用されています(103条)。
この規定は推定規定ですので、権利者側の許諾はしていないという反証が成立すれば推定は覆ることになります。また、放送番組に係る利用契約を結ぶ際に、ネット送信は許諾しないという契約を結ぶことを禁止してはいません。
3 商業用レコードに係る実演及びレコードに関する利用の円滑化
商業用レコードの放送・有線放送に関する実演・レコードの利用については、許諾権でなく、二次使用料を受ける権利として報酬請求権が与えられています(95条1項、97条1項)。また、この権利は文化庁長官が指定する団体がある場合は、当該団体のみによって行使することができ、現在、実演については公益社団法人日本芸能実演家団体協議会が、レコードについては一般社団法人日本レコード協会が指定されています。
一方、ネット送信については、放送の補完的役割を果たすため放送対象地域に限定して行われる放送の同時再送信(入力型自動公衆送信)(102条5項~7項)を除き、原則として許諾権が働くことになっていました。
この点については、管理事業者が送信可能化権を管理していれば、当該管理事業者の許諾を得れば利用ができることになりますが、権利が個人管理等の場合は円滑に許諾が得られない場合も想定されるところです。
したがって、2021(令和3)年の著作権法改正により、管理事業者により集中管理が行われておらず、また文化庁が定める円滑な利用許諾に必要な情報が公開されていないものに限定して、許諾権を報酬請求権に改め、文化庁の指定する指定管理事業者があるときは当該団体を通じてのみ通常の使用料に相当する補償金を請求できることになりました(現在までに指定は行われていません)。
この改正の特徴は、商業用レコードに使われている全ての実演家及びレコード製作者の送信可能化権を報酬請求権化するのではなく、円滑な権利処理ができるものについては送信可能化権を維持し、いわゆるアウトサイダーの権利者だけの権利を制限するという方法です。
4 映像実演の利用の円滑化
映像実演の利用については、これまで説明してきたように権利関係が非常に複雑なので、法改正前の制度を簡単に説明した上で、本論に入りたいと思います。
まず、映像実演の中で劇映画等の映画の著作物に録音・録画されている実演については、映画の製作時に実演の録音・録画について許諾を得ていれば、その後の二次利用については原則として権利が働かないことになっています(91条2項等、これを「ワンチャンス主義」と呼んでいます)。これは、実演の送信可能化においても同様です。すなわち、例えば劇映画として製作された作品を放送し、同時配信等を行ったとしても、実演家の送信可能化権は働きません(99条の2第2項)。これは現在でも変わりません。
一方、改正前の著作権法では、放送局制作の放送番組について一般に実演家から実演の放送の許諾は得ていますが、当該実演の録音・録画については、放送事業者等による一時的固定制度(44条1項、102条1項)又は放送等のための実演の固定制度(93条1項)、すなわち権利制限により録音・録画が行われているのが実態ですので、実演家からは録音・録画の許諾を得ていないことになります。したがって当該実演の同時配信等を行う場合は、劇映画の場合と異なり、ワンチャンス主義は働かず、改めて実演家から送信可能化の許諾が必要となっていました。
俳優の場合、放送番組の同時配信等が放送と一体化している現状を踏まえ、最初の出演契約の際に放送に加えて、同時配信等についても予め許諾を得ていれば問題にならないのですが、次の2つの課題があるとされていました。
①放送番組の出演契約に当たり、初放送の同時配信等については許諾を得ているが、再放送の同時配信等については許諾を得ていない場合の取扱い。例としては、再放送の予定がなかった報道番組等における実演が想定されます。
②出演契約に当たり、実演の同時配信等の許諾を得ていない場合の取扱い。例としては、同時配信等の方法がなかった過去の放送番組に固定されている実演が想定されます。
これらの課題を解決するため、2021(令和3)年の著作権法改正により、①については2の商業用レコードの場合と同様な仕組みを導入しました(93条の3)。また、②については、法律で定める方法により相当な努力を払っても権利者と連絡を取ることができないときは、文化庁長官が指定する団体からその事情について確認を受け、通常の使用料に相当する補償金を支払って同時配信等ができることになりました(94条)。
5 著作物の放送に係る裁定制度の実演等及び同時配信等への拡大
権利者が不明等の場合で許諾を得ることができないときの利用方法としては裁定制度(強制許諾制度)(67条等、103条)が設けられており、著作物又は実演等にかかわらず、また著作物等の利用方法にかかわらず、一定の探索手続を経ても権利者と連絡することができないときは、文化庁の裁定を受け、通常の使用料に相当する補償金を支払えば著作物等を利用することができます。
また、上記の裁定制度とは別に、著作物の放送については、放送の公共的機能にかんがみ、放送利用に関する権利者との協議が不調に終わったとき、また、権利者が協議に応じようとしないときについて、著作物の放送について文化庁の裁定を受けて、補償金を支払うことにより、著作物の放送利用ができる制度もあります(68条)。
この放送に係る裁定制度は、著作物の利用に限定されており、また利用方法も放送に限定されていました。
2021(令和3)年の著作権法改正では、これまで説明してきた理由により、放送に限定されていた利用方法を同時配信等に拡大するとともに、裁定の対象を実演等にも拡大しました。
6 権利制限規定の拡充
著作物や実演等の放送に係る利用については、学校教育番組の放送等(34条1項)、国会等での演説の利用(40条2項)等いくつかの規定がありますが、放送と同時配信等の一体的利用の常態化を踏まえ、利用方法や利用目的のため、原則として同時配信等を加えることにしました(前記条文のほか、38条3項、39条1項、44条、93条)。
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