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JRRCマガジン No.309 2023/2/22
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今回の内容
【1】トークンと著作権法 第5回(最終回):日本におけるNFTの法律関係
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みなさまこんにちは。
春とは名ばかりの厳しい寒さが続いています。
いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回のメルマガは原先生のトークンと著作権法の
第5回「日本におけるNFTの法律関係」です。今回が原先生の連載の最終回となります。
原先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hara/
◆◇◆ トークンと著作権法 ━━━━━━━━━━━━━━━━━
【1】第5回(最終回):日本におけるNFTの法律関係
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西南学院大学法学部科法律学科 教授 原 謙 一
1 はじめに
2023年という新たな1年がはじまり、既に2ヶ月が経過しておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。この連載は前回からNFT(Non-Fungible Tokenと呼ばれる非代替性トークン、通称NFT)に関する法律関係に触れる新たな段階に至り、とうとう本日は日本のNFTを巡る法律関係を扱います。
前回の記事では、NFTを巡るフランスの法律関係をご紹介しました。フランスでは、まず、トークンのうち、代替的なもの(ビットコインのような存在)が民法上の所有権の対象となっていることをご説明しました。さらに、NFTのようなトークンについて、フランスにおける法的位置づけ(所有権を認めるか否か)のほか、これをコンテンツと関連させて用いるケースで、コンテンツの著作権に消尽が起きるかについてもお伝えしたところです。
対して、日本の民法206条が所有権の内容を所有「物」の使用、収益及び処分をする権利と定め、同法85条において民法上の「物」とは有体物であると定められている関係で、所有「物」について生じる所有権は当然に有体物に関する権利となり、この権利ではNFTのような無体の財産を支配することはできませんでした。
このように、暗号資産やNFTに関する基礎的な法律関係についてさえ、日本では議論が進んでおらず、これと比較すると、著作権法上の個別問題に立ち入った議論を展開しているフランスが、この問題について一歩先に進んだ議論をしている状況でした。
こうしたフランスの状況と比較しながら、今回は日本におけるNFTの法的な(特に、著作権法分野における)議論の一端をご紹介します。
2 契約的な状況把握
現在、日本の著作権法領域では、NFTの譲渡に関して一定の法律構成が示されつつあります。それは、NFTが紐付く原資産(たとえば、ここではデジタルアートとする)の契約関係を規律する法律に従って、NFTに関する譲渡の法的な処理を行うという考え方です。
これは、実務家の方々が提唱するものです。ここでは、以上の見解から、デジタルアートと紐づくNFTが、どのような形で法的に処理されるのかということをみていきましょう。そして、ここでは説明の便宜上、上記の見解を契約説と仮に名付けます。
まず、契約説は、NFTそのものに財産権(特に、所有権)が成立するとは考えません。それは、前回及び今回の「1 はじめに」でお示しをしたように、日本の所有権が有体物を前提とするからです。したがって、契約説は、NFTとは法的にどのような存在で、どのような権利関係にあるのかをひとまずおいて、契約によってNFTを法的に処理することを目指す見解といえます。
そして、この見解が述べる契約とは、2の冒頭に記載したデジタルアートの例にならうと、NFTと紐付くデジタルアートの利用権を他者に与えるものを主に想定しているようです。たとえば、デジタルアートの著作者Aが、同アートの複製権や公衆送信権をはじめとした様々な利用権とNFTを紐づけて、その購入者BへNFTと同時に利用権を移転するケースについて議論がなされています。
したがって、契約説は、先のAとBのNFT譲渡の例では、NFTそのものに権利や法律関係を認めず、NFTの原資産であるデジタルアートについて適用がある著作権法や民法の契約に関する規定等を適用し、法律関係を処理することになります。あるいは、ABの利用するNFT譲渡のためのプラットフォームが著作権処理等に関する規約を設けていれば、その規約(ABなどのユーザーとプラットフォーム間の約定)に従うと考えることになります。
このように、契約説からみると、NFTの保有は、それと紐付くデジタルコンテンツを利用可能な法的地位の保有と同義であり、その法的地位の中身や法的地位の移転については、原資産であるコンテンツを規律する著作権法や民法の契約に従うと考えるようです。
3 契約説の特徴
以上でみた契約説については、以下の二点を指摘することができます。
(1)原資産の法律関係を示すということ
まず、前記2のとおり、契約説では、NFTを譲渡することが、それと紐づくデジタルアート(コンテンツ)に関する利用権を表しているとの特徴があります。つまり、特定のNFT保有者が特定の利用権を保有していると法的に評価され、あたかもNFTが財産権の存在を指し示す道具のように理解されています。
トークンとは、連載の初回から二回目にかけてお示しをしたように、それが代替的か非代替的かを問わず、ある財産に関する権利関係を示すために有用であるとの可能性が注目されていました。契約説は、そのような現実社会の技術に関する可能性を受け止め、法の分野において、上記可能性を実現する構成を採用しているとも評価できる点で興味深いといえます。
(2)現状で選択できる合理的な問題解決
次に、契約説には前回お示しをしたフランスにおける議論に近いものをみいだすことが可能であり、暗号資産やNFTに関する議論が飛躍的に進展しているわけではない日本の現状で、可能な限り合理的な選択をしていることを指摘できそうです。それは、一体どういうことでしょうか。以下で詳細をご説明します。
まず、第4回目の「2 フランスにおけるNFTの法律関係」でご説明したように、フランスでは、トークン技術を用いる暗号資産(代替性トークン)に民法上の所有権を承認する見解が多数でありながらも、NFTについては所有権を認めるか否かで議論が分かれていました。
すなわち、①暗号資産と同様にNFTにも所有権による支配とそれに基づく各種の法的処理を認める見解があり、対して、②所有権によるNFTの支配を必要とせずに原資産の法律関係に従った処理を行うとの見解も存在していました。この後者の見解が、日本の契約説に比較的近いものといえそうです。
フランスのように、暗号資産に所有権という財産権を正面から認め、その法的処理は所有権の移転に関する既存の法制度をそのまま用いることができる国でさえ、NFTについての権利やその移転の法律関係について議論が分かれています。このことからすれば、日本のように、いまだに暗号資産についてさえ財産権を認めるか否か決着がついていない国においては、暗号資産以上に新しい技術であるNFTについて、法的に決着できることは少ないのが現状です。
そうであっても、いまそこにあるNFTという存在について、それをまさに扱おうとする当事者がいれば、その当事者の意思によって法的処遇を決定するしかなく、意思で成立する契約によってNFTを処理しようとする発想は、日本の現状で採用可能であり、かつ、実務における迅速なビジネス遂行を可能とする、ひとつの合理的な考え方であり、このような見解がNFTの法的受け皿のない日本で登場するのは、フランス以上に当然の流れともいえます。
以上のように、当事者がどのような原資産を扱うのかに着目し、それがデジタルアートであれば著作権法及び民法の契約によってNFTを法的に処理するとの見解は、NFTを譲渡する当事者間の合意や当事者の利用するプラットフォームの利用規約の中身が重要になります。したがって、契約説の中には、プラットフォームの規約の中身を精査し、今後充実させることを重視する論者もいるようです。
たとえば、NFTの発行にあたって、プラットフォームが発行者を事前に審査して登録するシステムを採用したり、あるいは、NFT発行前に発行者の本人確認をしたりデジタルアートについて権利関係の表明保証をさせたりするとの提案もあります(つまり、発行者自らがアートの著作権者であるとか、著作権者から許諾を受けた素材を利用しているとかの表明をさせるということ)。
そして、これらの規約に違反した者は、そのデジタルアートがプラットフォーム上で非表示とされたり、NFT取引が無効またはNFTが没収されたり、という対応を進めるべきであるとの提案まであります。
4 契約説の課題
ただ、契約説は前記の通り、現状で取り得る手段を探し、特に、NFTによってデジタルアートに関する利用権を譲渡する場面についての議論が中心となっています。したがって、アーティストが著作権そのものを譲渡するケースを念頭に置いていない点で、このようなケースをどのように考えるのかという課題が残されています。
デジタルアートのNFT化は、伝統的なアートと異なり、容易に自己の著作物を創作・拡散が可能です。したがって、アーティストが著作権を自ら確保したままで物理的なアート作品だけを譲渡するという伝統的な手法と異なる形態での譲渡も考えられます。
すなわち、アーティストが、デジタルアートの著作権を譲渡することで、購入者に対してコンテンツを様々な形で完全に自由に利用することを認め、それをもって、コンテンツの購入を促し、購入者が拡大することでアーティストとしての知名度をも上げていく、という新たな形のアーティストが市場に参入する可能性もあります。
このような新たなアーティストの取引を実現するには、伝統的な取引と異なり、アーティストが著作権自体を全て譲渡する可能性もあるわけです。この新たな可能性からすれば、著作権をアーティスト自体が留保するというケースだけでなく、NFTと同時に、それと紐づくデジタルアートの著作権を全て譲渡するケースをも対象とした検討を進めておくことが、法理論的には必要となりそうです。
すると、契約説とは異なる発想でNFTを理解しようとする試みも必要ではないかと(個人的には)考えています。たとえば、前記3-(1)記載のように、NFTが電子的に権利を表現すると評価できるならば、電子的に株式を登録して権利関係を確定する振替株式と類似した理解はできないものでしょうか。振替株式については詳細な法制度が既に用意されており、その制度を借用したNFTの設計はできないのかなど、契約説と異なる可能性の検討も期待されます。
5 おわりに
さて、今回は契約説という現在の実務家から提唱されている見解に従ってNFTの著作権分野における議論を提示しました。NFTの法律関係については、いまだに検討が十分に進んでいない中で、日本では以上の見解までは生成されているところです。ただ、そこにはまだ検討すべき課題が存在しました。この課題については、私もいまだ検討中であり、今後、論文等を公表することを考えております。
NFTをはじめとしたトークンと著作権が関連する問題についての議論がさらに深まり、再び連載の機会を頂戴できる際には、この問題に関する私の見解を含め、NFTの最新の議論状況を整理したものを皆さんにご提示できればと考えております。トークンという最新技術の関わる問題であり、非常にわかりにくいテーマではありましたが、皆様、お付き合い頂きありがとうございました。
短期間ではございましたが、この連載によって、トークンという技術と法律(特に、著作権法)の関係に少しでも光をあて、皆様のお役に立てたとすれば幸いです。また再びお会いできることを祈っております。
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