JRRCマガジンNo.303 ドイツ著作権法 思想と方法4 目的譲渡論

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JRRCマガジン  No.303 2023/1/12
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◆今回の内容
【1】三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法4
【2】〆切間近! 2023年1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン) 
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皆さま、こんにちは。

お正月気分も抜け、ますます寒さが厳しくなってきました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、本日は三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法の続きです。
三浦先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/miura/

◆◇◆━三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法4━━
【1】目的譲渡論
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  国士舘大学法学部 教授 三浦 正広

 ドイツ著作権法において最も重要な理論の1つが、目的譲渡論(Zweckuebertragungs-theorie)である。これは、ドイツの著作権法学者ヴェンツェル・ゴルトバウム(Wenzel Goldbaum)が提唱した著作者契約法における基本原理であり、現行著作権法(1965年法)が採用した著作権一元論の思想と軌を一にする理論であると位置づけることができる。
 目的譲渡論とは、著作物の利用にともない、権利の移転や譲渡が行われる場合、その範囲は利用の目的によって定まるものであり、当事者間の合意により契約で明示された範囲に限定して、その利用権限が利用者に移転されるとする理論である。ドイツ著作権法において、著作物とは、文芸、学術および美術の領域に属する、人格的かつ精神的な創作物であり、目的譲渡論は、著作物の利用関係において創作者主義を発展させた理論であるとされる。
 著作物の利用目的は、権利移転契約やライセンス契約等において定められる。契約では具体的な利用態様のほか、期間、地域等が定められることとなるが、著作物の利用をめぐっては、権利の移転、著作物の改変など、当事者間においてさまざまな場面でトラブルが絶えない。利用に関する具体的、個別的な方法や内容について、契約のなかであらゆる可能性を想定して事前に定めておくことは現実的ではなく、また、それぞれの利用場面において当初は予期しえなかった利用態様が生じる可能性も少なくない。目的譲渡論は、そのような場合において有効に機能する。
 この目的譲渡論の考え方は、著作権法31条5項に規定されており、著作権契約において、当事者間に別段の定めがない場合、合意の内容が明確でない場合、あるいは、契約条項の解釈をめぐって合意が得られない場合(im Zweifel)などには、当該利用権は、あくまで契約の目的に必要な範囲に限定して移転するとされる。

ドイツ著作権法第31条(利用権の移転)
 第5項 利用権の移転の際に利用方法が個別的に明示されていない場合、その利用権がいかなる利用方法に及ぶかは、両当事者の基礎をなす契約の目的にしたがって決定する。利用権が移転しているか否か、利用権が単純利用権か排他的利用権か、利用権および禁止権がどの範囲まで及ぶか、並びに、利用権がいかなる制限を受けるかについて疑いが生じたときも同様である。

 目的譲渡論は、著作者の財産的利益の保護を図ることを目的とするものであり、著作者契約法の思想を具体化する理論として位置づけられる。著作財産権(Verwertungsrecht)と各利用権(Nutzungsrecht)との関係を一元的に捉える目的譲渡論の基本的な考え方は、著作権法31条5項の単なる規定にとどまらず、当該規定の個別的な適用ということだけでなく、判例において援用されるとともに、ドイツ著作権法における解釈指針または基本思想として形成されてきたものである。
その後、著作物の利用形態の多様化に合わせた著作権契約実務が充実したこと、さらに2002年の著作者契約法の体系化によって、利用契約における相当報酬請求権に関する規定(ドイツ著作権法32条)が整備されたことにより、目的譲渡論の重要性は従来ほどではなくなっているという評価もされているが、権利の帰属および移転される権利の範囲の問題と相当報酬理論の問題は、議論の次元を異にする問題であり、その意義が失われるわけではない。この目的譲渡論の考え方は、著作権法31条5項のほか、37条(利用権の移転に関する契約)、44条(著作物の原作品の譲渡)、および88条2項(映画化権)にも反映されている。
 わが国の学説においても、ドイツ著作権法における目的譲渡論が紹介されている。半田正夫『著作権法概説(第16版)』(199頁)では、「著作権が移転される際その契約において処分の範囲につきなんら制限が加えられていない場合であっても、そこにはおのずから制約があり、処分の範囲は譲受人の著作物利用『目的』に必要な限度に限られる、とする見解である」と解説されている。

 日本の著作権法にも著作権の譲渡に関する規定はあるが、単に著作権の全部または一部を譲渡することができると規定するにとどまり(著作権法61条1項)、譲渡による権利の帰属主体の変更の可能性を定めるのみで、著作物の利用を目的とする権利譲渡であるという構成にはなっていない。しかし一方で、譲渡目的論の考え方が反映されていると解することができる規定も存在する。著作権の譲渡における権利の特掲に関する規定である(著作権法61条2項)。著作権譲渡契約において、翻訳権、編曲権、変形権、脚色権、映画化権、翻案権(著作権法27条)、および二次的著作物の利用に関するすべての利用権(著作権法28条)について特掲されていないときは、これらの権利は著作権を譲渡した者に留保されたものと推定される。
ただし、この規定は推定規定であるので、「契約の目的、契約当事者の地位、著作権譲渡の対価その他の事情によっては、本項の推定が覆される」余地が残されている(加戸守行『著作権法逐条講義(七訂新版)』496頁)。裁判例の中にも、プログラムの著作物の著作権の譲渡契約について、翻案権の譲渡が特掲されていなかったとしても、当事者の意思やプログラムの開発費用の負担などを総合的に考慮して、翻案権を含めて譲渡したと認める判決(東京地判平成17年3月23日判時1894号134頁、知財高判平成18年8月31日判例集未登載「振動制御システムK2事件」)や、公募により採用されたキャラクターの利用をめぐって、契約書には「著作権等の一切の権利」が帰属するとあるだけであったが、契約書添付の仕様書では、キャラクターを着ぐるみ等により立体的に使用することに言及されていたことを考慮し、推定を覆す事情があるとした判決もある(大阪地決平22年12月24日判時2167号102頁、大阪高決平成23年3月3日判例集未登載「ひこにゃん事件」)。
 この規定は、懸賞募集に関する契約約款のように、譲受人側の一方的な意思表示によって締結される著作権譲渡契約の場合が想定されているが、契約約款による契約の場合に限定されず、契約当事者の自由意思にもとづく著作権譲渡契約についても適用されうる。これは、経済的に不利な立場に置かれやすい著作権者を保護することを目的とするものである。

 著作者契約法の理論からすると、著作権二元論を採用しているわが国の現行著作権法の解釈に際しても、著作権の譲渡契約においては、全部譲渡または一部譲渡にかかわらず、この著作権法61条2項の趣旨を拡大解釈して、著作者の保護を図ることが必要となる。規定の文言上、著作権を譲渡する者は「著作権者」ということになるが、本条項が想定しているのは著作者である著作権者である。形式的には著作権者の保護を目的とする規定であるが、本来の趣旨は著作者保護にあると解することができる。その場合の「著作者」は、創作者としての著作者であり、法人の著作者(著作権法15条)は除かれる。創作者であるからこそ、とりわけ契約の相手方が企業、団体等である場合、著作者は、契約的弱者であると位置づけられ、その人格的利益を含めて、契約上の利益を保護することが必要とされる。

 この目的譲渡論は、ドイツ著作権法が著作権一元論を採用する以前から主張されている理論である。一元論のもとでは、そもそも著作者の権利を「譲渡」することはできないため、目的「譲渡」という表現は適切ではない。契約に基づいて利用権を「移転」する場合、すなわち、ライセンス契約においてその機能が維持されている。最近のドイツの学説では、譲渡目的論あるいは契約目的論の語が用いられている。また、目的譲渡論は、著作権の譲渡または移転契約における著作者保護のための法理であり、二元論を採用しているわが国著作権法の解釈論においても有効に機能しうる法理であるといえよう。

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【2】〆切間近! 2023年1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン) 
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本年度最後の著作権講座です。参加は事前登録制です。
内容は初級レベルの講義と利用者が関心をお持ちと思われる2つのトピックス
「クリエイターへの適切な対価還元」と「TPPと著作権制度」 を予定しています。

1月17日15時受付〆切 ↓詳細は当センターHPをご参照ください。
https://jrrc.or.jp/event/221227-2/

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