JRRCマガジンNo.301 トークンと著作権法4 フランスにおけるNFTの法律関係及び著作権の消尽

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JRRCマガジン  No.301 2022/12/27
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今回の内容
【1】トークンと著作権法 第4回:フランスにおけるNFTの法律関係及び著作権の消尽
【2】2023年1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン)のお知らせ(予告)
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みなさまこんにちは。

今年も残りわずかとなりました。
今号が2022年最後のJRRCマガジンとなります。今年も一年間ご愛読ありがとうございました。
来年も5名の先生の連載は続いていきますのでどうぞお楽しみに。
皆さまにおかれましても良いお年をお迎えください。

さて、今回のメルマガは原先生のトークンと著作権法の
第4回「フランスにおけるNFTの法律関係及び著作権の消尽」です。

原先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hara/

◆◇◆ トークンと著作権法 ━━━━━━━━━━━━━━━━━
【1】第4回:フランスにおけるNFTの法律関係及び著作権の消尽
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                       西南学院大学法学部科法律学科 教授 原 謙 一

1 はじめに-これまでの連載と今回のテーマ-
 寒い日が続きますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。現実世界では、寒暖に一喜一憂しながら過ごしますが、話題のメタバースと呼ばれる仮想世界では、季節の寒暖に左右されることもないことでしょう。本連載は、そのような仮想世界で用いられるトークンについて扱っています。
 まず、初回には代替性トークン(ビットコインやイーサのような決済に利用するもの)を取り上げ、第2回には非代替性トークン(Non-Fungible Token、通称NFT)のように著作物との関係で用いられる余地のあるものをご紹介し、さらに、第3回にはNFTの実例とそれが2021年から2022年にかけて増加してきた要因をお示し致しました。
 そこで、今回は、とうとうNFTを巡る法律関係をご紹介する回に至りました。今回は、まずフランスに関する議論状況をお示しする次第です。というのも、フランスでは、実態のない無体の財産やNFTを巡る法的な議論の進展が日本よりも進んでいるからです。フランスにおける議論を日本と比較することで、今後の日本が検討すべき事項が見えてきます。
 次回の第5回において、日本の議論の現状を見る際に、フランスの状況を思い起こすことで日本法の課題を感じていただくとの目標を掲げ、今回は、まず、フランスにおけるNFTの法的位置づけをご紹介し、その後、NFTと著作権法の関係を一部(消尽の問題に限って)ご紹介します。 

2 フランスにおけるNFTの法律関係
 フランスでは、NFTについて財産権を認めないとの見解が存在します。第2回や3回でご紹介したように、NFTは、多くの場面で特定財産を原資産とし、その財産に関する権利証明などの一手段となっていました。このような観点から、NFTは原資産の法律関係に従えばよく、独立に財産権で支配することは不要であるとの見解が存在するわけです。
 たしかに、デジタルアートと紐付くNFTはIPFS(分散的なデータの保存先)にアートのデータを分散保存し、そこへのリンクがNFTを介してブロックチェーン上に強固に記録されることで、当該NFTの保有者とアートのデータが強力に関連づけられるにすぎません。
 つまり、NFTとは、それと紐付くデジタルアートの価値を人と関連づけているだけであり、NFTそのものに独自の価値は無いと考え、NFTに特定の財産権(特に所有権)などを認める必要は無いとの考えが以上のものです。
 しかし、フランスでは、所有権の客体を不動産及び動産と分類し、動産をさらに有体の動産と無体の動産に分類しています。このような法体系では、知的財産のような無体の財産に対する権利は「知的所有権」と呼ばれます(ゆえに、著作権は知的所有権法典に定められています)。 
 すなわち、フランス法上の所有権とは、そこに財産的な価値が存在し、それを享受・処分できる権限との理解が有力であり、そのように理解する限り、財産的な価値を生じさせる存在が有体でも無体でも、いずれでも構わないということになるわけです。
 このような所有権概念に従えば、デジタルアートと紐付くNFTに一定の価値が認められる場合、デジタルアート(原資産)とは別に、NFTにも所有権を認める余地があることになります(デジタルアートがネット上でまさに特定人と関連するのはNFTの恩恵によるものだとすれば、NFTそのものにも独自の価値があるといえるでしょうから)。
 フランスでは、現在、NFTに所有権を認める論者がやや多いような印象ですが、日本では、同じようにいきません。なぜなら、日本の民法206条が所有権の内容を「所有物の使用、収益及び処分をする権利」と定め、同法85条において民法上の物が「有体物」と定められているからです。
 つまり、日本では「空間に存在する有形物」(有体物)をもって「物」と判断するので、所有「物」について生じる所有権は当然に有体物に関する権利と言うことになり、日本の所有権はNFTのような無体の財産を支配することはできないということになります。

3 フランスにおけるNFTと著作権の消尽
 さて、NFTの基礎的な法律関係の点で明確に一歩進んだ議論がなされているフランスでは、NFTと著作権に関していかなる議論がなされているでしょうか。ここでは、特に注目すべきものとして、NFTと紐付けられたデジタルアートの著作権に関する消尽の有無を見ていきましょう。
 まず、フランスの著作権法では、著作物の複製物であり、かつ、それが「有形」である場合には、その最初の販売が著作者(あるいはその権利を承継した者)に許諾されている限りで、それ以後の「有形」複製物の販売は禁止できないことになっています(フランス知的所有権法典122-3-1条)。
 ここで注目すべきなのは、著作物を複製するだけでなく、それが「有形」である場合、その著作物に関しては、最初の譲渡以後、著作権の行使ができないというルールになっているということです。すなわち、「有形」複製物の譲渡による著作権の消尽が定められているということになります。
 ただし、ソフトウェアに関してはやや異なったルールが用意されています。ソフトウェアの著作権のうち、これを市場において譲渡する権利は、著作者自身によって(あるいは著作者に同意を得た者によって)複製・販売されることで、消尽すると定められています(フランス知的所有権法典122-6条3号)。
 つまり、ソフトウェアについては、その複製に物質的な性質の有無は記載が無く、「有形」に限定されていません。したがって、「有形」的な複製以外でも、複製後に販売すれば、以後、それについて譲渡に関する権利を行使ができず、販売を禁止できないことになります。
 以上を整理すると、フランスには、①基本的には著作物の「有形」な複製物の譲渡によって、譲渡権が消尽する(したがって、有形的でない複製の場合には消尽しない)とのルールがありながら、②例外的にソフトウェアに関してのみ「有形」でない複製とその後の譲渡によって譲渡権が消尽することになります。
 では、デジタルアートと紐付いたNFTがネット上で販売された場合、フランスでは、このデジタルアートの著作権が消尽するのでしょうか、しないのでしょうか。著作者Aが創作したデジタルアートをNFTと紐付けて、そのNFTを他者に販売することを例に考えてみましょう。
 たしかに、第2回目や3回目でお示ししたように、NFTは自動プログラムによる取引が可能でした。たとえば、プログラムで設定しておけば、Aのデジタルアートと紐付くNFTをBに譲渡し、その後、同NFTをBがCにさらに譲渡して、Cがトークン(代替的なトークン、例えばビットコインやイーサ等)でBに代金を支払った場合、そのトークンの何割かが自動的にAに還元されました。
 NFTがプログラムで構成されるソフトウェアであるとみれば、前記②のソフトウェアに関する消尽ルールが適用可能となり、有形物の譲渡がないネット上のNFT譲渡だけでも、そのNFTに紐付く著作物(デジタルアート)の譲渡権は消尽します(先の例では、AからBへのNFT譲渡で、以後AはCに対して譲渡権を行使できなくなります)。
 しかし、NFTにプログラムが含まれているとしても、NFTと紐付くデジタルアート自体は単なるデジタルデータであり、ソフトウェアそのものとはいえません。また、NFT自体も、暗号化、ピアツーピア及びブロックチェーンへの記録などが重要な要素であり、NFT自体をソフトウェアとも言い切れない状況です。
 とすれば、NFTの実現にプログラムが関与しているとしても、それは、まさに②が想定した場面に該当するものとはいえない状況にありそうです。このように考えると、デジタルアートの紐付くNFTには、②ではなく、①の一般的な消尽ルールが適用されることになります。
 ①のルールに従うとすれば、譲渡権の消尽は「有形」的な複製物の譲渡にしか起こりません。NFTをネット上で販売しても、もちろん「有形」の物質的な取引ではないため、消尽は起こらないことになります(先の例では、AからBへのNFT譲渡をしても、以後、Aは譲渡権をCに対して行使することができます)。

4 おわりに-次回に向けた日本の状況との比較-
 フランスでは、3の末尾でご紹介した結論を提示する論者が登場しているものの、NFTと著作権の消尽について議論が煮詰まっているとはいえず、NFTの所有権の問題も含めて議論は生成中であり、裁判所の判断が期待されている状況です。
 しかしながら、興味深いのは、フランスのように有体の財産と並んで、無体の財産に対しても所有権を認め、有体・無体の両者に同種の法的評価を与える国で、さらに、「有形」の複製物の譲渡だけでなく 、「有形」でない複製及び譲渡によっても消尽を認めることが可能な国でさえ、NFTの問題について簡単に結論を出すことができていないということです。
 対して、日本はどのような状況でしょうか。日本の著作権法26条の2第2項では、譲渡権の消尽が認められていますが、これは「著作物の原作品又は複製物」に関するものです。「原作品」を著作者の思想感情が一次的に表現された有体物とみて、その思想感情を二次的に表現した有体物が「複製物」だとすれば、消尽は有体物を前提としていることになります。
 このように考えると、日本でもデジタルアートと紐付くNFTについては、フランスの前記①ルールに従った処理と同種の処理を行うことになり、先の例でいえば、AはB以後の購入者にも譲渡権を行使できることになります。
 たしかに、デジタルな世界では、Aが販売したNFTが、それを購入したBからCへ、さらに、CからDへ転々と譲渡されても、NFTが色あせることはなく、中古ゲームや古書のような中古市場が形成され、そこでの自由な流通を考慮しなければならない有体物の場合とやや異なる点があります。
 また、3に記載したように、NFTの転々譲渡の際に、C以下の購入者からAへの利益の還元を自動で行う設定がなされるとすれば、著作権者は第一譲渡の際に対価を取得する機会があれば足りるという前提になっていないともいえそうです。
 しかし、デジタルな世界だからと言って、永遠に著作権者に譲渡への介入を認めるべきなのかとの疑問もあります。また、NFTの設定による利益の自動還元は、それが技術的に設定された場合に生じるということに過ぎませんので、これをあらゆるNFT譲渡の前提とみることはできず、これを法的な共通前提とすべきかといえば、この点でも疑問があります。この問題をどのように考えるべきでしょうか。
 この問題は日本においてフランス以上に議論が少ない状況であり、NFTに限らず、デジタルな著作物に関する著作権の消尽の問題全体との関係で、フランス以上に慎重な議論が必要です。では、日本においてNFTと著作権に関して、現時点でどの程度の議論がなされているのでしょうか。これについては、次回の第5回でお示しを致します。
 最後となりましたが、本年はトークンに関する私のつたない連載をご覧頂きましたこと、心より御礼を申し上げます。本年はトークン(特にNFT)が、さんぜんと輝く1年となりました。来年は、皆様にとって、本年のトークン以上に輝かしい1年となりますことを祈念致します。来年も引き続き、連載にお付き合い頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

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【2】2023年1月25日開催 大阪工業大学共催 著作権講座(オンライン)のお知らせ(予告)
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2022年度最後の著作権講座です。参加は事前登録制です。
内容は初級レベルの講義と利用者が関心をお持ちと思われる2つのトピックスを予定しています。
詳細が決まりましたら、↓当センターHPにてお知らせします。

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編集責任者 
JRRC代表理事 川瀬 真

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