JRRCマガジンNo.298 ドイツ著作権法 思想と方法3 創作者主義

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JRRCマガジン  No.298 2022/12/8
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◆今回の内容
【1】三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法3
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皆さま、こんにちは。

一年が経つのは本当にあっという間ですね。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、本日は三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法の続きです。
三浦先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/miura/

◆◇◆━三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法3━━
【1】創作者主義
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  国士舘大学法学部 教授 三浦 正広

 著作物の創作者が著作者であるとする創作者主義の考え方は、世界の通説であるといえるが、この極めて単純な創作者主義には、世界各国の立法例をみても例外が設けられていることが多く、一筋縄ではいかない。日本の著作権法には、15条の法人著作の規定があり、創作者主義の大きな例外が定められているが、ドイツ著作権法では創作者主義が貫徹されている。
「著作者」の定義について規定する日本著作権法2条1項2号と同様に、ドイツ著作権法7条では、「著作者とは、著作物の創作者である。」と規定され、創作者主義(Schoepferprinzip)が採用されている。
ここでいう「創作」は、人間のみがなしうる精神的行為であり、知的活動としての創作行為を行なうことができる創作者は自然人に限られる。法人等は著作者にはなりえない。自然権思想を根拠とする創作者主義、および権利の発生に関する無方式主義により、著作者の権利は、創作により創作者である著作者に発生することとなる。
ロボット、自動カメラ、コンピュータ等の機器を用いて著作物を作成することは可能であるが、それらは著作者とはなりえないし、人工知能(AI)も著作者ではない。自撮り棒を用いたサルの自撮り写真の著作権の帰属が争われた事例においても、創作者主義に基づいて、動物は著作者ではないとされた。「創作」行為は事実行為であって、法律行為ではないので、創作を行なうには法律上の行為能力は必要ではない。幼児や子どもなどの未成年者も著作者となりうる。
日本法における解釈と同様に、著作者に対して著作物の作成を依頼する者、創作のアイデアやヒントを提供する者、著作物の作成を注文する者、または創作または作成に際して著作者をサポートする協力者は、著作者ではないとされる。

ドイツ著作権法の特徴は、さまざまな場面で創作者主義が貫徹されていることである。
まず、日本法とは異なり、ドイツ法において創作者主義は、労働および雇用関係、すなわち職務上作成される著作物について貫徹されている(ドイツ著作権法43条)。すなわち、従業者(業務に従事する者)は、職務上作成した著作物の著作者であり、著作者人格権はもちろん、財産的利用権も従業者自身に帰属する。日本法15条の法人著作の規定とは大きく異なる。
コンピュータプログラムについても創作者主義が貫徹されており、職務上作成されるコンピュータプログラムの著作者は、当該プログラムの創作者(従業者)であるが、ドイツ著作権法69b条1項の規定により、その財産的利用権は、当事者間に別段の合意がない場合は、使用者に移転するものと推定される。
これと同様に、映画の著作物について創作者主義が貫徹され、著作者の権利はその著作者に帰属することとなるが、原作小説(原著作物)の著作者、および当該映画の著作者との契約関係において、映画に関する各利用権が映画製作者に移転するものと推定される(ドイツ著作権法88条、89条)。
また、著作物の執筆を代行するゴーストライターの場合についても、創作者主義が貫徹されている。すなわち、依頼者と著作者の間で締結されるゴーストライター契約に基づき、当該著作物が他人の名義により公表されるのが一般的であるが、その著作者はあくまで実際の執筆者(創作者)であり、著作物の名義人ではない。
他人名義による公表は、創作者主義および著作者人格権の保護を前提として、当該契約において著作者の同意により有効となる。
しかし、このような徹底した創作者主義は、現行著作権法(1965)において採用されたものであり、それ以前の旧著作権法においては、わが国の15条に相当する規定が置かれていた。すなわち、著作物が、作成者名義ではなく、法人名義で公表される場合、法人が当該著作物の著作者であるとみなすと規定されていた(旧著作権法LUG 3条およびKUG 5条)。
しかしながら、このような考え方は、個人主義や人格権論を踏まえ、著作者の権利を人権として尊重する時代背景のなかで大きく転換され、現行法制定に際して、著作権一元論と相俟って、徹底した創作者主義として結実されることとなる。
ドイツ法においては、特許法の発明者主義の場合も同様であるが、創作や発明をなしうるのは自然人に限定されている。このような考え方は、創作者や発明者を尊重する個人主義の考え方に基づいているだけでなく、ドイツの憲法であるボン基本法(Gurundgesetz: GG)で保障されている自己の人格を自由に発展させる権利(GG 2条1項)をその根拠としている。
さらに、著作者の権利は、欧州において普遍的価値として尊重される人権であるという考え方が、著作権法の基本思想となっている。ボン基本法には、世界大戦において2度の敗戦を経験したドイツの平和や人権の尊重に対する意識が色濃く反映されている。
戦後まもなく提唱された世界人権宣言(1948)においては、著作者の権利が人権として、文化権として理解され、その世界人権宣言を踏まえた国際人権規約(1966)において、著作者の権利は、国際法上の人権として位置づけられることになる。

世界人権宣言(1948)
第27条
(1)すべて人は、 自由に社会の文化生活に参加し、 芸術を鑑賞し、および学術の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
(2)すべて人は、その創作した学術的、文学的または美術的作品から生ずる精神的および物質的利益を保護される権利を有する。
経済的, 社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約, 1966)
第15条第1項 この規約の締約国は、すべての者に次の権利を認める。
(a)文化的な生活に参加する権利
(b)学術の進歩およびその利用による利益を享受する権利
(c)自己の学術的、文学的または芸術的作品により生ずる精神的および物質的利益が保護されることを享受する権利

これらにより、著作者の権利は人権として保障されることとなり、具体的には、著作物の創作による精神的利益は著作者人格権として、また、物質的利益は著作権(財産権)として保護されている。しかもこれらの国際条約では、文化を創造する著作者の権利だけではなく、文化を享受する者の利益が社会的および文化的な権利(文化権)として保護されている。
すなわち、著作者の権利と利用者の権利のバランスを図ることが、文化の発展に寄与することを体現しているといえる。
このような国際的な動向を受けて、とくにドイツ法では、著作者の権利は「人権」であるという意識がさまざまな場面で強く反映されており、著作権法の体系書などでも必ずこれに根拠づけられている。日本の著作権法の体系書において、著作者の権利が国際法上の人権として言及されていないのとは対照的である。
著作者の権利が人権として認識される以上、それぞれの国内法において遵守され尊重されなければならない。各国においても法令に基づく場合とはいえ、むやみやたらと制限することはできない。ベルヌ条約上も、著作者の権利に制限を加える場合には厳格な基準を設けており、EU法においてはより厳格な運用が求められている。
このような意識の違いが根底にあり、ドイツでは著作者の権利の制限には極めて消極的である。その一方で、著作者の権利がインターネット上での著作物の利用の妨げとなることは許されず、著作権契約における相当報酬理論を浸透させることで、著作者と利用者の権利の調和を図っているといえる。

 日本法も建て前として創作者主義を採用しているが、ドイツ法のように徹底しているとはいえず、理論的にも実務的にも創作者主義に対する意識が希薄であるといわざるをえない。それを象徴しているのが、著作権法15条における法人著作に関する規定である。
職務著作の法律構成において創作者主義を貫徹するとすれば、創作者に原始的に帰属する著作者の権利のうち、著作者人格権は創作者本人に帰属し、財産権としての著作権は、契約および勤務規則により法人等に移転するという構成をとることとなる。著作者人格権も契約等において著作者の同意のもとで制限を受けることになる。
しかしながら、著作権法15条1項は、「契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り」という条件節を付けているが、実態としてはそれどころか、むしろ雇用契約および勤務規則等において、職務上作成される著作物の著作権は、当該企業、団体等に帰属すると定められているのが一般的であり、15条1項の解釈の幅をより狭くしているのが実情である。
とくに日本の場合は、かつての経済成長を支えてきた生産性の低い長時間労働などの労働環境が、いわゆる「働き方改革」によって、ようやく改善の兆しがみられるようになってまもない状況にあり、そのなかで職務著作において創作者主義を貫徹することは極めて困難であるといわざるをえない。

 日本では著作権法における創作者主義と同様に、産業の発達に寄与することを目的とする特許法においても発明者主義が採用されている。
特許法において、発明をなしうるのは自然人に限られ、発明者は発明により特許を受ける権利(特許権)を取得するものとされ、職務発明において、発明により発明者に原始的に帰属する権利は、雇用契約または勤務規則等にもとづいて、使用者(企業、団体)等に移転するものと定められていた。
ところが、平成27(2015)年の特許法改正では、職務発明について規定する特許法35条3項の要件を充たす場合、その特許を受ける権利は、発明者にではなく、当該使用者に原始的に帰属することとされた。これは、発明者主義が大きく転換されたことを意味する。
他方ドイツでは、特許法とは別に従業者発明法が制定されている。職務発明における発明者主義(Erfinderprinzip)を前提として(ドイツ特許法6条)、従業者の権利保護に関する規定が定められ、発明者と使用者の利害を調整するために、使用者にさまざまな義務が課されている。
戦前戦後の歴史認識や人権、文化権に対する意識や思想の違いが、このようなドイツと日本の法制度の違いとなって現われていると解することができる。

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