JRRCマガジンNo.296 トークンと著作権法3 NFTの実例から見る著作権分野との関わり

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JRRCマガジン  No.296 2022/11/24
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今回の内容
【1】トークンと著作権法 第3回:NFTの実例から見る著作権分野との関わり
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みなさまこんにちは。

いちょうが色づく季節となりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

さて、今回のメルマガは原先生のトークンと著作権法の
第3回「NFTの実例から見る著作権分野との関わり」です。

原先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hara/

◆◇◆ トークンと著作権法 ━━━━━━━━━━━━━
       第3回:NFTの実例から見る著作権分野との関わり
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                       西南学院大学法学部科法律学科 教授 原 謙 一
1 はじめに

 前回の記事では、暗号資産のような代替性のあるトークンと異なり、NFT(Non-Fungible Token)のような非代替性トークンについて、その技術の概要をお示し致しました。NFTは、ブロックチェーン「外」でコンテンツを分散的に保存する技術(IPFS等)を前提に、コンテンツの保存先へのリンク等をブロックチェーン「内」に記録することで、コンテンツとトークンを紐付けました。
 このように、ブロックチェーンの内外で工夫をすることによって、NFTは、コンテンツの情報とトークン保有者の強固な関連づけを行って、代替性トークン以上の機能を発揮しました。たとえば、NFTの保有者が特定コンテンツを保有する証明の一助としたり、NFTとコンテンツ情報の転々譲渡の結果として登場した新購入者から、NFTの発行者に自動で利益を還元したりと、新たな機能を実現していました。
 そこで、今回は、以上の機能を実装したNFTの具体例をご紹介します。また、そのような実例を通じて、なぜ、NFTがアートや著作権分野と関わりを有するに至ったのかについて、初回の末尾でお示しした内容とやや異なる視点からも、分析したいと思います。

2 NFTの実例

 NFTの実例は様々ですが、ここでは、著作権との関係を生じるいくつかの例をご紹介します。
 まず、①デジタルな作品について発行されたNFTが最も典型的な例です。アーティスト自身が、自己のデジタルアート等をブロックチェーン外に保存し、そこへアクセスするリンクをNFTとして発行するということです。これはOpen Sea等のNFTを取り扱うマーケットでアーティスト自らが行うものです。
 アーティストは、NFTのマーケットを通じて、ファンに直接かつ即時に作品を販売可能となり、また、作品が同マーケットと同一・類似のプラットフォーム上で転売されると、トークンで対価が支払われた場合、その転売益の一部がアーティストへ自動還元されるというメリットもあります。
 ファンも、アーティストの作品であることへの確実性を前提に、アーティストに対する直接の金銭的支援が可能となりますし、他に出品されていない作品を当該マーケットで入手できるとすれば、ファンの収集欲も満たされることになります。
 次に、②ゲームのトレーディングカードのほか、ゲームのキャラクターが身につける洋服やアイテム等と紐付くNFTも存在しています。たとえば、My Crypto Heroesと呼ばれるゲームでは、NFTと紐付くキャラクターによってゲームを進行し、その中で取得したアイテムを実際に販売したり、キャラクターの洋服を変更したりということも可能です。
 NFTと紐付くキャラクターは他のプレイヤーからの投票による評価を受け、高い評価を集めたキャラクターの高額取引も可能です。このように、キャラクター生成者が当該キャラクターを売却し、それを購入した者がキャラクターをさらに転売した場合、トークンで対価が支払われるならば、転売の度に売却代金の一部がキャラクター生成者へ自動で還元される仕組みも導入されているようです。
 さらに、③作品が、デジタルな無体物ではなく有体物であっても、NFTを活用することは可能です。
 たとえば、発行されたNFTとリンクするICチップを絵画や彫刻に埋め込むことで、それらの作品の創作者の情報や購入者の来歴をブロックチェーン上に常に記録し、作品の真正性とトレーサビリティを確保する試みが動き出しています。それがスタートバーン株式会社の提供するスタートレイルです。
 有体物の作品では、その作者が著名であれば、作品が闇に消え、その後に贋作が出回るということも懸念されますが、ブロックチェーン上の記録をもって、そのような贋作流出という事態を防止することが目指されています。
 以上とやや異なる利用方法として、④著作権法の分野において、著作物の創作過程をNFTと関連づけて全て記録することで、当該著作物の創作をもって発生・取得される著作権(著作権法2条1項1号、2号及び17条)につき、その取得の事実や取得時期等が示されるひとつの手段となりそうです。このような目的でNFTを用いる可能性もあるかもしれません。

3 実例からみるNFTと著作権分野との関係

(1)NFTと著作権の関係は短命?
 前記2でみた、①~④の実例では、特定の情報がNFTを通じてトークン保有者と関連づけられることで、NFT(非代替的なトークン)の保有者に当該情報に関する権限が存在することを前提とし、そのうえで、様々な取引がなされていることを認識できます。
 もちろん、NFTと紐付けられる情報はアートや芸術に関するものばかりではありません。日本では、自動車や家屋の鍵としてNFTを利用し、または、イベント参加や投票のための権限証明や権限行使のために、NFTを利用した実例も存在しています。
 フランスでも、高額な自動車の修理が適切になされていることを記録するために、修理工程をブロックチェーンに記録して、NFTから情報にアクセス・確認したり、特別なワインやそのワインを用いた各種サービス(ワインと食事をワイナリーで楽しむ等)を享受する権限を示したりするNFTも存在します。
 このように、NFT保有者と関連づけられる情報は多岐にわたりますが、突如として、NFTがアートや著作権の分野と関わりを持ち、さらに、大きく注目されたのはなぜでしょうか。
 その理由について、一定の富裕層が競うようにオークションでデジタルアートと紐付くNFTを購入し、その高額さゆえに報道されたことを指摘できます。たとえば、クリスティーズでは、2021年に、ビープルというアーティストの作品が約75億円で落札されたことが、報道され注目を集めました。
 こうして、アート分野のNFTでは、これが投資の対象となるものとして注目を集めて、一過性の盛り上がりが起こったともいえます。このような視点から見ると、NFTと著作権分野の関わりは必然的なものではなく、早晩、途切れかねない、一次的なものともいえそうです。
(2)NFTと著作権の関係は親密?
 他方で、前記(1)とは違った視点もあり得ます。NFTとアートの分野そしてNFTと著作権の分野は、関連するものであり、注目されることが必然であって、今後も、それらの関係は一定程度継続するという考え方です。
 まず、前記2記載の各実例を見ると、いずれも3の冒頭で述べたように、作品に関する情報はNFT保有者に一定の権限があるとの信頼感を示すために、トークンが利用されているように見えます。
 特に、実例③や④では、実務上で問題となる作品の真贋や著作者の問題につき、NFTを用いることで一定の権限を示すことにつながり、前述の問題解消のためのひとつの手段を与えています。
 これは、目に見えない著作権を取引の前提として顕在化する技術が市場に提供されたことで、アートが関連する取引を確実に遂行したいという社会の需要に応えたことになります。
 たしかに、著作権を顕在化し、その権利の帰属を法的に示す手段として、著作権の登録制度も存在しています(著作権法77条等)。とはいえ、その登録には時間と費用というコストがかかることは自明です。
 したがって、法的にはブロックチェーン上の記録に著作権の帰属や著作者の証明という確実な効果が与えられないとしても、著作権や著作者を証明する手段が乏しい状況よりは、NFTによって一定程度の確かさを示すことができるという点に法律と関連する魅力があるように思われます。
 これは、第1回の末尾でお示ししたように、トークンが著作権分野と関わりを持った端緒(トークンで著作権を示すことはできないかとの試み)と同種の範疇に入る視点ですが、以下の視点は、それとやや異なります。
 前記2の①や②という例では、作者が直接に自己の作品を販売して利益を得ることで、本来的なアーティスト以外にも多くの者がアート市場に関与できるようになりました。また、それだけではなく、作品が転売された際、作者へ還元される利益が存在することで、多くの者の創作意欲に火がついたともいえそうです。
 同時に、アーティストやゲームキャラクターの生成者を直接に支援したいというファンの需要も存在しており、NFTが需要に応える仕組みにもなっていると評価できるでしょう。コアなファンはどの世界でも常に存在しており、そのような実態にマッチした技術が提供され、NFTの利用が進んだとの分析も可能ではないでしょうか。
 このように、いわゆる画家や彫刻家等だけでなく、イラストレーターやゲームクリエイターのほか、そのような活動に従事してこなかった者まで取り込みながら、それらの者とファンを直接的かつ経済的に結びつけるものとして、NFTは、創作活動を現実的・経済的に奨励するという点でも一定の魅力があり、社会に受け入れられたように思われます。
(3)結論
 もちろん、NFTの活発な利用は、NFT登場以前の暗号資産(非代替性トークン)への注目やDX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとしたデジタル化の波にのった等、様々な要因とも関係するでしょう。
 いずれにしても、(2)記載の事情があることからすれば、NFTが著作権やアートの関連する分野と関わることは、単に一過性のつながりとはいえません。
 とすれば、NFTと著作権の関係は、今後も、一定程度継続するものと思われ、そうであるが故に、それらの関係は法的な分析を欠かすことができないものといえるのではないでしょうか。

4 次回へむけたまとめ

 さて、これまで第1回でNFTの前提ともいえる代替性トークンの技術をご紹介し、第2回でNFTという非代替性トークンについて述べ、第3回の今回はNFTの実例のほか、なぜ、NFTがアートや著作権の分野で注目されるのか、そして、今後も、それは継続するのかについて一定の分析をお示し致しました。筆者としては、「NFTと著作権の関係は今後も一定程度は継続する」と考える次第ですが、そのような視点からすれば、それらに関する法的な分析が欠かせません。
 そこで、次回は、NFTの法的な側面に関するフランスの議論状況をご紹介します。フランスは暗号資産やNFTに関しての議論が日本よりもやや進んでおり、次々回にお示しする日本におけるNFTと著作権の問題を知る前提として、比較のために、フランスにおける法的な状況を簡単にご紹介する次第です。

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JRRC代表理事 川瀬 真

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