JRRCマガジンNo.291 トークンと著作権法2 NFTとは何か?

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JRRCマガジン  No.291 2022/10/27
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今回の内容
【1】トークンと著作権法 第2回:NFTとは何か?
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みなさまこんにちは。

各地の紅葉が話題になる季節ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今月より情報の発信を増やし毎週木曜日に配信いたします。
みなさまどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回のメルマガは原先生のトークンと著作権法の第2回「NFTとは何か?」です。

原先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hara/

◆◇◆ トークンと著作権法 ━━━━━━━━━━━━━
       第2回:NFTとは何か?
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                       西南学院大学法学部科法律学科 教授 原 謙 一
1 第1回のふりかえりと今回の導入
 先月に続き再びの登場となります。西南学院大学法学部の原謙一です。今回は、第1回にご説明したトークンに関する基礎技術と著作権法の関係を前提に、そこでご説明したトークンと異なるもの、すなわち、NFT(非代替性トークン、Non-Fungible Token)についてご紹介します。前回に引き続き、技術の説明が多くなりますが、お付き合いください。

 さて、まずは前回の内容の確認です。トークンとは、ビットコインやイーサのような暗号資産(旧:仮想通貨)に代表される決済を想定したものでした。この種のトークンを取引等の目的で人とやりとりするには、①ウォレット内で秘密鍵や公開鍵で暗号化されたデータが、その後、②ピアツーピアのネットワークでつながる多数人に送信され、それらの者による正当性の検証を経て、③検証結果に問題がないなら、取引がブロックチェーン上に記録されます。この記録を有する者がトークン保有者と扱われるわけです。このようなトークンは社会的に一定の価値が見込まれ、その価値をもって支払いに充てることが可能と理解され、当初、決済に利用することが想定されました。

 しかし、想定されたほどトークンによる決済は進まず、トークンと著作物(著作権法2条1項1号)を紐付ける利用が検討されました。ビットコインのようなトークンであれば、それがブロックチェーン上に記録される際に些細な情報も同時に記録可能でした。そこで、著作物がデジタルアートならば、それを特定サーバー上に保存し、当該サーバーへのリンクをトークンと同時にブロックチェーン上に記録することで、特定サーバー上の著作物とブロックチェーン上のトークンを関連づけることができました。

 ただ、先の例においても一定の課題が指摘され、NFTが注目を浴びています。デジタルアートが特定・単一のサーバー上に保存されていた場合、画像が削除あるいは他の画像へ変更されると、当該サーバーへのリンクをブロックチェーン上に記録してもトークンと著作物(元の画像)の関連性を示すことになりません。これではトークンを著作物との関係で利用できませんので、登場したのがNFTであり、今回は、その概要をご説明します。上記の画像削除・変更と関連した課題は、ブロックチェーン内・外での対処を経て、NFTによって解消に近づき、より確実に著作物とトークンが関連づけられるようになります。

2 ブロックチェーン外での対処
 まず、前記1の課題を解消すべく、ブロックチェーン外でなされる対処について説明します。1に記載したデジタルアートの例において、トークンと紐付けられて表示される資産はデジタルアートでした(以下、「原資産」と呼ぶ)。この原資産が削除・変更されると、原資産へのリンクをブロックチェーンに記録しても、原資産とトークンの保有者は全く関連づけられません。そのため、まずは原資産が削除・変更を受けないように保存することが必要となり、それを実現する保存技術がIPFS(Inter Planetary File System)といわれるものです。

 IPFSとは、分散型のストレージであり、データの分散保存を可能とします。まず、IPFSに対し、そこに保存したいデータを送信すると、当該データは関数処理されてハッシュ値(ランダムな英数字)を取得可能です。この値は、保存したい原資産のデータコンテンツに関するものであり、以後、IPFSからデータを取り出すためのIDとなります(これを「コンテンツID」と呼ぶ)。そして、IPFSでは、それを利用する多数の者同士がピアツーピアでむすばれており、前記のコンテンツIDを利用者間で共有することで、原資産の画像を利用者全体に共有・保存可能です。このように、原資産のデータは多数人にわたり、分散的に保存されます。

 以上の分散保存を行うことで、前記1の課題を解決できます。前記のようにIPFSでデータを保存すれば、IPFSを利用するピアツーピアでむすばれた多数の利用者が同じ画像(原資産)を共有しています。したがって、IPFSの利用者の一部が画像を喪失しても、他の多くの利用者が画像を保有している以上、ネット上で前記コンテンツIDを打ち込めば、どこかの利用者が保存している画像へアクセス可能となり、特定・単一のサーバーに保存した画像が削除され、アクセスできなくなるような事態を避けることができるわけです。

 しかも、IPFSは画像が変更された場合にも大きな影響がでません。IPFSで保存する際は原資産をハッシュ値に変換し、それを画像へのアクセスに利用しますが、もし、画像の一部が変更されれば、変更後の画像を関数処理しても、原資産から取得した当初のハッシュ値とは異なるものに変化します。そうであれば、一部の利用者が保有する原資産の画像を変更し、そのハッシュ値から得たコンテンツIDでIPFS上に変更後の画像を保存しても、それは変更前のコンテンツIDとは異なるIDとなります。
よって、変更前のIDさえ保存していれば、変更後のIDと比較して改ざんを発見可能ですし、変更前のIDで相変わらず原資産へのアクセスも可能です。

 すると、IPFSというブロックチェーン外の分散型ストレージに原資産を保存するなら(その全利用者の手元から全画像が削除されない限りは)基本的に原資産のデータが記録され続け、改ざんも発見可能となります。したがって、IPFSから原資産へアクセスし、データを取得するためのコンテンツIDが、トークンを介してブロックチェーン上に記録されると、原資産のデータ(IPFS上)とトークン(ブロックチェーン上)が関連付けられるため、当該トークンの保有者が原資産と関連することを強固に示すことになります(IPFSのほかにも同種サービスとしてArweaveがある)。

3 ブロックチェーン上での対処
 以上のように、ブロックチェーン外で原資産の削除・変更に対処する保存方法を採用するとして、ブロックチェーン外に保存された原資産を、NFTでは、いかなる手法でブロックチェーン上に記録するのでしょうか。

 まず、NFTのようなトークンはウォレットから発行される時点で従来型トークンと違いを生じます。ウォレットが1つ目に発行したNFTならば1番が振られ、2つ目の発行ならば2番がふられます。つまり、NFTには、トークンに、それぞれ異なる番号が付され、相互に識別できるのです(この番号を「token ID」と呼ぶ)。従来型のトークンは、ウォレットに5ビットコインの塊1つ、2ビットコインの塊1つ、1ビットコインの塊が2つ保存されている場合、7ビットコインの支払いをするなら、5ビットコインの塊と2ビットコインの塊を選択・送信しても、5ビットコインと1ビットコインの塊2つを選択・送信しても、いずれも、送信されたコインの価値も意味も同一であり(どちらも7ビットコインの価値があり)、トークンは相互に代替的でした。
しかし、NFTは、ID・1のNFTを送信するかID・2のNFTを送信するか、token IDをもって選択・取引をするため、トークン相互に代替性がない異なるトークンです(ゆえに、非代替性トークンと呼ばれ、従来型と異なる)。

 NFTのようなトークンが従来型トークンと違いを生じる点はさらにあります。まず、これまでビットコインがトークンの中心であったところ、このトークンは、前記1及び第1回目の6でご説明したように、わずかな情報しかブロックチェーン上に記録できません。対して、イーサリアムというプラットフォーム上で利用されるトークンでは、情報の記録機能が拡張され、相当に大きな情報も記録可能です。したがって、NFTはイーサリアム上のトークンを用いることで、かつてのような短く単純な情報だけでなく、IPFS上の保存先を示す長めのコンテンツIDをトークンと同時にブロックチェーン上に記録することも可能になりました。このように、記録範囲が拡大したということは様々なプログラムも記録可能であり、トークンの自動的な移転・復帰なども設定可能となったのです(このようなトークンの自動設定・執行を「スマートコントラクト」と呼ぶ)。

 以上を前提に以下のことが実現可能となりました。はじめに、他と識別され機能を拡張されたトークン(NFT)と同時に、IPFS上の記録先(コンテンツID)をブロックチェーン上に刻むことで、ブロックチェーン上の特定トークン(NFT)がIPFS上のデジタルアートの画像(原資産)と強固に関連づけられ、まさに当該NFTを保有している者が当該原資産と紐付けられるわけです。しかも、そのトークン(NFT)は前記のようにスマートコントラクトによって自動的な各種設定を可能としています。
そのため、当該著作物の保有者Aが著作物をBに売却し、BがさらにCへ著作物を転売した際、CがBにトークンで支払いをするならば、その一部をAに還元する設定などもできるようになっています(たとえば、CがBに100イーサを支払うならば、その1%の1イーサをAに自動的に還元する等)。

4 NFTの意義と限界
 こうして、ビットコインのような従来型のトークンを著作物との関係で利用する際に生じていた課題は、IPFSというブロックチェーン外での保存のほか、その保存先へのアクセス方法をNFTと共にブロックチェーン上に記録することによって、解消へ向かいました。とはいえ、注意すべき点もあります。

 はじめに、NFTには記録された内容を改ざんされにくいという性質がありますが、そこには限界があるということです。IPFS上の分散保存したデータを全て削除・改ざんされる事態が生じるとすれば、もちろんデータは喪失・変更に至りますので、保存したデータを維持する工夫が必要です(そのための手法としてファイル・コインなどの手段もあります)。
 次に、NFTは特定のデータが特定のトークン保有者に関連することを示すことは可能ですが、その関連性は法的に保証されたものではないということです。つまり、NFTによって原資産のデータがブロックチェーン上に記録されても、それは、事実上の証明にはなりますが、データに対する権利を証明する明文の法制度が整っているわけではありません。
 最後に、NFTは同じプラットフォーム上であれば、設定次第で自動的なNFT取引やNFT発行者への利益還元は可能であるものの、プラットフォームが異なる場合には、自動的な設定を共有できず、その機能が実現できない場合も想定されます。
 このような限界をふまえ、それでもなおNFTがアートや著作権法の分野で、なぜ注目されているのか、そのあたりを次回(第3回目)にご紹介できれば幸いです。

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