(お詫びと訂正)
記事初出時、著作権の保護期間を「死後50年」と表記しておりました。正確には「死後70年」です。
お詫びして訂正します。
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JRRCマガジン No.223 2020/12/3
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みなさまこんにちは。
今週は「今日から冬です」と告げられたような寒さから始まりました。
季節は少しづつ移ろいでゆくものと思っていましたが、
切り替わるものに変わったように感じます。
新型コロナウイルスは世界に大きなパラダイムシフトをもたらしました。
当センターが扱う複製権の世界でも、遅れていたIT時代に即した著作権法整備へ向けて、
動きを加速させるきっかけとなったのではないでしょうか。
著作権界はただいま大忙しです。
終息する頃には、著作物の権利が確実に守られ、
利用する側も使いやすくなるような法整備が進み、
著作権法が、生活する上で常に意識してもらえるような存在になればと願っています。
今日は川瀬先生のよもやま話をお届けします。
著作物とは何かについて(その2)です。
前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━
著作物とは何かについて(その2)
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4 著作物かどうかの具体例
(2)美術の著作物関係
①美術の著作物と意匠の境界領域
美的創作物については、美術の著作物として著作権法で保護ざれるものと、
意匠として意匠法で保護されるものとに分かれています。
「意匠」とは、意匠法上、「物品(物品の部分を含む)の形状、模様、若しくは色彩又はこれらの統合であって、
視覚を通じて美観を起こさせるものをいう」(意匠法2条1項)と定義されています。
また意匠登録ができる者は、工業上利用することができる意匠の創作をした者とされ、
意匠法による保護は実用目的の意匠に限定されています。
このことから、一般に、美術の著作物は鑑賞目的の美的創作物として「純粋美術」の保護、意匠は、
実用目的の美的創作物として「応用美術」の保護として区別されています。
しかしながら、この分類は概念上のものです。
すなわち、著作権法又は意匠法に明示的にその区分が規定されてはおらず、
著作権法に「この法律にいう「美術の著作物」には美術工芸品を含むものとする。」(2条3項)と規定するのみです。
この保護対象の明確化について、現行法の制定(1970(昭和45)年)に当たり、
著作権法改正について諮問された著作権制度審議会で議論されましたが、結局そのことは現行法の中には盛り込まれませんでした。
また、改正案を審議した国会の衆・参文教委員会の附帯決議において応用美術の保護について早急に検討を行うよう政府に要請されていますが、
これまで具体的な検討は行われていません。
著作権法の立案者は、2条3項の定義規定を設ける際に、鑑賞目的か、実用目的かという創作の目的による適用法の区分を念頭に置きつつ、
茶碗、壺、皿等のような実用品の中でも鑑賞目的の一品製作である美術工芸品については著作権法による保護対象とし、
それ以外の実用品は意匠法による保護に委ねることを想定していたと考えられます。
しかしながら、その後、この境界領域に関する紛争は多発し裁判になる例が増えました。
その判例の蓄積の中で、2条3項はあくまで例示規定であり、その他の実用品であっても著作権保護はありうるという考えが定着しています。
紛争の形式としては、実用目的の美的創作物について、著作権法による保護を求める事案がほとんどです。
何故このような形式が多いのかといいますと、この原因の一つには保護の方法の違いがあると考えます。
著作権は、著作物を創作した時点で権利が自然に発生し、しかも保護期間は原則著作者の死後50年 死後70年まで保護されます。
一方、意匠権は、特許庁に意匠出願をする必要があり、保護期間も著作権に比べると極端に短いです。
このように、著作権による保護は権利の自然発生を基礎としていますので、
例えば、類似品が出てきた時点で権利主張を検討すれば十分であるという手軽さがあります。
一方、意匠による保護は、類似品の販売等に備えてあらかじめ権利を取得しておく必要があり、
登録要件も厳しく、また登録手続等も複雑で費用負担も生じるという短所があります。
それでは、具体的な判例について紹介します。
先ほども簡単に説明しましたが、現行制定後の下級審の判例の積み重ねにより、
鑑賞目的か、実用目的かによる区分を認めつつも、
美術工芸品以外の実用品であっても「美的鑑賞の対象」となりうる美的創作物かどうかにより著作権保護を認めている例が多くあります。
例えば、大量生産されるからといって著作物性を否定する必要がないと判断した博多人形「赤とんぼ」事件(長崎地裁佐世保支部決定(1973(S48).2.7決定))、
原画を見て美的鑑賞の対象となれば著作物性を肯定しても問題ないとしたTシャツデザイン事件判決(東京地裁(1981(S51).4.20)等です。
一方、美的鑑賞の対象とまでは言えないとして著作物性を否定した裁判例も多くあります。
例えば、帯の図柄について争われた佐賀錦帯事件(京都地裁判決1994(H元).6.15)、
天然木の木目を組み合した図案について争われた木目化粧紙事件(東京高裁判決1991(H3).12.17)、
街路灯のデザインを描いた図について争われた街路灯デザイン図事件(大坂地裁判決2000(H12).6.6)等です。
このような下級審の判例を踏まえ、印刷用書体の著作物性が争われた事件において最高裁は、
「美的鑑賞の対象」かどうかという判断基準を用いて、印刷用書体の著作物性を否定しました。
判例1 ゴナ書体事件最高裁判決(2000(H12).12.7)
「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには,
それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり,
かつ,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。」
その後、それまでの下級審の判断及び判例1の最高裁判決に基づき、従来の見解を踏襲した裁判例があります。
判例2 ファッションショー事件知財高裁判決(2014(H26).8.28)
「量産される美術工芸品であっても、全体が美的鑑賞目的のために制作されるのであれば美術の著作物として保護されると解すべきである。」
「実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、
(中略)、当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。」
なお、同時期に著作物性の判断は、著作権法と意匠法に適用関係の調整規定がない以上、
それまでの「美的鑑賞の対象」という要件ではなく、「思想又は感情を創作的に表現したもの」という著作権法上の著作物の要件(2条1項1号)」
に従い判断すべきであるとの裁判例があります。
判例3 幼児用椅子事件知財高裁判決(2015(H27).4.14)
「表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。
同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」 に該当しない応用美術であっても,
同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。」
☆この裁判では上記の要件を踏まえ幼児用椅子の著作物性を認めましたが、著作権侵害は認めませんでした。
このように最近では同じ高裁レベルで判断が2分されているのが現状です。]
私見では、確かに著作権法と意匠法の境界領域については、現行法の制定後あまり検討されておらず、
様々な理由で法改正が行われていないという事実はそのとおりです。その意味で判例3の指摘は正しいと思います。
しかしながら、これまで「美的鑑賞の対象」という要件により、実用品の著作物性について判例が蓄積され、
これにより一定の秩序形成が行われているのも事実です。
著作権法による保護と意匠法による保護とは、先に説明したとおり制度の目的等が異なることから、
保護の仕組みが全く異なります。そういう状況の中で、判例3のような考え方を採用することは、
判決文ではそれほど大きな混乱は起こらないとしていますが、私自身は大きな混乱を招くのではないかと危惧しています。
なお、判例3の判決以降、判例3の考えを踏襲した判例はほとんどありません。
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