JRRCマガジンNo.221 著作物とは何かについて(その1)

川瀬真

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JRRCマガジン No.221 2020/11/12
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

みなさまこんにちは。
冬の到来が近づき、新型コロナウィルスへの感染者が再び増えてきました。
日常生活上でのクラスター感染の件数も増えております。
一層の予防でこの冬を乗り切りたいですね。

そのような中で、JRRCでも活用するようになったZoomですが、
Zoomを使ったオンライン講習会を川瀬先生にお願いしています。

先生は、センターでもご利用者様の問合せに電話対応いただいたり
職員の疑問や質問にも気さくに答えていただいています。
ランチ先ではマスターとほどなくお友達になってしまうほど、
対話が大好きな先生です。

ですのでオンライン講座を企画した当初は、受講者の顔が見えない、対話ができない講義に懐疑的でしたが、
いざ始めると、いままでは会場の関係で参加できなかった方にも多数参加していただいている状況や、
実施までのフットワークの軽さなど、利点を感じていただけたようで今では積極的に協力いただいています。

まだ講座を受けたことのない方は是非一度受けてみてください。
⇒https://jrrc.or.jp/educational/kouza/

さて、今日から川瀬先生のコラムは新たなテーマになります。
先生がテーマを考えていた時に、編集からのリクエストから生まれたものです。
「これは著作物なのだろうか。」と迷う時はありませんか。
SNSなどで企業や個人から気軽に発信できる機会が増えているからこそ、知っておきたい知識です。

前回までのコラム
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆━川瀬先生の著作権よもやま話━━━

著作物とは何かについて(その1)

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1 はじめに

著作権は、著作物を創作した時点で自動的に権利が発生するため、創作者及び利用者とも著作物かどうかの判断に迷うことが多いと思います。
著作権法では、2条1項1号に著作物の定義を規定するとともに、10条に著作物の例示規定(同条1項)や著作物でないものの確認規定(同条2項・3項)を置き、
著作物かどうかを判断する要件の明確化を図っています。しかし、小説、論文、絵画、彫刻等のように誰が考えても著作物であることが明白であるものは別にして、
短い文章、図表・グラフ、工業デザイン等のように著作物かどうかの判断が難しいものもあり、著作物かどうかの判断が紛争の原因になることも多いです。

本稿では、著作物かどうかの境界領域について、学説や裁判例も参照しつつ解説していくことにします。

2 著作物とは何か

著作権法上、著作物の定義は次のように規定されています(2条1項1号)。

「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

この規定は、1970(昭和45)年の現行法の制定の際に設けられました。
旧法では、著作物の例示はされていたものの(旧法1条)、定義規定はありませんでした。
現行法は旧法下の判例(大阪控1936(S11).5.19)を参考に定められたものといわれています。

著作物の定義について世界に目を向けますと、米国、ドイツ、フランス等のように著作物の例示規定を定めている国は多いのですが、
著作物の定義を定めている国は韓国等ごく少数です。ベルヌ条約においても日本のような定義規定はなく、例示規定にとどまっています(ベルヌ条約2条(1))。
わが国の場合、この定義規定があるおかげで、著作物であるものとそうでないものの大きな枠組みは理解できるものと考えます。
それではこの定義により明らかになったことですが、まず、著作権は表現の保護ですから、文字、色、記号、線等を使い外部に表現されていなければいけません。

したがって、構想や考え方等のアイディアとして著作者の内心の領域にとどまっている限り保護されません。
また、例え外部に表現されたとしても、例えば論文を複製し公衆送信をする等その表現の利用については著作権が及びますが、
論文に流れている学説すなわちアイディアに相当する部分には著作権が及びません
(判例としては、論文の著作物性を認めたものの命題の解明過程等は著作物でないとした野川グループ事件判決(大阪高裁<2004(H6).2.25>)等多数)。

なお、表現形式ですが、わが国では映画の著作物を除き(2条3項)固定は要件としていません。

したがって、例えば、講演のようなものも記録されているかどうかにかかわらず著作物として保護されることになります。
なお、固定とは、紙、テープ、デイスク等の何らかの支持物に著作物が表現されていることをいい、映画の著作物については固定が要件ですので、
例えばドラマのように事前に録音録画が行われているものは保護されますが、生放送は映画の著作物として保護されないということになります。

また、その表現については、思想又は感情の創作的表現でなければいけません。
一般に「思想又は感情」は人間の気持ち程度、「創作性」は創意工夫程度といわれており、例えば特許法で保護される発明と異なり、高度な創作性を必要としません。
判例では、厳密な意味で独創性や他に類例がないことまで要求されるわけではなく、表現に当たって著作者の個性が発揮されていればよいとされています
(判例としては、「当落予想表事件」東京高裁判決<1987(S62).2.19>等多数)。

したがって、このことから単なるデータは、そのデータにどれだけ価値があろうとも、創作性のある表現とは言えないので著作権の保護はありません。
また、書式、定型文、ロゴマーク、キャッチフレーズ、スローガン等の表現物についても創作性の点から、
「ありふれた表現」として著作物性が否定されるものが多いと考えられます。個別の事例については後述します。

最後に、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」である必要があります。
これについては、一般に文化的所産であればいいといわれており、「文芸」、「学術」という用語にこだわる必要はなく包括概念と説明されています。

3 著作物の例示

10条1項では、著作物の例示を定めています。
この規定は、あくまで著作物の例示ですので、この規定に定められていない表現物であっても2条1項1号の著作物の定義に該当すれば著作権法の保護があることになります。

この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物

4 著作物かどうかの具体例

(1)[言語の著作物の関係]

単語や熟語は、例え最近作られた造語であっても一般に著作物ではありません。
例えば、「ONE TEAM」、「そだね」、「インスタ映え」及び「忖度」は、過去に流行語大賞に輝いた用語ですが、その時代の世相を表すぴったりの用語かもしれませんが、
その表現は思想又は感情の創作的表現とは言えないので著作物ではないとされています。

また、誰が書いても同じようなものにしかならない簡単な文書も著作物性がないと判断される場合が多いと考えますが、
短い文章だからといって、著作物性が否定されるわけではありません。例えば、俳句、短歌、川柳等は短い文章でありますが、
古くから著作物性ありと考えられています。要するに思想又は感情の創作的表現かどうかが問題となります。

いくつかの裁判例を紹介します。

例 1 新聞の見出し
否定例
(知財高裁判決<2005(H17).10.6>)

☆「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」
☆「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」

*この事件は新聞の見出しを無断でデータベースにした者を新聞社が訴えた事件ですが、
ある程度の分量のある見出しを選択して訴えたにもかかわらず、裁判所は著作物性を認めませんでした。

例2 料理のレシピ
否定例
(東京地裁判決<2011(H23).4.27>)

「例Ⅰ おにぎり (5’)の上に型当て板( 1)を当て上からふりかけ,
ごま,桜でんぶ,青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板( 1)を とりのぞけば
おにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。」

*これは料理の方法に関するアイデイアを文書にしたものですが、誰が考えても同じような表現しかならないと判断されたと考えます。

例3 お城の定義
否定例
(東京地裁判決<1994(H6).4.25>)

「城とは人によって住居,軍事,政治目的をもって選ばれた一区画の土地と,そこに設けられた防御的構築物をいう。」

*簡潔な学問的定義は、同じ学問的思想に立つ限り、同一又は類似の文言を採用して記述するしかないとし著作物性を否定しました。

例4 交通標語
肯定例
(東京高裁判決<2011(H23).10.30>)

「ぼく安心 ママのひざよりチャイルドシート」

*チャイルドシートを締めようというテーマを基に表現したもので、表現の選択の幅が広く作者の個性も現れているので、
俳句や川柳と同様に著作物であると判断されたのだと考えられます。

例5 雑誌等の休廃刊における挨拶文
(東京地裁判決<2005(H17).12.18>)

否定例
「おしらせ いつも『なかよしデラックス』をご愛読いただきましてありがとうございます。
『なかデラ』の愛称で15年間にわたって,みなさまのご声援をいただいてまいりましたが,この号をもちまして,ひとまず休刊させていただくこととなりました。
今後は増刊『るんるん』をよりいっそう充実した雑誌に育てていきたいと考えております。『なかよし』本誌とともにご愛読くださいますようお願い申しあげます。 なかよし編集部」

肯定例
「あたたかいご声援をありがとう 昨今の日本経済の下でギアマガジンは,新しい編集コンセプトで再出発を余儀なくされました。
皆様のアンケートでも新しいコンセプトの商品情報誌をというご意見をたくさんいただいております。
ギアマガジンが再び店頭に並ぶことをご期待いただき,今号が最終号になります。長い間のご愛読,ありがとうございました。」

*否定例は定型文と判断され、肯定例は廃刊に対する編集者の思いが表現されていると判断されたと考えられます。

次回は、美術の著作物について取り上げます。
美術の著作物については、著作権と意匠権の保護の境界領域、マーク類の取扱い、建築の著作物との関連等の問題があります。
これら点について具体例を示しながら、わかりやすく解説します。
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