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JRRCマガジン No.202 2020/4/23
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
みなさまこんにちは。
はじめにお詫びと訂正です。
昨日配信の【JRRCマガジンNo.201】続報:授業目的公衆送信補償金制度について
の記事内の冒頭部分におきまして
「授業目的公衆補償金制度の早期施行」とありますが
正しくは
「授業目的公衆送信補償金制度の早期施行」でございます。
謹んで訂正を申し上げます。関係者の皆さまには重ねてお詫び申し上げます。
StayHomeが叫ばれる中、どのようにお過ごしですか。
最初はぎこちなかった、オンライン上での会話やミーティングも少しずつ慣れてきたころでしょうか。
当初、在宅勤務の方が時間に余裕があるのではないかと思われていましたが、
いざやってみると、今まであった移動時間を含まずにミーティングを設定してしまい、
日に複数のミーティングが入ると実際にトイレやお茶を飲む時間もなく非常に辛かった方の体験談を聞きました。
ミーティングとミーティングの間は、頭の切替えも含め、最低でも30分の間隔を取るようにしましょう。
さて、今日のコラムは川瀬先生、著作権法上の侵害行為その2です。
時間のある方はバックナンバーでその1を復習してからご覧ください。
前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/kawase/
◆◇◆◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━
著作権法上の侵害とみなす行為について
(その2)
━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
2 侵害とみなす行為の具体的類型(続き)
(3)権利者の許諾・同意を得ずに作成された著作物等の複製物(いわゆる「海賊版」)を頒布する行為等(113条1項2号)
(1)で説明した113条1項1号で制限される行為は海賊版の輸入でしたが、この規定は海賊版の国内外への拡散を防止するためのものです。
制限される行為は、「著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権及び著作隣接権を侵害する行為によって作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、
情を知って、頒布し、頒布の目的をもつて所持し、若しくは頒布する旨の申出をし、又は業として輸出し、若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為」です。
制限の対象となる物は、違法に作成された著作物等の複製物であり、(1)で説明した国外から輸入した海賊版を含みます。
「頒布」というのは、一般に著作物等の複製物を公衆に譲渡(販売等)したり、貸与することをいいます(2条1項19号)。
また、「情を知って」というのは、海賊版であることを知っているということですので、
例えば、海賊版の製造者から問屋、問屋から小売店、小売店から顧客というように、1つの複製物が何度も頒布されることがありますが、
例えば、問屋は海賊版であることを知っていて、小売店は知らなかった場合、問屋の頒布行為はこの規定に違反する行為ですが、小売店の行為はこの規定には違反しないことになります。
もっとも、このことはみなし侵害規定の適用関係だけで、当該頒布行為が頒布権(26条)、譲渡権(26条の2等)又は貸与権(26条の3等)侵害(直接侵害)に該当する場合には、
海賊版であることを知っていなくても権利侵害になる可能性があります。
可能性があるという意味ですが、例えば複製物の取引市場に混乱が生じさせないため、著作物等の複製物を入手した際に、
譲渡権の消尽要件(26条の2第2項等)に該当しないことを知らず、かつ知らないことに過失がなかったときは、
当該複製物を公衆に譲渡しても譲渡権が働かないことになっています(113条の2)。
したがって、例えば中古レコード店が海賊版と知らずに業者又は顧客から買い取った海賊版レコードを別の顧客に販売したとしても、
原則としてみなし侵害規定(113条1項2号)の適用はなく、また、譲渡権(26条の2第1項)の侵害にもならない場合があることになります。
また、映画の著作物の複製物の譲渡行為(販売等)については、譲渡権(26条の2)ではなく頒布権(26条)が働くことになっています。
頒布権については、前述の善意者に係る譲渡権の特例(113条の2)の対象外ですが、中古ゲームソフト事件判決(最高裁(2002(平成14)年4月25日)において、
ゲームソフトも映画の著作物に該当するものがあるとした上で、頒布権は本来映画フィルムの配給権であり、
パッケージソフトの場合、頒布権(譲渡の部分)は消尽するとの判断があるので、
判決の趣旨から、ゲームソフトだけでなく放送番組、劇映画、音楽ソフト等のパッケージソフトも含めた中古販売等について、
113条の2を類推適用し権利侵害にならない可能性があると考えます。
ところで、現行法が制定された1970(昭和45)年からこの規定は存在していましたが、
制定時において制限される行為は頒布行為だけでした。その後の時代の変化とともにいくつかの類型が追加されました。
まず、1988(昭和63)年の改正により、頒布目的の所持が追加されました。
当時洋画又は邦画を問わずビデオの海賊版が横行し、映画関係者は、市場適正化運動を展開し、適切な価格の正規版の供給を拡大することと並行して、
海賊版の製造者や販売店・レンタル店の複製権侵害(21条)又は頒布権侵害(26条)の取り締まりに力を入れていました。
その際、映画・ビデオ業界から指摘されていたのは、販売店等のカウンターや陳列棚でビデオの海賊版が保管又は陳列されていても、その行為だけでは頒布権侵害にはならず、
権利侵害を立証するためには顧客に買った又は借りたことの証言をしてもらう必要があり、立証負担が重いということでした。
そこで、頒布の準備行為である頒布目的の所持まで違法行為を広げたのがこの改正でした。
次に、2006(平成18)年の改正により、業としての海賊版の輸出や輸出目的の所持が追加されました。
この措置は、税関における海賊版の輸出等を効率的に取り締まるために行われたもので、2006(平成18)年の通常国会で特許法等の産業財産権について同様の改正が行われ、同年の臨時国会で著作権法の改正が行われました。
この改正により、輸出相手先が特定少数の業者であっても、輸出を反復継続して行っていれば、業として行っていることになり、輸出が制限されることになりました。
最後に、2009(平成21)年の改正により、頒布する旨の申出を行う行為が追加されました。
IT時代になって、特にインターネットを活用した海賊版の販売等が増加する傾向にあり、このことが被害の拡大を招いているのではないかとの指摘がありました。
法改正前は、例えば、ネットワークを活用して海賊版の販売等の告知(頒布の申出)をしている者と、海賊版の製造(複製)、販売(頒布)又は保管(頒布目的の所持)をしている者が異なるときは、
販売等の告知を取り締まる根拠規定がなく、取り締まりが困難でした。
また、仮に同一人物が行っているとしても、製造、販売等をどこで誰が行っているかを立証することは困難を伴います。
しかしながら、ネット上の告知行為については、基本的にはネット上の告知サイトを確認できれば権利侵害を立証することができます。
また、告知行為が違法行為ということになれば、違法サイトの排除等を目的としているプロバイダー責任制限法により、サイトの削除要求や発信者情報開示も容易に行えることになりました。
なお、この改正は、主としてネット上の海賊版の販売等の告知行為の蔓延に対応して行われたものですが、
この規定を見ても分かるようにネット上の行為に限定していませんので、例えば印刷物(カタログ)による告知行為等についても対象になります。
また、情を知って行うという要件はこの追加規定にも適用がありますので、一般の広告宣伝のように海賊版であることを知らないで行っている行為については対象になりません。
(4)権利者の許諾を得ずに作成されたコンピュータ・プログラムの複製物を電子計算機において業務上使用する行為(113条2項 1985(昭和60)年改正)
コンピュータ・プログラムの著作権法による保護については、1973(昭和48)年に文化庁の著作権審議会(現在の「文化審議会著作権分科会」)において、
プログラムは学術の著作物である得るとの報告書が出され、その後1980年代に入り、ゲームソフトの分野ですが、プログラムの著作物性を認める判決が複数だされるようになりました(1982(昭和57)年東京地裁、同年横浜地裁等)。
このような状況の中で、政府部内では、著作権法を改正してプログラムの保護を図るのが適切だとする文部省(現在の「文部科学省」)・文化庁と、
プログラムの特性を考えると新規立法による保護が必要だとする通商産業省(現在の「経済産業省」)と意見が対立していました。
当時の通産省のプログラム権法(仮称)構想では、プログラムは電子計算機で使用されて初めて価値が出るので、使用権が必要だという考えでした。
一方、著作権は表現の保護ですので、産業財産権の分野で定められている実施や使用に関する権利はなじまないという考えでした。
それ以外にも、通産省の構想では、登録主義(方式主義)、産業財産権並みの保護期間、特許法に準じた裁定制度の導入などが考えられており、どちらかといえば特許法に近い制度を想定していました。
また、外国人の保護については、二国間協定により相互保護を行うということでした。
このような政府部内の意見の対立の中で、1985(昭和60)年2月に世界知的所有権機関(WIPO)とユネスコの合同専門家会議が開催され、
プログラムの法的保護に関する世界の大勢は著作権法による保護であることが分かり、その直後に政府部内で意見の調整が行われ、同年の通常国会に著作権法の改正案が国会に提出され成立したところです。
その際、プログラム権構想の柱であった使用権については、通産省からの要望も踏まえ、
使用権の創設ではなく、違法に作成されたプログラムの複製物であることを知りつつ電子計算機において当該複製物を業務上使用するという悪質な行為に限定して、みなし侵害規定を創設することとしました(113条2項)。
ところで、プログラムの著作物の利用に係る権利制限規定として、プログラムの複製物の所有者が当該プログラムを電子計算機で実行するために別の複製物を作成すること等を認めた規定があります(47条の3)。
これは、例えば、パッケージソフトを購入した者が、一旦電子計算機のハードデイスクに当該ソフトを複製し、実際の使用は当該複製物を用いて行うことができるようにするものです。
そうしますと、何らかの調整規定を置かないと、当該複製物は権利制限規定により適法に作成されたものですから、
本規定(113条2項)の適用がないことになりますので、47条の3の規定により複製等が行われた複製物の使用も本規定の適用があることになっています(113条2項括弧書)。
また、(1)で説明した輸入に係るプログラムの複製物(113条1項1号)や当該複製物を47条の3により複製等した複製物も同様です(同括弧書)。
なお、本規定も(2)及び(3)で説明したとおり、「情を知って」という要件が定められています。
ただ、本規定の特徴はプログラムの複製物を使用する権限を取得したときに情を知っていた場合に限りみなし侵害になることとし、(2)及び(3)と比べて要件を厳格化しています。
具体的にはプログラムの複製物の譲渡(購入等)や貸与を受けたときに違法複製物であることを知っていた場合に限定するという意味です。
要するに、例えば、プログラムの複製物の購入時に違法複製物であることを知らなければ、後からその複製物は違法に作成されたものであると知らされても使用は継続できることになります。
次回も引き続き侵害とみなす行為について説明をします。
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