JRRCマガジンNo.200 職務著作の準拠法

山本隆司

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JRRCマガジン No.200   2020/4/16
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

みなさまこんにちは。
JRRCマガジンも2012年7月に創刊号を配信してから通算200号を迎えました。

約8年の時を経て、当時の事務局から場所も人も大きく変わりました。

しかしながら、読者の方の中には発刊当初からお読みいただいている方が数多くいらっしゃいます。
長きにわたりお付き合いいただきまして、ありがとうございます。
一方、ご契約者様の担当として配信されたことがきっかけで、お読み頂いている方におかれましては、
年間使用料報告など、当センターへのご協力と合わせて感謝いたします。

他人の著作物を業務で使用するということは、簡単なことではありません。
著作物に接しただけでは、本当の権利者が誰なのか、分からないことも多く、
また、使用する場所や方法によっても適用される法律が変わってきます。
さらには、権利は財産であるが故に、JRRCの利用でさえ、ご利用者様の立場で考えれば単純ではありません。
(日々痛感しながら対応させていただいています。)

このメールマガジンを通して著作権思想、著作権法を分かり易くお伝えし、お役立ていただきたいとの思いで、
これからも配信を続けていきますのでどうぞお付き合いください。

今回のコラムは山本先生、職務著作の準拠法についてです。

前回までのコラムはこちらから
https://jrrc.or.jp/category/yamamoto/

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義(86) ━

  -職務著作の準拠法-

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先日(令和2年2月20日)、知財高裁が職務著作の準拠法を争点とする事件について判決を下しました。
この事件の論点は多岐に渉りますが、職務著作の準拠法について考えてみたいと思います。

この事件では、海外のファッションデザイナーとそのマネジメント会社が、日本企業を、
パブリシティ権侵害のほか、著作権侵害で訴えました。
東京地裁(平成31年2月8日判決)は、それぞれの侵害を認め損害賠償請求を一部認容する判決を下し、
知財高裁はこれを支持しました。

地裁は、職務著作の準拠法について、
「職務著作に関する規律は、その性質上、法人その他使用者と被用者の雇用契約の準拠法国である米国著作権法の職務著作に関する規定によると解すべき」と判示し、
知財高裁もこれを支持しました。
つまり、米国で作られた著作物でも、日本での利用には属地主義によって日本の著作権法が適用されますが、
著作権の帰属には属地主義が適用されないとしました。
 
著作権に関する準拠法の決定ルールは、ベルヌ条約の解釈と著作権思想も絡んで、大変複雑ですが、
大変おもしろい論点です(著作権研究37巻参照)。
しかし、ここでは日本のルールのみを整理してみなさんの実務の参考としたいと思います。

ここでは、外国の著作物を日本で利用する場合を考えることにします。

第1に、著作権の効力については、属地主義(ベルヌ条約5条2項2文)に従って、日本の著作権法が適用されます。
したがって、たとえば、違法サイトへのリンクには、EU諸国では公衆伝達権が及ぶことになりますが、
日本では公衆伝達権(≠公衆送信権)がありませんので、著作権の効力が及びません。
 
第2に、著作権侵害に対する差止請求権は、著作権の効力の問題として、日本の著作権法が適用されます(北朝鮮映画事件・知財高裁平成20年12月24日判決など)。
しかし、著作権侵害に対する損害賠償請求権は、日本では著作権の効力ではなく不法行為の効果と考えられているので、法適用通則法に従って日本の民法が適用されます。
 
第3に、著作者は誰か、著作権は誰に原始的に帰属するかという問題については、著作物を作った者の雇用契約の準拠法と同じ国の著作権法が適用されます(本件判決など)。
たとえば、アメリカの企業がイギリス人に日本で著作物の制作を委託した場合には、委託契約で契約の準拠法をどこの国の法律にするか定めていないかぎり、複雑な問題を生じます。
 
第4に、著作権契約(ライセンス契約や譲渡契約)の成立や効力については、原則として、法適用通則法に従って当事者の選択した国の法律が適用されます。
ただし、契約の物権的側面(譲渡可能性や対抗要件)は、属地主義に従って日本法が適用されます(苦菜花CS放送事件・東京地判平成21年4月30日など)。
したがって、米国著作物であっても、日本法に基づく著作権の譲渡に対する対抗要件は、米国著作権局への登録ではなく、日本の文化庁への登録が必要になります。

ところで、私がこの判決に注目したのは、著作権の帰属の問題に属地主義を適用しなかったことにあります。
著作権制度は、著作権を与えて著作物の創作を促進する、それによって国民が享受できる著作物を豊かにする産業文化政策を実現する手段です。
だれに著作権を帰属させるはその目的に大きく影響しますので、属地主義を適用すべきと考えられるからです。
おもしろいことに、著作権の帰属の問題について、産業政策説に立つ米国が属地主義を採らず、自然権説に立つドイツが属地主義を採っています。
 
以上
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