JRRCマガジン No.168 米国著作者人格権報告書

山本隆司

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JRRCマガジン No.168   2019/6/6
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先日オリンピックのチケットの締切が延期されたニュースがあ
りましたが、ウェブから入力してみたところ、待ち時間や万単
位の人数表示が刻々と変化して興味深かったです。さて、今回
の山本隆司弁護士のコラムは「米国著作者人格権報告書」につ
いてです。

◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━━

第76回「米国著作者人格権報告書」

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2019年4月23日、米国著作権局長は、著作者人格権に対する
立法措置が米国に必要かどうかについて、報告書を公表しました。
 報告書は、まず、著作者人格権に対する立法措置の要否を検討す
る視点として、第1に、米国法の基本的枠組みと整合させること、
第2に著作者人格権の重要性について誇張を避けること、第3に、
著作者人格権を保護する必要性は産業ごとに、また著作物の種類ご
とに大きく異なることを考慮したと述べます。
 つぎに、報告書は、結論として、現行の法制度がよく機能してお
り、変更の必要性はないと判断しています。ただ、著作者人格権に
ついて、連邦議会が望めば、個々の著作者と著作制度全体の利益の
ために改良できる4点があると指摘します。
 改良できる第1点は、連邦商標法の改正です。連邦商標法は、連
邦の不正競争法を含んでおり、その虚偽出所表示の規定(43条(a))
が著作者の氏名表示権および同一性保持権の保護のために使われてい
ました。しかし、2003年の連邦最高裁ダスター判決(Dastar Corp.
v. Twentieth Century Fox Film Corp., 539 U.S. 23 (2003))は、
著作者の氏名表示を要求する権利を前記規定に基礎づける逆詐称販売
(reverse passing off)の理論を否定しました。報告書は、消費者
の誤認混同を生ずる態様に限って、著作者の氏名表示に関して虚偽
出所表示に含めるよう改正することがありうると述べています。
 改良できる第2点は、視覚芸術著作物に与えられている氏名表示
権および同一性保持権(106A条)の改正です。視覚芸術著作物に
は、商業目的の著作物などが除外されています。報告書は、その除外
の範囲をさらに明確化するよう改正することなどがありうると述べ
ています。
改良できる第3点は、著作権管理情報の保護規定(1202条)の
改正です。現行法上も、著作権管理情報が削除・改竄された場合に
は、民事責任と刑事制裁が用意されています(1203条、120
4条)。しかし、その権利主体は著作権者です。報告書は、著作者
を、故意によるその氏名表示の削除・改竄から保護し(1202条A)、
著作者に損害賠償請求権を認めるよう改正することがありうると述
べています。
改良できる第4点は、パブリシティ権を保護する連邦法の創設です。
現行法では、判例法理で発展してきたパブリシティ権をほとんどす
べての州が制定法または判例法で保護しています。その保護の範囲
と保護期間は州ごとに異なります。報告書は、連邦法で、生存期間
中に限り、個人の氏名、署名、肖像および肉声を商業的使用から保
護することにより、最低限度のパブリシティ権が保護されるようす
ることができると述べています。連邦法で保護するとすれば、連邦
憲法の州際条項(1条8項3号)を根拠にすることになりますので、
連邦著作権法による未固定音楽実演の保護(1101条)と同様に、
州法によるパブリシティ権の保護を排除しないものと位置づけるこ
とを想定しています。

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