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JRRCマガジン No.163 2019/4/4
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4月1日に新元号が発表され、1ヶ月後には「令和」が始まります。
前回の元号改正時の自粛ムードとは違い、今回は時代の変化を
それぞれの思いで感じることが出来る貴重な1ヶ月と言えるの
ではないでしょうか。
さて、今回の山本隆司弁護士のコラムは美術の著作物に関する
「リミックス音源」についてです。
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━
第74回「リミックス音源」
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著作権法学会の判例研究会で、今年(2019年)1月、レコード製作
者に対する著作隣接権の成立に関する裁判例(大阪地裁平成30年4月
19日判決)が紹介されました。
事案は、米国人Aがジャコ・パストリアスのベース演奏を録音し
た音源(A音源)について、マスターテープと権利をXが譲り受けま
した。Xはそのマスターテープをもとに新たにミキシングを行って新
たな音源(X音源)を作り出しました。米国人Bはジャコのドキュメ
ンタリー映画を作成し、その中にX音源を使用しました。
Yは、当該映画を日本で配給しました。そこで、XがYをレコード製
作者の著作隣接権に対する侵害として訴えを提起しました。
X音源についてXがレコード製作者として著作隣接権を取得した
かどうかが、主要な争点の一つになりました。
裁判所は、「ある固定された音を加工する場合であっても,加工
された音が元の音を識別し得るものである限り,なお元の音と同一
性を有する音として,元の音の「複製」であるにとどまり,加工後
の音が,別個の音として,元の音とは別個のレコード製作者の権利
の対象となるものではないと解される。」と判示して、X音源に対
する著作隣接権の成立を否定しました。
しかし、レコード製作者の著作隣接権は、新たなレコード製作に
対して発生するものです。既存の音源の断片を使って新たな音源を
作成するサンプリングの例を考えれば明らかなとおり、既存の音源
に依拠しながら、新たな特徴を持った音源を作り出すことは可能で
す。その場合には、二次的著作物と同様に、当該新音源にレコード
製作者の著作隣接権が発生すると考えられると思います。
したがって、既存の音源に依拠しながら、新たな特徴を持った音
源を作り出す場合、レコード製作者の著作隣接権が発生するうえで
必要なことは、既存の音源が新音源から識別可能であるかどうかで
はなく、二次的著作物と同様に、新たな特徴を持った音源として既
存の音源から識別可能であるかどうかであると思います。
ちなみに、私は、著作物の創作性概念を、その機能性から、創造
性のテスト、非自明性のテストおよび識別可能性のテストの3つのル
ールに集約することができると考えています。創造性のテストは、
著作権による保護を正当化するための要件として新たに作られた表
現であることを求めるルールです。非自明性のテストは、アイデア
に著作権が及ぶことを回避するための要件として、新たに作り出さ
れた表現がアイデアに不可避または平凡でないことを求めるルール
です。識別可能性のテストは、既存の表現に著作権が及ぶことを回
避するための要件として、新たに作り出された表現が既存の表現か
ら一見して識別可能であることを求めるルールです。この問題につ
いての講演録をCRIC(公益社団法人著作権情報センター)の「コピ
ライト」2019年4月号に掲載しました。
上記の問題(新たな特徴を持った音源として既存の音源から識別可
能であるかどうか)は、上記の識別可能性のテストに該当します。
識別可能性のテストにおいては、①一般人の感覚において、②一見
明白に、識別可能であることが必要と考えられます。
ところが、A音源とX音源の違いはミキシングだけの違いです。①一
般人の感覚において、②一見明白に、識別可能であるか、実際にA
音源とX音源を聞き比べないと判断できませんが、新たなミキシン
グで曲調を変えた程度であれば、①一般人の感覚において、②一見
明白に、識別可能にはならない可能性が大きいと思います。裁判所
も、言い方を間違えていますが、結局このようなことを言いたかっ
たのかも知れません。
以上
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