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JRRCマガジン No.153 2018/12/21
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企業や公共機関における広報・コンプライアンス等ご担当の皆さま
年末のこの機会に是非とも著作権の重要性も再認識いただけますと
幸いです。当センターとご縁のある皆さまにおかれましては、縁が
あって良かったと感じていただけますよう願っております。
10月より電磁的複製利用許諾を開始いたしました。
簡便な包括契約等詳細については下記からご確認いただけます。
https://jrrc.or.jp/digital_lic/
さて、
今回の半田正夫弁護士の著作権の泉は
(ホンモノか、ニセモノか)についてです。
◆◇◆半田正夫弁護士の著作権の泉━━━━━━━━━━━
第64回 ホンモノか、ニセモノか
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私の好きなテレビ番組のひとつに「開運!なんでも鑑定団」とい
うのがある。視聴者が持ち込む「お宝」を鑑定士が評価するという
もので、先祖伝来の貴重な掛け軸と称するものが1000円ぐらいの
ガラクタであったり、道端で拾ったものが100万円もする高価な
ものであったり、その意外性に一喜一憂する人々を描いて、非常
に面白い番組に仕上がっている。なかでも鑑定士が豊富な知識と
経験とを駆使して歯切れよく、しかもわかりやすく解説する姿には、
依頼者に対する深い思いやりが感じられ、視聴者に好感を持って迎
えられているようだ。
ただ、鑑定士が「ホンモノはもっと線が太いです。この絵のよう
に細くぼかした感じにはしません。よってこの絵はニセモノです。」
と一刀両断的に明快な解説をすることがあるが、これでニセモノと
決めつけることができるのだろうかと疑問をもつことが少なくない。
画家だっていつも同じ健康状態で作品を作るとは限らないのではな
いか、時には気分がすぐれず弱い線しか書けなかった場合だってな
いとはいえないのではないか、また若いときに作った作品と老齢期
に達したときの作品とでは考え方も違うだろうし、気迫や情熱に相
違もでてくるであろうから、むしろすべての作品が微妙に違って当
然といえるのではないかと思われる。こうみてくると、鑑定士の鑑
定の結果が100%正しいとは必ずしもいえないであろうし、鑑定士
によって意見が分かれても至極当然といえるようにも思われる。
このようなことを推測させるような事件があったので紹介しよう。
いまから10年前の朝日新聞と読売新聞は次のような事件を報道し
た。その事件というのはこうである。
東京のBunkamuraザ・ミュージアムで、その年の6月から8月に
かけ「青春のロシア・アバンギャルド展」が開催されたが、そこに
出品された作品のなかにあったマルク・シャガールの油彩画3点に
つき、著作権を継承するシャガール委員会(フランス・パリ)から、
今後の巡回会場での展示などを控えるようにと日本側の主催者に
要請があったとのことであった。その作品と
いうのは、「女の肖像」、「ヴァイオリン弾き」、「家族」の3点
であり、シャガール委員会によると、「3作品がシャガール作である
ことには技法などから否定的である」ということで、要するに贋
作であると決めつけたことになる。
この要請に対し、これらの作品を所蔵するモスクワ市近代美術
館は、「学術的調査も行っており、作品が真正であることにはま
ったく疑いを持っていない」と反論している。著作権者と所有者
との間で見解が分かれたため、困惑した日本側の主催者は混乱を
回避するとの理由で、今後の巡回展での展示を見合わせることに
したとのことである。
この問題を著作権法的に考えるとどうなるだろうか。
画家は自分の作成した絵画の原作品を公に展示する権利をもっ
ている(著作権法25条)。したがって、その絵画を他人に売った
としても、それは絵画の「物」としての所有権が買主に移転した
だけで、著作権はいぜん画家のもとにとどまるはずである。だが、
そうなると、たとえば美術館が絵画を買った場合に、館内に展示
したり、あるいは他に貸し出して展示させようとするときには、
いちいち画家から展示の許諾を受けなければならないことになり、
時には画家から展示の許諾を受けることができないという場合も
考えられる。かくては美術館が大枚のカネを払って絵画を買った
意味がなくなってしまうということにもなりかねない。このよう
な不合理を生じさせなくするために、法は、絵画の譲渡の際には
著作者は絵画の展示について同意を与えたものと推定し(著作権
法18条2項2号)、譲受人はいちいち画家の許諾を受けなくても
展示できるものとしている。
したがって、本件の絵画がもしもホンモノであるとすると、そ
の著作権はシャガール委員会にあるとしても、絵画が売却されて
モスクワ市近代美術館に所有権が帰属している以上、展示につい
ての同意を与えたものと推定され、展示を拒むことはできないと
いうことになろう。またこの絵画がニセモノであるとすると、そ
もそもこの作品の著作者ではないシャガールが著作権をもつこと
はありえないのであるから、シャガールの著作権継承者であるシ
ャガール委員会が本件絵画について展示権にもとづいてクレーム
をつけることができないのはいうまでもない。つまり、結論的に
いうと、本件においては作品の真贋いずれであろうと、シャガー
ル委員会の主張は認められないということになる。
海外の美術館に行くと、無名の画学生などが作画の勉強のために
展示されている高名な画家の絵を、一生懸命に模写している姿を
見かけることがある。素人目には非常に上手に模写されていて一
見ホンモノと見間違うほどの出来栄えを示しているものもある。
このような作品が、時にはホンモノとして世に出回るということ
があるかもしれない。また、最近の高度に発達した複製技術を駆
使して、ホンモノと寸分違わぬものがホンモノとして出回ること
もあろう。これらはいずれも複製権の侵害に当たるし、ホンモノ
が現に存在するのでニセモノであることが容易に証明でき、した
がって著作権者がクレームをつけることは可能である。問題なの
は、高名な画家の作風をまね、特徴をたくみに捉えて他人が新た
な作品を作った場合である。高名な画家の未発表の作品が新たに
発見されたとみることもできるし、他人による真っ赤なニセモノ
であるとも考えられるので、このような場合が判断に苦しむこと
になろう。前述のシャガールの3点はこのようなケースではなか
ったかと思われる。このケースが最終的にどのような決着がつけら
れたかについては詳らかになっていない。どなたかご存知の方が
あれば教えていただきたいものである。
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