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JRRCマガジン No.142 2018/8/23
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8/23は「処暑」。
暑さが峠を越え始めるころ、を指すらしい。
とは言えど、まだまだ暑い日が続いています。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「著作物等の公衆送信に関する諸問題について」の2回目
「通信と放送の融合<アナログ放送の終了に関連して>(その1)」です。
通信業界と放送業界の相互参入等が加速する昨今、
それに対応すべく2006年に改正された著作権法に関して、
お話しくださいました。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━
第25回 著作物等の公衆送信に関する諸問題について(2)
「通信と放送の融合<アナログ放送の終了に関連して>(その1)」
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1 はじめに
2001(平成13)年に電気通信役務利用放送法が制定されました。この
法律は、2010(平成22)年の放送法改正により、放送法にその内容が
統合され現在は廃止されていますが、放送と通信の融合を象徴する
法律といわれています。
この法律は、その制定前までは、放送のための送信設備と通信のため
のそれとは基本的に別個のものを使用していたのですが、通信設備
の質的向上等により、電気通信設備を使用した放送が可能となって
きたため、それを制度化するために制定されました。具体的には、電
気通信役務利用放送を「公衆によって直接受信されることを目的と
する電気通信の送信であって、その全部又は一部を電気通信事業を
営む者が提供する電気通信役務を利用して行うものをいう」と定義
し、この事業を開始するためには総務大臣の登録が必要とされまし
た。
この放送の一形態が、IPマルチキャスト放送です。IPマルチキャス
ト放送の仕組みは後述しますが、例えば地上波放送の視聴を想定し
てみてください。この法律の制定前までは、私たちは地上波放送を家
庭用受信機等により直接受信し視聴するか、有線放送事業者と契約
している人は有線放送経由で間接的に受信して視聴するかどちらか
の方法により放送を楽しんでいました。しかし、この法律の制定後は、
有線放送経由に代えて、通信回線を活用したIPマルチキャスト放送
経由で受信できることになりました。
「ひかりTV」等がこれに該当しますが、視聴者側から見れば、どちら
の方法であっても受信装置のスイッチをONにし、チャンネルを選
択すれば放送が視聴できることに変わりがありません。
しかしながら、著作権法上は、有線放送については「有線放送」、IPマ
ルチキャスト放送については「自動公衆送信」と同じ公衆送信ですが、
そこに流れている著作物、実演等にかかる権利の働き方が異なるこ
とになり、伝送方式の違いにより、著作権契約上の手続きに関し事業
者間の不公平が起こることになりました。
このIPマルチキャスト放送については、2011(平成23)年のアナロ
グ放送の完全停波に向けて、有線放送と並んで難視聴地域における
放送の再送信の補完路として有効な手段とされていました。
そこで、放送の再送信に係る著作権法上の不公平感をなくすため、
2006(平成18)年に著作権法が改正されました。今回はこの改正の内
容の解説をします。
2 IPマルチキャスト放送とは
文化審議会著作権分科会報告書(2006(平成18)年8月)では、IPマル
チキャスト放送を次のように説明しています。
「マルチキャストとは、コンピュータ・ネットワークにおいて、決めら
れた複数のネットワーク端末に対して、同時にコンテンツ(IPパケ
ット)を送信することをいう。IPマルチキャストは、複数の宛先を指
定して1回データを送信すれば、通信経路上のルータがそのデータ
を受信して、次の複数のルータに自動的にコンテンツを送信する仕
組みであり、IPマルチキャスト放送は、この技術を用いることによ
り、回線を圧迫することなく効率よくコンテンツを配信することが
できる。
IPマルチキャスト放送の主な特徴としては、以下の点がある。
○閉鎖的ネットワークを用いてコンテンツの配信を行う。
○放送センターからは、IP局内装置に対して全番組が常に配信され
る。
○最寄りのIP局内装置からは、ユーザーが選局した番組のみが配信
される
(リクエストに基づく送信)。」
すなわち、放送局から複数のIP局内装置に全チャンネルの番組を送
ると、受信したIP局内の装置が他の複数のIP局内装置に当該番組
を瞬時に送信し、それが繰り返されることにより放送局からの送信
された番組をほぼ同時に多数のIP局内装置が受信できることにな
ります(いわゆる「木構造」になっています。なお番組の蓄積行為はあ
りません)。そして、視聴者が受信装置のチャンネルを選択すると当
該チャンネルの番組がその選択(リクエスト)に応じ最寄りのIP局
内装置から受信装置に送信されるという仕組みです。
3 著作権法上の問題点
(1)有線放送と自動公衆送信
著作権法では、有線放送を「公衆送信のうち、公衆によって同一の内
容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の
送信をいう」(2条1項9号の2)と定義しています。また、自動公衆送
信を「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放
送又は有線放送に該当するものを除く)をいう。」(2条1項9号の4)
と定義しています。
先述したように放送の同時再送信においては視聴者側からすれば、
受信装置のチャンネルを選択すれば同じ番組を見られることになり
何ら変わりがありません。
しかしながら、著作権法上、有線放送と解されるためには、同報告書
によると、「①有線電気通信設備により受信者に対し一斉に送信が行
われること、②送信された番組を受信者が実際に視聴しているかど
いうかにかかわらず、受信者の受信装置まで常時番組が届いている
こと」が必要であることから、特に②の点において異なるIPマルチ
キャスト放送は自動公衆送信と解されるとされました(サーバーへ
の情報の蓄積を伴わないので入力型自動公衆送信)。
(2)放送の同時再送信に係る権利の働き方の違い
先述したようにIPマルチキャスト放送は、有線放送と並んでアナロ
グ放送終了の際の難視聴地域における放送の再送信における補完路
としての役割が期待されていました。
(1)で整理された伝送方式の違いを踏まえ、当時の著作権法に基づき
権利関係を整理すると、著作物の利用に関してはどちらの方法にお
いても著作権者の許諾権が働きますが、実演及びレコードについて
いえば、有線放送は両者とも権利が働かないのに対し、自動公衆送信
は原則として許諾権が働くことになっていました。すなわち、実演及
びレコードについては、有線放送については、無許諾・無償で利用で
きるのに対し、IPマルチキャスト放送については、権利者の許諾が
必要ということになります(許諾を受けたとしても通常は有償)。な
お、詳細は同報告書を参照してください。
(3)権利関係の格差解消に向けて
このように権利の働き方に極端な差があったわけですから、IPマル
チキャスト放送事業者は、放送の同時再送信に関し有線放送事業者
と同様の事業を行っているにもかかわらず、著作権契約の煩雑さや
費用負担の不公正から対等の立場で事業ができないとの関係者から
の指摘は当然のことと思われました。
一方、当時はアナログ放送終了の円滑な実施が政府の重要課題であ
ったことから、文化審議会著作権分科会では、少なくとも放送の同時
再送信については、この著作権法上の取扱いの差を解消する必要が
あるとの結論を得、著作権法の改正が提言されました。
なお、自主放送についても著作権法上の取り扱いに差があることは
分かっていましたが、当時IPマルチキャスト放送事業者において自
主番組の実態がほとんどなかったことから、自主放送に関する問題
は継続審議となりました。
次回は、2006(平成18)年の著作権法改正の内容について解説します。
(お詫びと訂正)
前回の記事の中で、私の不注意により次のとおり記述に誤りがあり
ましたので、お詫びと訂正をします。
1 「著作権に関する知的所有権機関条約」の略称を「WPT」と表記し
ましたが、「WCT」に訂正します。
2 4(1)の「また、WPTは、ベルヌ条約の加盟国しか参加できないこと
になっており、いわばベルヌ条約における先進国グループのための
条約」は、「また、WCTは、ベルヌ条約加盟国においては、同条約20条
に規定する特別の取決を構成するとされており(1条(1))、事実上ベ
ルヌ条約における先進国グループのための条約」に訂正します。なお、
WCTの参加資格は、世界知的所有権機関の加盟国です(17条)。
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