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JRRCマガジン No.128 2018/3/2
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ポカポカ陽気に嬉しさを感じつつ、
マスクを着用する姿を多く見かけるようにもなり、
いよいよ花粉の季節到来かと涙目になる今日この頃ですが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
『「私的使用のための複製(30条)」と著作物の利用責任について』の第1回目。
著作権侵害の主体はいったい誰なのか?
著作物の利用に複数の者が関与する事案とともに、
規範的利用主体論についてお話しくださいました。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━
第22回「私的領域における著作物等の利用について(7)
「私的使用のための複製」(30条)と
著作物の利用責任について(その1)」
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1 はじめに
これまでは30条に関連する法改正の変遷を説明してきました。
現行著作権法は昭和45(1970)年に成立したのですが、
以前も触れたように複製機器の普及やネット社会の進展とともに、
徐々にその対象範囲を縮小してきています。
このシリーズの「私的領域における著作物の利用について
(2)(音のダビング業と著作権法30条の改正)」(JRRCマガジン
No.103 2017/6/23)(*)のところでも少し触れましたが、
わが国では、外形的には著作物の利用主体といえない者について、
行為の内容を規範的に解釈し、その利用主体性を認めるという
判例で確立された考え方があります(規範的利用主体論)。
この考え方によれば、外形的に見ると著作物等を利用していると
認められる顧客(直接的行為者)がいたとして、
当該行為者に複製等の場(物理的な場所、ネット上のサイト等)や
機器(複製機器、サーバー・送信設備等)を提供している業者
(間接的行為者)の関与の程度(直接的行為に対する管理・支配、
利益の帰属等により判断)によっては、顧客の行為を業者の行為と
みなして業者に著作物の利用に関する法的責任を課することができます。
すなわち、この場合、例えば、顧客の行為が外形的には
「私的使用のための複製」(30条)に該当したとしても、
業者は単に顧客の適法な行為に複製の場や複製機器等を提供しているだけなので、
その業者の行為は適法であると主張することができなくなり、
許諾を得ることや使用料を支払う責任は業者側にあるということになります。
また、権利者側から見ると業者が利用主体と認定されることにより、
業者に対し差止請求権(112条1項)を行使することができることとなります。
仮に顧客の行為が違法で、
それに場所や機器等を提供している業者の幇助責任が認められたとしても、
わが国の場合幇助者に損害賠償の請求はできるものの(民法719条2項)、
特別な事情がない限り幇助者に対する差止請求は認められません。
したがって業者に対する差止請求が認められるということは無断利用に対する
強力な抑止力が働くことになります。
このように規範的利用主体論が判例で認められたことによって、
30条の適用範囲はより狭くなったといえます。
特に家庭以外の場所で行われる行為で、
業者等が提供する利用環境下の行為については多くの場合、
権利者の許諾が必要な行為になる可能性があります。
今回は、この規範的利用主体論について考えていきたいと思います。
2 判例の動向
(1)最初の最高裁判決
規範的利用主体論を採用し、顧客の行為を業者の行為と同視しうる
として業者の法的責任を認めた最初の最高裁判決(クラブキャッツアイ
事件判決(S63(1988).3.15))は、
カラオケ伴奏による客の歌唱についての事案でした。
この事件ですが、当時の著作権法では録音物を用いた演奏について
ダンスホールでの利用等の特別な場合を除き、
演奏権が働かないとされていました(旧附則14条)。
音楽著作権の管理団体である日本音楽著作権協会(JASRAC)は、
カラオケ伴奏(録音物を用いた演奏)による歌唱を行わせている
お店に対し使用料の支払いを求めたのですが、
お店の方は歌唱をしているのは客であり、
客の歌唱は演奏権が働かない場合(公の演奏(歌唱)でない又は
非営利無料の演奏(歌唱)であり権利制限(38条1項)の対象である)
に該当するので、お店の法的な責任はないと反論しました。
この反論に対し、
最高裁は、お店はカラオケ装置や歌詞カードを設置したうえで、
ホステス等が客にカラオケ利用を勧めたりしていること等から、
客の歌唱はお店の管理、支配のもとで行われており、
かつ音楽の利用によって利益を得ているのはお店であること等から、
音楽の利用主体はお店であるとして店の法的責任を認めました。
(2)「カラオケ法理」に基づくその後の判決例
その後この考え方は、「カラオケ法理」といわれ、演奏(歌唱)
の分野に限らず、ネット関連等の分野でも活用されました。
例えば、演奏権の分野では、カラオケボックスにおける客の
歌唱行為をお店の行為と認めたビックエコー事件(東京高裁判決
(H11(1999).7.13))、お店主催のライブ演奏に関する音楽の
利用主体はお店であることを認めたデサフィナード事件(大阪
高裁判決(H20(2008).9.17))等があります。
なお、デサフィナード事件では、
披露宴、パーティー等の貸し切り営業における客の演奏及び第三者主催の
ライブ演奏については店の利用主体性を認めませんでした。
また、ネット関連の分野としては、業者の事業所内に設置した
テレビチューナ付パソコン(顧客の所有)を顧客が遠隔操作して録画予約をし、
録画された放送番組を自宅へ転送させるサービスを行っていた事件について、
当該録画は業者の行為であり放送事業者の複製権(98条)を侵害するとして
差止の仮処分を認めた録画ネット事件(知財高裁決定(H17(2005).11.15))
があります。
また、顧客が業者の提供したソフトを使用しCDから音楽を複製し、
それを転送し業者のサーバーにアップロードした上で、
必要なときに当該音楽を顧客の携帯電話に配信するサービスを行っていた事件について、
サーバーへの複製及び顧客への送信(公衆送信と認定)の主体は業者である
としたMYUTA事件(東京地裁判決(H19(2007).5.25))があります。
更に、集合住宅向けの放送番組の録画・配信システムを提供していた業者について、
当該システムの提供を受けた集合住宅において自己使用の目的で録画の指示をし
録画をしていた入居者の行為を30条に該当しないとした上で、
違法な行為を行うためのシステムを提供した業者が複製、
送信可能化の主体であると認定した選撮見録(よりどりみどり)事件
(大阪高裁判決(H19(2007).6.14))等があります。
これらの事件は、事案によって利用形態が大きく異なりますが、
裁判所が著作物の利用主体を判断するに当たって、「カラオケ法理」
における「行為の管理、支配」と「利益の帰属先」を考慮した
ことは共通しています。
なお、これに関連して本来は著作物の利用主体とならない電気通信事業者について、
投稿者の行った違法なアップロードを長期間放置したり、
それを解消する措置を実施しなかったりした場合や、
違法流通が行われる蓋然性が高いシステムを運用していた場合等について、
当該事業者の利用主体性を認めた2チャンネル事件(電子掲示板関連
東京高裁判決H17(2005).3.3))、ファイルローグ事件(ファイル
交換関連 東京高裁判決(H17(2005).3.31))、TVブレイク事件
(動画投稿サイト関連 知財高裁(H22(2010).9.8))等があります。
(3)規範的利用主体論の正当性の確認と再整理
以上のように「カラオケ法理」については、昭和63(1988)年の
最高裁判決以降多くの事件について利用主体の判断に活用されてきましたが、
一方でどのような場合に利用主体性が認められるのかの要件が曖昧で、
その適用範囲が明確でない等の批判が研究者・実務家等からあり、
文化審議会著作権分科会でも、平成14(2002)年から
いわゆる間接侵害規定の創設に向けて検討を始めたところです。
そのような状況の中で、規範的利用主体論に係る第2の最高裁判決
(ロクラクⅡ事件判決(H23(2011).1.20))が出されました。
この事件は、放送番組の転送サービスに関する事件で、
業者は自己の開発したロクラクⅡという親機と子機とが一対になる機器を
顧客に販売又は貸与し、事業者の支配下にある親機が顧客の
手元にある子機経由で行われる顧客の指示に従い放送番組を
録画した上で、当該録画した番組を子機に送信し、顧客は
当該番組を視聴するというものです。
原告である放送事業者は、
この事業について放送番組の録画行為の利用主体は顧客ではなく
業者であり、原告が有する複製権(21条、98条)を侵害する等
として事業の差止めを求めました。
この事件の第1審(東京地裁判決(H20(2008).5.28))は、
「カラオケ法理」を採用して原告勝訴の判断をしたのですが、
控訴審(知財高裁判決(H21(2009).1.27))では、
一転して親機が業者の管理支配下にあったとしても、
業者は複製を容易にするための環境等を提供しているにすぎず、
業者は利用主体とはいえないとして請求を棄却しました。
また、昭和63(1988)年の最高裁判決との関連については、
当該事件は演奏(歌唱)の形態における利用主体の認定の問題であり、
本件事件とは事案を異にするとしました。
この知財高裁の判決については、
行き過ぎた「カラオケ法理」を見直す判断と好意的に捉える論評も見られ、
また間接侵害規定の創設による立法的解決を支持する声も
多く聞かれるようになりました。
このような状況の中で出された最高裁判決では、
親機の管理状況等を認定することなく業者の利用主体性を認めなかった
控訴審の判断を破棄し、
管理状況等について更に審理を尽くすように控訴審に
審理のやり直しを命じました(事実上原告勝訴)。
その判決理由ですが、本件の場合業者は「単に複製を容易にするための
環境等を整備しているにとどまらず、
その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して
放送番組等に係る情報を入力するという、
複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をして」いること、
また業者の行為がなければ、「当該サービスの利用者が録画の指示をしても、
放送番組等を複製することはおよそ不可能」であることから、
業者を利用主体というのに十分であるとしています。
規範的利用主体論に関する最高裁の考え方については、
金築裁判官の補足意見が参考になると思うので、
その意見を簡単に紹介します。
まず、利用主体を判断するに当たって、
「単に物理的、自然的に観察するだけで足りるものではなく、
社会的、経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって、
このことは、著作物の利用が社会的、経済的な側面を持つ行為
であることからすれば、法的判断としては当然のことであると思う。」とし、
著作物の利用主体を規範的に解釈することの正当性を確認しました。
また、「カラオケ法理」における規範的解釈は一般的な法解釈の手法の一つにすぎず、
特殊な法理論であるかのように考えるのは適当でないとしました。
更に考慮されるべき要素は、行為類型によって変わり得るものであるから、
「カラオケ法理」でいう行為の管理・支配や利益の帰属という二要素は
固定的に考えるべきではないとしました。
このようにこの判決は「カラオケ法理」を是認し、
カラオケ法理における二要素の当てはめによって判断をしたわけではありませんが、
著作物の利用主体すなわち誰が著作権侵害者かの認定に当たっては、
社会的、経済的側面を含めた総合的観察により判断すべきことを
示唆しています。
次回は、文化審議会著作権分科会における立法的解決に向けた審議の経過と
上記の最高裁判決が与えた影響について解説をします。
(*):JRRCホームページ「マガジンバックナンバー No.103」
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