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JRRCマガジン No.107 2017/7/28
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垣根から顔を覗かせる向日葵を見掛ける時季となりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「私的領域における著作物の利用について」の3回目。
主に家庭内で行われる録音・録画に対処すべく導入された制度、
私的録音録画補償金制度についてお話しいただきました。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━
第15回「私的領域における著作物等の利用について(3)
私的録音録画補償金制度①」
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1 はじめに
何度も説明しているように昭和45(1970)年に現行著作権法が制定された際、私的使用
目的で複製物の使用者が複製をすれば、私的使用のための複製(30条)に該当し、無許
諾・無報酬で著作物等を複製できることになりました。
その後、家庭用の録音録画機器が急速に普及すると、多くの家庭でレコードや放送か
らの録音・録画が行われるようになりました。この状況を踏まえ、権利者側からはわが国
全体で膨大な著作物等の録音録画が行われているとの指摘とともに、この状況を放置し
ておけば権利者の利益を不当に害するおそれが生じるので、当時西ドイツが導入してい
た私的録音録画補償金制度をわが国にも導入してほしいとの要望が文化庁に寄せられ
ました。
文化庁では、昭和52(1977)年から、文化庁の著作権審議会(現在の文化審議会著作
権分科会)において、この問題の検討を始めました。この検討は昭和56年(1981)年に報
告書がまとめられましたが、そこでは議論がまとまらず結論は保留されました。その後こ
の問題は、学識経験者、利害関係者等で構成する「著作権問題に関する懇談会」(現在
の著作権情報センター内に設置)における制度導入に関する合意形成の話し合いを経
て、昭和62(1987)年から改めて同審議会の場で検討されました。
現行の私的録音録画補償金制度は、平成3(1991)年にまとめられた同審議会の報告
書に基づき制度設計され、平成4(1992)年の著作権法改正を経て導入されたものです。
しかしながら、時代の進展とともに私的録音録画の方法が様変わりしたこともあり、当該
制度は現在ほとんど機能しておりません。権利者側からは、現状を踏まえた新たな制度
の構築を求められており、この問題は再々度平成18(2006)年から文化審議会著作権分
科会で検討されましたが、平成21(2009)年における報告書でも関係者間の合意形成は
できませんでした。特に、技術的保護手段(技術的な方法により録音録画を制限すること)
が導入されているとしても補償が必要かどうか、仮に新たな制度を導入するとしても録音
録画専用機器からパソコン等の録音録画もできる汎用機器への変化の中で機器等の製
造業者の法的な位置づけをどう考えるか等をめぐり関係者の意見の隔たりは大きく、同
分科会において現在も引き続き検討が行われていますが、合意の形成ができない状況
が続いています。
2 私的録音録画補償金制度とは
それでは、私的録音録画補償金制度とはどのような制度なのでしょうか。
科学技術の発展とともに便利な複製機器が家庭内に普及していくことは止められませ
ん。また、少なくともわが国では、私的複製は現行法の制定以来、私的録音録画補償金
制度が導入されるまでの間は無許諾・無報酬で行うことができました。
ベルヌ条約では、権利者の利益を不当に害する複製については権利制限ができないこ
とになっています(ベルヌ条約9条2項)、したがって、理論的は私的録音録画の状況が権
利者の利益を不当に害していると認定されれば、権利制限は条約違反ということになりま
すので、30条を改正し私的録音録画は権利者の許諾を得ないとできないことにしなけれ
ばならないことになります。しかしながら、現実にそのような改正はできませんので、私的
録音録画は無許諾で行うことができるが、それは無償ではなく有償にし、権利者の被る
不利益と利用者が享受する利益のバランスを図ろうとするのがこの制度の基本的な考え
方です。
また、現行法でも、例えば営利目的の利用ではあるが、公益その他の理由から、無許
諾・有償にしている権利制限規定はいくつかあります。例えば、教科書への著作物の掲
載(33条、33条の2)、学校教育番組の放送等(34条)、営利性のある試験・検定(36条)
等があります。これらの著作権制限規定における補償金制度は、利用者から直接権利
者に補償金を支払うことを前提としており、極めてわかりやすい構造になっています。一
方、私的録音録画補償金制度は、個々の利用者ごとに多種多様な権利者の異なる著
作物等を複製すること、複製する場所は一般にプライバシーで守られている領域(家庭内
等)であり、どの著作物がどの程度複製されたかを権利者側は事実上把握できないことか
ら、利用者に録音録画機器又は記録媒体(テープ、デイスク等)を提供している機器等
の製造業者・輸入業者に補償金の支払い協力義務(日本)又は支払い義務(日本以外
の制度導入国)を課し、製造業者等を通じて包括的に補償金の徴収を行おうとするものです。
最後に、補償金は通常包括的に徴収されますので、その徴収された補償金を権利者
にできるだけ正確に分配することが必要です。そのためには補償金を徴収し分配するた
めの組織が必要になります。したがって、この制度を実効あるものとするためには、補償
金制度を採用している各国とも著作権法等に補償金の徴収分配団体に関する定めがあ
ります。 このように私的録音録画補償金制度とは、権利者の被る不利益を補償金の支
払いで調整するためのものであり、補償金の徴収について権利者個人では権利行使で
きにくい分野であるため、団体による行使を義務付けるとともに、機器等の製造業者等
に補償金の徴収に関する何らかの関与を制度的に求めるものといえます。
3 わが国の補償金制度
それでは、わが国の補償金制度について説明します。
わが国では、上記のとおり長い間の議論を経て、権利者、利用者、機器等の製造業者
等の関係者間で補償金制度導入の合意が行われ、平成4(1992)年に著作権法が改正さ
れました。
制度の大枠は、2で説明したとおりですが、外国の制度とは異なるいくつかの点につい
て説明をしておきます。
まず、外国の制度と最も異なる点は、わが国の場合、あくまで補償金の支払い義務者
は利用者であるということです(30条2項)。この考えは、利用者が著作物利用の責任を負
うという著作権法の原則に忠実でありますが、先述したとおり、事実上権利行使は困難
でありおよそ実効性のある方法とはいえません。そこで、録音又は録画分野ごとに文化
庁長官により1つの補償金管理協会が指定されたときは、同協会が補償金請求権を強
制的に管理することになり、指定後は同協会を通じてしか権利行使ができないことにしま
した(104条の2)。さらに、同協会が権利者の補償金請求権を一括して管理したとしても
個々の利用者に直接権利行使することは事実上できませんので、利用者は機器等の購
入時に一括の補償金(例えば機器価格の〇%)を支払えばそれ以降の補償金の支払い
は必要ないとしたうえで(104条の4 1項)、利用者から同協会への補償金の支払いを円
滑に行うため、機器等の製造業者等は利用者が支払う補償金の「支払いの請求又は受
領」に協力しなければならないとしました(協力義務 104条の5)。
具体的には、機器等の製造業者等は、本来利用者が支払うべき補償金を、利用者に
代わって同協会に支払い、補償金相当分を機器等の卸売価格に転嫁するという仕組み
にしたわけです。これにより、利用者の補償金支払い義務が機器等の製造業者等の協
力義務により、実現するという構図が出来上がることになります。
先述したように、外国では機器等の製造業者が協力義務者と位置付けているところは
ありません。外国では、権利者又は権利者団体が、個々の利用者に権利行使することは
困難であるということを前提にして、機器等が家庭内に普及したがゆえに、私的録音録
画が行われるという蓋然性を重視し、機器等の製造業者等に直接支払い義務を課して
おります。
次に、著作権法が改正された平成4(1992)年当時は、録音又は録画を行う専用機器と
専用記録媒体を用いて録音録画を行うことが通常でした。したがって改正法においても、
そのことが忠実に規定され、改正法における私的録音録画とは、専用機器と専用記憶
媒体を用いて行うものであることが明記されました(30条2項)。しかも、専用機器と専用
記録媒体を特定するため、政令でその特徴を定めることとされました(施行令1条、1条の
2)。具体的には、CDプレイヤーとCD-R、MDプレイヤーとMD-R、DVDプレイヤーとDVD-R
等が定められています。なお、機能としては、アナログとデジタルの両方があるのですが、
当時はアナログ方式からデジタル方式による録音録画への転換が進もうとしていた時期
でしたので、利用者負担(事実上はメーカー負担)の緩和措置としてデジタル方式のもの
に限定されました。
以上のとおり、わが国の補償金制度の特徴のうち、2つの事項について説明をしました
が、いずれの点についても専用機器と専用記録媒体を用いて行う私的録音録画が一般
的な時代では通用していたのですが、パソコンのような汎用性のある機器が普及し、また
機器と記録媒体が一体化したものが普及してくると制度設計の基本が揺らぐことになり、
制度そのものの見直しが必要となりました。
次回は、その見直しの議論を中心に説明をします。
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