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JRRCマガジン No.103 2017/6/23
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肌寒さと蒸し暑さを感じる今日この頃ですが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「私的領域における著作物の利用について」の2回目。
私的複製(30条)に係る課題に関して、
最初に改正が行われた音のダビング業についてお話いただきました。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━
第14回「私的領域における著作物等の利用について(2)
-音のダビング業と著作権法30条の改正-」
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1 貸レコードと音のダビング業
貸レコードは、1980年から始まった新しいビジネスですが、それまでのレコードを
買って楽しむから,借りて楽しむという新しい音楽の楽しみ方を消費者に提案しま
した。この提案に対し若者を中心に多くの消費者の支持を集め、ほぼ3年で2000
店近くの店舗が開店し、それ以降も店舗数が拡大していく様相を示しておりました。
当時は、映画の著作物にだけ貸与に係る権利が付与されていましたが(頒布権
26条)、それ以外の著作物や実演・レコードについては、貸与に係る権利は与え
られていませんでした。
当時、レンタカー等の物品に関するレンタル業はたくさんありましたが、権利者
側が問題視したのは、貸レコードの場合、借りたレコードを自宅のオーディオ機器
で録音をし、手元に録音物を残した上で,レコードは返却することを常態としてい
たからです。すなわち、貸レコード業とは、顧客が私的使用のための複製(30条)
をすることを前提としている事業であり、顧客が録音物を入手してしまうと、もはや
レコードを購入しなくなるので、権利者の利益を不当に害する事業だと主張したわ
けです。
また、こういう状況の中で、音のダビング業という新たなビジネスが出現しました。
音のダビング業というのは、貸レコード店でレコードを借りた顧客が当該貸レコー
ド店の近隣で開業している店舗を訪れ、そこで必要に応じブランク・テープを買っ
た上で、店頭に設置してあるダビング機器を用いて顧客自身が録音操作をし、顧
客がレコードの録音物を手に入れるという形態のビジネスです。この場合、顧客
からレコードを預かった上で業者自らが録音をし顧客に録音物を渡すと、複製主
体は業者になりますので私的使用のための複製(30条)の要件を満たさず、業者
の行為は違法ということになります。したがって、業者側は、そのような主張に対
抗するため、業者はダビング機器と録音の場所を提供しているだけで、業者自身
が直接録音行為には関与しないという形式を整え、業者の行為は違法ではない
と主張したわけです。
もちろん、このような事業について権利者側は黙認するはずはなく、権利者側は、
貸レコード店や音のダビング業者に対し、法律上の複製主体は顧客ではなく業者
である等として訴訟を提起する一方で、これらの事業を規制するための法改正運
動を進めました。
2 私的録音録画問題との関係
貸レコード業や音のダビング業について権利者側が問題視したのは業者の行為
は私的使用を目的とした消費者の録音行為を助長するものであり決して容認でき
ないという考えからです。前回説明したように現行法制定後の録音録画機器の開
発普及にはめざましいものがありました。特に、当時は家庭内に録音機器が急速
に普及していった時代で、現行法制定時には予想できなかったほどレコードやラ
ジオ(FM)からの私的録音が大量に行われており、権利者側は、もはや権利者の
利益を不当に害する状況に至っていると主張していました。
この問題を解決するため当時の西ドイツでは、1965年に著作権法を改正し、私
的使用のための録音録画を認める代わりに、こうした録音録画機器の製造メーカ
等に権利者に対する補償金の支払いを義務付けたいわゆる私的録音録画補償
金制度を導入していました。このため、わが国においてもその導入の可否等につ
いて著作権審議会(現在の文化審議会著作権分科会)が1978年から検討を行っ
ていました(私的録音録画補償金制度については、後日詳細に解説します)。
当時の権利者側は購入したレコード又は友人等から借りたレコードや、FM等の
放送番組の録音等については、これを禁止することは現実的でなくいわゆる西ド
イツ方式による補償金での解決策を支持していましたが、それを助長する本件の
ような事業については、事業そのものを禁止したいと考えていました。
3 1984年の著作権法改正
(1)貸レコード業への対応
貸レコード業への対応策として、1984年に著作権法が改正され、著作者、実演
家及びレコード製作者に貸与にかかる権利が創設されました(著26条の3、95条の
3、97条の3)。この改正により、貸レコード業を行う場合は、原則権利者の許諾が
必要になりました。権利者側の中でも特にレコード製作者は貸レコード業を禁止し
たかったのですが、法改正までに貸レコード店が大幅に増えしかも消費者の支持
を集めていたこと、このような事情を踏まえ改正法成立時の国会の附帯決議で貸
レコード業の存続を求められたこともあり、その後の関係者間の協議により原則
として一定の貸与禁止期間+貸与使用料・報酬の支払いで決着したところです。
なお、米国等でも、日本の影響を受けたかどうかはわかりませんが一時期貸レ
コード業が広まりましたが、例えば米国ではすぐに著作権法改正が行われ、レコ
ード(録音物)の貸与に関する権利が認められた結果、貸レコード業は禁止されま
した。このようなことから、貸レコード業はわが国だけの特殊な業態として今日に
至っています。
(2)音のダビング業への対応
音のダビング業への対応策として、私的使用のための複製(30条)が改正され、
「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複
製する場合」は、たとえ複製物の使用目的が私的使用であり、使用者自らが複製
する場合であっても、30条の適用はないことになりました。また、営利目的で顧客
に自動複製機器を使用させた業者には罰則が適用されることになりました(119条
2項2号)。この改正により、音のダビング業を継続するためには、関係権利者の
許諾が必要となることが明確化されたわけですが、もちろん、権利者側はこの業
態を認めることは考えておらず、また貸レコード業の場合のようにこの業態の継続
を支持する声もなかったことから、音のダビング業はなくなりました。
なお、読者の皆さんの中には、町のコンビニエンスストアーのコイン式複写機器
で他人の著作物を複写された経験がある方がおられると思います。改正後の30
条に規定する「自動複製機器」には、当然のことながら文献複写機器も含まれる
のですが、改正当時文献複写については特に社会問題になっていなかったこと、
文献複写にかかる集中管理団体が未発達であり許諾システムの構築が困難であ
ったこと等の理由から、当分の間の暫定措置として、文献複写機器による複製に
ついては例外的に権利者の許諾なしに行うことができるとされ、それが今日まで続
いています(附則5条の2)。
4 家庭以外の場所で行われる私的使用のための複製
先述したように私的使用のための複製(30条)は、もともと私的使用の目的と複
製物を使用する者が複製を行うという2つの要件だけで、その適用範囲を定めて
いたので、それがどこで行われるかについては特に制限がありませんでした。した
がって、仮に私的複製が家庭以外の場所で行われたとしてもこの2要件に合致す
れば適法だったわけです。例えば、友人や知人宅の複製機器を用いて行う私的複
製は古くからありました。また録音録画機器が小型化するとライブや舞台の様子を
私的複製することも可能になりました。しかし、音のダビング業のように、事業とし
て顧客に私的複製をさせる業者の出現はこれが初めてであったと思います。
1984年の著作権法改正は、自動複製機器を使わせる業者の行為とその機器を
用いて私的複製をする顧客の行為を分離したうえで、それぞれの行為を違法とす
る内容でした。しかし、その後の1988年のクラブキャッツアイ事件最高裁判決や
2011年のロクラクⅡ事件最高裁判決により、いわゆる規範的利用主体論が展開
され、両者の行為を分離せずに業者の法的責任を問う考え方が確立しました。具
体的に言うと、著作物等を利用している顧客(直接的行為者)に、複製等の場(物
理的な場所、ネット上のサイト等)や機器(複製機器、サーバー・送信設備等)を提
供している業者(間接的行為者)の関与の程度(直接的行為に対する管理支配、
利益の帰属等)によっては、顧客の行為を業者の行為とみなして業者に法的責任
を課するという考え方です。
この考え方によれば、顧客(直接的行為者)の複製行為が、形式的には私的使
用目的であり、かつ複製物の使用者が行う行為であったとしても、その行為は業
者(間接的行為者)の行為とされ、私的使用のための複製(30条)の適用はなく、
違法な行為になります。先述のロクラクⅡ事件では、業者が管理支配している録
画機器を用いて、顧客がネットを使った遠隔操作により、放送番組を録画する行
為は業者の行為とされ違法とされました。
したがって、1984年の著作権法改正により、家庭外で行われる私的複製の中で
も業者が介在する複製については、大幅に制限されることになったのですが、この
規範的利用主体論の確立により、事実上更にその適用は制限されることになった
と考えられます。
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