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JRRCマガジン No.418 2025/5/15
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◆今回の内容
【1】井奈波先生の欧州AI 規則の解説
【2】2025年度著作権講座初級オンライン開催について(無料 )受付中!
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日5月15日は「Jリーグの日」
1993年5月15日に日本のプロサッカーリーグ「Jリーグ」が開幕したことにちなみ、
その原点の日をいつまでも記憶していてほしいとの願いを込めて制定されたそうです。
さて、今回より井奈波先生の2度目となる連載「欧州 AI規則の解説」が始まります。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/
◆◇◆【1】井奈波先生の欧州 AI規則の解説 ━━━
第1回 欧州AI規則の概要
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1 はじめに
今回、欧州AI規則の解説を連載させていただくことになりました弁護士の井奈波朋子と申します。前回は、フランス著作権法をこのメールマガジンで連載させていただきました。その連載の終了後、著作権情報センターより、欧州AI規則(以下「AI規則」といいます)の翻訳を依頼され、翻訳は、現在、同センターのWEB上で公開されております。https://www.cric.or.jp/db/world/index.html
AI規則はあまりに大部であるため、同WEB上では、前文・条文・附属書に分けて掲載されており、それぞれ目次も含め96頁、150頁、29頁あります。分量だけでも翻訳者泣かせなのですが、長文が多く機械翻訳も混乱を来すほどで、わかりやすく翻訳するのにかなり苦労しました。せっかくこれだけの翻訳を行いましたので、そのなかで得た情報をこの連載でお伝えできればと考えております。ただでさえ込み入った内容なので、本連載では、できる限り表などで分かりやすく、内容をお示しできるようにしたいと思います。
2 AI規則の構成
AI規則は、180項の前文、113条の条文、13の附属書から構成されます。条文は、13章から成ります。どのような事項がAI規則に規定されているかについては、1条2項に定められています。これによれば、AI規則は表1-1「 AI規則の俯瞰」のとおりの構造になります。
このうち、最もコアな部分はAIのリスクや性質に応じた規制を定めた第Ⅱ章~第Ⅴ章になります。
表1-1 AI規則の俯瞰
1条2項 | 規定内容(1条2項による) | 章・条文 (割り当ては筆者) |
(a) | EU 域内における AI システムの上市、サービス開始および使用に関する統一ルール | 第Ⅰ章(1条~4条) 第ⅩⅢ章(102~113条) |
(b) | AI に関する一定の行為の禁止 | 第Ⅱ章(5条) |
(c) | ハイリスク AI システムに適用される特別の要件および当該システムのオペレータに課せられる義務 | 第Ⅲ章(6条~49条) |
(d) | 一定の AI システムに適用される透明性に関する統一ルール | 第Ⅳ章(50条) |
(e) | 汎用 AI モデルの上市に関する統一ルール | 第Ⅴ章(51条~56条) |
(f) | 市場モニタリング、市場監視、ガバナンスおよび施行に関するルール | 第Ⅶ章~第Ⅻ章(64条~101条) |
(g) | スタートアップを含む中小企業に特に焦点をあてた、イノベーションを支援するための措置 | 第Ⅵ章(57条~63条) |
3 AI規則の目的
AI規則の目的は、①人の健康、安全、民主主義等の基本的権利を保護し、②イノベーションを支援しつつ、③域内市場の機能を向上させ、④人間中心で信頼できるAIの採用を促進することと規定されています( 1条1項)。
AI規則の目的はそのとおりですが、政治的な面におけるEUの本音は「ブリュッセル効果」狙いにあると思われます。ブリュッセル効果(Brussels Effect )とは、Anu Bradford教授の論文「The Brussels Effect」(Northwestern University Law Review 2012 https://northwesternlawreview.org/issues/the-brussels-effect/)に由来し、EUが域内の規制を利用して世界市場を規制し(事実上のブリュッセル効果)、域外の政府に同じような基準を採用するよう働きかける(法律上のブリュッセル効果)ことをいいます。
実際、AI規則前文では、AI規則によってEU を信頼できるAIの採用・開発のリーダーにする旨を打ち出し(2項・8 項)、ブリュッセル効果狙いを大胆に表明しています。このような規制に対して、EU市場をパスするという選択もありうると思いますが、特に製品とともにAIシステムを上市またはサービスを開始する製品メーカーに対してもAI 規則が直接適用されるとなれば(2条1項e)、我が国の事業者もAI規則を避けて通ることはできないと思われます。
4 AI規則の適用のスケジュール
AI規則は、2024年8月2日すでに発効していますが、適用は段階的に行われます(113条ほか)。時系列を表1-2に示します。
AI規則のうち、一般規定と禁止されるAIは2025年2月2日から既に適用されていますが、これはAIの容認できないリスクを考慮したものです(前文179項)。AI規則が全面的に適用されるのは、発効から2年後の2026年8月2日ですが、その前に認証機関やガバナンス構造に関する規定が適用される必要があるため、これらの規定は発効から 1年後の2025年8月2日から適用されます(113条、前文179項)。また、汎用AIモデルの提供者に課せられる制裁金(101条)を除き、汎用AIモデルに関する第Ⅴ章は発効から1年後に適用されるので、汎用AIモデルの提供者に課せられる義務は2025年8月 2日から適用されます(前文179項)。ただし、汎用AIモデルに関する行動規範は、汎用AIモデルの提供者が義務の遵守を証明できるよう、発効から9か月後である2025年5月2日までに準備されることとなっています(56条9項、前文113項)。
AI規則では、行動規範の策定やガイドラインの策定が予定され(95条、96条)、委任立法も予定されています(97条)。したがって、AI規則がどのように運用されるのかはこれらAI規則の周辺部分によるところが大きいと思われます。また、AI規則は、この後も定期的に再評価が予定されています(112条)。つまり、このAI規則は、AIに対する規制の通過点にすぎないといえそうです。
表1-2 発効・適用スケジュール(113条、前文179項)
2024年7月12日 | 公報(OJ)掲載 |
2024年8月2日 | AI規則発効(公報掲載の2週間後) |
2025年2月2日 | Ⅰ章・Ⅱ章(一般規定および禁止されるAI)適用開始(113条) |
2025年5月2日 | 第Ⅴ章に定める行動規範策定の期限(56条9項、前文179項) |
2025年8月2日 | 第101条(汎用AIモデルの提供者に課せられる制裁金)を除く、第Ⅲ章第4節(認定当局および認証機関)、第Ⅴ章(汎用AIモデル)、第Ⅶ章(ガバナンス)、第Ⅻ章(制裁)および第78条(秘密保持)が適用開始(113条) |
2026年8月2日 | 以下を除き全面適用(113条) |
2027年8月2日 | 第6条第1項(製品関係のハイリスクAIシステム)および本規則における対応する義務が適用開始(113条) |
5 前文との対応関係
AI規則には、180項にもなる前文があります。EU法における前文の法的効力について定めた規定はなく、欧州司法裁判所の裁判例は、前文には法的拘束力がないと判断しています(欧州司法裁判所1998年11月19日Nilsson判決C-162/97、54項、欧州司法裁判所2005年 11月24日Deutsches Milch-Kontor GmbH判決C-136/04、32項など)。しかし、前文は、法令の理由等を説明しているものであるため、裁判例においては法令の解釈に用いられています。
AI規則は、条文に対応した前文があるのですが(ただし前文に言及のない条文もあります)、前文が対応する条項を明記していないため、どの条文に対応しているか一見して明らかではありません。対応関係については、本連載において取り上げるテーマに従って、回を追って、一覧表で示していく予定です(表1-3 条文・前文の対応関係)。今回は、一般規定(第Ⅰ章)と最終規定(第ⅩⅢ章)部分を一覧にしています。なお、対応関係は、条文と前文との平仄を合わせて翻訳する上で、個人的に把握したものであり、公式な対応関係ではありません。
表1-3 条文・前文の対応関係
章立て | 条文 | 条文と前文との対応関係 |
第Ⅰ章:一般規定 | 1条:目的 | 1条→1項~6項、8項、9項 |
2条:適用範囲 | 2条1項→21~23項 2条2項→7項 2条3項→24項 2条4項→22項 2条5項→11項 2条6項→25項 2条7項→10項 2条8項→25項 2条9項→9項 2条11項→9項 |
|
3条:定義 | (1)→12項 (4)→13項 (34)→14項 (35)→15項 (39)→18項 (40)→16項 (41)(42)(43)→17項 (44)→19項 |
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4条:AIリテラシー | 4条→20項 | |
第ⅩⅢ章:最終規程 | 111条:すでに上市されているAIシステム・AIモデル 112条:評価および再検討 113条:発効および適用 |
111条→177項 112条→174項、175項 113条→178項 179項 |
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