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JRRCマガジン No.155 2019/1/11
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本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
今回の山本隆司弁護士のコラムは「写真の創作性」です。なお、本文中
の公益社団法人著作権情報センター月例研究会(1月17日開催)につき
ましては、次のURLのセミナー案内サイトにて直接ご確認いただけます。
http://www.cric.or.jp/
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━━━━━━
第71回 「写真の創作性」
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先日、私が関係している事件で、建物などを撮影した写真の創作
性を否定する判決がありました。平成31年1月の著作権情報センタ
ー月例研究会において、創作性概念をその機能性から再構成するこ
とをこころみます。その視点から、写真の創作性をこの判決を素材
に検討してみたいと思います。
この判決は、「〇〇写真の目的は、その性質上、いずれも〇〇の
外観又は内部を忠実に撮影することにあり、そのため、被写体の選
択、構図の設定、被写体と光線との関係等といった写真の表現上の
諸要素はいずれも限られたものとならざるを得ず、誰が撮影しても
同じように撮影されるべきものであって、撮影者の個性が表れない
ものである。」と判示しました。
まず、この事実認定には大きな事実誤認があるように思います。
特定の被写体の写真撮影ですから、被写体の選択が限られていると
いうのは当然のことです。しかし、被写体は建物なので周囲360
度どこからでも、また上空からでも撮影できますので、構図の設定
が限られているとは到底いえません。「誰が撮影しても同じように
撮影される」とは到底いえません。先日も軽井沢の「雲場池」の写
真をスマホで撮りましたが、2,3歩右に移動して撮った写真と比較
して、まったく池の表情(表現)が変わることに驚きました。プロ
の写真家が似たような構図でも連続して写真を撮りまくる理由を納
得した次第です。
判例学説では、一般的に、表現の選択の余地があれば、創作性を肯
定します。裁判例には版画を撮影した写真に創作性を否定したもの
があります(版画写真事件・東京地裁平成10年11月30日判決)。
版画は平面です。版画を忠実に写真撮影しようとすれば、構図は
真正面からに限られるからです。
つぎに、創作性概念を機能的に見ると、創作性には、第1に、著作
権による保護を正当化する機能、第2に、アイデアに著作権が及ばな
いようにする機能、第3に、既存の表現に著作権が及ばないようにす
る機能の3つがあります。たとえば、日本法では、表現の選択の余
地があることが求められますが、それは、アイデアに拘束された表
現に対する保護を否定して、アイデアに著作権が及ばないようにす
る機能を創作性に求めていると考えられます。また、ドイツ法では、
個性の現れを認めるには一般人的才能を超える造形であることが求
められますが、それは、社会の共有財産(パブリックドメイン)の
範疇に属する表現に対する保護を否定して、既存の表現に著作権が
及ばないようにする機能を創作性に求めていると考えられます。
詳細は前記の研究会での解説に譲りますが、創作性の概念をこの3つ
の機能に分けて考えると、第1の機能からは、①新たな表現を作り
出すこと(「創造性」)、第2の機能からは、②アイデアの表現とし
て不可避または平凡なものでないこと(「非自明性」)、第3の機能
からは、③既存の表現から一見して識別可能であること(「識別可
能性」)が創作性を認めるために必要と考えられます。
版画を忠実に写真撮影した場合には、当該写真には創造性はあっ
ても、写真の表現上の特徴は版画の表現上の特徴以上のものはない
か、有っても後者から一見してそれを識別することはできないので、
識別可能性がありません。したがって、創作性が否定されます。
他方、建物を「忠実に」写真撮影した場合には、3次元のものを
2次元に表現するので当該写真には創造性があります。また、建物を
「忠実に」写真撮影するというアイデアがあったとしても、建物は
3次元なので、採りうる構図は千差万別です。仮に建物の正面を入
れる構図を採るとしても、採りうる構図は限りなくあります。非
自明性は、著作権によるアイデアの独占を排除する機能に注目し
た要件ですので、アイデアに平凡な表現とは、大多数の人が当該
アイデアを表現するために採用するであろう表現をいいます。
したがって、非自明性もあると思います。さらに、3次元の建物と
2次元の写真では明らかに表現上の特徴が異なりますので、識別可
能性も存在します。それゆえ、建物の写真には創作性があると考え
られます。
この判決はドイツの「個性」概念に大きく影響を受けたのかとも
想像します。というのは、ドイツでは、必要とされる創作性のレベ
ルが日本よりも高く、一般人的な才能に基づく表現には個性を認め
ず、平均的造形を超えることが必要とされているからです。ちなみ
に、それゆえ、ドイツでは通常の写真は著作物と認められず、著作
隣接権で保護されるという制度立てになっています。
以上
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