JRRCマガジンNo.388 所有権と著作権

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JRRCマガジン  No.388 2024/10/3
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◆今回の内容
【1】川瀬先生の著作権よもやま話
【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)本日受付開始!
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皆さま、こんにちは。

今日10月3日は「登山の日」
【と(10)ざん(3)】の語呂合わせにちなんで日本山岳会が10月3日に記念日を制定したそうです。
登山を通して雄大な自然に触れ、自然の素晴らしさを知り、その恩恵に感謝することが呼びかけられています。

さて、今回は今村先生の連載がお休みのため、川瀬先生の著作権よもやま話をお届けいたします。

川瀬先生の過去の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/kawase/

◆◇◆【1】川瀬先生の著作権よもやま話━━━
 所有権と著作権
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                          日本複製権センター代表理事 川瀬真

1 はじめに
 皆様の周りには著作物があふれています。一般に、美術作品(絵画、彫刻、ポスター、漫画等)、言語作品(書籍、新聞、雑誌等)、音楽作品、映像作品等の著作物については、著作物を紙、テープ、ディスク、半導体等の何らかの支持物に有形的に再製したもの、すなわち複製物の形で所有されている方が多いと思います。また、美術作品等については、作家が作成したオリジナルの作品(いわゆる「本物」のことであり、著作権法ではこれを「原作品」と呼んでいます」を所有している方もおられます。
 物の所有者は所有権(民法206条)で守られており、所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をすることができます。一方、著作権法では、作品を創作した著作者に著作者人格権と著作権(財産権)を付与し、利用行為ごとに定めている権利の内容に抵触する無断利用を原則禁止しています。
 例えば、作品の所有者は、その作品を他人に売ろうが貸そうが勝手なはずですが、著作権には、頒布権(著26条)、譲渡権(著26条の2)及び貸与権(著26条の3)という原作品又は複製物の流通をコントロールする権利が定められているため、一つの行為について所有権と著作権が競合する場合は、所有者だけの判断で勝手に作品を使用等できないことになります。
 このことから、著作権法では作品の所有者の立場も考慮しつつ、著作権と所有権の調整を図っており、例えば、所有者の意思を尊重するために、著作権の行使に制限を加えるような措置を行っているところです。
 本稿では、この所有権と著作権の調整が著作権法の中でどのように行われているかについて解説していきます。

2 所有権が及ぶ範囲の限界
 所有権というのは所有物に対する支配権ですが、その支配が及ぶ範囲がどの程度かにより、著作権との競合関係の範囲も決まることになります。
 例えば、著作物の原作品を所有している人が、写真エージェントから当該原作品が写っている写真データを入手した第三者の著作物利用について、所有権に基づく権利主張が可能かどうかです。
 これについては類似の事件があり、最高裁判所の判断が出ていますので紹介しておきます(顔真卿自書建中告身帖事件(最高裁1984(昭和59年)1月20日判決)。
 まず事件の概要ですが、昭和初期の頃に中国唐代の書(本物)の所有者(前所有者)と出版社の間で契約が行われ、当該書の複製物の製作・販売が行われました。その後1980(昭和55)年になって、撮影時に作成した「写真乾板」を入手した第三者が当時の所有者(現所有者)に無断で出版したところから、現所有者が所有権侵害で訴えました。
 最高裁は、「美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権であるにとどまり、無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではない」としたうえで、著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能を犯すことに生かすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではない」と判示し、所有権侵害を否定しました。
 このことにより、例えば、平安時代の貴重な仏像を所有する所有者のところに行き、当該仏像の撮影許可を求める場合は、当該所有者は、仏像の写真撮影やその複製頒布について契約を求めることができますが、例えば先述したように写真エージェントから写真データを入手しそれを用いて複製頒布を行う場合は所有者権は及ばないことになります(コンテンツ業界では、このような場合であっても、トラブル防止のため、所有者の許可をあえて得ることがあると聞いています)。

3 著作権法における所有権との調整
(1)原作品と複製物の関係
 著作権法では、原作品の定義規定はありませんが、著作物を思想又は感情を創作的に表現したものとし、複製物は著作物を有形的に再製したものであることから、原作品も複製物の一種と考えられます。ただ、特に美術や写真の分野では、著作者の思想又は感情が最初に表現されたいわゆる本物の作品は、その利用実態を見ると、単なる複製物とは異なる取り扱いをされているところから、著作権法では、原作品と複製物は区分けして、異なる取り扱いをしています。
 例えば、美術や写真の著作物には展示権(著25条)が与えられていますが、これは原作品による公衆への展示に限定されていますので、美術作品であっても複製画を展示しても権利は働きません。他方、譲渡権については著作物の原作品又は複製物に与えられる権利ですが、貸与権については、原作品の貸与は契約で対応可能等の理由から、複製物の貸与に限定しています。
 このように著作権法上は原作品と複製物は区分されていますが、原作品の中には原作品と複製物の性格を兼ね備えており、これを厳格に区分して著作権法を適用することになじまないものがあります。
 これはいわゆる「オリジナル・コピー」といわれるものです。例えば、版木等を用いた手刷りの版画、鋳型を用いた彫刻、写真家のとったネガフイルムから焼いた写真については、作品を大量に作成することができますが、この作品はどれもいわゆる本物ですので、すべて原作品と言わざるをえません。一方、これらの作品は世の中に多数存在することになり、本物と単なる複製物との区別は困難ですので、複製物でもあるといわざるを得ないことになります。したがって、著作権法上、原作品と複製物の違いを定義した規定はないのでわかりにくいのですが、先述したように貸与権は複製物の貸与に限定されていますが、このオリジナル・コピーについては、複製物として貸与権の対象になると解釈されています(加戸守行著「著作権法逐条講義七訂新版」(著作権情報センター 2021)217頁~218頁参照)。
 なお、上記の著作物の中でも写真についてはより大量に原作品が作成される可能性があるので、展示権については、美術作品とは異なり、未発行の場合に限定して権利を与えるという構成になっています。

(2)所有権と著作権の調整
①美術作品等の展示に伴う著作権の制限
 著作権の制限規定の一つに次のような規定があります。

 (美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
第四十五条 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。
2 前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。

 この規定は、所有権との調整規定です。美術作品等の原作品の所有者は、当該作品を所蔵するだけにとどまらず、例えば、美術館等の事業者の求めに応じ、当該作品を事業者に貸し出し、当該事業者はそれを展示の方法により公衆に提示することはよく行われています。また、自らのギャラリーで公衆に展示することもあります。一方、美術作品等の著作者には展示権があることから、所有者が行う原作品の公衆への展示については著作者の展示権との競合関係が生じることになります。
 そこで、著作権法では上記の制限規定を設け、作品の所有者の許可だけで作品の展示が可能となるように、著作者の展示権の行使を制限しています。なお、美術館等での展示は通常期間を決めて行われますので、権利制限の対象としていますが、屋外の公園等に恒常的に設置する場合等は、権利者の利益を不当に害するおそれが強いので原則に戻り展示権者の許諾が必要となっています(著45条2項)。
 なお、例えば、上記の45条1項に基づき展示する場合のように、展示権を侵害することなく美術館等で展示を行う場合は、観覧者のために作品案内用の小冊子を作成したり、作品を上映したり、公衆送信ができることになっています(著47条)。なお、多くの美術展で販売されている展示作品を掲載した図録ですが、これは小冊子には該当せず、著作権者の許諾が必要だとされています(レオナールフジタ展事件(東京地裁1988(昭和63)年10月6日判決)。
 また、上記45条2項関係ですが、同項では美術作品を公園等の屋外の見やすい場所等に恒常的に設置する場合は展示権者の許諾が必要であるとしていますが、適法に作品が設置されますと、その利用については大幅な権利制限が認められることに注意が必要です(著46条)。

②美術作品等のオークション等に関連する著作権の制限
 美術作品等の原作品又は複製物の所有者等が、その所有作品を販売するためや法律に基づく競売や公売を行うために必要な著作物の複製又は公衆送信については一定の条件の下に権利制限が定められています(著47条の2)。
 一般に美術作品等を売買する場合は、特定間での売買を除き、いわゆるオークションという形式で行われます。オークションについては、オークション業者が美術作品等の所有者の了解を得て作成された当該作品の写真をオークションカタログに掲載し配布するか、オークションサイトにアップロードし送信するかして、入手希望者に美術作品等の内容を知らせています。オークションによる美術作品等の取引は昔から存在する正当な取引ですので、それに伴う、所有権との調整を行うものです。
 なお、権利制限に当たってはいくつかの条件がありますが、その一つに著作者の譲渡権又は貸与権と抵触しないことを条件としています。これらの権利は、著作物の原作品又は複製物の流通をコントロールする権利ですが、権利の内容については原作品又は複製物の所有権との調整を経て定められたものですから、特にオークションを使った作品の売買に当たっては、ほとんどの場合、これらの権利との競合関係はありません。詳しくは③を参照してください。

③所有権と頒布権・譲渡権・貸与権との調整
 これまで説明してきたように、著作権法上も著作物の複製物の流通をコントロールする権利として頒布権、譲渡権及び貸与権が定められています。
 これらの権利の内容を説明する前に、これらの権利が認められた経緯について説明をしておきます。外国の著作権法制を見ると、著作物一般に著作物の複製物の公衆への譲渡及び貸与に権利が及ぶ頒布権を認め、当該複製物が最初に公衆に頒布された際に、その後の譲渡又は貸与について、当該複製物の所有者との関係も踏まえて、権利の働き方を調整するという方法が一般的です。特に譲渡の分野では、中古販売や転売に権利を及ぼすかどうかが問題となります。
 わが国の場合、現行法が成立した1970(昭和45年)当時の国際著作権条約(ベルヌ条約)では、映画の著作物に頒布権の付与を義務付けていたものの他の著作物については任意でした。このことからわが国では映画の著作物だけに頒布権を認め、そのほかの著作物には権利を認めませんでした。その後1980年代になり貸レコードの問題が生じ、著作物の複製物の公衆への貸与が著作物利用の有力な手段になっていることを踏まえ、1984(昭和59)年の著作権法改正で映画を除く著作物一般に貸与権を認めました。さらに、1996(平成8)年に採択された「著作権に関する知的所有権機関条約」(WIPO著作権条約)では、著作物一般に譲渡権(同条約6条)を認めることを締約国に義務付けたので、わが国では条約の水準を満たすため、1999(平成11)年の著作権法改正により、既に譲渡に関する権利(頒布権)を認めていた映画の著作物を除く著作物一般に譲渡権を認めました。このような経緯から、外国法制に比べて、複雑な権利構成になっているところです。
 次に、権利の内容における所有権との調整の内容を説明します。

ア 譲渡権
 まず、譲渡権ですが、譲渡権を定めた26条の2第1項では、著作物の原作品又は複製物を譲渡により公衆に提供する権利としています。著作権法では、著作者の権利について、一般に広く権利の内容を定め、別に権利制限規定を設け、そこで自由利用できる場合を定めるという構成になっています。しかし、譲渡権だけについては、WIPO著作権条約で第一譲渡後の権利の消尽(欧米では「First sale doctrine」と呼ばれています)については各国法制に任されていることから、同条2項を設け、所有権との調整を図るために、譲渡権の内容から5つの場合について除外しています。まとめて説明しますと原作品か複製物かにかかわらず、譲渡権を侵害せずに適法に譲り受けたものであれば、それを転売等により他人に譲渡しても譲渡権は働かないことになっています。すなわち譲渡権は、第一譲渡の際に権利は働きますが、それ以降は譲渡権が働かないということになります。これにより、いわゆる書籍・雑誌、音楽CD等の中古ビジネスは当該商品の所有者が許可さえすれば、譲渡権者の許諾なしに自由に行うことができます。原作品の転売等も同様です。

イ 貸与権
 次に貸与権ですが、貸与権については、譲渡権のような権利が消尽する規定はないので、例えば図書館等における書籍・雑誌や録音物の貸し出しのように営利を目的としない貸与(38条4項)に該当し、権利制限により自由利用が認められている場合を除き、権利が働きます。したがって、例えば、貸本業や貸レコード業については、貸し出す商品が新品か中古品かにかかわらず、貸与権が働くことになります。なお、原作品の貸与は、そもそも権利の内容に含まれていませんので、例えば、絵画の貸し出し業については所有者の了解さえあればできることになります。この場合、先述したオリジナル・コピーについては、原作品と複製物の両方の性質を持っていますので、貸与権は働くことになるので注意が必要です。

ウ 頒布権
 最後に頒布権との関係です。頒布権は、映画の著作物のみに認められた権利ですが、頒布というのは譲渡と貸与の両方を意味し、その譲渡部分については、譲渡権のように権利が消尽する場合が定められていません。したがって、条文を素直に読めば、新品か中古品かにかかわらず劇映画、放送番組、プロモーション映像等の映画の著作物をパッケージ化したいわゆるビデオソフト(映画の著作物の複製物)についても、頒布権が働くことになります。そうしますと、例えば市販されているパッケージ化された商品で見ても、書籍・雑誌、音楽CDは中古販売が自由であるのに対し、ビデオソフトは頒布権者の許諾が必要ということになり、同じパッケージ化された商品でも著作権法上取り扱いが異なることになります。
 これについては、中古ゲームソフト事件(最高裁2002(平成14)年4発25日判決)において、最高裁は、映画の著作物の頒布権は、映画がフイルム形式で流通していた時代に創設されたものであり、現在のようにパッケージ化された商品が転々と流通することを想定しておらず、当該流通には適用されないと判示しました。この事件はゲームソフトの中古販売に関する事件ですが、最高裁は、例えばロールプレイング・ゲームのようなストーリー性のある動画は、一般の映画作品とは異なり、操作者の技術によって映し出される映像は異なることになるが、これはゲームメーカの想定内の範囲で行われるものであるので、当該ゲームの映像は映画の著作物であると認めたうえで、上記の理由から、頒布権の適用は認めず、中古販売は適法と判断しました。これはゲームソフトに関する判断ですが、最高裁の理論構成を見ると、当然劇映画、放送番組、音楽ソフト等の他の映像作品にも適用しうるものであることから、現在では映画の著作物の中古販売については、頒布権は働かないと考えられています。

4 おわりに
 以上述べてきたように、所有権と著作権の調整は著作権法上きめ細かく行われており、所有権者と著作権者の利益のバランス等を考慮した上で、適正な所有権者の権利行使に支障がないように、必要に応じ、権利の内容又は権利制限により調整が行われていることがお分かりいただけたと思います。

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